テスト走行の結果を分析し、マーケティングや経営戦略につなげるCVAS
グローバルマーケッタビリティ部に所属し、チーフ ビークル アセスメント スペシャリスト(以下、CVAS)を務める小鹿。
狙った通りの性能が実現できているかどうか、実際にクルマを走らせながら確認するのが業務内容ですが、CVASのミッションについて、テストコースで新型車を評価するだけではないと説明します。
「日産自動車には開発部門にも、これから市場に出す車種のテスト走行をして評価するドライバーがいます。が、CVASはそれに加えて評価の結果を分析するのも重要な役割です。
その車種の強みや弱みなどの特性を明確にし、マーケティングや経営戦略も踏まえながらどのように改善するとターゲットとするお客さまに伝わるのか検討し、具体的な改善の方向性などをレポートにまとめて役員会に直接報告するのが大きなミッションです」
CVASとしてアセスメントを担当するメンバーは、小鹿を含めて国内に7名。アメリカ・中国・ヨーロッパにいるカウンターパートを合わせて全16名と少数精鋭で取り組んでいます。
「ひとつのプロジェクトでCVASが担当するテスト走行は開発目標を作るフェーズと確認フェーズに分けられています。まず初めに日産のブランドやターゲットカスタマー、市場の性能トレンドを考慮して性能面の目標を設定し、その後にこれらの目標をきちんとクリアできているか確認します。
開発部門ではさまざまな検証データを積み上げた上で目標クリアの判断をしていきますが、データに表れにくい部分──たとえば性別や体格などによって乗り心地や扱いやすさの感じ方が異なることもありますので、複数名のCVASで官能評価を擦り合わせて確認することが重要です」
長年、さまざまな視点で「クルマ」を評価することに携わってきた小鹿。大切にしているのは「お客さまの立場に立って評価する」ことだと話します。
「新型車やモデルチェンジ車を発表した際、お客さまからお褒めの言葉をいただくこともありますが、『もっとこうして欲しい』というご要望やご意見もたくさんいただきます。その内容を拝見すると、考えつくしたと思っていても自分にはない視点があることに気づかされます。すべてのお客さまのご要望をかなえることは難しいかもしれません。
しかしながら、いかなるときも対象となるお客さまを思い浮かべ、どんなクルマなら喜んでくださるのかを考えて仕事に臨むようにしています」
カートレースも嗜む生粋のドライバー。海外経験を経て、大きく成長を果たす
もともと機械の構造に興味があり、大学では機械工学を専攻していた小鹿。さらにレーシングカーが大好きで、大学時代から現在に至るまでカートレースを楽しんでいるという生粋のドライバーです。
「子どものころからクルマが好きだったことに加え、私は神奈川県出身で日産自動車という会社がとても身近な存在だったことから入社を決めました。1994年に入社すると希望通り追浜テストコース(商品開発本部)に配属され、当時は商用車と言われていたラルゴ・セレナ・テラノの耐久信頼性実験を担当しました」
その後、1998年に栃木テストコース(車両実験部信頼性実験グループ)に異動。ここから、いわゆる乗用車の開発を担当するようになり、2005年には北米のNissan Technical Center North America(以下、NTCNA)アリゾナテストセンター Reliability Test Groupに出向。2009年に栃木テストコースへ戻るまでの4年間を過ごしますが、ここでの経験がキャリアの中で最も印象的だと小鹿は振り返ります。
「出向前、日本にいる時から海外の人たちと仕事をする機会はあったのですが、実際にアメリカに行ってみると、それまで正しいと思ってやってきたこと・常識だと思っていたことが思ったように通じないという経験を多くしました。
たとえば、何か大きな目標を達成するためのプロセスを考える場合──それまでの私は、事前にさまざまなリスクを想定しておいてその予防策を検討した上で実行に移していました。予め起こりそうな問題への対応を細かく決めておくこのやり方が一番効果的だと考えていたのです。
ところが当時のNTCNAでは 、リスクを取ってスピード重視。リスクが顕在化した時に臨機応変に対応していく、という方法が主流。『それだと実際は防げるような問題が起こってしまうかもしれない。もっと作戦を考えてからやろうよ!』と提案しても『実際に起きた問題にスピーディに対応すれば大丈夫。今は前に進めてみよう!』というスタンスなんです。
最初はやきもきしていたのですが、現地のメンバーと共にこの方法でもしっかりと結果を出す、という経験をするうちに『自分のやり方にとらわれすぎてはいけない』『意見が違っても否定せず、受け入れることが大事なんだ』と気づきました。
昨今は社内でもダイバーシティが進んでいますし、CVASにも海外のメンバーがいます。そのような環境で仕事をする上で、当時の経験や培った考え方が活きていると感じますね」
開発部門と共により良いクルマを──苦労の末に掴み取ったカー・オブ・ザ・イヤー
CVASとしてアセスメントに携わるようになって約7年。小鹿たちは開発部門と協力しながら日産車をより良いクルマへと磨き上げてきました。
「私自身もかつては開発の部署にいたので、コストの制約や技術的な難しさなどがあるのは理解しています。ですが、CVASとしてお客さま視点を大切にしたいからこそ、お客さまにとってプラスになると思えば、開発側へ非常に厳しいフィードバックをせざるを得ないことがあります。
時には意見が食い違うこともありますが、良いクルマをつくりたいという想いは私たちも開発のメンバーも同じ。苦労して世に出したクルマが高い評価を受けると、すべてが報われますね」
そんな小鹿にとってとくに印象に残っているのが、2023-2024「日本カー・オブ・ザ・イヤー」において「テクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞したセレナの企画開発です。
「実は企画開発中には、開発部門にかなり厳しいフィードバックをしていた、という経緯がありました。それこそ喧々諤々と議論を交わした結果、開発の方々がこちらの想いに応えてくれて……。そうした過程を経て世に出たセレナがお客さまから好評を得て大きな賞を受賞し、日産を代表するクルマとなったことは、本当にうれしい経験でした」
仕事でもプライベートでも、多くの時間をクルマと共に過ごす小鹿。ドライバーとして「日産車の乗り心地や運転のしやすさは日本一」と語ります。
「日産はスカイラインやフェアレディZなどのスポーツカーを作ってきたメーカー。そのノウハウが軽自動車やセレナのようなミニバンにまで活かされているからこそ、どの車種も乗り心地が良いんです。
テストコースでは、昔スポーツカーを担当していたベテランのテストドライバーたちがデイズやノート、セレナに乗って実験や評価をしています。こうしたDNAが、日産車の大きな魅力だと感じますね」
もっと安全に、どこにでも行ける──新たな価値を提供できる次世代のクルをつくりたい
日産自動車という会社で働く魅力について「グローバルな仕事に携われること」、そして「一風変わったチャレンジを厭わない社風」だと小鹿は考えています。
「グローバルかつクロスカルチャーな環境は、ビジネスパーソンや技術者としての成長を後押ししてくれます。もちろん英語ができないと苦労することもありますが、『言葉がわからなくてもコミュニケーションを取ろう』『お互いに理解し合おう』という姿勢があれば自ずと結果はついてくると思います。もちろん語学力を磨く努力も必要ですが。
一方で、実はクルマの開発というのは最近ローカル化していて、ひと昔前のように日本でヒットした車種が海外でも受け入れられるというケースは少なくなりました。そのため、各国やエリアで異なるニーズに合わせて開発していく、というおもしろさもありますね。
また日産自動車は、今ほど電気自動車の必要性が叫ばれていなかった10年以上前から、その開発にチャレンジしてきました。当時は誰も電気自動車や充電設備を見たことがなく、『そんなもの本当につくれるの?』という状態。そこから手探りで開発を始めた結果、今があります。可能性があれば、誰もやったことがない突拍子もないことにも挑戦させてくれる──そんな社風も魅力的ですね」
100年に一度の変革期と言われる自動車業界。その中でメーカーとして存在感を発揮していくには、電動化や知能化に加え、新たな価値の提供が不可欠だと小鹿は言います。
「エンジンで走るスポーツカーのようなクルマも個人的には大好きなのですが、今後はおそらく電動車が主流になっていくでしょう。その時に、お客さまへ新たな価値を提供できる次世代のクルマをどうつくり上げるか──これが私たちの課題になると思います。
たとえば10代後半~20代など若い人たちにとって魅力的なクルマとはどんなものか、もっと生活に密着し、運転のハードルを下げるクルマをつくれないかなど、視点はさまざまあります。もっと安全に、どこにでも行ける!と感じてもらえるクルマを作って、お客さまの行動範囲や運転体験の価値を広げていけたらうれしいですね」
※ 記載内容は2024年1月時点のものです

