検証部門で安全性評価をリード。先端医療機器の安全と効果を陰で支える
──所属する部署やそこでの仕事の内容について教えてください。
私が所属する検証部門は、医療機器の安全性や有効性を試験・評価する役割を担っています。現在、私の率いるチームメンバーは10数名。医療機器の安全性・有効性を保証するために、定める基準をクリアしているか設計・機能・性能を評価しています。
中でも私は次世代内視鏡システムの製品検証チームのリーダーとして、米国市場導入に向けた製品評価を推進・マネジメントする業務に携わってきました。具体的には、製品安全試験という評価を担当しています。製品安全試験とは、医療機器が一定の安全性規格に適合していることを確認し、患者さんや医療従事者の安全を守るために行われる試験のこと。たとえば、医療機器の一部が想定外の故障や不具合を起こした場合でも患者さんに危害を与えないか評価しています。
また、医療機器が電磁界の干渉を受けずに正常に機能し、ほかの機器の機能に影響を与えないことを検証するEMC試験(電磁両立性試験)にも取り組んでいます。
──医療機器に関わるやりがいをどんなところに感じていますか?
若いころから人の役に立てる仕事がしたいと思っていました。医療機器メーカーへの関心が芽生えたのは、人が幸せに生きていく上で何よりもまず健康の維持が欠かせないと考えるようになったからです。
中でもオリンパスの消化器内視鏡システムは世界トップシェアを誇っています。先日、私が長く開発に関わってきた次世代内視鏡システムがアメリカ食品医薬品局(以下、FDA)の認可を取得しました。この成果に大きな達成感を感じるとともに、社会に貢献できていることを実感しています。
電気回路設計を経てプロジェクトマネジメントの担当へ。次世代内視鏡システムの市場導入までの道のり
──入社後の仕事と、そこで学んだことについて教えてください。
大学で電気電子工学を専攻し半導体工学を学び、入社後は次世代内視鏡システムのビデオプロセッサ―の電気回路設計を担当しました。
電気回路設計では設計図や仕様書など書面上で想定したデータが、実際に測定したデータと異なる場合があります。しかし私にとって電気回路設計が専門分野でなかったこともあり、新人のころは実測データの確認をせず、書面上のデータを正しいものと思い込み設計を進めてしまったことがありました。
当時の経験から学んだ教訓は、「常識」を疑うことの大切さです。若いころは慣例や先輩社員から伝えられることをすべて正しいと思いがちでしたが、いざその正当性を問われ説明しようとすると、答えに窮してしまうことがありました。今では、批判的思考を持ち、根拠を深く掘り下げて自分の考えとして確立することを心がけています。
──その後、次世代内視鏡システムのプロジェクトマネジメントチームにアサインされた経緯や業務の内容について教えてください。
上司から声をかけられたのがきっかけです。もともと人とコミュニケーションを取るのが好きだったので、R&Dと工場の橋渡し役を担うと聞いて自分に適性を感じ、この任務を引き受けました。
製品評価の完遂に向け、約20の部門にヒアリングを実施して限られた試作機の配分を計画し、効率的に試験や検証を進めることが当時の私に与えられたミッションです。たとえば、同じ時期にふたつの部門から特定の試作機の要求があった場合、試作機を増やすのではなく、一方に対して別の手段による試験の実施を提案するなどして、試作機の必要数を最適化していきました。
調整が難航する場面もありましたが無事製品評価が完了し、国内および欧州への市場導入の実現まで達成できたのは、期待に応えたいという気持ちがあったからです。任された仕事を責任を持って遂行したいという想いが、私のモチベーションになっていました。
自分の気持ちに素直に、正直に対応することも一貫して心がけている点です。メンバーには感謝の気持ちや謝罪の気持ちを素直に伝え、上司や先輩にはできないことやわからないことを率直に伝えるようにしています。
検証方法を模索して見えた、安全性評価の新たな地平
──現在の部署への異動の経緯と、取り組みの内容について教えてください。
次世代内視鏡システムの国内・欧州市場での導入後、一時的にプロジェクトを離れていましたが、FDAによる安全性への要求が厳格化し、米国市場導入を前に次世代内視鏡システムの再試験が必要になったことを受け、検証チームに副リーダーとして招かれました。
製品の有識者として認められ、重要な役割を任されたことはうれしかったものの、FDAが要求する安全性のレベルの高さは想像以上で、それまで社内で採用していた評価方法を根本から見直す必要がありました。その上、次世代内視鏡システムはさまざまなスコープと組み合わせて使用できる設計になっています。どのスコープを使っても安全性が確保されるよう、取得すべきデータの特定から始めなくてはなりませんでした。
これは当時のオリンパスにとって前例のない取り組みでした。国内のみならず現地法人であるOlympus America Inc.(以下、OAI)の製品登録部門を巻き込む必要があるなど、多くの時間と努力を要しました。
たとえば当初、OAIの製品登録部門の要求は日本側のこれまでの慣例から見ると行き過ぎたものに思え、議論は平行線を辿っていました。しかし、対話を重ねるにつれ、彼らの要求がFDAのガイダンスに基づく正しい解釈であることが徐々に明らかになりました。このプロジェクトでも、「常識」を疑う習慣が役に立ったと感じています。
また、OAIの要求に対して充分な理解ができていなかったことは、業務に取り組むチームメンバーのモチベーションの低下につながりかねませんでした。そこで過去の社内常識にとらわれず、FDAのガイダンスや要求をメンバーと共に再勉強し共有する時間を設けるようにしました。その結果、現在では常識にとらわれず相手の意見を柔軟に受け入れ、前向きに業務に取り組む雰囲気がチーム内に形成されています。
当社の主力機種のひとつである次世代内視鏡システムに対する経営陣の期待は大きく、タイトなスケジュールで進められたこのプロジェクトは大変なプレッシャーをともないましたが、北米市場導入は無事に成功し、大きな達成感を得ることができました。
もっとも印象に残っているのは、米国のセールス担当たちが歓喜する動画を観たときのことです。製品展示会を直前に控える中、FDAの認可を得たことがアナウンスされた瞬間にスタンディングオベーションが起きた光景は圧巻でした。
「素晴らしい製品をつくってくれて本当にありがとう」「米国の患者さんや医師、そしてOAIで働く社員一同を代表して感謝の気持ちを伝えたい」と賞賛の声が飛び交う様子を目の当たりにし、世界中の人々が私たちの製品を待ち望んでいることを知って、オリンパスで医療機器を開発するやりがいをあらためて感じることができました。
効率的な評価方法の構築に向けて、まずはプロジェクトの組織風土やプロセスの改善を
──難しい局面に直面してもあきらめず、最後まで粘り強く取り組めた秘訣は?
オリンパスは、早期診断と低侵襲治療を通じて患者さんの負担を軽減し、QOL(生活の質)向上に貢献してきました。その一翼を担う自覚が、私の仕事への原動力になっています。
また、父親が大腸がんを患った経験も、私が仕事によりいっそう真摯に向き合うきっかけとなりました。内視鏡検査を受けていながら腫瘍の存在が見逃され、結果として大腸内での破裂に至り、一時は生命が危ぶまれる事態に。さいわいにも転移はなく現在も元気に暮らしていますが、この出来事を通じて、製品の性能が人命に関わることを痛感。より良い製品をより迅速に市場に提供することの重要性を再認識しました。
──グローバルで取り組まれていることはありますか?
OAIとは別の内視鏡スコープとの組み合わせについて、市場導入に向けた調整を続けています。また、ブラジルへの導入も予定しており、現地法人のメンバーに製品評価の教育を行うため、頻繁なやりとりをしています。
──今後の展望を聞かせてください。
「世界の人々の健康と安心、心の豊かさの実現」に貢献することをめざし、「検証技術にイノベーションを起こす」をモットーに、検証部門の仲間と共に安全で価値ある製品をいち早く患者さんに届ける為に、効率的な評価方法の構築に取り組んでいくつもりです。
そのためには、社内のメンバーが安心して仕事に専念できる環境の整備が欠かせません。早い段階でグローバルの方針を製品開発のプロセスに反映させるなど、プロジェクトの組織風土やプロセスの改善を進め、メンバー全員がいきいきと活躍できる組織づくりをめざしています。そんな改革を先導していけるようなプロジェクトリーダーになることが現在の目標です。
※取材内容は2023年12月時点のものです

