復興と持続可能な未来へ。スマートモビリティが切り拓く新時代の交通インフラ
総合研究所のモビリティ&AI研究所の近藤と、実験試作部の中村。現在、「なみえスマートモビリティ(以下、スマモビ)」プロジェクトに取り組んでいます。福島県浪江町では震災の影響で人口が大幅に減少しました。高齢化も進む中、「スマモビ」プロジェクトは、町の復興と活性化に重要な役割を果たしています。
近藤:私は「スマモビ」プロジェクトで、移動体験を通じて町や地域の活性化をめざす配車サービスのシステムUI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)開発と、LINEを活用した自動応答システム(以下、チャットボット)の開発に携わっています。
UI/UX開発では、高齢者でも使いやすい設計を重視し、配車予約を行うスマートフォンアプリやデジタル停留所アプリの開発を進めています。
また、過疎地の自治体では公共交通における予算不足や人材不足が大きな課題です。公共交通の持続可能な運営をめざして、運用の省人化やコールセンターの自動化など、新たな仕組みの導入によるサービス向上を図っています。
中村:私は、IT開発・運用に特化したグループのマネジメントを担当しながら、「スマモビ」プロジェクトにはエンジニアとして参加しています。
現在は、オペレーター業務の効率化を図るため、LLM(大規模言語モデル)とRAG(検索機能を活用した応答生成)を組み合わせたチャットボットを構築中です。
配車サービスを提供するだけでなく、地元の住民がもっと元気に暮らし、町外から訪れる方々がこの町をより楽しめるように、地元のお店や観光情報を紹介する仕組みの開発も進めています。このサービスを最大限に活用し、町を盛り上げていきたいですね。
このプロジェクトでは、近藤が企画やシステム設計を、中村がその実装を担当しています。一連のプロセスを内製化し、一貫して進められることが総合研究所の大きな強みです。
中村:開発では、実装速度をとくにこだわっています。たとえば、今回のチャットボットは、前日に話し合った内容が、翌日には試作品として完成していました。その試作品をベースに、実際に市場で投入できるレベルまで完成度を高め、機能を追加していくプロセスを、アジャイルに進めています。
近藤:これまでは研究所内でアイデアを形にしてきましたが、今回のプロジェクトの画期的な点は、研究所の外に出て実証実験を行っていることです。そこに、これまでにない大きな意義があると感じています。
多彩な才能がひとつに。専門性を結集し、スマートモビリティの最前線へ
それぞれ異なる分野でキャリアを築いてきた近藤と中村。「スマモビ」プロジェクトには自ら志願して参加しました。
近藤:入社後、運転支援システムや自動運転システムの開発に携わり、インテリジェントペダルやふらつき警報の商品化を担当してきました。アメリカの大学への出向後に博士号を取得し、2021年から「スマモビ」プロジェクトに取り組んでいます。
長年、人間工学の観点から開発に取り組んできましたが、当時は私の関心が「個」から「社会」へと広がっていた時期。人間科学から社会科学へと研究領域を広げるチャンスだと感じ、プロジェクトへのオファーを引き受けました。
中村:日産自動車大学校を卒業して入社し、材料研究所で高分子材料の試作・実験に長く関わってきました。その後、リチウムイオン電池の試作・実験を担当し、グループリーダーやチーフとして経験を積みました。そして2016年から現在の部署で試作・実験チームのマネジメントをしています。
そもそも私が日産自動車に入社した理由は、「GT-R」に魅了されたからです。ずっとやりたかった自動車そのものの開発に携わりたいと異動を決めました。
総合研究所には、多様なバックグラウンドを持つメンバーが集結しています。その雰囲気と仕事のやりがいをこう語ります。
近藤:新しい分野ということもあって、実に多彩なメンバーが集まっていますね。「スマモビ」プロジェクトでも、メンバー全員が積極的にアイデアを出し合い、活発な議論を重ねながら、実装に向けてプロジェクトを進めています。非常に前向きで、とても楽しい雰囲気です。
中村:IT業界では、企画、要件定義、設計、実装、運用とフェーズごとに役割分担することが一般的です。しかし、総合研究所では、企画から運用まで、すべてに携わることができます。システム全体を見渡しながらアイデアを形にし、最後まで見届けられることは、エンジニアとして大きなやりがいがありますね。
交通手段の確保による地域の復興と活性化への貢献が評価され、グッドデザイン賞を受賞
共に中軸的な役割を果たす近藤と中村。プロジェクトを先導する立場として、大切にしていることがあります。
近藤:特定の分野にとらわれず、さまざまな観点からソリューションを導き出すことの重要性を強く感じています。学生時代は、「複数の専門分野を学ぶのは難しい」と考えていました。しかし、これまでのキャリアを振り返ると、異なる分野の知識を広く取り入れながら技術開発を進めてきたことがわかります。
今回のプロジェクトも、システム開発、UI/UXデザイン、数理工学など、さまざまな分野にまたがった活動です。これまで培ってきた経験やスキルを活かし、幅広い視点で解決策を見出すことが、成功への鍵だと考えています。
中村:不安になってメンバーについ口出しをしたくなることもありますが、リーダーにとって大切なのは、チームを信頼し、任せることです。メンバーに裁量を与えることが、個々の成長だけでなく、チーム全体の成長にもつながると信じています。
「スマモビ」プロジェクトは、2022年にグッドデザイン賞を受賞。日産自動車ではこれまで数々の自動車がグッドデザイン賞を受賞してきましたが、自動車以外の分野では初めての快挙となります。
近藤:モビリティだけでなく、地域での一連の活動として受賞しています。過疎地で交通手段を確保した点、地域のニーズに寄り添ったユーザー目線の取り組みが高く評価されました。
私が担当したスマホアプリやデジタル停留所アプリなど、きめ細かいUIや、完成度の高いシステムを組み合わせた点に高評価いただいたことを非常にうれしく感じています。チームメンバーとも喜びを大いに分かち合いました。また、今回のことは当社が自動車以外の分野で存在感を示す絶好の機会にもなったと思っています。
中村:当時、私はまだ「スマモビ」プロジェクトに参加していませんでしたが、社内でも大きく取り上げられ、注目されていました。グッドデザイン賞の受賞は、私がプロジェクトに参加する大きな動機づけにもなっています。
地域と共に進化するスマートモビリティの未来。新しい価値と体験を世界へ
「スマモビ」プロジェクトが通年運行を開始して約2年。ふたりは確かな手ごたえを感じています。
中村:自動車の研究では、製品をお客さまに届けるまでに長い期間がかかるのが一般的です。しかし、今回のプロジェクトでは、開発に着手してから数カ月でお客さまに触れていただけるケースもありました。フィードバックが早く得られることがメンバーのモチベーションを高め、やりがいにつながっています。
近藤:高齢者向けの携帯電話を利用していた70代の方が、友人から「スマモビ」を紹介されたことをきっかけに、その便利さを知り、スマートフォンに買い替えされたことがありました。
その後、音楽を楽しんだり、写真を撮ったり、お孫さんやお子さんとやり取りしたりして、「生活が大きく変わったよ」と話してくれました。スマートフォンの利便性が生んだ変化ではありますが、そのきっかけをつくったのは「スマモビ」です。
高齢者でも使いやすい設計にこだわり、地域住民や社内のデザイン部門と協力してつくり上げたアプリが、ユーザーの行動変容をもたらしたことに、大きな喜びを感じています。
誰もが暮らしやすい町づくりに向けて。先も見据えながら「スマモビ」プロジェクトは進められています。これからの展開について、ふたりの夢は膨らむ一方です。
近藤:複数の自治体から問い合わせをいただいており、今後はさまざまな地域への展開を検討中です。浪江町で得た知見や地域実装のノウハウを活かし、プロジェクトを拡大していきたいと思っています。
また、このプロジェクトはモビリティの観点から見ても、今後さらに展開が期待できる分野です。現在は有人走行での実証実験を進めていますが、将来的には無人走行の導入も視野に入れています。
中村:これからの夢として、近藤さんやチームメンバーとは、インフラが未整備の地域でチャットボットと「スマモビ」を両軸で展開し、誰もが移動できる世界をつくりたいと話し合っています。
将来的には、地域に特化したチャットボットを全国、さらには世界中で活用できるようにしていきたいですね。
これまでにない体験や価値を生み出すために。未来の仲間に向けて、ふたりには伝えたいことがあります。
中村:好奇心を持って知識を吸収し、それを実際にアウトプットするマインドがあれば、大いに楽しみ、活躍できると思います。
近藤:総合研究所では、自動車産業にとどまらず、ソーシャルデザインや地域経済の活性化といった幅広い分野に取り組んでいます。目標達成のための手段やアプローチはひとつではありません。ゴールドリブンな思考で、多様な解決策を柔軟に受け入れ、自ら新たな道を切り開ける方、そして、使いやすさだけでなく、ユーザーの行動変容を促すものづくりに共感し、追求できる方と出会えることを楽しみにしています。
※ 記載内容は2024年12月時点のものです
