社内システムの開発・運用を担う「羊飼い型」のシニアマネージャー
木村が所属するデジタルシステムプラットフォーム本部クラウドサービス統括部は、社内ネットワークやセキュリティの構築、各従業員が使う端末の配布管理など、富士通グループ全社におけるIT環境の整備とシステムの安定稼働を担っています。
木村 「その中で私は、富士通グループ各社の法務・知財部門と共に、主に特許やライセンスの申請管理、他社との契約書類を審査するためのシステムの開発・運用を担当。また2020年からは、富士通が20年以上も使い続けてきた決裁システムを刷新するにあたり、開発責任者としてプロジェクトに携わりました」
シニアマネージャーとして、同部の人材育成やマネジメントにも携わる木村。自身については、部下であるマネージャー層やメンバーのタレント性を大事にしながら、必要に応じて軌道修正を促す「羊飼い型リーダー」だと言います。
木村 「マネージャーになって間もないころ、部下から『会社を辞めたい、自分の仕事に自信が持てない』と相談されたことがありました。結果的に退社は避けられたのですが、後日、とあるビジネス書に『部下の会社に対する不満は、上司への不満を意味する』と書かれているのを読んでショックを受けました。つまり、私が部下を不安にさせ、この会社ではやっていけないと思わせていたのだと気づいたんです。
それ以来、会社へのネガティブな意見は自分への評価だと捉え、対処するようになりました。さらに、『富士通で働けて嬉しい』『会社とともに頑張りたい』というポジティブな声は、私自身に向けられたものかどうか──その点も自問しながら、部下がいきいきと活躍できるチームを目指しています」
「小さな声」も拾いながら、関係部署との連携を大切につくり上げた新システム
木村が開発責任者を務めた新しい決裁システムは、その名もKESSAI。たとえば新たなプロジェクトを立ち上げるとき、予算を使うために必要な社長や役員の承認、法務や経理部門による契約書の審査や購入する物品・不動産の申請など、起案後に待ち受ける諸手続きをワンストップでスムーズに進めることを目的としています。
木村 「全社的に取り組んでいるDXプロジェクト『フジトラ』や、経営・業務プロセスの標準化を目指す『OneFujitsuプログラム』が進む中で、決裁制度も現状に合わせて改正し、よりガバナンスを効かせる必要がある──そんな背景から始まったのがKESSAIプロジェクト。既存の決裁システムは国によっては使えないケースもあったため、KESSAIはグローバルかつ部門単位ではなく全体最適を見据えて開発しました」
開発を始めるにあたり、まずは社内のデザイン部門に協力を仰ぎ、旧システムの不満点を把握するためのユーザーアンケートを実施したという木村。そこで集まった声を広く反映させるため、アジャイル開発を選択したと話します。
木村 「これまで私たちが携わってきた社内システムの開発では、システムを実際に使う業務部門とのコミュニケーション不足が課題としてありました。要件定義や設計フェーズで方向性を決めたら、あとは私たちが黙々と開発し、テスト段階になってから『イメージと違う』『これじゃ使えません』という意見が出て険悪な雰囲気になることもありましたね(笑)。
それを解消すべく、今回は関係部門の担当者とコンスタントに意見交換し、『一緒に考える』ことを大事にしました。2週間単位でシステムを見せ、フィードバックをもらって修正する。これを繰り返すうちに、開発側と発注側という関係ではなく、開発者と伴走者という協力的な関係を築けたと思います」
一方で、発言力のある人や大多数の意見だけでなく、「小さな声」を拾うことに苦労したと振り返る木村。
木村 「プロジェクト全体の会議だと関係者が80人近く出席するので、その場で発言しにくい人もいますよね。そういう方の意見も聞くために、議事録を公開してチャットを設置するなどの工夫をしました。
また、寄せられた声に対して私たちの方で優先順位をつけることはせず、すべて平等に開示させ、その意見を反映させる・させないの判断をユーザー側に任せたのですが、これは正解だったと思います。声をあげた人にとっては、自分の意見が採用されるか否かよりも、ちゃんと聞いてもらって議題にあがった、というプロセスが重要なのだとわかりました。今後の開発側の在り方、プロジェクトの進め方など、多くを学んだ機会となりましたね」
生まれたてのKESSAIには、「使いやすくなった」「いいシステムだ」という評価がある一方、否定的な声があるのも事実。それに対し、部下たちからは「それならこういう形で追加開発を提案しましょう」という意見もあがり、木村はメンバーやチームの成長を実感しています。
木村 「今回のプロジェクトを通じて、開発の進め方や意見の吸い上げ方を学んだのはもちろん、私も部下も相当に胆力を鍛えられましたね(笑)。ポジティブな反応で言えば、私たちの取り組みを広報できたことで、社内の記事で特集されたほか、ビジネスプロデューサー部門から『外販のビジネスにするから話を聞かせてほしい』と、有識者として仕事を依頼されたメンバーもいます。自分たちの頑張りが認められ、部下たちが達成感や成長を感じてくれたなら非常に嬉しいですね」
女性管理職の育成を目指す「FemXe project」を始動。見えてきた課題と展望
社内業務システムの再構築を通じ、富士通グループのDXを牽引する木村。一方で2022年8月からは、女性管理職の育成を目指す有志活動「FemXe(フェムゼ)project」を立ち上げ、活動しています。
木村 「きっかけは、昨年富士通の変革活動の一環としてMy purposeを定めたことです。私のMy purposeは『すべての人が自分の“成し遂げたいこと”に集中できる社会を創る』。当初は、たとえばまさにKESSAIのような間接業務をシンプル化するシステムをつくることで、みんながコア業務に集中できる環境をつくれたらいいなと考えていたんです。
そこからさらに発展し、業務や社内という狭い範囲だけでなく、日本中、世界中の人が何事にも邪魔されず、自分がやりたいことに取り組める社会にしたいと考えるようになりました」
そんなとき、富士通の女性管理職が8.03%(2022年3月時点)と知り、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)活動に興味を持ちます。
木村 「女性管理職が少ない理由のひとつに、アンコンシャスバイアスがあると思うんです。女性社員が昇進を望んでいたとしても、『これからライフイベントが控えているからマネージャーの仕事は大変だよね』という、ある意味余計な気遣いが入ってしまうと、本人の『成し遂げたいこと』の妨げになってしまう。すべての女性が自分の望むキャリアの形成に集中し、実現してほしい。そんな想いで生まれたのが『FemXe project』です」
2023年2月現在、プロジェクトには性別や役職、部署を問わず約15人が参加。勉強会やセミナーの開催にとどまらず、同じ境遇でキャリアを積む仲間やライフイベントを乗り越えた先輩を見つけ、ゆるくつながれるようなアプリケーションの開発も企画中です。
木村 「このアプリの目的は、将来自分が進みたいキャリアの方向(マップ上)に、どんな職責を持ち、どんなライフイベントを経た社員がいるのかが見えるようにすること。
人生ゲームは、結婚したり子どもが生まれたりすると、クルマ(駒)の上にピンを刺していきますよね。このアプリでは、職責やライフイベントをピンの数で表すようにしました。
たとえば、データサイエンティストとしてキャリアを歩んでいきたいと考えたとき、その方向のマップを見るとピンをたくさん載せたクルマもあれば空のクルマも走っています。ピンをたくさん載せたクルマをクリックすると、その社員の状況──結婚して子どもがいて、10人の部下がいるなど──がわかり、メッセージやチャットでコンタクトすることもできます」
自分にとってのロールモデルを見つけたり、自分と似た状況の人に話を聞いたり。このアプリが、女性に限らずすべての人にとって、キャリアを考える一助となればと考える木村。「FemXe project」に取り組む中で、別の気づきもありました。
木村 「富士通では、男女を問わず責任ある役割にチャレンジするタイミング、いわゆる『打席に立つ』タイミングが遅いと感じました。先ほどのアプリで言えば、ピンを載せていない状態、つまりライフイベントが始まる前の若手時代ほどチャレンジしやすいはずなのに、実際にチャンスが訪れるのは年齢を重ねて経験を積んでから。
だから、アプリを通じて背中を押し合える仲間を探すとともに、社内の登用制度も変える必要があるのではと考えています。とくに女性は、身体的に出産や育児のときにどうしても一定期間はブランクができてしまうので、その前に打席に立たせるべきかもしれません。
もちろん男性でも、管理職になりたくても手を挙げられない人、昇進したくないと考える人など、さまざまいると思います。女性管理職を増やすことだけでなく、すべての人の『成し遂げたいこと』に貢献できる活動を続けていきたいですね」
走り続ければ、見える景色は必ず変わる。現場変革を活性化させるブースターになりたい
「FemXe project」を通じて、すべての富士通社員が働きやすい組織とはなにか?を考えるようになった木村。富士通という組織の中で、自分の果たす役割が見えてきました。
木村 「富士通では、生産年齢人口の不足が深刻化する2030年問題を見据え、優秀な人材を育てようとする動きが加速しています。『OneFujitsuプログラム』やDE&I活動もその一環ですが、社外プロジェクトに参加して他社の話を聞くと、当社がこの領域で先進的だということがわかります。
一方、スピード感を持って次々と画期的な変革を進めているが故に、現場が追いついていないという課題も……。充実した制度を知らずにいる、あるいは認識しているのに自分には無関係だと捉える社員もいます。だから私は現場に立ち、活性化を促すブースターの役割を担っていきたいですね」
学生時代は文系で、自分がITやDXに関わる仕事に就くとは予想していなかったという木村。自身のキャリア観を次のように語ります。
木村 「私が就職活動をしたのはいわゆる就職氷河期で、広く門戸が開かれていたのがIT業界だった、という理由でSEになりました。やりたい仕事を選んだというよりも、とにかく一生働き続けなければ、という覚悟でしたね。
過去には『進む道を間違えたかもしれない』と感じるくらい苦しい状況や不遇の時代もありましたが、そんなとき自分に言い聞かせていたのは『マラソンは走り切った人が偉い』ということ。
華々しい活躍をして輝いていた人が、事情があって仕事を諦めてしまうケースもこれまで見てきました。走り続ける中で状況はどんどん変わるので、周りと比較して悲観するのではなく、最後まで走り切るのが大事だと思いますね」
走り続ければ、見える景色は必ず変わる。そんな力強い言葉で周囲を鼓舞しながら、組織の成長とMy purposeの実現に向けて木村の挑戦は続きます。
