お客さまの声をベースに、期待値に応える品質を実現することが品質マネジメントの役割
TCSX(トータルカスタマーサティスファクション本部)プロダクト・クオリティ・マネージメントオフィスでは、日産自動車株式会社(以下、日産自動車)が開発する新車の企画段階からモデルライフ最後の一台までの品質マネジメントを担っています。
同オフィスには、品質の総責任者であるチーフクオリティエンジニア(以下、CQE)が複数名在籍し、手分けしてプロジェクトを担当。それぞれ数人のメンバーを率いるシニアマネージャーがサポートする緻密なチーム構成で業務を遂行しています。
堀江 「品質保証と聞くと、お客さまからのご指摘や不具合対応をしている印象を受けますが、日産自動車が生産販売する全車種についてお客さまにご満足いただくために何をすべきかを考え、実行することがTCSXのミッションです。
ベースになっているのは、お客さまの声。TCSX内の部署が集めるお客さまの声からお客さまの期待値を探り、それを実現するために策定された品質目標や戦略をもとに、当オフィスが新車の企画段階から入ってその達成に何が必要かを考えます。製品がお客さまを満足させるものとなっているか、品質を担保するためのプロセスが正しく組まれているかを確認するなど、開発段階での品質マネジメントもわれわれの役割のひとつです」
同オフィスに配属されて2023年でちょうど15年になる堀江。2023年4月現在はCQEとして、EVからCセグメントモデルまで、世界各国で生産されるさまざまな新車プロジェクトを担当しています。
堀江 「CQEは、日産自動車としてお客さまにお届けする車両品質の全責任を負う立場。最終的な品質を評価し、万が一お客さまにご迷惑をかけるような状況があると判断すれば、課題解決するまでマイルストーンを通過させないゲートキーパーとしての権限が与えられています。
私のように入社以来、一貫して品質部門に関わってきた人もいれば、開発部門出身の人や生産部門を経験してきた人もいるなど、CQEのバックグラウンドはさまざま。部署としてダイバーシティを重視し、異なるスキルセットを持つメンバーが連携して革新的なアイデアや解決策を生み出せるような環境にして取り組んでいます」
一方の荒岡がTCSXに着任したのは、2008年。入社以来、品質保証部や品質監査室など、さまざまなセクションで幅広い業務に関わってきました。
荒岡 「品質目標の設定や、お客さまのもとで起こった不具合に基づく品質改善など、TCSXの中でもさまざまな仕事に携わってきました。現在の新車プロジェクトの仕事で、部門全体の力をうまく活用できているのは、品質に関するところをひと通り経験してきたからだと思っています」
一般的に自動車は高価な買い物。新しい車種、新しい技術であったとしても、発売時から不具合をゼロとし、お客さまの期待通り、あるいはそれ以上のものをお届けすることが求められます。
堀江 「お客さまの手に渡ってからフィードバックをいただき、次に活かすというのでは遅いのです。お客さまの期待に応えるために、さまざまな世代や運転歴の方にヒアリングしたり、徹底して使う立場になって問題点や不都合を予測したりと、プロアクティブに行動し、開発や生産のチームに提案するのがわれわれの仕事。
難しい課題もありますが、それを実現するだけの力が日産自動車にはあります。パートナーとして開発や生産のチームを信頼し、品質の観点から必要と考えることをはっきり伝えるよう心がけています」
荒岡 「当社に届くお客さまの声が、私たち社員に向けて配信される仕組みになっているんです。そうやってお客さま視点を日々磨きアップデートするよう努めたり、なるべく現場で現物を触ったりしながら、チーム一丸となって品質最優先のものづくりに努めています」
お客さまの代弁者として、日産自動車のものづくり品質を支える
持ち場が変わっても、お客さまのために良いものをつくりたいという想いは同じ。しかし、納期やコストといった困難な課題に取り組む中、開発・生産の現場ではお客さま第一の優先順位がぐらつくことも。そんなときこそ、品質部門の腕の見せどころです。
荒岡 「各部門がそれぞれの立場で目標を持って仕事と向き合う中に分け入り、さまざまなデータを用意したり、現物を見ながら話し合いをしたりと、代弁者としてお客さまの声を届けて軌道修正を試みます。意見が対立し苦労する場面もありますが、そもそものところに立ち返ってお客さまの声を具現化し、製品に反映できたときには、大きな手ごたえを感じます」
各拠点にはTCSXのカウンターパートナーがいて、海外工場で生産する車両を含むすべての製品をカバーしています。ひとつの車種が複数の国の拠点で生産されるケースも多く、世界を相手にする品質マネジメント特有の苦労もあると言います。
堀江 「たとえば、中国とメキシコで同じ車種の生産をしている場合、どちらかの国で良いやり方があれば、当然それをもう一方の国にも適用したいと考えます。ところが、文化や生産の仕組み、仕事の進め方などが異なるため、なかなか一筋縄ではいかないことがあります。
グローバルワンチームとして各リージョンと連携しながら、あれこれ工夫してグッドプラクティスを広げていく取り組みには難しさがありますが、おもしろいところでもあると感じています」
いわばオーケストラの指揮者のような立ち位置で世界各地の拠点の動きを調和させ、日産自動車のものづくり品質を支えるTCSX。部門を超えたコミュニケーションを円滑に進める秘訣は、信頼を得ることだと言います。
堀江 「実際に熟慮を重ねて開発や生産をしている方々に意見するわけですから、半端なことはできません。われわれの話に耳を貸していただくために、ひたすら調べて考え抜き、用意できるものはすべて用意した上で、熱意をもってコミュニケーションすることを大事にしています。
また、各リージョンとコミュニケーションする際に意識するのは、最初から最後まできめ細かく情報を伝えること。各リージョンの状況にも配慮しながら、伝えたことが確実にかたちになるよう誤解のないコミュニケーションを心がけています」
お客さま視点での課題解決がチーム一丸となって実現したときにやりがいを感じると話すふたり。仕事への意欲を掻き立てるのもまた、お客さまから届く声です。
堀江 「2022年に販売を開始したクロスオーバーEV『アリア』は、部品供給の問題などから開発のスケジュールが遅れ、販売開始が予定より遅れてしまいました。楽しみにしていてくださったお客さまには大変なご迷惑をおかけしましたが、『待たされましたが、すばらしいクルマ。待ったかいがありました。大切に乗っていきたいと思います。このうれしさを伝えたくてコメントしました』と、お客さま相談室に入電があったんです。
開発のマイルストーンに携わったメンバーのひとりとして、こうした声をいただくことが何よりの励みになっています」
量産EVで再認識したお客さま視点を貫く難しさ。さらなる満足度向上をめざす
長年品質保証に携わってきた堀江にとって、印象に残っている出来事があります。2008年に世界初の量産EV「リーフ」の開発に関わったときのことでした。
社内外に前例や経験がない上、お客さまがEVに触れるのも初めてのこと。誰にでも使えて、一人ひとりの期待を満たせるものをつくろうと試行錯誤しますが、いざローンチしてみると、「わかりにくい」「使いにくい」といった声が聞こえてきたと言います。
堀江 「リーフの充電ポートは、充電中に雨がかかってもなんの問題もないように設計されています。ところが、充電ポートが雨に濡れないようにと、充電ポートの蓋を開け切らずに少し被せたままの状態で使われるお客さまがいらしたんです。そうした使い方が想定できておらず、蓋が接触した際に充電ケーブルが外れてしまうというケースが起きていました。
改良を施してすぐに解決しましたが、一連のことを通じてあらためてお客さまの心理の多様さ、奥深さを学ぶことができたと思っています」
2022年からプロダクト・クオリティ・マネージメントオフィスに所属している荒岡。これまでの1年で最も印象的なこととして、いま担当している新車プロジェクトについての提案がかたちになりつつあることを挙げます。
荒岡 「ドアトリムと呼ばれるドアの内張りの部品に改善の余地があると感じて提案しました。開発の意向や納期の問題で改善すべきかどうか議論がなされましたが、このままではお客さまにご満足いただけないことをデータも用いながら説得。現在は、改善する方向で動いています。
開発に携わる方々にとって、データの持つ意味は絶大です。ただお客さまの声を伝えるだけでなく、データというかたちで情報を整理し説得力を持って提案することがわれわれの役割であり、存在価値だと考えています」
また、もともと海外志向があった荒岡にとって、各リージョンとのやりとりが多いTCSXはとても刺激的な環境だと言います。
荒岡 「先日も開発中の車両を確認しにメンバーが来日するなど、海外とのやりとりが多いのはグローバルに多くの車種を展開する日産自動車ならでは。また、入社以来の念願がかなって、2014年には海外出向も経験しました。社員の熱意に応えてくれる風土があることもさることながら、ダイバーシティを体現しているところが日産自動車の魅力でもあると思います」
社会のために、世界のために貢献したい──お客さま視点の仕事でなら、それがかなう
お客さまの期待値こそが品質──TCSXの揺るぎない行動指針として、それがこれからも変わることはありません。
堀江 「自動車技術は今後も刷新され続けていきますが、われわれがやることは同じ。お客さまの期待値を先取りし、それをひとつでも多くかたちにしていけるような仕事をしていきたいと思っています」
荒岡 「自動車は決して安い買い物ではありませんし、製品の一つひとつがお客さまにとってかけがえのない1台です。期待を裏切ることがないよう、お客さまの声に真摯に耳を傾けながら、品質マネジメントに全力を傾けていきたいですね。
冷静に考えてみれば、世界のお客さまの満足のために自分の考えを製品に反映させていくプロセスはとても壮大な取り組みです。その感覚を共有できるようなチーム運営を行い、モチベーションを高く維持していければと考えています」
意外なことに自動車業界で働くのは自動車愛好家ばかりではない。自分もそのひとりだという荒岡。日産自動車で働く醍醐味についてこう話します。
荒岡 「どちらかというと、私が好きなのは自動車より、多くの人のためになること。そんな仕事がしたいとの想いで日産自動車に入社し、15年間やりがいを見失うことなくここまで走り続けてきました。お客さまや社会の役に立ちたいという気持ちがある方であれば、必ず貢献できることがあるし、達成感を覚えながら仕事に取り組めると思います。それほど自動車好きでないという方も安心していただいて大丈夫です」
一方、エンスージアストを自負する堀江。荒岡とは別の視点から、品質マネジメントの仕事の魅力についてこう述べます。
堀江 「日産自動車は世界に向けて自動車を売っているので、グローバル規模のものづくりに携わることができます。他国のスタッフとチームを組みながら、文化や考え方など世界のお客さまのことを知ることができるのは、日産自動車ならでは。プライドを持って取り組める仕事だと思います」
日産自動車の生産台数は300万台超。世界中の人々が利用する製品の品質を守る仕事の責任の大きさは甚大ですが、それを相殺して余りあるやりがいや喜びがあります。ハンドルを握ることを楽しみに待つお客さまの満足のため──品質にかける誇り高い想いを胸に、ふたりはこれからも最後の砦を守り続けます。

