人とロボットをつなぐインタフェースをつくりたい。トヨタが描く人とロボットの共生
私が所属している未来創生センターR-フロンティア部では、すぐに事業化されるものではなく、未来のトヨタが必要とするであろう技術の研究を実施しています。ライフサイエンス、数理・データサイエンスなどさまざまな分野の研究を行うなか、私はロボティクスの研究を実施しています。
トヨタのロボットの歴史は長く、1970年ごろから生産現場でロボットを活用していました。2000年ごろから人のパートナーとなるパートナーロボットを研究しはじめ、その一部を2005年の愛・地球博で披露いたしました。2012年には人の生活を支援するロボット「Human Support Robot(以下、HSR)」を発表。2015年には世界中の多くの研究機関が共創しあいHSRのソフト開発をする「HSR開発コミュニティ」を立ち上げました。東京2020パラリンピック競技大会では遠隔にいる人が東京の競技会場にいるHSRを動かしサービスを提供するなど、さまざまな取り組みを行ってきました。
現在私は、人とロボットのインタラクションを研究するチームに所属しています。ここで扱っているロボットは、工場などで決められた動きだけをする産業用ロボットではなく、人と可動空間を共有し、人の生活に溶け込むようなロボットです。このようなロボットを実用化していくためには、人からロボットに「これをやってほしい」と伝えたり、逆に今ロボットが何を考えてどう動こうとしているかを人に伝えたりする双方向の意思疎通や合意形成に大きな課題があります。私たちはこのようなインタラクションデザインの研究を通して、ロボットが人のパートナーになり、人のウェルビーイングを向上させることをめざしています。
現在取り組んでいる「インタフェース」の研究では、人とロボットが何を介して、どんなやりとりをするのがよいかを検討しています。たとえば、スマートフォンやタブレット上のアプリケーションを活用してロボットを操作するのは、想像しやすいでしょう。そのように、人が考えていることをロボットに伝える手段として、プログラムされた項目を選択するのではなく、自由に意図をスケッチで伝えることのできる指示方法の可能性を研究しています。
私のチームは少人数で、チームメンバーは若手から中堅の研究者です。また、共同研究先の大学教授や学生たちも一緒に研究しています。私はチームリーダーですが、決して大きいチームではないのでチームメンバーの一員として自らも研究を続けながら、今後の方向性などを取りまとめています。年齢や職位に関わらず情熱とスキルを持ったチームメンバーばかりなので、明確な正解がない中で自分たちがやるべきこと、やりたいこと、技術的なおもしろさを軸にフラットに議論できる雰囲気が非常に魅力的です。
学会の名刺1枚から始まった縁。トヨタで追い続けるロボットへの情熱
私は幼少期から「ロボット」という言葉に人工的な生き物というイメージを持ち、夢を感じていました。原体験となっているのは、中学校の授業でロボットコンテストに参加した時のこと。アニメの世界でしか見たことのなかった動く機械を友人と2人で試行錯誤しながら作り上げ、実際に動いた時の感動や作る過程の楽しさは今でも鮮明に覚えています。
何かを生み出せる人になりたい──そんな思いから大学時代は工学部を専攻。ソフトウェアに興味を持って電気情報工学科に進み、研究室でも環境に配置された複数のセンサを活用した複数台ロボットのタスク管理に関する研究をしていました。
トヨタとの出会いは大学時代、学会発表をした際にもらった1枚の名刺でした。「パートナーロボット部」と記載されているのを見て、初めてトヨタがロボットの研究開発をしていることを知りました。その後、トヨタのパートナーロボット部でインターンとして働き、「よいロボットを世に出すんだ」という強い意志を持って働くトヨタ社員の姿を間近で見て、私も彼らと一緒に働きたいと強く思い、2015年にトヨタに入社しました。
入社以来ずっとHSRの研究開発に従事していました。とくに印象深かったプロジェクトは、東京2020パラリンピック競技大会向けのHSR遠隔操縦インタフェースの開発です。このプロジェクトでは、実際に自分が開発したシステムを使う人の生の声や反応を見られたことが大きな学びになりました。
ロボットを操縦してみて「楽しい!」とか、「ロボットを使うことで自分ができることが増えた」とか言ってくれる人の姿を見たり、逆に自分たちが想像する以上の使い方を提案してもらったり……。あらためてロボットを使う人の気持ちや、ロボットがあることで幸せを感じてくれる人の存在を意識するようになり、ロボットが単なる「機械」ではなく、誰かの生活の一部になったり、その人のウェルビーイングを増幅させてくれるパートナーになったりしたらいいなと思うようになりました。
加えて、キャリアの中で印象的だったのが修業派遣制度を利用した海外研修です。トヨタでは入社4〜6年目の若手社員を対象に1年間海外へ研修生として行く制度があります。私は米国のトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)にて、モーターショーに出展するコンセプトカーのAIエージェントのシステム開発に携わりました。
この時初めてUXデザイナーとエンジニアが共同でモノを作ることを経験しました。さまざまな道のプロフェッショナルと互いをリスペクトしながら共に1つのモノをつくれたことはとても得難い経験で、自分の考え方やキャリアに大きな影響を与えてくれました。
産休明けの迷いを乗り越えて──支え合う環境で諦めないキャリアを築く
ロボットへの興味を胸に長年仕事に邁進していた私ですが、2024年7月には産休を取得し、8月には第一子を出産。2025年4月に6時間のフレックス時短勤務で復職し、働き方が大きく変わりました。
産休直前は論文の締め切りに追われ、チームメンバーに仕事を託して休みに入るので、「ここまでは責任を持ってやらないと」と普段以上に忙しく働いていました。休みに入ることに一抹の不安はありましたが、チームメンバーが快く仕事を引き継いで送り出してくれて、「本当に恵まれた環境だな」と思いましたね。また復帰の際は、子どもを幼いうちから保育園に預けることに葛藤もありましたが、仕事と家庭の両立を図るために思い切って決断しました。
復職にあたっては、会社の制度に大きく助けられました。産休中、チームメンバーが業務を回してくれていたのはもちろん、復帰時にフレックス時短勤務を選択できたことがありがたかったです。この制度はコアタイムがなく、好きな時間で1日6時間働くことができるため、仕事時間を柔軟に捻出できて非常に助かっています。
また、周りには男女問わず育休を取得している社員も多く、同世代の当事者同士でも悩みや両立のための工夫を共有することができます。育休を特別視せず、周囲のメンバーと共に頑張れる環境があるのはトヨタの強みだと思いました。
一方で、復帰後は心の迷いもありました。勤務時間が短くなったことで、その日やりたかった研究が最後までできなかったり、みんなが働いている中帰らなければならなかったり。もちろん時短勤務になると給与も下がります。一時は自身の市場価値や社会的な貢献度が後退したかのような焦燥感に駆られてしまったんです。
そうした困難を乗り越えるきっかけになったのが、周りの女性の先輩方の姿です。とくに女性活躍施策の一環として開催された社内の座談会では、さまざまな部署からいろいろな世代の女性が集まっていろんな話が聞けました。すでに子どもが大きくなってフルタイムで働いている女性社員から「今悩んでいることなんて、この歳になると何も気にならなくなるよ。それで何かを失ったとも思わないし、キャリアが止まったとも思わない。なんでもなかったことになるよ」と声をかけてもらえたことで、より長い視点で人生を見つめることができるようになり、覚悟が決まりました。
確かにあらためて考えてみると、子育てに限らず、家族の介護や自身の健康など仕事を全力でできないタイミングは他にもあります。トヨタにはそのような事象が起きた時でもキャリアを諦めず、みんなで支え合いながら働き続けられる環境が整っていると感じます。
「このロボットがあってよかった」そう言ってもらえる技術を届けたい
育休から復帰してまだ1年経っていませんが、働き方にも大きな変化があったと感じています。時短勤務によって働く時間は減りましたが、「子育て中だからできない」ではなく「それでも、このやり方をすればできる」と工夫できるようになったのです。
また、先述の座談会で先輩社員から「できる・できないのゼロかイチかじゃないよ」と言ってもらえたことも印象的で、「ここまではできる」と制約がある中でも前向きな気持ちで研究に取り組むことができるようになりました。
私にとって「人のパートナーになるロボットを世に出す」ことは人生をかけて成し遂げたい目標で、これまでもこれからも一歩ずつキャリアを積んでいきたいと思っています。
一方で子どもができ、周囲の人に助けてもらいながら働いている今は、社内での女性活躍やダイバーシティ・インクルージョンについても深く考えるようになったんです。これまではあまり自分が女性としてフィーチャーされることをポジティブに思っていませんでしたが、自分が先輩方の言葉に助けられたように、少しでも誰かのためになればという思いでこのようなインタビューの場にも参加させていただこうと考えるようになりました。
トヨタでロボット研究に携わる魅力は、HSRをはじめとする歴史あるパートナーロボットの開発を通じて培われた、人や技術といった資産にあると思っています。また、世界トップクラスのロボット研究者たちとの交流や共同研究ができる環境もあります。こうしたネットワークによって共創研究機関と共に大きな挑戦に挑めることや、長期的な視点での研究開発に取り組めるのは、トヨタならではの強みです。加えて最近はWoven Cityも実現し、実証の場がまた1つ増えたことも研究者としてとてもワクワクしています。
今後の展望としては、さまざまな事情でロボットを必要としている人々へ「このロボットがあってよかった」と思ってもらえるようなロボットを提供していくことです。企業で研究を続けているからには、自身の研究をいつか実際に社会で役立つ技術へと昇華させ、次の世代が生きる世界が少しでも幸せなものになってほしいと思うのです。
大切な家族が増えた今、その気持ちはより明確になりました。トヨタで掲げている「わたしたちは、幸せを量産する」というミッションのもと、本当に必要としている人に届く技術を作っていきたいと思います。
※ 記載内容は2026年1月時点のものです
