優れた技術が埋もれてしまうのはなぜか。人間や社会の視点から解明していく
未来創生センターは、将来のトヨタが必要とする技術を探索する研究組織です。「人やモノを移動させる手段」としてのモビリティの枠を超え、お客さまのWell-beingな人生を支援するために、ライフサイエンスやロボティクスなどさまざまな切り口から研究を行っています。
その中で私は、実践社会科学を研究するグループのマネージャーを務めています。何をしているのかというと、良い技術がどのように社会に受容されていくのかという研究です。
世の中には、優れた技術でありながら、普及せずに埋もれていってしまうものも少なくありません。その原因を、人間や社会の視点から解明していくのが私たちのミッション。現在は大学の研究者らと共に、人と空間のつながりを研究したり、地域への誇りと貢献意識を意味する「シビックプライド」における企業の役割を探求したりと、幅広く活動しています。
グループマネージャーとしての私の役割は、メンバーの応援団のような存在であること。私自身も日々研鑽を積みながら、メンバーが悩んだ時に助け舟を出したり、時にはアイデアや解決策を考えるための相談相手になったりしながらサポートしています。
その際に心がけているのは、「それぞれの考えは、常に変化している」という前提に立つこと。毎日さまざまな情報に触れることで考え方はアップデートされていきますから、同じ人であっても、昨日と今日では考え方が少し違っているかもしれません。加えて、バックグラウンドが違うメンバーが集まれば、それぞれの「当たり前」も異なります。
同質的な組織では、暗黙知と言われる「無意識の当たり前」が生まれてしまいがちですが、私は、そういった当たり前にとらわれることが好きではないのです。
これは、幼少期に海外で過ごした経験からきています。皆が同じ文化やルールで過ごしている中、言葉がわからない自分だけが取り残されているような苦しい時期がありました。
そういった経験から、メンバーの話を聞く時には、一貫性がないことを指摘したり、考えを否定したりすることなく、その場その場でフラットに受け取り、返していくことを大切にしています。
モノづくりや環境への関心がキャリアの原点。人のつながりで生まれた太陽電池の技術
トヨタに入社したきっかけを振り返ると、子どもの頃にさかのぼります。私はもともとモノづくりに興味があり、絵を描いたり工作をしたりすることが好きでした。進路を決める際に機械工学を選んだのは、一人ではなく「皆で大きなものを作ること」に憧れを抱いたからです。
また、幼少期から地球温暖化への危機感が叫ばれていたものの、一向に改善の気配がないことが気になっていました。
そんな中、ちょうど就職活動を始めるタイミングで、トヨタが環境問題に力を入れているという話題を目にしました。「トヨタなら、モノづくりに携わりながら環境に役立つ仕事ができるかもしれない。これだけ大きな規模の会社であれば、その打ち手は社会にインパクトを与えられるのではないか」。それが入社の決め手です。
入社後に配属されたのは、未来創生センターの前身となる部署。そこで、太陽電池に関わる研究開発に長く携わりました。低コスト化のために効率良く光を集めるための設計から試作、評価までを協力会社と連携して行ったり、車載のための軽量化に取り組んだり。さらに、太陽電池で作った電力を個人間で取引するためのシステム開発なども担当しました。
中でも、とくに記憶に残っているのが、意匠性(デザイン性)を高めるために着色対応電池モジュールを開発した経験です。
先輩と、海外の研究部門の方と一緒に食堂で昼食をとっていた際、海外の方からクルマのボディ用塗料についての話を聞きました。そのご縁で塗料のサンプルを提供してもらい、実際に評価を行って結果を共有していく中で、部門の垣根を超えた新たなつながりが生まれ、最終的にはパートナーとなる塗料メーカーと出会うことができました。
もちろん、温度条件や意匠性との両立など技術面で解決すべきことは多々ありましたが、課題が出てきては対処することを何度も繰り返し、皆で協力しながらある程度形にすることができたのです。
もともと芸術やデザインが好きな私にとって、とても楽しいプロジェクトだったと同時に、人と人とのつながりから技術が生まれていく経緯が印象深いものでした。
しかし、マーケティングなどを含めた戦略が足りず、製品化につなげることはできなかったのです。悔やまれることが多いという点でも、心に残っています。
チャンスが来たら誠実に、真面目に向き合うことが信条。一つひとつの経験が土台になる
その後、自分が携わったものを世の中に出せることを夢見て頑張っていた中、思いがけずサステナビリティ推進を担う部署へ異動し、広報業務を担当することになりました。
広報の現場は、それまでとまったく異なる世界でした。それこそ、幼少期に海外で経験したような、「当たり前やルールが違う環境」です。その中で、どのようにお互いの考えを理解し合い、企業の取り組みを社会に伝えていく方法を一緒に考えていくか──それぞれの当たり前をすり合わせながら理解を深めていくコミュニケーションを繰り返した経験は、今のグループマネージャーとしてのスタンスにも活きていると感じます。
研究部署に戻り、グループマネージャーとなったのは、2年ほど前。社会科学という領域で研究をすることも、マネージャーになることも新たな挑戦でしたが、私は昔から「チャンスが来たら誠実に、真面目に向き合う」ことを信条としています。
目の前にある課題に正面から向き合い、必要な知識を身につけ、土台を整える。そうすれば、どんな選択肢を選んでも自分の幅は広がるし、後悔はしないと思うのです。
マネージャーになってみて、これまでの経験が一つひとつ自分の土台となってきたことを実感しています。さまざまな分野で多様なバックグラウンドを持つ人たちとコミュニケーションをとってきたからこそ、どんな分野であってもある程度理解することができますし、築いてきた土台があるかどうかで、引き出せる情報の量や質が変わります。
エンジニアが社会科学とは何かを考える。それは試行錯誤の連続ですが、研究を進めていくと社会科学も工学も製品も、すべてがつながる線が見えてくることがあり、とてもおもしろいのです。人文科学から数理データまで、さまざまな角度から社会科学的な視点を取り入れることで、技術がより受け入れられやすくなったり、新しい価値を生み出したりできると感じています。
盤石な土台とさまざまな個性がトヨタの強さ。安心して挑戦できる環境で「足跡」を残す
私の活動拠点である東富士研究所は、とても刺激的な場所です。フロアを見渡せば、凧を真剣に飛ばしている人がいたり、水素を燃焼させてガスタービンを回そうとしている人がいたり、ヨットを自動で走らせようとしている人がいたりと、さまざまなジャンルの研究が同時に進んでいます。業務外でも、技術交流会などを通じてお互いに新鮮な視点で議論できる風土も魅力です。
また、他拠点の人々と交流する機会もあり、トヨタが取り組んでいる技術の話や海外での経験談に触れるたびに、新たな気づきを得られます。
さまざまな技術や安全確保の基準など、会社としての土台がしっかりしているからこそ、私たちは安心して新しいことに挑戦できる。少し視野を広げてみれば、多種多様なチャレンジをしている人たちがいる。そして、そのチャレンジを後押しする風土もある。それこそが、トヨタの強さだと思います。
私たちのグループはまだ成長途中で、いろいろなことを探りながら進んでいる段階です。けれど、手がけたものを世に出せなかった過去の悔しさをバネに、今度は社会科学という土台の上で、技術を世の中に届けることをめざします。
キャリアとは「歩んできた道を振り返った時に残っている足跡のこと」だと私は考えています。目の前のチャンスに誠実に向き合い、手を抜かずに取り組んでいけば、それは必ず自分だけの土台になっていきます。
だから、これから入社される方や若手の方には、「気になったら、とりあえず挑戦してみる」を意識してほしいと思っています。仕事だけではなく、さまざまなことにおいて、目の前にチャンスがあるなら飛び込んでみる。そうすることで、将来振り返った時に、たしかな足跡が残っているはずです。
※ 記載内容は2026年1月時点のものです
