組織において、ダイバーシティ(D:多様性)とインクルージョン(I:包摂性)、そしてエクイティ(E:公平性)をさらに深化させ、誰もが活き活きと働ける環境づくりを考える機会とすることを目的としたフォーラムや講演会を定期開催している清水建設。
2024年2月6日、本社2階のシミズホールで「D&Iから『DE&I推進』にシフトチェンジするには」というテーマでダイバーシティ・マネジメント講演会を開催しました。
今回、講師を務めるのは、東京藝術大学デザイン科准教授であり株式会社 Cradle 代表取締役社長を務めるアーティスト、スプツニ子!氏。「EQUITY(公平)を理解する」「EQUITYを実現するために企業構造のデザイン(働き方/評価)を見直す」「女性の健康支援とダイバーシティマネジメント」などについてお話しいただきました。
ダイバーシティはイノベーションに直結
ダイバーシティが世界的に注目されるようになった大きな理由は、過去数十年間でより公平な社会を求める声が高まったことだけではありません。マッキンゼーの調査(調査資料はリンク先を参照)などにより、ダイバーシティが組織に競争力をもたらし、イノベーションに直結することがわかったからです。
私はマサチューセッツ工科大学(以下、MIT)に在籍していたころに教員の採用に携わっていましたが、そこでの議論で印象的なものがありました。それは、「課題を発見し、解決することでイノベーションが生まれる。これがイノベーションの本質である。そのチャンスを上げるには多様な視点から課題を発見し、解決することが必要であり、そのためには組織内のアンテナが多様な方向に向いていることが重要だ」というものです。
実際にMITでは過去に研究者が白人男性に偏っていたことを反省し、新しい教員の選考においては多様なジェンダーや人種、バックグラウンドの人を意識的に採用するという取り組みを行いました。では、組織に多様性がなかったらどのようなことが起こるのでしょうか。
米国の心理学者アーヴィング・ジャニス氏の研究によると、同質性が高い集団ではヒエラルキーが固定化し、過大評価や外部意見の無視、異論の抑制など「グループシンク(集団思考、集団浅慮)」に陥りやすいことがわかっています。皆さんも想像できると思いますが、そのような状態の組織でイノベーションを起こすのは難しくなります。
日本企業には真面目で勤勉な人材が多いですが、ここ30年ほどはイノベーションが進まず、経済成長も鈍化しています。私はその大きな要因の一つがグループシンクにあるのではないかと考えています。これは日本企業の人と話すといつもすごくもったいないなと思うことです。
偏りや構造的差別を無視した「平等」は「公平」ではない
ダイバーシティを推進していく上で、重要なことをいくつか紹介します。
まずは、“EQUITY”(公平)という言葉です。D&IからDE&Iになったけど、“EQUITY”って何だろうと思っている人は多いと思います。女性活躍について議論をしていると、「女性優遇だよ、逆差別だよ」という発言を聞いたことがあるのではないでしょうか。
また、「今の時代は、フラットだから男も女も関係ないよ。個性の時代だから、できる人がやればいいんだよ」というような発言も聞いたことがあると思います。一見すると良いことを言っているように感じますし、男性だけでなく女性からもそのような意見を聞く機会は少なくありません。
しかし、見逃されているポイントがあります。それは、今の世界は差別や格差がなく、はたしてフラットなのかという点です。これらの発言をする前に、今一度社会構造や企業の働き方の現状を俯瞰する必要があります。
もう一つ紹介したいのが、「アンコンシャス・バイアス」という言葉です。これは例えば「男の子だから泣くな」という言葉などジェンダーにまつわる思い込みのことです。
「男なのに育休を取るのか」といったコメントは、男性たちをも苦しめます。男性は外で働き、女性は家で家事や育児、介護をするのが一般的というような昭和時代のイメージは、いまだに人々の意識に根強く残っているのではないでしょうか。このような、「専業主婦に家庭の全てを任せている男性」を働く人のモデルとし続けている企業は、まだまだ多いと思っています。
しかし、令和の今は家事や育児、介護に多くの時間を割く男性がかなり増えました。そうすると、働き方やワークライフバランスに関して「専業主婦と結婚した男性」と「家庭内タスクを担う男性」の間にも新しい溝が生まれ始めます。こうした構図は、もはや「男性」対「女性」ではなく「昭和の働き方」対「令和の働き方」と捉えた方がイメージが近いのではないかと思います。
社会の構造そのものに偏りがあり、構造的な差別が生じている状態では、その構造上で「平等」と言ったところで公平な結果にはなりません。現状を点検して偏った構造であるということを自覚し、直していく必要があります。それが、“EQUITY”の本質的なポイントです。
女性は、自己を過小評価する傾向──背中を押すなら、「3回の声掛け」を意識
次に、“EQUITY”を実現するための取り組みについてお話しします。
「女性のリーダーを増やしたいと思っているが、昇進を断られる。管理職になりたがらない」という相談をよく受けますが、これには非常に根深くて難しい問題が潜んでいます。
日本に限らず世界的な話なのですが、男性は常に自分の能力と成果を過大評価し、女性は自身を過小評価する傾向がある、という調査結果があります。子どものころから長い間、メディアや親世代の人々などから「女性のロールモデルが少ない」「女性は一歩引いてしおらしく」といったメッセージを受け続けた結果、女性たちの自信がどんどんなくなってしまうことが要因の一つと言われています。
皆さんには、この傾向をよく覚えておいてほしいです。もし、部下の女性が昇進を断るようなことがあった場合、マネージャーの皆さんは「あなたなら絶対できると思うよ」という声掛けを3回してみてください。女性には、自分に自信を持ってもらえるよう意識して背中を押してあげることが大切です。そして会社の働き方などでその部下が不安に思っていることがあれば、耳を傾けて一緒に解決していく姿勢も重要です。
健康経営から見る、“EQUITY”を実現する女性の支援とは
最後に紹介したいのが、最近女性の健康支援に取り組んでいる企業が増えている点です。最近では女性が生理や更年期障害で悩みながら働いている現実がメディアで取り上げられるようになり、根拠となるデータも出てきました。
健康経営の例としては、メタボ対策や禁煙支援を行っている企業が多いと思います。ところが、データを確認するとそれらは男性の抱える問題であることが多く、結果として男性を優遇する結果になっています。
今の日本では意識して差別をする人は少ない一方で、社会全体の構造の偏りや意思決定権を持つ層に男性が多いことによって、結果的に不公平が起こっています。女性の生理、更年期、妊娠、出産などの支援もしないと“EQUITY”の実現は広がっていきません。
皆さん、「女性活躍支援なんて逆差別だ」という発言を聞いたら、ぜひ思い出してください。構造的な差別をそのままにした平等は、公平ではありません。このことを覚えて帰っていただければ非常に幸いです。
※ 記載内容は2024年2月時点のものです
