事前にシナリオを想定し、その通りに進んだときが営業の醍醐味
薄膜材料事業部の営業担当として6年間アメリカに駐在していた池上は、2022年6月に帰国し、現在は本社の同部署に課長として所属しています。
「薄膜材料の中でも、半導体用のスパッタリングターゲットを担当しています。営業としての仕事は、お客様と具体的な価格の交渉をするだけではありません。どのような材料に需要があるか、技術のトレンドの変化に伴う使われ方の変化など、この先の動向をヒアリングし、マーケティングに必要な情報を得るのも大切な仕事です」
お客様は、半導体の開発において、金属の抵抗値を下げたい、均一な膜をつけたいといったさまざまな要望を持っています。お客様が作る製品は、ひとくくりに半導体といっても用途も種類も異なるため、それぞれのターゲットの特性を細かくつかんで、要望に的確に合わせた製品を開発しなければなりません。
「営業として、自社製品のことを知るのはもちろんですが、エンジニアや技術に詳しいお客様との遜色ないコミュニケーションのために、お客様側の商品の知識も十分に把握する必要があります。若手や中堅のスタッフが、週に1回の勉強会でキャッチアップを行っているように、私にも常に知識を磨く姿勢が重要です」
広範な知識の上に交渉術やコミュニケーションスキルが求められる業務の難しさの中で、自分が描いたシナリオ通りに巧みにハンドリングできたときが、仕事の醍醐味だと池上は感じています。
「イチ営業担当としては価格の決定権がない立場なので、次にお客様と会う流れを想定して、事前に上司に確認して決裁を取っておきます。また、お客様のコストや品質の改善につながるような改善を持ちかける場合も、あらかじめ磯原工場の技術の人間と話をしておくようにしていました。
そういった根回しも含めて、事前に想定したシナリオ通りに話が進められたときが一番、業務のおもしろさを感じますね」
現在、同部署の営業担当スタッフは国内が6人、海外駐在員が5人。海外の拠点は、北米と台湾と韓国、中国、シンガポールの5カ所です。
「今は管理職になったことで、部下の管理と育成にどのように関わっていくか思案中です。育成対象には海外のメンバーも含まれますが、Webツールやメールなどを用いることで、地理的な距離を乗り越えて支障なくサポートできると思います」
希望が叶い、念願のアメリカ駐在へ
新卒でJX金属に入社した池上。当時の就職活動を振り返ります。
「当時は、営業として有形のものを売りたい、海外で英語を使ったグローバルな仕事がしたいという2つの希望を軸に動いていました。JX金属は、大学の先輩が就職した会社だったこともあって興味を持ったのですが、海外での鉱山開発という事業のスケールの大きさには驚きましたね」
JX金属が南米だけでなくアジア地域やアメリカにも拠点を持っていたことから、海外赴任の機会が得られそうだと考えた池上。また、就職活動中にはJX金属の営業職に就いている先輩たちと話をする機会があり、彼ら、彼女らが楽しそうに仕事について話していたことも印象的だったと言います。
「仕事に真剣に取り組んでいる姿勢を持っている一方で、プライベートな話題になるととても楽しそうで。オンとオフの切り替えがしっかりしていると感じ、そんな先輩たちの下で働きたいと思ったのが会社を選んだ一番の決め手でした」
入社後は、現在と同じ薄膜材料事業部に配属され、営業としてのキャリアをスタートさせました。部署内にはアメリカ、韓国、台湾、中国、シンガポールなどの拠点にスタッフが駐在しており、この部署にいれば、将来どこかに赴任できるのではと感じていた池上。
「入社した時から海外赴任が希望だったので、上司や周囲にはよく海外で働きたいことや経験者には海外で働くことについて話をしていましたね。加えて、JX金属には年に1回の自己申告制度があり、今の業務の状況や将来の希望などを記載できるので、海外赴任希望と書いていました」
その甲斐あってか、池上は2016年からアメリカ駐在が決まります。希望がかなったという期待感がある一方で、英語力には若干の不安を感じていました。
「英語に関しては、私が入社して4年ほど経ったときから語学留学制度が始まりました。入社2~3年の学卒社員が対象でしたが、ダメもとで希望を出したところOKが出て、仕事を一旦引き継いでフィリピンに3カ月間語学留学をさせてもらったんです。英語に対する恐怖心を払拭できた良い機会になりました」
即断即決が好まれるアメリカのビジネス現場、いかに対応していくべきか
赴任先では、仕事に関して国の違いを感じることが多かったと言う池上。マネージャークラスの立場で現地の海外子会社に駐在し、アメリカ人の同僚や部下を持つ状況になったことで壁にぶつかります。
「同僚や部下の中には、私よりも経験豊富でアメリカやヨーロッパ市場を熟知しているスタッフも少なくありません。そうした中で、どうすれば私自身が役立つ存在として見てもらえるのか、常に考えていました」
また、仕事に対するスタンスと、日本との時差の存在も悩みのひとつだったと言います。アメリカの商習慣は即断即決が好まれる一方で、日本に確認を入れるステップを踏むと時差のために長い時間を待たせてしまうからです。
「待たせるのであれば、アメリカ人スタッフが直接日本に確認を取るのと同じなので、駐在員がいる意味がなくなってしまいます。そのため日本で営業を行っていた際に上司に確認を取っていたことを、今度は上司の立場としてやらなければならず、そこに慣れるまではなかなか大変でした。限られた経験の中ででき得る判断をしながら、なんとか仕事を進めていたというのが正直なところです」
中でも、年に1度の価格交渉はもっとも難しく、だからこそ手応えも大きかったと池上は振り返ります。
「大手のお客様との価格交渉では、世界中の工場との取引に影響を及ぼす価格を決定しなければなりません。私ひとりの判断だけでは対応が難しいこともありますが、それでも交渉のたびに確認を仰ぐ時間を取るわけにはいかないのです。
最初はお客様の要望通りに進められてしまうこともありましたが、経験を積むうちに、日本での営業経験を思い出し、シナリオを立てて対応するようになりました。そんな成功体験を重ねたことで、自信を持って判断する力が身についたと思います」
そしてアメリカでは、仕事仲間と積極的にコミュニケーションをとっていたと言う池上。
「基本的にアメリカの人はオープンマインドな人種なので、仕事以外でも飲みに行ったり、一緒にゴルフをしたりして、意識してコミュニケーションを図りました。
アメリカでは多くのゴルフ場があり、手頃な価格でプレイできるので、ほぼ毎週ゴルフを楽しんでいましたね。仲良くなることで信頼関係が築かれ、仕事上でも円滑なコミュニケーションが可能となる良いサイクルを築くことができたんだと思います」
キャッチアップを惜しまず、物おじせず発信する──これが海外で成長する秘訣
アメリカ駐在6年目、本社への帰国の辞令が下り、池上は新たな環境に身を置くことになりました。このタイミングは、自身にとっても良い時期だったと感じています。
「6年間のアメリカ駐在で、自分なりの仕事の進め方を完全に習得した実感がありました。そろそろ新しい環境での挑戦を考え始めていたタイミングでもあったのです」
アメリカ駐在を振り返ると、物事を考えるスタンスにもっとも大きな変化があったと語る池上。
「アメリカで求められた迅速な判断と行動から、深く考える習慣がついたことは良い影響だったと思います。今でも電車の中や風呂に入っているときに、仕事を振り返って内省するようにしていますね」
現在は、営業担当者から人を管理する側になり、部下を一人前の営業として育てることが新たなミッションです。
「営業の方法に正解はないので、個人的な経験を押し付けるつもりはありません。大切なのは自ら考え、自らのシナリオに基づいて進められること。それができれば非常に楽しくやりがいを感じることができると伝えたいですね」
半導体は「産業の米」とも呼ばれるほど社会にとって重要な存在であり、さらに薄膜材料事業部が扱う電子材料のビジネスは、ほとんどが海外取引です。そのため今後は海外で働く機会がますます増えると予想されます。
「JX金属では、若い世代でも海外駐在が増加しており、海外で働きたいと思う人にとってはチャンスが多く、素晴らしい環境だと思います。もちろん、初めは経験が少なく、十分に意見を発信するのも難しいかもしれません。
しかし、経験をカバーするためのキャッチアップを惜しまず、積極的に情報を吸収する姿勢がある人であれば、成長していけます。自分の考えを物怖じせずに発信し、間違いを訂正し、助言をしてくれる周囲の人々とのコミュニケーションを大切にする──そんな人材こそ、未来のグローバルなビジネスにおいて不可欠な存在となるはずです」
強い信念を持って次の世代へのエールを送る池上。今後も進化し続ける半導体産業の潮流の中、グローバルな視点を持って未来を切り拓くリーダーとして活躍していくことが期待されています。
※ 記載内容は2023年7月時点のものです
