期待が高まるDCRの確立に向けて。リサイクルプロセスの研究開発に挑む
総合研究所の中でもEVシステム研究所では、先進的EVコンポーネントや革新的燃料電池システムに加え、VGI(Vehicle-Grid Integration)やEVコンポーネントのリユース・リサイクルを実現するエコシステムなど、サステナブルな未来のモビリティ社会の実現に向けて研究を重ねています。ここで福山と横﨑は回収されたEV電池の正極のリサイクルに取り組んでいます。
福山:今後EVの使用済みバッテリーの回収が増加していくと考えられています。バッテリーに使用されているリチウムイオン電池の正極はレアメタルが多用されているため、リサイクル技術の確立が求められています。私たちは正極ダイレクトリサイクル(以下、DCR:Direct Cathode Recycle)のプロセス開発に携わり、資源循環システムの構築に向けて検討を進めています。
横﨑:現在のリサイクル方法は正極活物質を各金属原料に分けて回収していますが、DCRでは正極活物質の構造を保ったまま再生します。新たに正極活物質を生成するプロセスが不要となるため、製造コストの削減が可能。また、化学処理を最小限に抑えることで、二酸化炭素排出や有害廃棄物の発生を減少させ、環境への負荷を軽減できるメリットもあります。
期待が高まるダイレクトリサイクル技術の確立ですが、開発における課題をふたりはこう語ります。
横﨑:自動車の使い方はユーザーによって異なるため、回収される電池のコンディションもさまざま。劣化の具合に関係なく、同じ再生プロセスですべての正極活物質を同じ状態に戻すのは非常に難しい作業だと感じています。
福山:回収される電池が製造された10〜15年前と比べて、現在の電池の性能は大きく向上しています。電池の性能を回復させたとしても、最新の自動車に求められるスペックに満たないことが少なくありません。同じものをただつくり直すのではなく、どう付加価値をつけていくかが課題のひとつとなっています。
回復実験や検証実験など、研究員としてさまざまなプロジェクトに携わるふたり。仕事をする上でそれぞれ大切にしていることがあります。
福山:私は入社してまだ間もないため、チームメンバーから信頼してもらうことが目下の目標。安心して仕事を任せてもらえるよう、丁寧なコミュニケーションと実験の進め方を心がけています。
横﨑:入社4年目を迎え、後輩もできました。これまでは自分の仕事を懸命にこなすことに集中してきましたが、チーム全体の進行状況にも気を配るようにしています。また、仕事を与えられるのではなく、自ら探し出すことも意識している点ですね。
EVのリーディングカンパニーへ。それぞれの道のり、それぞれの動機
大学院で高分子化学の研究に従事した福山。卒業後は主に外資系化学メーカーでキャリアを築いてきました。
福山:フランスの化学メーカー、ドイツの化学メーカーでリチウムイオン電池材料の研究開発に携わった後、リチウムイオン電池技術の研究開発を推進する研究組合へ。そこでNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトに参加しました。
その後、最前線で研究に取り組める環境を求めて辿り着いたのが、日産自動車でした。
福山:前職で、リサイクルの最新技術や特許の動向を追う中で、自ら手を動かして研究したいという気持ちが募っていきました。
日産自動車を選んだのは、EVの普及を見越して電池のリユースやリサイクルを早くから課題として認識していたからです。他社に先駆けてEVを市場に導入すると同時に、リチウムイオン電池をリユース・リサイクルするフォーアールエナジー社を立ち上げるなど、循環型社会の実現をめざしてきた点に共感し、入社を決めました。
クルマのライフサイクルを通して電池に関わる日産自動車でリサイクルに取り組むことは、より環境に優しいクルマを開発し、環境負荷を低減することにつながります。
大学院でマグネシウム系二次電池の正極材料開発に取り組んだ横﨑。日産自動車が描くEVエナジーエコシステムの構想に惹かれたことが、入社の決め手になりました。
横﨑:日産自動車は、サステナブルな新しいクルマ社会の実現をめざし、電池だけでなくさまざまな電動化技術の研究開発を進めています。充電インフラなど、幅広い分野に関われる可能性があることはとても魅力的でした。
2023年に入社した福山。日産自動車には想像していた以上にグローバルな環境があると言います。
福山:入社してまだ半年ほどですが、海外拠点とやり取りする機会がとても多いと感じています。とくにアジア系のメンバーが多く、ダイバーシティが進んでいる印象を受けます。
一方、2021年に新卒入社した横﨑。学生時代と比べて、研究と向き合う姿勢が大きく変わりました。
横﨑:日産自動車では製品開発のサポート貢献から20年先の未来を見越した研究を行っています。入社当初、そのスケール感の大きさに驚かされました。EVの使用済み電池を再活用するという、新しい価値の創出に関われるのは自動車会社ならではだと思います。
また、大学と違って企業ではチームで研究に取り組むのが一般的です。密な連携が求められますが、課題に直面した際にメンバーが一丸となって解決できる環境はとても恵まれていると感じています。
白熱する議論がイノベーションの源泉に。多様な専門性が議論の活性化につながる
入社以来、共にDCRのテーマに携わってきた横﨑と福山。それぞれ印象深い出来事がありました。
横﨑:入社3年目に、劣化した電池の正極活物質の性能回復に関して好ましいデータを得ることができました。劣化した正極活物質を新品同等の水準まで回復できたんです。結果をみてチームメンバーとともに喜びましたね。メンバーからアドバイスをもらいながらでしたが、実験条件の設定など自分が中心になってプロジェクトを進めたため、大きな自信につながりました。
福山:私が入社して印象的だったのは、技術報告会議の時間が非常に充実していること。とくにDCRチームの会議は、毎回議論が白熱する傾向があります。
メンバーのバックグラウンドや得意分野は実に多様なため、さまざまな角度から活発に意見交換されます。その場で新たな課題が生まれ、その解決に向けた提案がされることもあり、とても刺激的だと感じています。
横﨑:たしかに、私もそう思います。会議が3〜4時間に及ぶこともありますよね。ほかのメンバーの研究分野に関心がある方々が多い印象を受けます。
一方、二児の母でもある福山。研究所には、仕事と育児を両立しやすい環境があると言います。
福山:週に2回は在宅勤務し、残りの3日は出社しています。上司や同僚は非常に理解があり、同じチームには育児中の男性社員もいて、とても働きやすい雰囲気があります。
横﨑:そうですね。福山さんはワークライフバランスを実現されていて、見習うところがとても多いです。仕事以外の話もよく聞かせてもらっています。
それぞれ研究員として充実したキャリアを築くふたり。日産自動車のR&Dの一員として働くやりがいについて、次のように話します。
福山:新しい技術はもちろんのこと、研究員でもこれまでにないビジネスを立ち上げていけるところに、おもしろさがあります。前例のないことに手探りで取り組む難しさはありますが、自由度が高く、好きなことに挑戦できることは大きな喜びです。
横﨑:EVのリチウム電池リサイクルに成功すれば、さまざまな分野で活躍する電池のリサイクルも可能になります。自社だけでなく、幅広くインパクトを与えうる社会貢献度の高い仕事ができていると思うと、ワクワクするものがありますね。
風通しの良い環境が研究を加速。DCR技術を確立しリサイクル電池が当たり前の社会に
日産自動車の先端技術研究で活躍している人材について、ふたりは次のように続けます。
横﨑:議論を活発化させ、イノベーションの創出につなげていくためには、メンバーそれぞれがリチウムイオン電池のリサイクル技術に強い関心を持ち、そこで自分の力をどう発揮し、貢献できるかを考えることが非常に重要です。技術だけでなくビジネスの視点も兼ね備え、広い視野を持って研究に取り組める方が向いていると思いますね。
福山:そうですね。最近はとくに、挑戦したいことや理想のキャリアなどについて明確なイメージを持っている学生さんが非常に多い印象を受けます。それらを周囲に対して積極的に発信しながら、実際にかたちにしていくために行動できる方々の参加を心待ちにしています。
化学のさまざまな専門分野出身の個性豊かなメンバーが集結するEVシステム研究所。風通しの良さが、のびのびと研究に取り組む風土を支えてきました。
横﨑:年齢や社歴に関係なく誰もが気軽に意見を出し合い、それをもとに方針が柔軟にアップデートされる環境があります。「誰が言ったか」ではなく、「何を言ったか」を重視する文化が根づいていると感じます。
福山:私も横﨑さんと同じ意見です。議論の内容が非常に建設的で、「いや、それは無理だよ」といった否定的な思考や発言をする人がいないことが、研究のやりやすさにつながっています。
国内の自動車メーカーとしていち早くDCRに着手してきた日産自動車。先頭を走り続けながら、ふたりには成し遂げたい目標があります。
横﨑:DCRの研究に携わる中で、よりリサイクルに向いた電池の内部構造のアイディアが生まれることもあります。リサイクル技術の開発に注力する一方で、他部署と連携し、電池の仕組みや構造の最適化にも取り組みたいと考えています。
福山:めざすのは、リサイクル電池が当たり前の社会。プラスチックや金属などの他部材のリサイクルも進み、リサイクル素材で自動車がつくれるような未来を夢見ています。
サステナブルなモビリティ社会の実現に向けて、先進技術の研究開発を通じて、ふたりは日産自動車の、そして自動車業界の技術革新をリードし続けます。
※ 記載内容は2024年6月時点のものです
