エネルギーマネジメントの未来を創る。EVと社会の新しい関係
車と社会をつないで、より環境に配慮したEV(Electric Vehicle、電気自動車)システムの開発に心を注ぐ日産自動車の総合研究所。2024年には長年の研究の成果が実り、「日産エナジーシェア」がリリースされました。
武田:私たちはEVを充電しエネルギーを蓄え、EVに蓄えたエネルギーを放電したりする、いわゆる「充放電の制御」を通じて、CO2排出や電気代の削減をめざしています。
この研究は2017年ごろからスタートして社内・社外での実証実験を重ね、2024年3月に1つの区切りとして「日産エナジーシェア」というサービスのリリースにつながりました。
将来の充放電システムの研究開発や実証に携わっているという3人に、それぞれの業務内容を聞きました。
村井:私は次世代システムとしてEVエネルギーマネジメントプラットフォームの研究開発を担当しております。これまでの実証実験によって、これから研究開発したい技術を具体化できました。
そこで、このプラットフォームでは、これまでの実証で蓄えたノウハウを集約するだけではなく、これから研究開発する技術を搭載できるようにし、より高いレベルでの制御を実現できるようになりました。現在は、社内での実証実験を終え、社外での実証実験に挑んでいます。
武田:私も村井と同じ部署に所属しておりますが、村井が開発している次世代システムのさらに先を見据えた研究を行っています。具体的には今後エネルギーマネジメントが大量導入された時、社会としてどんな技術が必要になるかと言った点に注目した研究を行なっています。
増山:私は実験試作部に所属し、村井や武田が行なっている研究に必要な機器の設置、実際の実験を担当しています。具体的には、ルーターやネットワーク関連の機器や充電用の電気配線などを用意して試験環境を構築すること、研究チームが考えたアイデアをコーディングによって制御ソフトウェアを試作すること、ソフトウェアを試験環境にて評価すること、このような仕事を担当しています。
3人は同じフロアで働き、将来のエネルギーマネジメント像について共通の認識を持ちながらそれぞれの業務に向き合っています。
武田:私は現在、村井とも増山とも一緒に仕事をすることがあります。村井とは今後どのようにエネルギーマネジメントの普及が進みそうかを共有し、密に連携することを心がけていますし、増山とは一緒に実証実験を行っています。
知識の継承が生み出す化学反応。異なるバックグラウンドを持つ研究者たちの成長物語
2017年ごろからスタートしたこの取り組みについて、初期段階から参画している村井が語ります。
村井:日産総合研究所では、EVを用いたエネルギーマネジメントに関する研究が立ち上げられ、そこに中途入社で参画したのが私です。もともと太陽光発電構築に関わっていたことから、「今度は太陽光発電で作ったエネルギーを蓄えられるEVをやってみたい」と思って入社しました。
メンバーと研究戦略を立てていく中で、まずは明確な経済的な価値があり、多数のEVを制御するベース技術の検証ができる、商業施設や工場など人が多く集まるところのエネルギーマネジメントをやってみようという話になり、社内・社外の実証実験に臨むことになりました。
そこに実証実験のために加わったのが増山です。
増山:私自身、機械製図の技能五輪選手として日産自動車に入社したので、制御や電気などの専門知識については部署に配属されてから学ぶ形でした。当初は村井に電力や通信の専門知識を教わりながらキャッチアップしていった形でしたね。
日産にはEVを利用している社員向けにEV充電器が設置されていましたのでそれを使い、EVの充電量を制御する実証実験用のシステムを作りました。初めての屋外実証だったのですが、制御に利用していたWi-Fiが不安定で、通信不良になった際に充電ができなくなるなど苦労もありました。しかし協力してくれた社員たちの「もっとこうなったら便利だと思うよ」という生の声を励みに改良し形にしていくことができました。
増山の成長速度は村井も驚くほどだったと語ります。
村井:初めのうちは私から「こうやってみて」と指示することが多かったのですが、自然に自分で学習するようになって。そのうち新たに加わってくるメンバーのかけ橋となって、知識の継承をしていってくれたので心強かったですね。
日産自動車に入って驚いたことの一つとして、増山のように基礎がしっかりしている社員を組織的に育てる土壌ができていることでした。
増山:やっていくうちに自然と興味が湧くことが増えていって、「こういうことを勉強してみよう」と自発的に情報をとりに行けるようになりました。
武田も増山から知識を継承したメンバーの1人です。
武田:私も電力関連については素人でした。社外の実証実験が始まった頃に参画したのですが、困った時は増山に聞けばなんでも教えてくれる環境だったので、正直とても恵まれていましたね。
ユーザー目線で価値を伝える。研究者に要求されるコミュニケーションの工夫
実証実験は以前から日産自動車とつながりのある福島県浪江町で社外実証を行いました。お客様の電力設備や充電器の状況などを調査し、既存システムに適合するようにカスタマイズをしたシステムを開発しました。
はじめは、既存システムと適合できずうまく制御ができないことなどもありましたが、システムをアップデートしていくことで安定して動くようになりました。このような知見を蓄積した結果リリースされたのが「日産エナジーシェア」。その反響はどんなものだったのでしょうか。
村井:「興味がある」という声をいただくことは多いです。たとえば、エネルギー関係の企業さまから「自動車会社なのに、こんなことをやっているのですね」「何か一緒にできそうなので、お話聞かせてもらえませんか?」と言った声はよくいただきます。
やはりEVの製造・販売している当社がそこで利用するエネルギーのマネージメントする取り組みをしていることに意味があるのだと感じます。
現在は、浪江町以外にも複数のユースケースでの社外実証を進めています。これらの社外実証で制御技術を改善するだけではなく、「ユーザーがどう感じるのか」について考える機会は多かったと語ります。
村井:私たちが行っているEVエネルギーマネジメントは、実機だけではユーザーにその利点が伝わりにくいです。たとえば朝EVを停めて充電しようとした場合、すぐ充電を開始するより太陽光エネルギーによって電気が余りやすい昼間に充電したほうが環境や電気代の観点から利点がありますよね。
ただ、ユーザーにとっては、単に満充電になるのが遅くなっているように感じられてしまうことがあるのです。私たちはユーザーの受け止め方を理解した上での制御を心がけますが、その先にはユーザーの充放電に対する考え方を変えていくことも私たちの使命の1つだと思っています。
武田:いまだにユーザーへの説明の仕方には悩むところがあります。「CO2が削減できますよ」「電気代が安くなりますよ」と言うのは簡単なのですが、ではどれくらいCO2が削減できて、電気代が安くなるのかと聞かれるとなかなか厳密には答えづらいです。
また、専門的な話をどこまでするかという点も難しいです。自分たちにとって当たり前のことを話しているつもりでも、ユーザーにとってはまったく未知の世界で、なかなかユーザーとの認識の距離が縮まらないこともよくありました。
だからこそ、今は伝え方にも工夫を凝らしていると言います。
増山:ユーザーにとっては中でどんな仕組みが動いているかより、その技術を取り入れることで何ができるのかということが重要なのです。だから仕組みを細かく説明するというより、「結果的にこんなことができます」というところに焦点を当てて説明することを心がけています。
世界を見据えた「電力改革」への夢。EVの新しい役割を具現化する
日産自動車の幅広い取り組みを支える総合研究所。その魅力について彼ら自身が語ります。
武田:あくまで「研究」という位置付けなので、最初からチャレンジングなことをやらせてもらえることが魅力だと思っています。今回のエネルギーマネジメントに関する研究は、EVに移動以外の新たな価値を提供できないかというところから始まりました。
それが今では充放電制御のシステムとしてこんなに大きくなり、大変なこともありますが、やってきてよかったなと思います。
村井:「研究所」というと1つのことを深く研究するイメージが強いかもしれませんが、実際に幅広くやらなければならないところもあります。担当者のスキルの幅が広がるという点はもちろん、全体像を把握した上で短期的に物事が動かせるフットワークの軽さがいいところだと思います。
常に未来を見据える3人に今後の展望を聞きました。
増山:業務をしている上でまだまだ電気・電力的な部分の知識が足りていないと感じるので、もっと勉強したいなと思っています。またソフトウェア開発の腕も磨いていきたいですね。
ユーザーのためにより安定的に動くシステムを作っていきたいですし、開発メンバーが増えてきたのでみんなにとって読みやすいコードでプログラミングができるように工夫していきたいと考えています。
武田:今回リリースしたサービスの使い方を徐々に充実し、今後はEVを利用している全員の方が対象になるようなサービスを作っていきたいですね。日本だけでなく世界にも目を向けて研究開発を進めています。
最終的には移動のツールとしてだけじゃないEVの使い方が普及したらいいなと思っています。EVってさまざまな機能が搭載されているのに、ほとんどの時間が停まった状態なので、その空いた時間にユーザーにとってプラスになるようなはたらきができるツールになったらいいなと思っています。
村井:今担当している次世代システムの開発はしっかりとやりきりたいですね。その上で私がやりたいと思っていることは、電力に関する改革を行うための仲間集めです。
私たちのEV放充電の制御に対する技術は確立しつつも、電力会社さんなど社外のパートナーを集めてみんなで「日本の電力網をどうしてくか」について議論して、未来を変えていきたいと思っています。
※ 記載内容は2025年3月時点のものです
