適正な情報開示によって、企業の本質的な価値と市場の評価のギャップを埋める
──現在の業務内容について教えてください。
私の所属するIR(Invester Relation)部門は、文字通り、投資家対応が主な業務です。その中でも私は、決算対応用のQ&Aや統合レポートの作成、適時開示対応など、情報開示関連の業務を担当しています。
Q&A作成については、投資家からの質問を想定して各事業部門の方にヒアリングを実施し、回答をもとにQ&A資料としてまとめます。また、決算発表後の投資家や証券会社からの取材にも対応していて、1年間に受けるインタビューはおよそ100件で、IR全体の年間取材数は約1,000件ほどあります。
統合レポートとは、当社の売上や資産など開示義務のある財務情報に加え、企業統治や知的財産などの非財務情報についてまとめたもの。社長や各事業・機能トップのインタビューなど内容のボリュームが大きいため、他のメンバーと手分けして作成しています。
適時開示は、上場企業に義務づけられている「重要な会社情報の開示」のこと。企業買収や工場の停止といった、投資判断にインパクトを与えるような業務・運営上の情報など、基準に則って開示するための準備を行っています。
株主や投資家に向けて企業の財務状況など投資に必要な情報を提供し、正当な評価を受けることがIR部門のミッション。会社が過小評価されると買収リスクが高まりますし、逆に過大評価されれば、のちに実情が明らかとなって、市場の信頼を失うことになりかねません。誠実なコミュニケーションによる妥当な評価を得ることをめざしています。
ただ経営戦略上、社外に公表できない情報もあります。さまざまな角度からヒントを提供しながら、本質的な価値と市場の評価のギャップをいかに埋めるかに、IRの仕事の難しさとおもしろさがあると感じています。
弊社は不祥事を機に、透明性を高めるために、経営陣と一丸となって、社内・社外のコミュニケーション改善に努力してきました。いまでは事業部の理解も進み、IR活動がとてもやりやすくなったと感じています。
近年のIR部門では、経営陣のみならず、事業・機能部門のトップと、株主や投資家らが直接対話するIR Dayのような機会も積極的に設けてきました。実際に話したり、質問を投げかけられたりして市場の関心事を肌で感じてもらうことで、他部門からのIR活動への理解や協力が進んでおり、IR活動が充実することにもつながっています。
──オリンパスで働くやりがいをどんなところに感じていますか?
株価や売上、利益など、数字を使って考えたりコミュニケーションしたりすることが多い仕事ですが、内視鏡メーカーで働くひとりとして間接的に会社の信頼向上に関わり、社会貢献できていることに確かな手ごたえを感じています。
また、経営陣から近い位置にいるため、彼ら彼女らの考えに直接触れる機会が少なくありません。トップの発言の背後にある想いも踏まえながら、いわば会社を代表する立場として、株主や投資家、アナリストに向けて情報発信していることに大きな責任とやりがいを感じています。
社外の人と接していると、社内の人が思っている以上に当社への評価や期待が高いことを思い知らされます。われわれがパイプ役となることで、会社の本質価値と市場評価をともに高めていきたいですね。
経理部での経験が、IRとしてのキャリアの糧に
──オリンパスを選んだ経緯と入社後のキャリアについて教えてください。
私が入社した2008年ごろ、オリンパスと言えばカメラメーカーのイメージがありましたが、内視鏡をはじめとする医療事業に高いポテンシャルがあると思っていたんです。数あるメーカーの中でも、長い歴史を持ちながら、ベンチャーのような成長可能性があるところに惹かれ、オリンパスに興味を持ちました。
一方、成長が期待できるにもかかわらず、その魅力をうまくアピールできていないと感じ、自分にできることがあるのではないかと考えたこともオリンパスを選んだ理由のひとつです。
入社後は、広報IR室に配属され、デジタルカメラ、顕微鏡などのメディア向け広報や社内報を担当しました。社長や役員など経営陣と直接話しながら仕事を進めるIRの働きぶりを間近で見たり、新聞記者の方に向けて当社の業績などについて説明したりするうちに、IRの仕事に憧れを感じるように。
まずは経理や財務の経験を積みたいと考え、当時財務本部長を兼務していた広報IR室長に相談したところ、4年目に経理部に異動することができました。
経理部に約4年在籍して制度会計(単体・制度)などに携わった後、2015年にIR部門へ。不祥事が明るみに出てから3年以上が経過していましたが、残る課題も多く、異動後の約5年間は信頼回復に向けたIR活動に取り組みました。
──経理部での経験がIR部門で活かされていると感じることはありますか?
決算時、経理や財務の方と一緒に数字を分析しながらIR資料へと落とし込んでいきますが、彼ら彼女らと意思の疎通が図りやすかったり、話した内容をわかりやすく翻訳してメンバーに説明したり、経理部で培った知識がとても役に立っています。
また、経理で使われているシステムに精通しているので、分析に必要なデータを自分で取得することも。IR部門で使用している資料の中には私がフォーマットを作成したものが少なくないなど、経理での経験を存分に還元できていると思います。
コロナ禍でも、透明性のあるコミュニケーションを実現
──入社後、印象に残っている仕事について教えてください。
2020年6月、コロナ禍の影響で投資家に対して業績予想が発表できないことを受け、足元の落ち込み具合や今後の見通しを予想する材料にしてもらおうと、それまで開示したことがなかった月次の売上動向を公表しました。
その後、「特殊な状況下で代替手段を提供した」と証券アナリスト協会から当社のIRの姿勢を高く評価いただくなど、この開示に踏み切ったことはIRとしての自信につながっています。
月次の売上動向を公表すべきと提案した際、慎重な意見も出されましたが、社内の事情に配慮しながら議論を重ね、実際の売上金額ではなく、前年比の成長率の数字を公表することで落着しました。うまく落とし所を見つけることができたのは、それまで社内の各所とコミュニケーションしてきた経験があったからだと思っています。
IRにとって、コミュニケーションの材料が何もないのがもっとも良くない状態です。業績や将来の展望に関する情報を提供しない限り、投資家やアナリストにとって当社の評価のしようがないからです。
さいわい、現状は思わしくなくとも、コロナ禍の収束後には回復する見込みがあることを示せたことで、結果的に過剰な不安や動揺を市場に与えることを回避することができました。社外のアナリストからはその点を高く評価されています。
一方、当社の医療分野として初めてプロダクトパイプラインを開示したときのことも記憶に残っています。製薬業界では当たり前に行われており、海外の一部の医療機器メーカーにも開示している事例はあったものの、当社では実現していませんでした。
製薬業界出身の武田さんがCFOに就任したことをきっかけに、開示に向けた動きが加速。2019年に打ち出された当社の企業変革を背景に、開発部門でプロダクトパイプラインに関する情報の整理が進んでいたこともあり、2020年11月に開示に至りました。
経営戦略上、公にすべきでない情報もありますが、メーカーの将来性や株価が適正に評価されるためには、新製品に関する情報の事前開示が欠かせません。プロダクトパイプラインの開示が実現したのは、事業側とコミュニケーションを重ねることで、情報開示の最適なラインを見極めることができたからこそ。より良い判断ができるよう、いまも社内と社外の双方の視点を持ち、両者に寄り添いながら、IR部門としてのあるべき姿を追求しています。
企業価値の最大化へ向けて、グローバルメドテックカンパニーにふさわしいIR活動を
──今後の展望を聞かせてください。
グローバルメドテックカンパニーをめざすオリンパスにとってふさわしい、適切な目標の設定にIRの立場から貢献していきたいと思っています。
われわれは投資家やアナリストとコミュニケーションする機会が多いため、市場全体を見渡し、当社を競合他社と比較する視点がおのずと養われますが、社内では必ずしもそれが共有されていません。市場の期待に応えるために、トップダウンとボトムアップの両軸で調整していく必要があると考えています。
他社と当社で市場の見通しに隔たりがあるようなケースなど、経理の経験がある自分だからできることがあると思っています。もちろん、社内計画が高い目標になっていないか、あるいは保守的な計画になっていないかを数字を基に分析し、どうしてそのような見通しになっているか、社内の考えを社外にも理解できる形で翻訳して伝えていく必要があります。そうすることが、オリンパスの本質的な価値を高め、市場評価を適正なものにしていくからです。
社外と社内の架け橋となるよう、引き続きコミュニケーションを図りながら理解を求めていくつもりです。グローバルメドテックカンパニーにふさわしいIRとして社内外の期待に応えていきたいですね。
※ 記載内容は2023年8月時点のものです

