自動運転技術を建機に展開。清水建設と挑む、ボッシュ初のプロジェクト
少子高齢化の進展に伴い、建設業界では今後、熟練作業員の引退による人手不足が懸念されています。そのため、現場の労働環境改善が喫緊の課題。国土交通省が建設現場のオートメーション化による生産性向上の取り組みをまとめた「i-Construction 2.0」を策定するなど、国を挙げて建設現場の省人化を進めています。
そこで、清水建設と山﨑建設、そしてボッシュエンジニアリング株式会社(以下、ボッシュ)が共同で盛土工事(※1)に従事するブルドーザーの自動運転システムを構築。2024年3月には、ブルドーザーの自律施工に向けた要素機能の実効性を確認(※2)しました。
※1 傾斜のある土地などに土砂を積み上げ、地表面を平坦にする造成工事のこと
※2 出典:ブルドーザーの自律施工に向けた要素機能の実効性を確認(清水建設株式会社、ニュースリリース)
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2024/2023069.html
プロジェクトのはじまりは、2017年にボッシュと清水建設が出会ったことがきっかけでした。
小川:私はもともとIoT製品のソリューションを推進する部門にいて、清水建設さんに「ぜひ協業しましょう」と声をかけさせていただきました。それをきっかけに、建設現場を訪問させてもらったり、IoT製品を実際の現場に持ち込んで実証テストをさせていただいたりするようになりました。
その中で清水建設の目に留まったのが、周囲の人やモノをセンサーで認識するボッシュの自動運転機能に関する技術でした。
小川:「この技術を使って一緒にブルドーザーを作れませんか」という話になったのが2020年のなかば。しかし、ボッシュが手がけていたのは一般の乗用車や一般道路で使う技術。建設現場のようなオフロード環境、土砂で囲まれている場所での認識技術やデータはありませんでした。
そのため、土砂を買ってきてシートを敷いた研究室に並べ、一輪車を改造したものに実際の機器を搭載して実現可能かどうかの検証を何度も重ねていきました。その結果、プロジェクトにゴーサインが出たのです。
宗貞:建機に関しては、エンジン用の部品などは手がけていましたが、自動運転に挑戦するのはボッシュでも初めてのこと。社内ではIoT製品の提供だけではなく、使用のオペレーションも含めてサービス提供していこうという動きがあり、その流れにも合致しました。
建設業界全体が現場の省人化に向けた動きを加速する中、清水建設がボッシュをパートナーに選んだ理由は何だったのでしょうか。
小川:大前提として、技術力への信頼があると思います。ボッシュは自動運転に関する技術では第一人者だと自負しています。その技術を建機で活かすことを期待していただいたと感じました。
ただ、最後の決め手になったのは、研究室に土砂を持ち込んで検証をするなど、熱量を感じてもらえたことではないでしょうか。私たちの想いと先方のニーズがマッチした結果だと思います。
世界各地の拠点と連携しながら、建設とAI・IoTの知見を融合させる
今回構築した自動運転システムは、操作者が盛土工事の具体的な作業内容を設定すると、AIがブルドーザーに搭載されたセンサーやカメラで収集した情報をもとに周辺の状況を分析、設定通りの動作を行うというもの。
小川:周辺環境や地形を把握した上で、ブルドーザーが走っている時に周囲に作業員や運搬作業車、資材などがないかを認識します。その情報をAIが受け取り、どのようなルートを辿って造成するかの指示をブルドーザーに送り、前後進、右左折、ブレードの上下稼働を自動で行っていきます。
宗貞:人間の目と脳がブルドーザーに搭載されているイメージです。今後はさらに高度な環境認識機能を開発して、ブルドーザーが最適な走行経路を自ら判断し、適切に盛土工事を行えるようにしていく必要があります。
プロジェクトは、清水建設がオーナーとなり、ボッシュが自律施工に必要なAIとコントロール機能の開発とテストを担当。山﨑建設が実際の現場や検証現場でのトライアルを担う形で、3社が協業して進めています。
小川は、技術領域での窓口としてソフトウェアやAIなどの仕様設計や開発の日程調整、ブルドーザーを動かすためのインターフェースの仕様開発などを担当しています。2021年から参画した宗貞は、総合窓口として海外の拠点を取りまとめながら、プロジェクトマネージャーとして奔走してきました。
宗貞:ブルドーザーの制御や周辺環境の認識機能はドイツ、AIはアメリカとイスラエル、さらにシンガボール、ベトナムと、開発チームは世界各地にあります。コロナ禍の影響もあり、各国のメンバーとはオンラインを中心にコミュニケーションをとりながら進めていきました。
小川:その中でも、仕様を決める打ち合わせなどはワークショップ形式で実施したり、実際のモノを動かすデモンストレーションをしたり、清水建設さん、山﨑建設さんとは事あるごとに顔を合わせて意見交換をしてきました。それが良い関係を築けた一つの要因ではないかと思っています。
宗貞:海外のメンバー向けに、「ジェントルマンルール」も作りましたよね。日本とはビジネスの文化が違いますし、日本語に訳すとどうしてもドライな表現になることがあります。日本の企業とコミュニケーションする際のプランを最初に作ったことでスムーズなやりとりができました。
「自分が第一人者になるしかない」。現場に足を運んでゼロベースから構築
ボッシュとして初の試みとなる建機の自動運転。自動車で培った技術力と知見があるとはいえ、これまで異なる領域でキャリアを積んできた宗貞は、自らの知識をアップデートすることから始めなければならなかったと振り返ります。
宗貞:このプロジェクトに入るまでは、ディーゼルエンジンの部品の開発をしていたのです。自動運転やAIに関しては知見がない中で、ボッシュにいるAIのエキスパートたち、社外の建設分野のエキスパートたちの橋渡しをしなくてはいけない。しかも、ボッシュの中にこの領域のエキスパートはいない。自分が第一人者になるしかないんです。
加えて、乗用車は規格が定められていますが、建機の無人化には規格がありません。ゼロベースから自分たちで構築していくことは大変でしたが、一番やりがいがありました。
小川:国が建設現場の省人化を推進しているとはいえ、まだガイドラインを固めている途中。改訂があればそれに合わせていかなければいけません。お客様が求める要件だけではなく、変化していく国のガイドラインに合わせて代替案を提案していくことがおもしろかったですね。
さらに、AIに学習させるためのデータも自分たちで集める必要があったと振り返ります。
宗貞:実際の建設現場で起こり得ることを想定し、どんな状況のデータを集めなければいけないのかを話し合い、いろいろな現場に足を運んで自分たちの目で見ながらデータを取りました。限られた期間の中で、毎日2万歩移動する日々が続きました。
小川:建設現場は、ダムを造る現場もあれば工場を造る現場もある。それぞれの現場で周囲の環境も全然違うので、取ったデータを元にテストをしてみたら全く結果が出ないということもありました。得られたデータを整合し、工程の計画に落とし込んでいくことが難しかったですね。
もちろん、それ以外にも多くの課題に直面にしていたこのプロジェクト。途中で開発手法も変えながら、最大限精度を上げていくことにこだわったと言います。
宗貞:当初は、あらかじめ仕様を固めて順番に進める「ウォーターフォール」という手法で開発する予定でした。しかし、さまざまな問題に対応するためにアジャイル手法を取り入れるなど、その時々で柔軟に変化させるチャレンジングな進め方をしました。
また、コロナ禍で海外メンバーも現地の検証現場に行けないことも多く、どうしても開発のスコープが短くなってしまったのです。
そこで、清水建設の担当者の方たちをドイツに招き、実機を見ていただきながら「もう少し時間をいただけたら、さらに精度を上げることができます」とアピールしました。結果的に、当初予定していた期限より1年延長することで、さらに私たちのベストを尽くせたと思っています。
壁にぶつかっても歩き続ける──さらに進化させて建設現場の効率化に貢献したい
「最初の一歩が大変だった」と話す2人ですが、めざすゴールに向かって順調に歩みを進めています。
宗貞:2040年までに建設現場の省人化を30%達成するという国の指針があります。その実現に向けてさらに開発と実証実験を繰り返し、量産化をめざしたい。そのためには、クオリティを上げていくための検証にもAIを活用し、開発の効率も上げていくことが必要だと考えています。
小川:建設現場では、他の車両が作業しているのを待っている時間もあります。自動運転システムによって建機の稼働率を上げることができれば、作業効率が上がり労働時間が短縮できるはずです。
宗貞:プロジェクトを通して、まずは資材を運ぶための道を造るところから始まる建設現場を知ることができ、あらためて現場で働く方たちに敬意を抱きました。だからこそ、このシステムで省人化、効率化に貢献したいのです。
建設現場は世界中にあります。このシステムができあがったら、世界に広がる可能性があると思っていますし、建設業以外にも横展開できるかもしれません。
建設現場同様、ノウハウのない中でゼロから開拓してきた2人。多くの壁にぶつかりながらも進み続けられた理由、そしてボッシュだからこそかなう挑戦について、こう語ります。
小川:壁にぶつかったら、横に向きを変えてもいいから歩き続けるようにしています。どこかに突破口があるかもしれないし、壁の向こうの人に見つけてもらえるかもしれない。
ボッシュは、立場に関係なく「こんなことに挑戦したい」と発信できますし、その提案がビジネスとしてフィットしていれば挑戦させてもらえます。それをボッシュで続けてきたからこそ、今回のようなプロジェクトの機会をもらえたと思っています。
宗貞:そうですね。ボッシュは「新しいことをやりたい」と発信したら、挑戦の場をもらえます。その上で、「やれるところまでやりきる」ことが私のモットー。
今回、AIという自分にとって未知の領域を経験できたので、次もまた尖ったことをやりたいですね。ボッシュは幅広い事業領域を持っていますから、まだ誰も取り組んでいない何かを見つけられるはずです。
現在、国土交通省を中心に、建設事業で開発が推進されている無人化施工を月面での建設活動に応用するための「スターダストプログラム」(※)が進んでいます。このプロジェクトにも清水建設さんと共に参画しているので、いずれは「月に行ってみる」ということもあるかもしれません(笑)
※ 宇宙開発利用加速化戦略プログラム。清水建設とボッシュは自律施工のための環境認識基盤システムの開発及び自律施工の実証を担当している。
https://www.mlit.go.jp/tec/constplan/sosei_constplan_tk_000045.html
これまで培ってきたボッシュの技術を活かし、新たな領域を開拓していく──挑戦のフィールドが大きいからこそ、やりがいも未来も広がります。
※ 記載内容は2024年11月時点のものです
