「人」から「物」の解析へ。ニーズの高い建設現場の課題解決に向けて開発をスタート
日立産業制御ソリューションズは2022年4月に、社会・公共ソリューション事業部新事業開発センタを発足。菊池はそのグループ主任技師として組織をリードしてきました。
菊池:新事業開発センタは、新事業を開拓するグループと、その技術を開発するグループから構成されています。2023年6月には、第1号製品として、クラウド上で映像解析AIを活用した資材カウント支援サービス「IVyCount(アイビーカウント)」(※)を開発しました。
仮設資材は建設現場ごとにレンタル業者から借用しており、レンタル業者は、レンタル時と返却時の本数を数え、差異がないか必ず確認しますが、現状この作業は人の手で行っているため、多くの作業時間が掛かっています。この業務の効率化をめざして、我々はクラウドとAI技術を駆使して資材の構造を解析する方法を独自に開発。スマートフォンで撮影するだけで、仮設資材の数を自動的に、かつ、すばやくカウントし管理できるサービスを開発しました。
※ 「IVyCount」は株式会社日立産業制御ソリューションズの登録商標です
同じく開発に携わった三沢。主に技術面のマネジメントを担当し、お客様の現場に足を運び、日立製作所の研究開発グループとタッグを組み開発を進めてきました。開発に至った経緯をこう振り返ります。
三沢:ビルやトンネルを建設する大規模な現場では、トラック何十台分にも及ぶ仮設資材を使用します。これら仮設資材を利用する側も、貸し出すレンタル業者側も、仮設資材の本数確認は負担がかかっていました。そうした課題を解決したいという想いが開発の出発点になっています。
一方の村井は、製品化に向けたプロジェクトマネージャー兼テクニカルリーダーとして、開発では、設計・製作・品質のマネジメントを担ってきました。開発の背景には、課題解決を可能にする当社の技術力があったと言います。
村井:当社では、数十年前から画像処理技術を活用した製品開発をしています。その技術が部署ごとに枝分かれするかたちでさまざまな製品が立ち上げられてきましたが、あらためて統合基盤をつくろうと、2016年に「フィジカルセキュリティ統合プラットフォーム」を開発しました。
このプラットフォームには映像監視や入退室管理などのシステムが含まれており、「IVyCount」はこのプラットフォームに追加可能なサービスとして開発されました。
画像処理や映像解析の技術を幅広い分野で活用することをめざし着目したのが、「ヒト」ではなく「モノ」の解析。その中でも、技術的な貢献がとくに期待されるとともに、ニーズが高いと判断されたのが建設業界向けのサービスでした。
三沢:映像解析の技術力を生かして、他社では手が出せない領域に挑戦したいと考えていました。乱雑に積み上げられている建設現場の資材を、単純な映像解析では読み取ることはできません。この課題にどう対処するか考えた結果、2D画像に加えて3Dデータも取り入れることで、従来の方法では不可能だった解析を実現することができました。
「一日も早く、お客様の困り事を解決したい」という想いで、短期間での開発に成功
新サービスのベースとなった「フィジカルセキュリティ統合プラットフォーム」。このプラットフォームを生かして、2023年4月には、数万人規模の映像データから、外見や行動などの特徴を高速に判別するAI解析技術ソリューションが開発されました。この技術は、日刊工業新聞社が主催する「第52回 日本産業技術大賞」において「文部科学大臣賞」を受賞。大きな注目を集めました。
村井:これは、独自に開発したAI映像解析技術を活用し、約1秒で対象人物を見つける「高速検索」と、多数の防犯カメラから位置情報や撮影時刻を使って移動経路を追跡できる「リアルタイム追跡」を特長とするソリューション。大規模な空間のセキュリティに貢献できる点を評価され、現在は鉄道関係のお客様にも導入いただいています。
このような高い技術の蓄積から生まれた「IVyCount」。しかし前例のない取り組みであったため、開発ではさまざまな苦労があったと言います。
三沢:技術面でとくに苦労したのが、大量の点の集合体である3D点群データの扱い。3D点群データと2Dの解析を融合し開発した新しい技術が、求められる高い精度に達するまでの道のりはとてもチャレンジングでした。初めての試みがたくさんありましたが、粘り強い試行錯誤を繰り返したことが、実用化につながったと思っています。
一方、村井は「開発はスピードとの戦いだった」と振り返ります。
村井:良いソリューションを開発しても、お客様に届けるまでに何年もかかってしまっては意味がありません。高い品質を維持しつつ、ニーズがあるうちにスピーディーに届ける必要があります。お客様の使い勝手を考え、クラウドを活用したサービスの開発をめざしました。当社ではほとんど前例のない開発でしたが、メンバー全員が一丸となり迅速に進められたことが、今回の成功の鍵となりました。
メンバー全員が目的意識を共有し、お客様と密なやり取りを通じて機能やユーザビリティについて繰り返しフィードバックを受け、2023年1月の開発着手からわずか5ヵ月後の6月に製品を正式リリースするという驚異的なスピードで開発完了に至りました。
三沢:当初、お客様から資材カウントで困っているという話を聞いたときから、切実な課題を抱えていることは明らかでした。スピーディーな製品化を実現できたのは、「一日も早く、お客様の困り事を解決したい」という想いがモチベーションになっていたからだと思います。
お客様の協力的な姿勢にも助けられましたし、「こんなに短期間で開発できるものなのか」と喜んでいただけたことはとてもうれしかったです。
お客様の真の課題を把握することが重要。開発を通じた気づきが技術者としての糧に
新サービスのリリースから約半年。新たな課題と展望も見えてきていると言います。
菊池:カウントできる資材の種類がまだ限定的なので、対応できるバリエーションを増やすべく研究開発を進めている段階です。また、使ってくださっているお客様からは、「カウントしたデータを社内のシステムと連携し、DX化を進めたい」というリクエストもいただいています。
単体ではなく、DXに貢献するトータルソリューションとしてお届けすることが、お客様に価値を提供する上で重要なため、さらに磨きをかけていきたいと考えています。
一方、新しいサービスが現場の業務効率化に貢献できているという確信も生まれています。
三沢:難しい形状の資材が100本ほどあった場合、従来はふたりで数分かけて確認していましたが。新サービスの導入で10〜15秒で作業が終えられるため、業務効率化につながっています。レンタル業者では、返却された資材をカウントする業務を毎日数回行う必要があり、大いに役立っていると思います。
想定していたスケジュール通りに開発が完了し、ほっと胸を撫で下ろしたと話す三沢と村井。今回のプロジェクトを通じて、新たな気づきがありました。
三沢:これまでの研究開発では、最先端の技術をどう製品化するかに注力してきました。しかし今回、お客様と一緒に技術開発を進めたことで、お客様にとって使いやすいサービスを開発することの重要性に気づかされました。
村井:お客様が直面している真の課題を把握するためには、お客様の現場を直接見ること、生の声を聴くことが最も大切であることをあらためて実感しました。何度も現場に足を運び、実際の作業や業務を目で見て、お客様と直接会話を交わし理解を深めたことで、課題の核心を捉え、適切な解決策を提案することができたと思っています。ものづくりの基本とも言えるサイクルを経験できたことは非常に有意義でした。
開発した2Dと3Dの組み合わせによる画像解析技術。これから新たな分野の応用へ
今回の開発を通じて獲得した技術は、将来新たな分野への応用も期待できます。
三沢:例えば、河川の水位の計測にこの技術を応用できないかと考えています。河川の水位は日常的に計測され、大雨などで水位が一定レベルを超えると警報が発令されます。現在、河川監視用カメラはすでに設置されていますが、この映像解析技術を利用して水位を自動計測し、警報アラートを自動発信できるシステムを開発することで、監視業務の負担を減らすことに貢献できると考えています。
独自の技術力を武器にお客様の課題解決をしてきた新事業開発センタ 新技術開発グループ。これからも、その姿勢が変わることはありません。
菊池:我々は社会・公共ソリューション事業部の一員として、社内の他事業部と積極的に情報交換しながら、社会インフラへの技術貢献をめざしてきました。今回の新サービスは社内からも高く評価され、大きな期待を寄せられています。長年かけて培ってきた高い技術力にAIなどの最新技術を掛け合わせ、新たな分野への挑戦を続けていきたいです。
今回のプロジェクトを技術面でリードした三沢。当社の開発環境をこう表現します。
三沢:現場に足を運び、そこで働く方に必要とされるサービスを思い描き、それを自らの手で生み出しお届けするところまで、すべての工程に関与できる当社の環境はとても魅力的です。
最近では、新規事業につながるアイデアを提案するコンテストが開催されたり、新規事業開発を手がける部署が新設されたり。社内では挑戦を促す雰囲気があります。望むことを実現しやすい環境が整備されていて、提案内容が製品に反映されたり、特許につながったりすることもあるため、自発的に挑戦することを重んじる方にとって最適な会社だと思います。
一方、新しい技術の実装に向け、常にワクワクした気持ちで仕事に臨んでいると話す村井。技術者としての働きがいについて次のように話します。
村井:今回の開発では当初、当社にまだクラウド開発に関するノウハウが足りていない状況でした。そのため、「自らが先駆者となろう」という意気込みのもと、試行錯誤を繰り返して製品化に結びつけることに。簡単な道のりではありませんでしたが、新しい技術を製品へと落とし込む過程すべてが楽しく、また大きな達成感も感じました。他の拠点のメンバーともリモートでやりとりできる仕組みが整っているので、柔軟な働き方をしながら開発に没頭できる環境です。
誰もまだ見たことのない未来の実現をめざして。高い技術力に新しい視点や技術を組み合わせながら、3人はこれからも現場や社会が直面する課題に応えるソリューションを創出し続けます。
※ 記載内容は2024年3月時点のものです

