ディーゼルエンジンに欠かせない部品「レール」と「インジェクター」。操業80周年を迎えたボッシュ東松山工場の主力製品の一つです。このたび、累計でレール1000万本、インジェクター2500万本の生産を達成し、2023年11月に記念式典を開催しました。式典の企画・運営に携わったパワーソリューション事業部の3人が、これまでを振り返りながらモノづくりに対する想いを語ります。
グローバルカンパニーとしての強みを活かし、環境対策に配慮した部品を提供
▲今回の記念に制作したレールとインジェクターのレプリカ。塗装作業などは自分たちで行った
今回、量産数を祝う記念式典で対象になった東松山工場で生産している「レール」と「インジェクター」。ディーゼルエンジンの電子制御式燃料噴射システム「コモンレールシステム」に必要な部品です。
以前のディーゼルエンジンは、燃料の噴射量やタイミングを制御する装置がエンジンの回転数や速度に依存していました。そのため、エンジンの低回転時には噴射圧力が高められない、発進や加速時に黒煙が出ることがある、といった課題がありました。
そこで、クリーンな排ガスと高出力、低燃費がすべて実現できるシステムとして開発されたのが「コモンレールシステム」です。
鈴口:コモンレールシステムでは、電子制御により適切な量とタイミング、圧力で燃焼を噴射することができます。その際、ポンプから高圧で送られた燃料が一時的にレールに蓄えられます。レールは高圧燃料を蓄圧してインジェクターに供給し、インジェクターが燃料を燃焼室に噴射します。
東松山工場でレールとインジェクターの生産を始めたのは、2000年。以来、順調に生産台数を伸ばし、月間生産台数の最多記録はレールが7万本、インジェクターが15万本を誇ります。
しかし、リーマンショックや製品構造の変化を受け他工場へ生産が移管された影響で、生産数が減少。一時期、東松山工場は苦しい状況に置かれました。
その後、再び生産量を伸ばすことができた背景には、世界的に進むディーゼルエンジンの排ガス規制があります。
鈴口:新興国でも排ガス規制が入るようになってきたほか、発電機や農建機といった公道を走らない製品、いわゆるオフハイウェイ製品にも同様の規制が適用され始めたことで、コモンレールシステムの需要が拡大しています。
その流れの中で、私たちのお客様であるオフハイウェイ製品メーカーも環境に配慮した製品を供給するモチベーションが高まってきたことが、東松山工場の生産量が再び増加した要因の一つです。
もちろん、需要の高まりだけではなく、ボッシュならではの特徴も生産量の増加につながっています。とくに、グローバルカンパニーとしての強みが大きいと米倉と中郡は話します。
米倉:世界中に拠点があるので、日本のお客様が海外展開を希望された場合でも、海外の拠点で同じものを生産してサポートできることがボッシュの強みです。
中郡:ボッシュは、車であればタイヤ、ガラス、ボディ以外の部品のほとんどを手がけています。車やモビリティのトータルソリューションを提供できる点も、大きな強みです。
「We are ON-Highway」、あらためて生産への志を誓ったスローガンを刻む
▲記念式典では、お揃いのポロシャツを着て記念撮影
苦しい時期を乗り越え、再び生産量を増加させてきた東松山工場。レールとインジェクターの製造をはじめてから23年経ち、累計の生産台数がレールで1000万本、インジェクターは2500万本を達成しました。
2023年11月には、これまで製造に携わってきた人たち、現在製造に関わっている人たちに感謝を伝える社内向けの記念式典を開催。米倉は、その運営チームのリーダーを務めました。
式典を開催するにあたって実行メンバーが大切にしていたことは、1人でも多くの従業員に感謝を伝える場とすることでした。
米倉:東松山工場は3交代勤務で稼働しているため、どうしても式典の時間と勤務時間が重なってしまう人が出てしまいます。また、聴覚障がいのある方も働いています。いろいろな状況の人がいる中で、「どうせ参加できない」「何を話しているのかわからない」という想いを抱いてほしくないと考えて準備しました。
誰も取り残さずに感謝を伝え、想いを一つにする──そのためにチームが出したアイデアの一つが、記念に作ったポロシャツです。
中郡:袖には、「生産を開始した2000年から2023年まででレールを1000万本、インジェクターを2500万本製造しました」という文字、背中には私たちの部のスローガン「We are ON-Highway」という言葉を入れています。
▲記念式典に合わせて作ったポロシャツ。背中には、部のスローガンを刺繍した
「We are ON-Highway」に込められた想いを、鈴口はこう語ります。
鈴口:この言葉には、「ムリ・ムダ・ムラのない高強度な生産ラインを確立する」という意味が込められています。高速道路のようにスマートにモノが流れる生産ラインをめざそうというスローガンです。
式典には、前製造部門長をはじめ、これまでレールとインジェクターの製造に携わってきた従業員、そして現在工場に勤務している従業員も含め、200人ほどが記念のポロシャツを着て参加。全員が話の内容を理解できるよう手話通訳者も配置し、感謝の想いを伝えました。
米倉:同じ工場に勤めていると言っても、なかなか一堂に会する機会はありません。マネジメント層から直接感謝の言葉をもらえたり、いつでもこの想い出を振り返ることができるようにレモンの木を植樹したり、全員で集合写真を撮ったりといった時間を共有できたのは、とても良い機会になりました。
リーダーとして意見をまとめて、何がベストなのかを考えていくことは大変でしたが、メンバー全員の支えで無事に開催できたことに、あらためて感謝しています。
中郡:式典に参加した従業員がポロシャツにスローガンが刺繍してあることを喜んでいたり、笑顔で記念撮影していたりする様子を見て、一段と結束力が高まったと感じます。
創成期の苦労の上に、今がある──日本の拠点独自の工夫を重ねて量産化を実現
式典では、製品の創成期に力を尽くしてきた歴代の部長らが、これまでの苦労を語る一幕も。中郡は、その場面がとくに思い出深いと振り返ります。
中郡:「生産ラインを創設し、軌道に乗り、今では式典を開けるほどにまで成長したことはすごく嬉しいし、みんなに感謝を伝えたい」と熱く語っていた姿が印象に残っています。
現在につながる発展があったのは、創成期に作り上げた土台があってこそ。その苦労は、鈴口もよく聞いていたと言います。
鈴口:私が入社する以前のことなので生産準備の段階に関わったわけではありませんが、本社のあるドイツで生産している製品をどう日本に持ってくるかに苦心したことは想像に難くありません。
2000年ごろは、まだまだ日本のボッシュは知られていませんから、ドイツの工場の製造技術やノウハウといった情報を提供してもらうのは大変だったはずです。また、ドイツでしか作っていない生産設備があったことも苦労した点だと聞いています。
そんな中、日本での生産が実現した大きな要因は、ドイツの製造方法をもとに、日本独自の生産ラインを構築したこと。
鈴口:ドイツの生産ラインをそのまま持ってくるのではなく、日本のサプライヤーやボッシュの中にあるものでコンパクトな生産設備を内製化し、お客様のニーズに合わせやすい改造ができるラインを作ったことが成功のポイントだったと思います。
それでもやはりドイツ製の設備が求められる機能もあるため、ドイツの工場とコミュニケーションをとりながら、メンテナンスを維持できる体制を作ったことがもう一つの成功のポイントです。
その仕組みを受け継ぎ、収益が出る生産ラインを実現できていることは、現在製造に関わる立場となった米倉も感銘を受けていると話します。
米倉:日本独自の路線を進む方向に舵を切った決断は、本当にすごいと感じます。当時、特別仕様の設備を導入するために、直接設備メーカーに出向き「どうしてもこの設備を導入したいんです」と説得して回ったという話を聞いたことがあります。そこまでの熱意を持って突き進んだ人がいたからこそ、今があるんですよね。
互いにリスペクトを持ちながら、終わりのない改善活動に取り組む
▲記念に植樹したレモンの木の前で
先達が切り拓き、作り上げた生産ラインを成長させてきたボッシュの東松山工場。さらに発展させていくために、部を率いる鈴口には乗り越えたい課題があります。そのためのキーワードは、やはり「We are ON-Highway」というスローガンです。
鈴口:ムダなものを作らないラインをめざして改善を続けてきたことで、レールは小ロット生産ができる体制を実現できました。インジェクターに関しても、小ロット生産を可能にするライン作りに着手しています。
ムリ・ムダ・ムラをなくしていくことで、キャッシュフローが改善することはもちろん、ラインが停滞したときに問題点を見つけやすくなるというメリットもあります。
中郡:私たちの部では、毎年テーマを決めて短期間で改善を進める活動をしています。改善は終わりのない活動ですから、もっと良いラインにしていくために、常日頃から意識して全員で取り組んでいます。
そして、これまで以上に「We are ON-Highway」を実現するためには、従業員のスキルにも柔軟性を持たせることが必要だと話します。
鈴口:それぞれが他のエリアもできるスキルが身につけば、生産数の変動に合わせて人を配置することができます。まずは標準的な作業を覚えられるよう、人材交流から始めているところです。
米倉:品質を保ちつつ小ロット生産を実現している点は、日本の製造業の良さだと思います。東松山工場のベースとなるスキル、地力の高さは海外から視察に来た人たちにも評価されているところなので、その良さを磨いていきたいです。
個人的には、柔軟性のあるスキルをめざして、デジタル化に注力していきたいと考えています。デジタルの力で製造のスキルをサポートしてければ、さらに発展できるはずです。
海外からも高い評価を受けている東松山工場。作業性を重視したレイアウトや現場の清潔さなどのほかに、「従業員が互いにリスペクトを持ちながら、いきいきと働いている」と評されています。その秘訣は、思いやりをベースにしたコミュニケーションにあります。
中郡:まじめなことも冗談も言い合える雰囲気があります。新たに着任した工場長をはじめ、トップマネジメントもよく現場に来て従業員と気さくにいろいろな話をしていますし、改善すべきことも含めてとても意見が言いやすい職場です。
鈴口:海外からの視察がある際も工場長が自ら案内するなど、現場との距離の近さを感じます。フレッシュな感性で、東松山工場をさらに素晴らしい環境にしてくれるのではないかと期待しています。
また、一緒に働いている同僚も、相手の立場に立った仕事の進め方を大切にしている人が多いと思います。生産の計画を立てる側であれば、どういう計画なら現場が進めやすいかを考えたり、現場では次の工程を担当する人がやりやすいように工夫したり。やはり、思いやりが大事だと感じますし、これからも思いやりのある職場づくりを心がけていきたいですね。
一つの節目を超え、さらに結束力が高まっている東松山工場。リスペクトと思いやり、先達への感謝を胸に、さらなる「We are ON-Highway」をめざします。
※ 記載内容は2024年1月時点のものです
