設計における開発プロセスの効率化に向け、試作レスをめざすモデルベース開発を推進
コネクティブエンジニアリング事業部の粂川 真信。デジタル基盤ソリューション本部 第七設計部 第二グループで主任技師を務めています。
粂川:組込みソフト・ハードウェアのエンジニアリングを手がけるコネクティブエンジニアリング事業部の中でも、デジタル基盤ソリューション本部が担うのはハードウェアや構造設計です。
パワーエレクトロニクス関連の製品を扱う第七設計部では、電気モーターやモーターを動かすための機器を製造するメーカーへの開発支援を主に行っています。
現在、第七設計部では、ハードウェアの試作レスをめざすモデルベース開発(以下、MBD)に取り組んでいます。
粂川:これまで組込みハードウェアの開発プロセスは、実機の試作をベースに進められるのが一般的でした。MBDは、シミュレーションを活用することで試作をコンピューター上の「モデル」に置き換えようとする試みです。
近年、自然災害による被害が激甚化し、その原因とされる地球温暖化をはじめとする環境問題の解決が急務となっています。試作を繰り返す従来の開発手法に比べて、モデルベースのMBDは地球の環境への負荷が小さいのが特長です。開発期間の短縮や品質の向上なども期待できることから、社会的意義が大きい取り組みとして業界の注目を集めています。
プロジェクトマネージャーを務める粂川。MBDの全体統括を担ってきました。
粂川:プロジェクトの立ち上げ時から関わり、新規開拓やお客様を訪問して技術を紹介したこともありました。現在はサービス導入のプロジェクトを推進しています。お客様の課題やニーズを見極めつつ、技術拡充の方向性を舵取りするのも私の役目です。
一方、プロジェクトの中心メンバーとして活躍してきた湯澤 正忠。設計要素の連携を担当しています。
湯澤:設計プロセスにおいては、電気回路の動作や筐体の構造的な側面など、あらゆる要素を考慮する必要があります。通常、熱に関する問題は熱解析で、電気回路に関する問題は電気回路解析でそれぞれ独立して扱われます。
しかし、試作をつくらない場合、このようなアプローチでは不十分です。製品の動作を総合的に理解するために、異なる解析結果を統合し、各要素がどのように相互作用するかを検討しています。
2023年から同プロジェクトに参加する山西 義人。現在は車載コントローラー(電力線通信ユニット)試作品の熱解析を担当しています。
山西:私は熱解析の高精度化を主に担当しています。物理現象をモデル化するためのノウハウを蓄積しているところです。
MBDプロジェクトの誕生からこれまで。新たな開発プロセスの構築に向けて
MBDのプロジェクトがスタートしたのは2021年。有志メンバーによるワーキング活動がきっかけでした。
粂川:当時、組込みハードウェア事業が新たなビジネス分野の開拓を迫られていました。中堅社員が集まって議論を重ね、さらに若い世代のメンバーも加えて方向性を模索する中で辿り着いたのが、当事業部が長年手がけてきたパワーエレクトロニクスのハードウェア設計分野でのMBDでした。
私にはCAE解析を用いた設計業務の経験があったため、MBDは決して不可能でないと感じる一方、その難しさも理解していました。期待と不安が入り混じる複雑な心境の中、プロジェクトの立ち上げに至ったのは、有志のメンバーらの後押しがあったからこそです。
その後、プロジェクトに参加した湯澤と山西。当時をこう振り返ります。
湯澤:入社時から解析に興味があったので、打診されたときはとてもうれしかった記憶があります。最初に取り組んだのは、MBDについて理解し、それがハードウェア開発プロセスにどう適用できるかを理解すること。それまでも解析の経験はありましたが、初めて経験することも多く、しばらくは手さぐりの状態が続いていました。
山西:私も解析は興味のある分野でしたが、学生時代に少しかじったことがある程度。MBDの経験はなかったので、まっさらな気持ちで取り組んでいこうと思いました。
プロジェクトチームがまず着目したのが、すでに実績のあった回路解析と熱解析のふたつの技術。これらをお客様の課題を解決する製品へと磨き上げていく過程にはさまざまな困難があったと言います。
山西:流体の動きのような複雑なプロセスを含む、さまざまな物理現象をモデルに組み込むのはとても難しい作業でした。また、モデルによる解析には想定以上の時間がかかることがあります。解析時間と精度のバランスを取るなど、効率的なモデルの検討に力を注ぎました。
湯澤:モデルにすべての要素を盛り込むことは現実的に不可能です。絶対に譲れない部分とそうでない部分を見極めるのがもっとも難しい点でした。
加えて、回路解析と熱解析にはどうしても誤差が生まれます。設定項目を一つひとつ検証しながら、実測値とモデルの出力データを何度も照合しながら、モデルの精度を高めていきました。
さらに、パワーエレクトロニクスでは扱う電流が大きいため、通常発熱しない基板やケーブルなどの部品が発熱することがあります。これらの発熱も模擬するために、電磁界解析も用いていきました。
プロジェクトを通じて一貫して効率化と品質向上にこだわり続けたと話す粂川。もうひとつ、心がけてきたことがあります。
粂川:MBDの取り組みを事業部全体に広げるために、各メンバーが技術を拡充する一方で、マニュアル作成などナレッジの共有にも力を入れてきました。私たちがめざすのは組織全体の技術力向上です。そこに今回のプロジェクトのもうひとつの意義があると思っています。
MBDの導入によって開発効率と製品の品質が飛躍的に向上
プロジェクト参加後、印象に残っている出来事について湯澤と山西は以下のように語ります。
湯澤:電動化を進める自動車部品メーカーから、モーターを動かすシステムの開発の委託を受け、設計から試作までを担当したことですね。回路設計と並行して解析を行うことで、使用する部品の提案など、初期段階でのフィードバックが可能になりました。
従来の開発プロセスは、部品の交換に数カ月、試作をつくり直す場合は約1年を要します。以前、解析せずに設計した際、試作後に部品が発熱することが発覚し、対応に1年近くかかったことがありました。時間と工数の大幅な削減につながり、大きな手ごたえを感じています。
山西:私は建設機械メーカーからの依頼で、建設機器の油圧を制御するコントローラーユニットの試作品の熱解析の高精度化を受託し、担当したことです。試作ベースで進められていた開発プロセスをモデル化することに成功しています。
これにより、特定の部品に熱問題があるかどうかをコンピューター上で容易に検証できるようになり、大幅な工数削減が実現しました。これまで未開拓だった分野において新たな根拠を見出し、高精度化につなげられたことはとても有意義だと感じています。
MBDプロジェクトがスタートして2024年で4年目。粂川も大きな成果が得られているという実感を得ています。
粂川:MBDの導入によってお客様の試作プロセスの大幅な効率化が実現し、市場投入までの時間の短縮に成功しています。さらに、製品の品質向上にも貢献しました。設計段階で問題を特定し、迅速に解決することが可能になっていると感じています。
プロジェクトは新たなフェーズへ。チームワークの力で切り拓くMBDの未来
今後、さらなる技術拡充をめざしたいと話す3人。それぞれの視点から、将来を次のように展望します。
粂川:現在のシステムでは、ハードウェアとソフトウェアが連動して機能しています。これまでハードウェアに特化して試作レスの実現に取り組んできましたが、将来的には関連部署と連携しながら、ハードウェアとソフトウェアを連携したMBDを当社の新たな強みとし、市場における競争力を高めていきたいと考えています。
また、ハードウェア開発プロセスにおいて、熱問題と並んで大きな課題となっているのが電波ノイズです。電動化の進展により、電波ノイズが電気回路の誤動作を引き起こすケースが増加してきました。この課題もMBDによって解決していきたいです。
湯澤:技術拡充のためには、チーム全体のスキルアップが欠かせません。全員が同じ方向を向いて一丸となって前進できるよう、マニュアル化や自動化などを通じて、各チームメンバーの能力を向上させていくことが現在の目標です。
山西:私はまだ入社3年目。熱解析だけでなく、電気や電磁界など、さまざまな要素の解析の高精度化を通じて、エンジニアとして成長していきたいと思っています。
MBDプロジェクトの成功の鍵を握るのはチームワークだと話す粂川。めざす組織像があります。
粂川:一歩ずつ着実に前進できている実感があるのは、組織力を発揮してきたからにほかなりません。今回のプロジェクトを通して、チームワークの重要性を再認識しました。
メンバーが知識やスキルを積極的に共有し、互いを補完し合えるよう、チームをうまく舵取りしていくことが、プロジェクトマネージャーである私の役割。若いメンバーに安心して技術拡充に専念してもらえるような環境づくりに貢献していきたいと考えています。
日立産業制御ソリューションズが導くMBDの未来。卓越した技術とノウハウを強みに、3人は次なるステージへ。
※ 記載内容は2024年2月時点のものです

