“現地現物”を軸に実機とシミュレーションを行き来し、未知の課題に挑む
ドライブトレーン開発部は、エンジンやモーターの駆動力を、トランスミッションやシャフトを通してタイヤへと伝える「動力伝達系」を開発する部署です。
その中で私のグループは、次期車両へ搭載をめざすMTの開発と、モータースポーツに関わるお客さまに向けた「競技用パーツ」の開発にも取り組んでいます。また、グループメンバーは設計・実験の役割を越えて全員が一緒に考え、動くというONETEAMで開発推進する体制です。
私の現在の主な業務は、実機評価とシミュレーションを組み合わせた、動力伝達系の挙動解析です。とくに、MT変速時に生じる騒音や振動、不快なシフトフィーリングの要因を可視化し、設計につなげるための解析を行っています。
騒音や振動は、運転時の快適さに直結し、お客さまの満足度にも大きく影響します。一方で、これまでこれらの課題は、開発の後半になってから顕在化することが多く、対策の選択肢が限られていました。
そこで現在は、開発の初期段階から予測・検討することを目的に、システムシミュレーションベンチ(実機とシミュレーションを組み合わせて検証を行う環境)で取得したデータをもとに、車両全体の挙動を表現する「1次元モデル」の構築に取り組んでいます。
こうした開発に携わる上で私が最も大切にしているのが、“現地現物”の考え方です。
シミュレーションモデルをつくること自体は難しくありませんが、実車で起きている現象を正しく再現するには、車両の構造や部品の動き一つひとつを理解した上でモデルに向き合う必要があります。数字や結果だけを見るのではなく、その裏側で何が起きているのか原理を考え、わからないことがあれば、知見のある方々に相談し、現場に足を運んで実物を確認するよう常に意識してきました。
そうした積み重ねが、本質的な課題の見極めにつながり、結果として迅速で納得感のある意思決定ができると考えています。
探究心が育んだモノづくりへの情熱。人と風土の魅力に導かれトヨタへ
私は幼い頃からモノづくりへの関心が強く、とくに「目に見えて、手に取れるものをつくる仕事がしたい」と考えていました。好奇心旺盛な子どもで、大きなシャボン玉をつくろうと、さまざまな洗剤を混ぜて試していた記憶があります。
成長してからもモノづくりへの興味は衰えず、大学では工学部で有機・無機化学を専攻し、固さと柔軟性という相反する特性を両立する高分子材料の研究に取り組みました。
一方で、学生時代はスポーツにも打ち込み、中学から大学まで軟式テニス部に所属し、高校ではキャプテン、大学では副キャプテンを務めました。「チームで勝つために何が必要か」を考え、ときには先頭に立ち、ときにはメンバーを支える立場で行動した経験は、現在の開発業務でのより良いモノづくりのための探求に生きています。
就職活動で重視していた軸も、「モノづくりができるかどうか」です。自分が関わった製品が実際に世に出て、いつか自分自身が触れられるような、そんな実感を得られる企業を中心に見ていました。
自動車業界に惹かれた背景には、地元が自動車産業の盛んな地域だったことに加え、もともと運転が好きで、クルマの動作やメカニズムに強い関心があったことがあります。中でもトヨタは、家族がトヨタ車に乗っていたこともあり、幼い頃から身近な存在でした。
当初は、「少し敷居が高そう」という印象もありましたが、説明会などで社員の方々と接するうちに、そのイメージは大きく覆されました。丁寧で面倒見がよく、親身に話を聞いてくれる方が多く、「人の雰囲気がいい会社だな」と感じたことが、入社を決めた理由です。
ドライブトレーン開発部には、自ら希望して配属されました。入社前に各部署の説明を受ける中で、クルマの「走る・曲がる・止まる」を支えるのは、足回りや駆動系の部品にあると知り、強い興味を持ったからです。さまざまな車種に関われる点や、クルマが動く仕組みに深く触れられる点にも魅力を感じていました。
入社後は、まず現場に足を運び、実物を見るところからスタートしました。トランスミッションの現物を前に、ギアやシャフトを一つひとつ確認しながら、構造や原理を理解していく──基礎を徹底的に体で覚えるプロセスでした。
その後は、試験計画の立て方や試験の進め方、取得したデータの解析方法などを、上司や先輩に教わりながら少しずつ実践してきました。自分なりに考えて取り組み、フィードバックをもらうサイクルを繰り返しながら、業務理解を深めています。
とくに難しいのが、上がってきたデータを目的に合わせてどう“料理”するかです。「このデータをどう使えばいいのだろう」と悩む場面も多く、現在も試行錯誤が続いています。簡単ではありませんが、だからこそやりがいも感じる部分です。
シミュレーションで解き明かした真実。実車と理論の融合が生んだモノづくりの手ごたえ
入社して半年ほど経ち、シミュレーション解析に本格的に取り組み始めた頃、大きな手ごたえを感じる出来事がありました。
当時の役割は、MT車のシフト操作時の手に伝わる感覚、いわゆるシフトフィーリングをレベルアップすること。そこで、MTの挙動解析にデジタル技術を活用しようと思い、実車を知り尽くした先輩方に相談しながら、どの要素をどのようにモデルに落とし込むべきかをひとつずつ整理し、試行錯誤を重ねてシミュレーションモデルを構築していきました。
そのモデルで挙動を確認したところ、これまで見過ごされてきた要因の可能性が浮かび上がりました。従来は、ドライブライン(エンジンやモーターの力をタイヤに伝える仕組み)の捩り剛性が原因と考えられていましたが、部品間の「ガタ」を調整したときに、現象の波形が大きく変化していたのです。
ガタとは、ギヤやシャフトといった金属部品のあいだに存在するわずかな隙間のことを指します。このガタが駆動の回転変動を起こし、それがシフト操作時の違和感の原因になっていることが明らかになりました。
実車で検証したところ、同様の現象が再現され、周囲からは「新しい知見だ」と驚きの声が上がりました。自分で構築したシミュレーションが、MT車開発の効率化や課題解決に貢献できたことは、大きな自信につながりました。
こうした経験を積めるのは、実車に触れる機会が多いドライブトレーン開発部だからこそです。シフトの入りやすさや操作の重さ、レバー長によるフィーリングの違いなどを実体験として蓄積し、車種ごとに「走り」がどう変わるのかを感覚と理論の両面から理解できる環境に、魅力を感じています。
また、気づきがあるたびに、車両の構造やメカニズムへの理解が深まり、シミュレーションの精度も高まっていく実感があり、そこにもこの仕事ならではの醍醐味があります。
もちろん、すべての現象がシミュレーションで解決につながるわけではありません。それでも、たとえば実機と挙動が合わず、その原因を掘り下げ続けた結果、「モデルにこの要素を加えれば説明できるのではないか」と仮説にたどり着いた瞬間には、何ものにも代えがたい達成感があります。
一方、プライベートでは、同僚に誘われてドリフトを体験したり、サーキットに足を運んだりすることも少なくありません。そうしてMT車を楽しむ方々の存在を肌で感じると、「コアなクルマファンに選ばれる1台の開発に携われている」という実感が湧き、仕事へのモチベーションにつながっています。
安心して挑戦できる環境で広がる可能性。技術力と人間力を磨き、頼られるエンジニアへ
トヨタには、安心して働ける環境があると感じます。入社前に抱いていたイメージどおり、室長や部長といったマネジメント層にも声をかけやすく、「きちんと見てもらえている」「気にかけてくれている」と実感しながら仕事に向き合えています。
挑戦の選択肢の広さも大きな魅力です。幅広い事業領域を持つトヨタでは、「これをやってみたい」と手を挙げれば、組織の枠を越えてチャレンジできる土壌があります。実際、設計や制御にも関わりたいと考えていたところ、別グループの上司の指導のもと、自グループでは担当外の部品設計に携わるチャンスをいただきました。
一方で、自動車開発は高度に分業化された世界です。評価解析・設計・試験など専門チームが連携しながらプロジェクトを進めるため、ひとりで完結できる仕事はほとんどありません。たくさんの関係者と協力し、チームとしてひとつのゴールをめざすプロセスを楽しめる人ほど、力を発揮できる環境だと感じています。
現在は、ガタや剛性などの目標値を確実に設計値へと落とし込み、現象の改善につなげることが目標です。取り回しを担う役割を少しずつ任せてもらえていることもあり、設計担当の方を交えて議論を重ね、お客さまの手に渡る商品として形にするところまでやり切りたいと考えています。
今後については、性能設計や車両の方向性を定める企画フェーズなど、開発のより中核に近い部分にも踏み込んでいきたいです。将来的には、自身の適性を見極めながら、評価解析やMTといった現在の担当領域にとらわれず、さまざまなタイプの車両や役割に挑戦していけたらと思っています。
ロールモデルとしているのは、ともに実験を担当している上司です。データをどう扱えばゴールにたどり着けるのかを論理的に組み立てていく力があり、困ったときには自然と人が集まる、とても頼りがいのある存在です。
そんな背中を追いながら、私自身も技術力と人間力の両面で信頼されるエンジニアになっていきたいです。
※ 記載内容は2026年1月時点のものです
