5年後、10年後に医師は何に困るのか。先回りして考える役割
──所属する部署やそこでの仕事の内容について教えてください。
要素技術開発部門の内視鏡メカトロニクス技術開発に所属し、大腸内視鏡の技術開発を担当しています。大腸内視鏡検査における操作には、肛門から盲腸まで入れる「挿入」と、その後引きながら病変を観察する「抜去」の2段階がありますが、とくに挿入は難易度が高く技術が必要と言われています。
私が取り組んでいるのは、その難易度が高いと言われている「挿入」を支援する技術開発です。具体的には、検査中、腸の形態が複雑な箇所ではどのような操作をすればいいか、現在の腸の状態がどうなっているかなどの情報を、内視鏡の画像を映し出すモニター画面で提示し医師をサポートする、または自動で内視鏡を操作する、「内視鏡操作をAIによって推定する技術」を開発しています。
製品開発が医師からの具体的な要望に応える役割なのに対し、私たち要素技術開発は「5年後、10年後に医師はどんなことに困るのか」を先回りして考える役割を担っています。10年後の大腸内視鏡検査のあるべき姿を描き、実現するための技術を探索するのです。
たとえば、医師は検査中30分間立ったまま細かい操作を続けるので、内視鏡を軽量化して手の負担を軽減するのはもちろん、究極的には脳波で内視鏡を制御できる技術までを視野に入れています。
部署には機械、制御、電気、ソフトなど多様なバックグラウンドのメンバーがいて、それぞれの専門分野とAIのディープラーニングも組み合わせながら、将来に向けた技術開発を進めています。
──オリンパスで働く魅力とやりがいについて教えてください。
一番の魅力は、医療現場で働く医師の声を直接聞ける環境です。それができる医療機器メーカーは国内だと限られますし、「オリンパスと一緒に製品をつくりたい」という熱意を持った先生たちから率直な意見をいただけます。現場で「これじゃダメ」「こうしてほしい」という生の声を聞きながら開発を進められるのは、とても貴重な経験だと思っています。
また、新人をしっかり育てようとする社風にも魅力を感じます。私は大学の専攻は機械系で、入社後に画像処理について学ぶことになったのですが、30年の経験を持つ先輩方が技術を惜しみなく伝えてくれました。これはキャリアを築く上で大きな財産となっています。
要素技術開発は未来を描く仕事であり、条件が定まっていない分、医師や関係者と「今後どんな世界を実現できるか」を議論し、さまざまな可能性を自由に探れることにおもしろさを感じます。その中で生まれたアイデアから新しい技術をつくり、患者さんのQOL向上、医師の負担軽減に貢献できることにやりがいを感じます。
ボランティアをきっかけに医療分野を志す。先輩技術者に支えられ、学際領域を広げる
──オリンパスに入社した経緯を教えてください。
高校2年の時に東日本大震災の被災地ボランティアに参加し、不自由な生活を送る人や悲しみにうちひしがれている人を目の当たりにしました。そこから、病気やケガ、精神的に苦しむ人がいない世界、健康な人が多い社会を実現したいと思うようになり、医療に関わる仕事に興味を持ちました。
大学は機械工学系に進んで流体力学などを学び、卒業研究のテーマは「心血管に置いたステント(血管を内側から広げる医療機器)の違いによる血流のシミュレーション」。その後、大学院では超音波で心臓の断面を正しく映すための研究に取り組むなど、機械や技術で医療に貢献する道を模索しました。
そんな中、大学院1年生の冬にオリンパスの長期インターンに参加。そこで入社後も指導していただくことになる上司と出会い、画像分析やAIなど新しい分野についても教えてもらったことをきっかけに「この道でキャリアを築きたい」と入社を決めました。
──入社後はどのような経験をしてきましたか?
入社1年目から大腸内視鏡挿入の将来技術開発の主検討者となり、開発に必要な画像処理の技術については、長年の経験を持つ先輩にゼロから教えてもらいました。AIを使わないクラシカルな技術から、最新のディープラーニングを用いた画像分析まで学ぶと同時に、学生時代の機械系の知識を活かして内視鏡を動かすための装置操作などを習得。学際領域(※)を広げ、自分だけが持つスキルを確立しようと努力してきました。
そのためにはさまざまなドメイン知識が必要ですが、専門的なテクニックや知識の習得には苦労しましたね。たとえば、内視鏡を大腸に挿入するという操作ひとつをとっても、大腸の形状は単純なものではなく、患者さんによっても状態は異なります。挿入ができないと、画像の確認や問題解決もできないので、まずは挿入や操作技術を身につけないと始まらないのです。
幸い部署内には内視鏡操作に詳しい方がいたので、隣でサポートしてもらいながら徐々に習得していきました。ベテランの方がフォローしてくれる環境なので、今でも困ったことは相談しながらのびのびと技術検討に取り組むことができています。
※ 学際領域:複数の学問分野を横断して、ひとつの課題に取り組むアプローチ
率直なフィードバックが力に。幅広い技術開発に携わりながら成長を続ける
──2023年から取り組まれた次世代技術の価値検証活動について教えてください。
大腸内視鏡挿入技術の中でも、それまで担当していた5~10年後という将来技術の領域から、次の新機種で搭載されるかもしれない、現在により近い時間軸の次世代技術を扱うようになりました。私が参加した時点では、すでにプロトタイプができていたので、現場の医師のみなさんに使っていただき、改善点などをヒアリングするところから始めました。
当社はもともと国内の医師のみなさんとのつながりは強いのですが、このプロジェクトではアメリカと欧州の医師も6〜8人ずつ集めて触ってもらうことに。欧米の先生たちは、良いところは率直に褒めてくれ、ダメなところは何度も指摘してくださるので、とてもわかりやすい評価を得られた貴重な経験になりました。
医師から「こういう内容の表示が出てくると嬉しい」というコメントをもらったときなど、これまで私が検討してきた将来技術で実現できるのでは、と考えが膨らみましたね。
開発者の中に英語が堪能な人は少ないのですが、ヒアリングの最後には私も声を挙げて「10年後にこんな技術があったらどうか」と質問をしました。「そんなこと本当にできるの?」という少し懐疑的な反応が多かったのですが、逆にそれがモチベーションとなり「絶対に実現させて、この人たちを驚かせたい!」という気持ちになりました。
──2024年からは、十二指腸内視鏡の新機種開発にも携わられたそうですね。
はい。滅菌方法を変えた新機種を出すことになり、新しい滅菌方法が内視鏡に与える影響を調査する役割を担いました。どうすれば内視鏡が壊れず、かつしっかりと滅菌できるか、評価項目も自ら提案し、承認をもらって進めていきました。
これまで携わっていた将来技術開発は、比較的期限に余裕がありのびのびと検討できるのですが、新機種開発は期間が限られた中でどんなリスクがあるかを考えていく業務。まったく新しい仕事のやり方を学ぶことができました。
こうした開発も含め、5年間でさまざまな技術を検討・獲得してきたことによって、「画像処理のこの技術が使えそうだな」「内視鏡を挿入する時はこう操作できるといいな」「この技術を搭載するときは製品化時のこんな評価に耐えられるように設計しないといけないな」と考えられるようになりました。
さらに、医療現場で臨床見学をした時、医師が操作に難渋しているところを見て「この場面でどんな情報を与えられたら、先生は操作しやすくなるんだろう?」というところまで考えられるように。技術を確実に蓄積でき、現場のリアルな意見にも触れられる環境だからこそ成長できたのだと感じます。
患者さんや医師の負担を減らせるような医療機器を。そのために知見を広げていく
──仕事をする上で大切にしている価値観やポリシーはありますか?
新しいお題をもらったら、まずは打ち込んでみることを大切にしています。わからないところは先輩に聞くこともありますが、先輩方も答えを持っているわけではないので、アドバイスをもらいながら、無我夢中で取り組んでみることにしています。
その中で楽しさを見つけることが重要だと思っていて、そういう風に働いていると、周りの人にも「この人楽しそうだな、この人についていこうかな」と思ってもらえるかもしれません。まだ入社6年目ですが、常にそういう姿勢でやっていくことが将来につながると考えています。
──答えのない技術開発に取り組む中で、何がモチベーションになっていますか?
究極的には「病気の人がいない世界」をつくれたらいいのですが、現実的に一番大事にしているのは「患者さんがいかにQOL高く、楽に生きられるか」。病気になっても楽に診察を受けられるなら患者さんの心身の負担が少なくなりますし、医療行為が楽になれば医師の負担も減ります。それを実現するには、どんな内視鏡や医療システムが必要だろうか?といつも考えていますね。
また、自分たちが持つ技術を形にするための製品ではなく、誰かを喜ばせる製品をつくらなければ意味がありません。その「誰か」は医師かもしれないし、患者さんかもしれないし、一般の人かもしれませんが、そこには、必ず「喜ぶ人の姿」があることが大事だと思っています。それを仕事を通してめざすことが自分の働き甲斐であり、生き甲斐につながり、日々のモチベーションになっています。
──今後のキャリアの展望について教えてください。
今後も新しい、いろんな技術に取り組んでいこうと思いますが、ある程度の専門性を高めることも大事だと考えています。専門性があれば人に教えることができるので、ゆくゆくはプレイヤーとマネジメントのどちらもできるような技術者になりたいです。
また、海外の医師たちにヒアリングをした経験から、現地の駐在員として働くことにも興味を持ち始めました。日本だけではなく、アメリカやヨーロッパ、アフリカなどの国の医師と話して見えてくる解決策、新しい技術は必ずあると思うので、いつかチャレンジしてみたいですね。
※ 記載内容は2025年7月時点のものです

