日本食の輸出拡大支援と投融資媒介を担当。食と農の価値連鎖の拡充と金融機能強化を
農林中央金庫が出資する香港の現地法人 農林中金香港有限公司に出向する榎本。2023年4月からは、大湾区地域を中心に日本食の輸出拡大サポート業務に携わっています。
「現時点で農林中金香港有限公司のメンバーは4名。日本から派遣された上司と私、そして現地採用された2名が所属しています。
香港の拠点はこれまで、駐在員事務所として情報収集や取引先との連絡業務などを主な業務としてきましたが、2023年4月に法人化しました。これは、今後開発・発展が見込まれる香港・マカオ、中国広東省を中心とした大湾区(グレーターベイエリア)でのさらなる事業機会の創出に取り組むためです。
私たちのミッションは、日本食の輸出拡大。同じJAグループの全農国際香港とも連携しながら、JETROや日本領事館、香港マーケット関係者への共同ヒアリングなどのリサーチ業務、そして提携先の大新銀行のリレーションも活用しながら、農林中央金庫本支店と現地企業のビジネスマッチングを行っています」
また、農林中央金庫では、2022年7月に大新金融集団との資本提携締結を発表。以来、食と農のバリューチェーンの拡充や金融機能の強化にも取り組んできました。
「日本の農林水産物・食品輸出額が2番目に多いのが香港です。これまでもさまざまなスーパーやレストラン、卸業者との取引がありましたが、いわゆる日系企業の販路が中心でした。さらなる輸出拡大を図るべく、香港の地場の金融機関の協力を得て、地元の食品協会などともつながりを深め、ローカルな企業にも積極的にアプローチし始めているところです」
日本食の輸出拡大サポート業務と並行して、榎本は投融資媒介業務も担当しています。
「農林中金香港有限公司には投融資機能がありません。そのため、案件を組成した上で農林中央金庫本店やシンガポール支店などの関係部署へとつなげる役割も果たしています。
香港国内の企業をリサーチし、資金を必要としている企業があればデューデリジェンスを実施することも。単に媒介するだけでなく、市場調査や事業性評価なども行っています」
留学経験で見えたビジョン。日本食の海外普及で広がる第一次産業の可能性
人の役に立ちたいとの想いから、大学では公共経済学を専攻した榎本。社会保障を学ぶ中で北欧に興味を持ち、交換留学生としてスウェーデンを訪問したことが、将来を考える上での転機となりました。
「留学中、スウェーデンの学生やほかの留学生らに対して日本食をふるまう機会がありました。手巻き寿司やてんぷらなどの日本料理は現地でもよく知られている上、味や見た目などが洗練されていると、とても好評だったんです。
日本では、過疎化や若者の農業離れなど、第一次産業に関連するネガティブな情報が目立つことが多いですが、海外に出たことで日本食のポジティブな可能性に気づくことができました。
それがきっかけで、日本食を海外に広めることで国内の第一次産業の発展に貢献できるのではないかと考えるようになりました。そんなときに出会ったのが、農林中央金庫。組織として掲げる理念に共感し、入庫を決めました」
2015年の入庫後、最初に配属されたのはIT統括部。そこで3年間、システム開発などに関わります。
「1年目はシステム障害への対応やシステム購買事務などを担当。2年目は、グループ会社である農中情報システムでシステム開発に携わり、3年目にはIT統括部に戻り、主に要件定義などを担当しました。いわゆる勘定系と呼ばれる、会計勘定処理を行うシステム開発に関わり、企画から管理までの一連の開発工程を経験しました」
その後、榎本は海外支店トレーニー制度を利用してロンドンへ。当初、言葉の壁にぶつかりますが、持ち前の粘り強さで乗り越えます。
「現地では、本店と現地のメンバーのあいだに立って情報の共有や連携を円滑化する、いわゆるリエゾン業務を担いました。ところが、最初のころはなかなか思うように意思の伝達ができなくて。『あなたが何を言っているかわからない』と言われることもありました。
チャートなど言葉以外のものも駆使しながら、『とにかく伝えたい』と試行錯誤するうちに、だんだんコミュニケーションが成り立つように。徐々に仲間として受け入れられるようになっていった実感がありました」
当時はちょうど、イギリスが欧州連合から離脱するタイミング。これを受けて、農林中央金庫ではオランダのアムステルダムに新たに現地法人を設立し、ロンドンのシステムをそのままアムステルダムに提供しようというプロジェクトが走っていました。
「滞在期間の後半は、そのメンバーとして東京、ロンドン、アムステルダムの3国による打ち合わせに何度も参加するなど、貴重な経験をすることができました」
約1年の派遣期間を終えて帰国した榎本が配属されたのは、福岡支店。そこでは、企業融資や農業融資を担当しました。
「スーパーや電力会社など一般企業のお客様と、系統貸出と呼ばれる農業法人に向けた融資業務です。とくに農業法人に関しては佐賀県を担当し、県内の米・ネギ農家などに運転資金や設備資金などの貸し出しをしていました」
サーモン陸上養殖場事業に資金対応。サステナブルな地方創生事例として大臣表彰を受賞
これまでのキャリアの中で榎本がもっとも印象に残っているのが、福岡支店時代。九州電力によるサーモン陸上養殖場事業に参加したときのことです。
「全国の電力会社では、CO2の排出量が多いことを理由に火力発電所の段階的な休廃止が進む中、残された施設を有効活用しようとする動きが出てきています。この事業は、使わなくなった発電所のタンクに水を張ってサーモンを養殖しようというもので、以前から取引のあった九州電力さんから相談を受けました。
実は農林中央金庫では、以前にもサーモンの陸上養殖を検討したことがあり、どんなリスクがあるかなどの情報を持っていました。その情報を活かして事業性評価を実施したところ、とても喜んでいただけたのです。
競合する別の金融機関と比べると、当庫からは高い金利での提案になりましたが、独自のノウハウや漁協や地元とのつながり、全国あるいは海外に向けた販路の面でもサポートできる点などが総合的に評価され、最終的に融資行として選んでいただきました」
この取り組みは、2022年度の内閣府特命担当大臣表彰を受賞。「地方創生に資する金融機関等の『特徴的取組事例』」として評価されました。
「海上養殖には、残った餌が環境汚染につながるほか、いけすから逃げ出したサーモンが野生種と交配することで生態系が崩れるなどのリスクがありますが、陸上養殖であればその心配がありません。将来的に食料不足が懸念される中、持続的な食料提供という観点からも、たいへん有意義な取り組みだと言えます。
また、地元における雇用創出・近隣の学校での食育など、地域の活性化にも効果が期待できると考えました。そこで、融資をするにあたって私たちが提案したのが、ESGローンです。
これは持続可能な社会の実現をめざした、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に考慮した融資のこと。新規性や話題性に富む上、環境・社会への貢献を支援していることをアピールできる対外訴求効果の高いESGローンによって資金対応したことが、受賞につながったと考えています」
確かな成功体験を手にした榎本が、次なる活躍の場として選んだのが香港。福岡支店時代の経験が大いに活かされていると話します。
「現在、政府や行政の方と連携しながら仕事を進めることが多いのですが、お客様を訪問する前に行う事前調査や資料の作成など、銀行員として当たり前にやってきたことを高く評価してもらっています。
また、冷蔵保管されるべき品が常温で放置されることがあるなど、香港のサプライチェーンには改善すべき問題がたくさんあります。そこで、福岡時代に取引があった倉庫業者が行っていた、農産物を早熟な状態で運搬し、船の中で完熟させるという手法を紹介したこともありました」
さまざまな現場を見てきた経験や知識が役立っていると感じる一方、こんな課題も。
「福岡支店にいたときは、交渉相手も自分と同じような若手の方がほとんどでしたが、香港では経営層とやりとりすることが少なくありません。まだ自分には経営視点が備わっていないため、考え方や意思決定のスピードなどで、スケールの違いを痛感しています。もうひと皮剥けなければと、目下勉強中です」
海外に軸足を置いた食農ビジネスで、第一次産業をもっと元気に
第一次産業の発展に貢献したいとの想いを一貫して持ち続けてきた榎本。これからのキャリアをこう展望します。
「今後も海外に軸足を置きたいと思っています。海外と食農を組み合わせながら日本の農業を盛り上げていきたいんです。また、いずれは海外で経営者視点が学べる海外MBAプログラムにも参加したいと思っています。新たな知識を身につけられるだけでなく、ネットワークを広げるという点でも海外で学ぶことに大きな意義があると考えています」
そんな榎本が新たな仲間に求めるのは、「第一次産業を盛り上げたい」という想いを共有すること。
「農林中央金庫は、第一次産業を基盤とする金融機関です。国内の農林水産業を支えていくという使命に共感する方に来ていただけたなら、当庫のプレゼンスがますます高まっていくはずです。
たとえば、日本食の輸出拡大のためには、香港国内にとどまらず、8,000万もの人口を抱える大湾区に切り込んでいくことが欠かせません。さらに今後は、中国国内の輸送業者やスーパー、レストランなどを開拓し、実証実験を行う予定です。こうした新しい取り組みにも進んで参加してくれるようなチャレンジングな方と出会えるのを楽しみにしています」
また、榎本はサステナブルな取り組みにも意欲的です。
「中国や韓国の農産物の品質が向上しつつある中、差別化要素として有効なのが持続可能性です。現在本店では、農産物を育てるのにどのくらいのCO2が排出されるかを計測する仕組みの検証を進めていて、そうしたノウハウを活用できることは、大湾区でビジネスを展開していく上で、強力な武器になると考えています。
現時点で香港域内での動きはまだ活発ではありませんが、将来的に大きな波が来たときにその先頭に農林中央金庫が立てるよう、いまのうちから準備しておきたいですね」
海外で活躍したいという想いを20代のうちからかなえられる環境を活かし、自らの可能性を広げてきた榎本。これからさらに、「日本の食農を広める」という使命に邁進していきます。
※ 記載内容は2023年11月時点のものです

