さまざまな部門と協調しながら薬事申請プロセスの最適化を推進
──おふたりのご経歴と現在の業務内容について教えてください。
田﨑:私はアメリカの大学で政治学を専攻していたのですが、コロナの影響で大学最後の年に帰国し、日本で就職することになりました。もともとはメディア志望でしたが、母がRAの仕事をしていたことから興味を持ち、歯科領域の海外医療機器を扱う会社に就職。正社員が3名という小さな会社だったこともあり、若手ながら品質管理システムの管理責任者を任され、PMDA(医薬品医療機器総合機構)への申請や監査対応業務を経験しました。
その後2021年にオリンパスに転職し、主にFDA(米国食品医薬品局)に向けて、処置具や内視鏡のRA業務を担当しました。全社的に「コアチームモデル」をつくる取り組みが進む中、直近では、RAの代表である「Core Team RA」として、新製品の立ち上げプロセスにも携わっています。
石黒:私は大学院で機械工学を専攻後、1992年にオリンパスに入社し、最初の5年間は内視鏡の開発部門で設計・検証業務を担当しました。その後、1997年から2002年まで5年間ドイツに駐在し、欧州の先生方と協業して新製品の開発・評価、子会社のマーケティング支援などを担当しました。帰国後は新規事業の探索、技術戦略の立案、海外企業買収に伴うポートフォリオの整流化などの企画系業務も経験しています。
そして10年ほど前からRA業務に携わるようになり、最初は中南米やASEAN諸国を、最近はアメリカや中国といった主要市場を担当。現在はプロダクトRA部門のダイレクターとしてビデオプロセッサ、光源装置、内視鏡周辺機器の製品登録業務のマネジメントを担い、登録日程の順守に向けた活動や、コアチームモデル体制の推進にあたってメンバー・組織の能力強化に取り組んでいます。
──RAの仕事の醍醐味やおもしろさをどんなところに感じますか?
田﨑:一番の醍醐味は、やはり認可が取れた時の達成感ですね。また、RAの場合、若手のいちメンバーでもマーケティングや開発部門の責任者などリーダー層の方たちと話せる機会があります。他の部門だと、ある程度の役職に就かないと経験できないことですし、グローバルも含め社内のさまざまな人と関われるのが楽しいです。
また、私は日頃からクリティカルシンキングを大事にしていて、それは大学時代に日々授業や課題を通じて「この論文は本当に正しいのか」「こういう解釈もできるのではないか」と考える大切さを理解しているからです。
RAはそうした考え方が活かせる仕事で、受け取る情報を完全に鵜呑みにするのではなく、批判的、懐疑的な視点を持つことが大事だと思っています。規制当局もその姿勢で審査をしてくるので、憑依させるイメージです。逆に、FDAの新しいガイダンスが出た時も、定義が曖昧な部分や実装時の課題を見つけて専門家と議論しながら解釈を深めていくのは楽しいですね。
石黒:たしかに、RAのメンバーは冷静で論理的な人が多いですね。私は直感で動いてしまう方なので(笑)、田﨑さんのようにロジックをしっかり詰められる若い世代がいるのは組織としてとても心強いですし、「法規制は何を求めているのか」を考えて仕事に臨むことは、RAとして非常に重要だと思います。
RAという仕事の魅力は、私もいろんな部門の方と関われることだと感じます。開発だけでなく、サプライチェーンや工場のメンバーなど、普段接点のない人たちと一緒に仕事をすることで、会社の仕組みや他の部署の仕事の仕方を理解でき、それが自分の学びや気づきになります。多くのチームと協業できる環境は、とてもやりがいがありますね。
会社の期待を背負った新製品に挑戦。心強いサポートがあったからやり遂げられた
──内視鏡用超音波観測装置「EU-ME3」という新製品の申請は、田﨑さんにとってどのような挑戦でしたか?当時の想いや苦労、それをどう乗り越えたかをお聞かせください。
田﨑:EU-ME3は、超音波内視鏡を使う際に超音波の出力をコントロールしたり画像化したりするための筐体製品です。もともと私は内視鏡本体のRA担当でしたが、2022年頃に会社の組織変革があり、この新製品の申請業務に携わることになりました。
競合他社がすでに良い製品を多数リリースしていたため、できる限り早く市場に出す必要がありましたが、私は超音波の知識がまったくない状態でした。さらに、FDAに510(k)認可(市販前認可)を申請するのも初めてで、さまざまな意味でチャレンジングでした。
また、まだコロナ禍だったため、開発現場で実際に製品を触ることができず、どういう製品なのかを理解するところから始まりました。当初は開発の方々との打ち合わせをしても、RAとしての知識が足らず、答えられないことが多く恥ずかしい思いをしました。そこから、FDAから出ている通知や資料を読み漁りましたね。
開発とRAは、「良い製品を世に出したい」という想いは一緒ですが、開発側はなるべく効率的に認可を取りたいと考える一方、RAは確実に認可を取るために入念な対策をしておこうと考えます。そこにギャップがあり、意見がぶつかり合うことも多かったです。
──石黒さんはどのようなサポートをしたのでしょうか?
石黒:田﨑さんは英語の資料の読み込みが早く、内容を的確に理解して開発側と議論できていたので、私ががっちりサポートしたということはないですね。
ただ、開発部門とアメリカのRAの間で板挟みのような状態になってしまった時、落としどころを見つける手助けなどはしました。基本的には田﨑さんに任せて、行き詰まった時に相談に乗り、少し背中を押してあげるようなサポートをしました。
田﨑:アメリカのRAが厳しい要求をしてきた時に、石黒さんから技術面も含めて開発の皆さんへ伝えてもらうと、しっかり対応してくれるんですよね。やはり技術的なバックグラウンドがある人の説明の仕方は全然違うなと感じましたし、毎週の定例会で進め方のアドバイスをもらえたのも非常にありがたかったです。
申請後の指摘ゼロという快挙は、徹底的に取り組んだ成果
──石黒さんから見て、田﨑さんはこの挑戦を通してどのような成長を遂げたと感じますか?
石黒:まず、田﨑さんの「資料を読み込んで理解するスキル」が非常に高いことに驚かされました。いろんな資料から情報を読み取り、それをもとに「次はこういうことをやればいいでしょうか?」と自分からボトムアップで積極的に相談や提案をしてくれる──その能力を十分に発揮し、会社としてとても重要な新製品の申請業務を完遂してくれました。
とくに素晴らしかったのは、申請後にFDAからの指摘がゼロだったこと。「EU-ME3」ほどの大型製品かつ、さまざまな機器とつながる中核システムの場合、通常は何十項目もの指摘が返ってくるものです。しかも、アメリカは世界でもっとも医療機器の認可を取るのが難しい国のひとつ。そのアメリカでこの規模の製品で指摘ゼロ、というのは本当にレアケースで、過去にもほとんど例がありません。
社内的にも「EU-ME3を早くリリースしないといけない」と、セールスやマーケティングからかなりのプレッシャーがあった中、予定通りの日程で申請できただけでなく、指摘ゼロで認可が取れたのは本当に素晴らしかったと思います。この事例が今後の薬事申請のベンチマークになりましたし、田﨑さんのRAとしてのキャリアの中でも大きな成果・成長になったのではないでしょうか。
──田﨑さんは、この経験を通してどのような学びや気づきがありましたか?
田﨑:これまで私は、どちらかというと「早く製品を世に出したい」というマインドが強かったと思います。しかし今回、アメリカのRA担当と話す中で「あなたはRAなのだから、RAとしてやるべきことを徹底的にやりなさい」とずっと言われ続けました。「申請後に指摘を受けて認可までさらに何カ月もかかるなら、申請前の今から資料の準備を進めておきなさい」と。それこそがRAの仕事の本質だと気づき、意識するようになりましたね。
昨今は会社全体としても、RAが開発プロセスに入るタイミングがどんどん早くなってきました。以前は開発の最終段階から参加していましたが、今は製品がまだでき上がっていない、企画・設計フェーズから参加しています。RAマインドを持った人が開発初期から入ることで、設計段階で「他の製品ではこういう指摘を受けているから今から対策しておきましょう」などのアドバイスができ、それを考慮して開発すればリリースの遅れが発生しにくくなります。私だけでなく、RA部門全体でそうした動きやマインドを持ち、開発プロセス自体をより良くしていきたいですね。
やりたいこと、気になることはまず声に出す。小さな一歩から大きな挑戦が始まる
──今後おふたりが新たに挑戦していきたいことや、キャリアの展望を教えてください。
田﨑:現在のRA部門の課題は、各人のスキルやセンスのような属人的な部分に頼っていることだと思っています。そのため、申請までのプロセスを見直し、みんなが同じ品質を担保できるように整えていきたいです。
もちろん私のやり方がすべて正しいとは思っていないのですが、「Core Team RA」としていろんな人の話を聞きながら改善していきたいと思います。
石黒:私は今、グローバルRA組織の機能強化を進めています。各国の法規制は今後どんどん厳しくなり、RAという仕事の重要度もさらに増していくはずです。オリンパスがこれからも医療機器を世界中に送り続けるためにも、RAの組織力強化は必須であり、世の中の変化に柔軟に対応できるチームを迅速につくっていきたいと思います。
──最後に、若手人材やチャレンジしたい人へのメッセージをお願いします。
石黒:キャリアの中で成長を続けるには、本人のモチベーションがないと難しいと思うので、若手社員が自発的に挑戦したくなるような仕掛けや仕組み、環境をつくることが私たちマネジメント層の大きな課題だと考えています。
伝えたいのは、自分がやりたいことをどんどん発言してほしい、ということ。言ったことが全部実現するわけではありませんが、言うだけならタダですし、言わないと何も始まりません。10回提案して1回通ったらラッキー、くらいの気持ちで全然問題ないので、ぜひ声を上げて最初の一歩を踏み出してほしい。それがやがて大きな挑戦につながると思います。
田﨑:私はアメリカのRAの方に「若い人は、常に正しくあるべきだと考えがちだよね」と言われたことがあります。間違いを恐れずに自分が気になったこと・変えた方がいいと思うことは、とりあえず口に出して言ってみることが大切ですし、それが若さの武器だと思います。
怖じけずに声を上げないと、組織も自分も変わっていきません。最初の一歩は小さくてもいいので、「まずは動いてみる」をぜひ実践してほしいですね。
※ 記載内容は2025年8月時点のものです

