患者さんや医療現場の負担を減らすため、市場を一新するような製品の企画に取り組む
──現在の業務内容について教えてください。
ATRの技術企画部門で、SV(スーパーバイザー)としてメンバーのサポートをしつつ自らもエンジニアとして製品企画・開発業務を担当しています。ATRは10年以上先の将来を見据えた製品開発に取り組む部署で、私は泌尿器科分野の新しい製品を企画・提案し、育て、事業部に移管するところまでを担っています。つまり、現在流通している製品の改良ではなく、「ゲームチェンジャー」として市場を一新するような製品を生み出すことをめざしています。
10年以上先の製品を企画するための軸となるのは「バイオデザイン」という考え方。バイオデザインをもとに、革新的な医療機器開発を遂行しています。たとえば、バイオデザインは医療現場のニーズを起点としたアプローチを基本としているので、私たちも病院に赴いて現状や課題を把握することを大事にしています。
アメリカでは大学・企業・病院がクラスターをつくり、密接な関係性を構築してより良い治療法のアイデアを生み出しています。一方で、日本では法規制の問題で同じことができない場合もありますが、医師・施設にお願いして手術の様子を見学させていただいたり、普段の手術や治療、診療行為の中での困り事を聞いたりするほか、自分たちで考えたアイデアに対して意見を伺う機会を得て開発に反映させています。
とは言え、目の前の仕事で忙しい現場の先生たちにとって10年後の技術の話は現実味がなく、説明されてもイメージが湧かないという方もいます。そこで、将来予測の根拠となる現時点の状況をデータに基づいて説明しながら、5年後、10年後と段階的に伝えることでイメージを共有できるように工夫しています。
──今の仕事のやりがいをどのようなところに感じていますか?
これまでにない医療製品をつくり出すことができれば、社会へ与えるインパクトは絶大です。たとえば、手術をする場合。今は麻酔を使うケースが多いですし、日本では入院するのが一般的ですよね。でも、それらが必要ないような製品を生み出し、麻酔が不要になれば患者さんの負担は減り、入院が不要になれば医師や病院の負担が減る。さらに、国や保険会社の目線では医療費を削減できる──そんなふうに多くの人に喜んでもらえる、社会貢献につながる仕事だと思っています。
オリンパスは、一般に胃カメラと言われるような内視鏡など消化器科領域に強いというイメージがあるかもしれませんが、泌尿器科や呼吸器科にも力を入れています。注力分野の未来を左右する技術企画に携われるやりがいも感じますね。
低侵襲治療をめざすオリンパスに共感。多くの人が健康で幸せな社会を実現したい
──これまでのキャリアや、転職を考えたきっかけを教えてください。
2003年に医療・福祉機器のメーカーに入社し、新しい価値を提供する要素開発や新分野の製品開発に携わっていました。学生時代から「社会貢献できる分野で働きたい」と考えていて、日本の医療・福祉に貢献している会社と知り、選びました。
しかし、5~6年働くうちに「社会貢献とは何か」「より理想的な社会とは何か」をあらためて考えるようになったんです。前職の会社が提供していた製品は、病院や介護施設に入られている方、在宅介護を受けている方たちにとってはとても大事な製品です。一方で、こうした製品は確かに便利ですが、この製品が必要ない=入院や介護の必要のない人生の方が幸せだし、めざすべきなのはそうした社会なのではとも思い至るようになりました。
こうした考えを支えたのが、病気になる前段階で予防する「未病」という考え方。症状が軽いうちに対処することで重病になることを防ぎ、健康を維持する──そこに貢献できれば、より良い社会が築けると思うようになりました。
ちょうど、そんなときにオリンパスが低侵襲治療のできる医療機器を開発していることを知ったんです。低侵襲治療とは、患者さんの体への負担を軽減した治療方法のこと。従来の開腹手術の代わりに小さな傷を作り、そこから体内にアクセスして治療したり、口や鼻など自然に開口している部分からアクセスして治療したりします。これは、未病の考え方にとても近いと魅力を感じ、自分が描いていたより良い社会の実現に貢献できると思って転職を決めました。
──入社後、現在に至るまでどのような仕事に携わりましたか?
2009年に入社してから現在に至るまでに、たとえば、内視鏡を使って癌やポリープを切除するような内視鏡用の処置具を開発している部署で、切除や止血に使うバイポーラ処置具や切除後の粘膜を縫合する軟性縫合器の開発に従事しました。医療機器を開発する上で医学知識も必要ですし、処置具製品の種類も多いため製品知識を習得する必要もあって、とても大変でした。
その後、前職でも製品開発というよりも研究開発に携わっていたこともあり、自ら異動を希望できる「チャレンジ」という社内制度を利用して、当時でいう研究開発センターに異動しました。しばらくは、社内でも特殊な位置づけの、医療応用も可能な技術開発に熱中していましたが、その後外科分野の腹腔鏡手術などで使われる熱エネルギー処置具の開発を担当。
腹腔鏡手術は、手術痕が小さく治りが早い手術方法のことで、これも低侵襲医療のひとつです。その中で、熱で組織を切開したり止血したりする新しい治療機器の開発に携わり、その心臓部の技術開発を担当しました。要素技術としての新規性も高く、その完成度を高めるべく、技術開発に専念できる楽しさも感じました。
また、今までにない革新的な製品になり得る期待の高い製品開発だったこともあり、研究開発の立場を超え、事業部への出向や異動も経験しながらかなり本格的に取り組みました。一方で、新規性が高いが故に、高い品質を維持するための生産方法も多くの課題があり、製造部門や生産技術に携わる人たちと活発にディスカッションしました。とても苦労したテーマでしたが、このテーマを通じてさまざまな経験を積み、人脈も広がって、オリンパスの中での自分の立ち位置を確立できたと思います。
イノベーションに必要なのは、会社の枠を超えた協業
──2019年からは泌尿器分野の治療システムの開発に携わっていますね。印象に残っていることはありますか?
泌尿器分野の治療において、治療成績を大幅に向上させる可能性のある画期的な手技に用いる治療システムの開発を2022年度末まで担当しました。
泌尿器分野の世界的権威である海外の先生と契約し、「こういうアイデアはどうか?」「実際に使えそうか?」とポンチ絵や手作りの試作機を用意したり、実際に模擬手術のようなことを体験したりしていただきながら、ディスカッションをして技術開発を進めました。決して特別なことではありませんが、要素技術開発を長く行ってきた私にとっては、システム全体というか手技全体を先生とつくり上げていく過程は初めての経験で刺激となりました。
とくに印象に残っているのは、ディスカッションを終えて総合評価をしていく中で、その先生が「これまで泌尿器科分野でのイノベーションはいくつかあるが、これはそのひとつに数えられると思う」とおっしゃってくださったときには、とても感動しました。私たちが考えてつくったものを現場の最前線で働いている人に期待され認めてもらえたことは、技術者冥利に尽きます。
こうしたグローバルな仕事に携われることに喜びを感じる一方、語学力にはまだまだ課題が残ります。この案件では、先生とのディスカッションのほかにも、海外の技術開発拠点に赴き、開発したシステムのデモンストレーションや技術の詳細説明を行ったのですが、かなり苦労しました。当然、事前に説明資料の準備をやったわけですが、質疑応答やさらに詳細を説明したいときに思うように伝えられないもどかしさを痛感しました。
現在は、語学力を高めるために社内の語学研修プログラムを受講していて、毎日30分オンライン英会話でレッスンを受けています。他にも、英語の本を読んだり、ポッドキャストを聞いたりして日々努力をしており、語学の壁を早く乗り越えたいと思っています。
──オリンパスは「成長のためのイノベーション」を成長戦略に掲げていますが、変革を起こす上で必要なことはどのようなことだと思いますか?
まさに、私たちの部署が達成すべきことですね。「今ある製品や技術をどう改善するか」の延長線ではなく、「世の中にどのような価値を提供すべきか、そのためにはどのようなものが必要か?」を考えることが大事だと思っています。その上で課題を明らかにし、解決していく。もし、それを社内で解決できない場合は、社外に協力を求めて進めるというくらい柔軟に考えていかないと真の意味でイノベーションは起こせないのではないでしょうか。
社外との協業によりアイデアを形にして世に出すことができたら、それを徐々に社内に取り込んでいく──そうしていくことでイノベーティブなアイデアを社内で具現化できる組織へと徐々に変わっていくのではないかと思います。
「ものづくり」に関わり続けたい──自分が育てた技術を製品として世に出す挑戦
──この仕事をする上での資質として、どのようなことが大切でしょうか。
新しい製品を企画・提案する仕事は、考え抜く仕事なので内に籠りがちですが、実は国内・海外問わず外部に目を向けて積極的にコミュニケーションをとり、情報を得ることが大切です。そこで、Webや論文・書籍で情報を得ることはもちろん、学会に行き営業の人たちに交じって展示ブースに立ってたくさんの医師の方々の話を聞いたり、技術の展示会などを通じて社外のメーカーと交流して新しい技術を試したりして必要な知識や発想のヒントになる素材を集める。こうした動きを自ら進んで行える人材が活躍できます。
いろいろな情報や知識、バックグラウンドや考え方を持った人たちが集まって知恵を絞ることで、良いアイデアが生まれるのです。
とくに、ATRではゲームチェンジャーになりうるイノベーティブな製品や治療方法の提案をめざしているので、医療機器市場として一番大きいアメリカでの情報収集はとても重要です。ATRはグローバルに活動できる組織をめざしていて、海外でも日本と同じような活動ができるように取り組んでいます。今後、ますますアメリカの情報もタイムリーにキャッチアップできるようになり、より開発しやすい環境になると期待しています。
──自身の今後の展望をお聞かせください。
SVとしてマネジメント業務も取り組み始め、自分のタスクが変わってきてはいますが、どんな形であれ「ものづくり」にずっと関わっていきたい、という想いが第一です。そして、仕事を通じて自分が考えたものを形にしていきながら、自分が成長している実感を得られることが私にとっての楽しみです。自分が知らない領域を知ることを楽しみつつ、成長を実感しながら世の中に何かを生み出し、その結果として誰かが喜んでくれる経験をしていきたいと考えています。入社してから要素開発が主で、自分が育てた技術をいまだ製品に仕上げて世の中に出せていないので、ぜひともそれを達成したいですね。
※記載内容は2023年8月時点のものです

