大阪マラソンEXPO 2026、東京マラソンEXPO 2026。
全世界から12万人ものランナーが集まる華やかなイベントの裏側で、静かに積み重ねられていた準備がありました。
初めて主担当として任された大規模イベントのブース運営は、表からは見えない“地道さ”と“丁寧さ”の連続。
その一つひとつを積み上げながら、矢吹はスポーツケア・サポートブランド「ZAMST(ザムスト)」のプロモーションの仕事に向き合い、挑戦の先にある成長をつかんでいきます。
■医療営業からザムストのプロモーション部門へ——望んだ現場で、初めての大舞台に立つ
キャリア採用で日本シグマックスに入社した矢吹は、まず医療営業として現場に向き合ってきました。大学病院やクリニックを訪ね、医師や販売代理店の担当者と丁寧に対話しながら信頼を積み上げていく——そんな地道な仕事が日々の中心でした。成果がすぐに見えない分、相手に寄り添う姿勢や、一つひとつの積み重ねが欠かせない仕事です。
4年半の医療営業の後、ザムストのプロモーション部門へ異動します。スポーツに関わる仕事に挑戦したいという思いを胸に抱えながら経験を積んできた矢吹にとって、念願のフィールド。しかし、実際のスポーツプロモーションの仕事は、外から見える華やかさとはまったく異なるものでした。
プロモーションの大部分は、“細かな裏側を積み重ねていく作業”です。
例えば契約選手を起用した撮影でも、どんなカットで撮るのか、どの構図なら商品の強みが伝わるのか、何秒の映像にどんなメッセージを込めるのかを言語化し、関係者全員が同じイメージで動けるよう準備を整えます。
イベントでも、来場者がどこを通り、どこで立ち止まり、どうすれば「ザムスト」や商品を目にしてもらえるのか、導線・POP・在庫位置・スタッフ配置まで細かく組み立て、何度も修正を重ねます。
一つひとつは地味で目立たない作業ですが、こうした“裏側の精度”が来場者の体験やブランド価値を左右する仕事でした。
そんな中で矢吹に託されたのが、大阪マラソンEXPO 2026と東京マラソンEXPO 2026のブース運営。今回のような大規模イベントをメインで担当するのは初めてでした。
また、任命されたときの気持ちは、意外にも前向き一色ではありません。
「大規模なイベントを担当するのは初めてだったので8割は不安、2割は“自分でやらなきゃ”という責任。ワクワクは、正直ギリギリまでありませんでした」
と矢吹は語ります。
それでも、
「初めて担当するEXPOだからこそ、新しいことに挑戦したい」
「イベント企画・運営の経験値を上げたい」
「現場を仕切れるようになりたい」
という強い意志が彼を支えていました。
そして、この先のEXPOの準備と当日運営の中で「現場を知らないと作れないものがある」という感覚を、矢吹はより深く実感していくことになります。
▲過去のイベントでブース運営に携わったときの様子
■華やかな舞台を支えるのは、静かな準備の積み重ね
大阪マラソンEXPO 2026と東京マラソンEXPO 2026。二つの大規模イベントに向けて最初に向き合ったのは、「来場者にどんな体験をしてもらうのか」ということ。
今回のプロモーションのメイン製品である「オーダーメイドインソール」は、通常はお客様が購入を決めた後に成形(自分の足の形に合わせた作成)を行います。しかし、今回のイベントでは、無料でまずインソールの成形を行い、気に入ったら購入できるという内容にしました。これは、多くの方に気軽にオーダーメイドインソールを体験してもらうことが目的で実施したのです。
ランナーにとって魅力的な企画だからこそ、それをスムーズに、わかりやすく、心地よく届けるための準備が欠かせませんでした。
矢吹はまず、ブース内の体験導線を何度も検討しました。
ブース入場 → 足型計測/説明 → インソール成形/説明 → 購入 → ブース退出
という“理想の流れ”を起点にしながらも、実際のランナーの動きは必ずしも想像どおりにはいきません。
足型計測に使用する3Dスキャナと、インソールの成形機をどのように配置するかによって導線が変わり、ブース対応者の待機場所や来場者の流れによって詰まりが生まれる。機材の位置や間隔、什器の配置、足元のコードの位置——さまざまな細かい要素が、来場者の動きに影響します。
「抜け漏れがあると、当日に混乱が起きてしまう」矢吹はそう考え、導線図に目を凝らし続けました。
また、POPや掲示物の準備も、想像以上に繊細でした。
「何が体験できる場所なのか」「次にどこへ進めば良いのか」
こうした情報は、言葉・角度・高さによって伝わり方がまったく変わります。
矢吹は実際のランナーの視線を想像しながら、POPの位置を調整し、背景色や文字の配置を見直していきました。“ランナーに「ここにザムストブースがある」ということがすぐに伝わるかどうか”を基準にした細かな調整は、地味だけれど重要な作業でした。
▲3Dスキャナや成形機の位置など、矢吹自身が設営に立ち会い配置を調整
一方、成形に使用するインソールの在庫の準備は悩ましい作業のひとつでした。
体験をスムーズに進めるには十分な在庫が必要ですが、かといって多すぎると運営スペースや管理の負荷が大きくなる——。そのバランスを取ることが難しかったのです。
矢吹は過去2年分のデータをもとに、サイズ構成比を一つひとつ検討し、インソールの在庫数を決めました。
しかし、数字だけでは判断しきれない部分は、経験豊富なメンバーから助言をもらいながら調整していきました。矢吹は「ひとりの判断だけでは限界がある」とわかっていたからこそ、周囲の知恵を吸収する姿勢を貫いていたのです。
さらに、EXPOには主催者、会場、代理店、社内メンバー、アルバイトスタッフなど、多くの関係者が関わります。提出物や入稿データの締め切りも多岐にわたるため、矢吹は「これはいつまでに決めたい」「ここまでに対応したい」を都度明示するなど、タスクを確実に前に進めるための工夫をしていました。
ブース装飾を担う代理店に対しても、矢吹はまず「こう見せたい」「こうしたい」というイメージを共有し、それが現場で実現可能かどうかを相談しながら進めるというスタイルで準備を進めていきました。
そして今回、例年とは異なるブース内容に挑戦していたこともあり、従来とは違うオペレーションが求められるEXPOでした。そのため矢吹は、当日運営を担うメンバーに向けた事前説明会を実施しました。
・今回のブースの狙い
・当日の流れ
・想定される混雑ポイント
・スタッフが迷わないための動き方
こうしたポイントを事前に共有し、チーム全体の認識を揃えていきます。
さらに、説明会とあわせて、矢吹はオペレーションマニュアルも準備しました。
どんな順番で案内するか、どこに立つと混雑しにくいか、困ったときは誰に判断を仰ぐか、詰まりが発生した場合の優先順位は何か——。
必要な情報をまとめ、誰が対応しても同じ動きができるよう資料として準備。イベント当日も朝礼でオペレーションを確認し、前日の振り返りを踏まえて小さな改善を重ねていきました。
華やかに見えるイベントの裏側には、このような目に見えない“精度”の積み重ねがあります。
来場者の導線、POPの配置、インソールの在庫数、スタッフの声かけの一言。
それらすべてが、来場者の体験を支え、ブランドが正しく伝わる環境をつくっていくのです。
準備を進める中で、矢吹は“見えない部分にこそ時間をかけること”の大切さを実感していきました。
その積み重ねが、当日どんな動きにつながるのか。矢吹は静かに、本番の朝を迎えていきます。
▲ザムストのプロモーションメンバー。イベント経験のあるメンバーとも連携して準備を進めた
■想定外の連続の中で、現場が教えてくれた「正解のない判断」
大阪マラソンEXPO 2026初日。開場直後の時間帯は来場者の流れもまばらであったため、まずは体験の流れをつくるために、矢吹自ら声をかけながらランナーを迎えていきます。
やがて会場全体が徐々に熱を帯びてくると、それに合わせてブース周辺にも人が増え始め、少しずつ動きが出てきました。
最初に矢吹が気づいたのは、足型計測の待機列に人が偏り始めていることでした。
来場者には足型計測をしたい人、インソール成形だけを試したい人などがいて、想定していた導線どおりには動きません。
「このままだとスキャナの列が詰まり、インソールの成形エリアが空いてしまう」
そう瞬時に判断した矢吹は、スタッフに声をかけて誘導の一言を変えていきます。
「成形もすぐ体験いただけます」「こちらから入っていただくとスムーズです」
たった一言、呼びかけを変えるだけで、人の流れはわずかに変わっていき、計測待機列と成形待機列のバランスを調整することができたのです。
準備段階で想像していた導線が、実際の来場者の動きによって少しずつ形を変えていく。その変化を目の前で確かめながら、矢吹は「準備で考えてきた細かい仮説が、こういう場面で活きるのか」と理解していきました。
さらに時間が経つと、スキャナ近くの導線に“詰まり”が発生し始めます。
原因は、混雑していた故にインソール成形だけを希望する人と、足型計測後にインソール成形に進む人、どちらを優先的に送客したらいいか判断が難しくなったことでした。
初日のブース運営終了後、メンバー間で意見を出し合いスキャナや成形機の配置変換を行ったことで、課題となっていた成形エリアへの送客詰まりが解消され、スムーズな回転が戻ってきました。
こうした“細かい調整”は、第2章で積み上げた視点がなければ気づけないものでした。
▲大阪マラソンEXPO 2026でのブース
ところが、東京マラソンEXPO 2026では、その大阪の成功体験がそのまま通用しません。
来場者数の規模、スキャナ台数、通路の形状——条件がすべて異なり、大阪で機能した配置がむしろ混雑を生むケースも出てきたのです。
矢吹は迷いましたが、踏み切りました。「大阪の経験はいったん置こう。今目の前の現場に合わせるほうが正しい」
そこで、来場者の動きを見ながら、スキャナと成形機の位置関係やスタッフの立ち位置を企画当初の案に戻すなど、柔軟に修正していきました。
準備段階で作成した台本やマニュアルがあったことで、矢吹の判断にチームが素早く対応し、運営が止まることはありませんでした。
▲東京マラソンEXPO 2026でのブース
その日の中盤、矢吹の印象に残った場面がありました。
成形を終えたランナーがインソールを靴に入れて試したあと、足を軽く動かしながら様子を確かめていたのです。そのランナーは、スタッフの説明に頷くと、短くこうつぶやきました。
「こんなに違うんだ」「もっと早く使えばよかった」
大げさではない、ほんの一言。けれど、その声には“その場で感じた変化”が確かに含まれていました。
矢吹はそのやり取りを見守りながら、これまで調整してきた導線や案内、在庫の準備、POPの置き方といった細かな積み重ねが、来場者がこの体験に自然と入り込める環境づくりにつながっていることを感じたのです。
派手な成果ではなくても、「体験してよかった」と思ってもらえる瞬間が、ブースのあちこちで確かに生まれている。
その事実が、矢吹にとっては大きな手応えになっていました。
東京マラソンEXPO 2026最終日、チームと矢吹が成し遂げたのは、5日間で1,500枚を超える成形体験の提供。大きな混乱はなく、体験を求めるランナーが途切れなかったことが、ブースの価値を物語っていました。
大阪と東京、二つのEXPOのブース運営で矢吹が学んだことは、「現場は必ず想定を超えてくる。その中で何を優先し、どう動くかが問われる」ということでした。
そしてもう一つ、準備期間に矢吹が感じていた不安の8割は、現場での判断と小さな成功体験によって少しずつ“自信”へと変わっていきました。
静かに挑んだ初の大規模EXPO。そこで矢吹が見つけたのは、プロモーションという仕事の中にある、“現場で磨かれる実践知の面白さ”でした。
▲ブースで、来場者のオーダーメイドインソールを成形する矢吹
■スポーツを支える仕事の奥行きと、この経験が広げた視野
大阪と東京、二つのEXPOを終えた矢吹の中で、プロモーションという仕事の見え方が少しずつ変わっていきました。
医療営業のころは、実際に商品を使用いただく医療従事者や、その先にいて商品を通して治療を受ける患者様などに向き合い、その人の役に立てるように動くことが最も重要でした。
しかしスポーツプロモーションでは、同じ“お客さまのため”であっても、アプローチの切り口や、どのターゲットに届けるかという考え方が複数存在します。
矢吹は振り返ってこう話します。
「営業のときには見えていなかった視点が、本当にたくさんあると痛感しました。
たとえば一つの商品を紹介するとしても、医療営業の相手は“医師”が中心でしたが、ザムストのプロモーションでは、ランナー、スポーツ愛好者、学生、競技者など、幅広いユーザー層の中から“どの層にどんな形で届けるか”を考える必要があります。対象が広がるぶん、物事を多角的に見て判断する難しさもありました」
矢吹はこう続けます。
「マーケティングやプロモーションの考え方は、今まで知らなかった世界でした。
まだまだできていないけれど、こういう視点があるんだとわかったことで、視野が広がったように感じています」
今回のEXPOを通じて、矢吹が強く実感したのは、“細かな準備や視点の積み重ねが、来場者の体験をつくる” ということ。
小さな判断が自然と噛み合ったとき、来場者が迷いなく体験へ入り、ブランドの価値を受け取ってくれます。
そして、準備期間から周囲のメンバーに相談しながら進めた経験も、矢吹にとって大きな財産になりました。
「一人で考えるより、早い段階で人に聞いたほうが精度が上がる」という自分のスタイルは、今回のEXPOでより確かな形になっていきました。
今後は、今回の学びを活かしながら、契約選手を活用したイベントや、より多くのユーザーに届けられるプロモーションにも挑戦したいと語ります。
表に立つ華やかな仕事より、裏側の準備のほうが長い。けれどその分、準備で積み上げたものが体験に結びついたときの手応えは大きい——矢吹はその面白さを知りました。
最後に、就活生へのメッセージを尋ねると、矢吹は静かにこう言います。
「『楽しそう』『面白そう』という直感は、仕事を選ぶ大切な入口です。しかし、実際にプロモーションの仕事に携わって気づいたのは、その輝きの裏には、細やかな準備や泥臭い仕事が積み重なっているということでした。
外から見えていたのは、全体のほんの一部分に過ぎません。ですが、その一見地味に思える一つひとつの課題を乗り越えてこそ、初めて自分自身でも『楽しい』『おもしろい』と思えました。
どんな些細な経験も、自分をアップデートさせるいい機会と思ってみてください」
望んだ部署で挑戦し続け、初めての大規模イベントに臨んだ矢吹の歩み。その言葉には、決して大きく語らずとも、確かな説得力が宿っていました。
EXPOという大きな挑戦を通じて矢吹が気づいたのは、「成果は派手な瞬間ではなく、事前の準備や現場での小さな判断の積み重ねから生まれる」ということ。
プロモーションの仕事は、表に立つ華やかさだけでは語れません。その裏側にある、丁寧な準備と現場での実践が、ブランドの価値につながるのです。
これからも矢吹は、自分の視野を広げながら、新しい挑戦に一歩ずつ向き合っていきます。
※ 記載内容は2026年3月時点のものです
【ザムストの営業職に関する記事は下記からご覧ください】
