【D&Iイベント特別対談・宇宙飛行士/向井 千秋さん】
人生は有限だからこそ、挑戦を!
「1+1」を3や4にする多様性を力に。
Act on your dreams!

2023年9月8日に宇宙飛行士の向井 千秋さんを当社の新オフィスにお招きし、Diversity & Inclusion (D&I)イベント『Act on your dreams』を開催しました。三井物産では D&Iを強く意識した取り組みを行っており、グローバルにインフラ事業開発を展開するプロジェクト本部としても日々の業務を通じてD&Iの実践に取り組んでおります。
当日は、D&Iの重要な要素であるInclusionの実践、挑戦、キャリア、人材育成等の幅広いテーマで、向井さんによるご講演に加え、向井さんと若菜プロジェクト本部長との対談を行いました。参加者はライブ配信も含めると600名を超え、社員の皆さんから大きな反響が寄せられた本イベントの様子をお届けします。
「1+1」を3や4にするチームワークの秘訣──誰もがIntegral Partであると感じられること
若菜:宇宙飛行では、多様なプロフェッショナルがチームを組み、重大なプレッシャーの中でミッションを遂行されていると思います。さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが自身の強みを最大限発揮できるようなチームづくりの秘訣はなんでしょうか。
向井:宇宙飛行の構成員というのはそれぞれの役割分担が明確に設定されていて、7人のチームだとすればこの7人に過不足はないんです。重量制限があるので8人では多すぎて、6人では足りない。どの人が欠けても、自分のパフォーマンスが発揮できないと誰もがわかっていて、チームで活動することで、「1+1=2」ではなく、3にも4にもなっているんです。
そのためには個々人が、自分がIntegral Part(なくてはならない構成要員の一人)であり、どの歯車も、歯車一つの役割は小さくとも一つでも欠けるとチームは成り立たないという意識を持っていて、お互いがRespect(尊敬)し、自分にないものを求めあうことでチームがうまくいくと思います。
人は違って当たり前なので、それをベースに考え、何か合意できることがあればそれは嬉しい驚きととらえるようにしていれば、フラストレーションは溜まらず、自然な状態でいられました。
若菜:大変参考になるお話をありがとうございます。多様なチームをマネージするという観点でとくに向井さんが大事にされていることはありますか。
向井:はい、ありますね。今日は私が使っている色鉛筆を持ってきました。あるとき絵でも描いてみようと思って、自分が描きたい絵と、自分が使いこなせる色の数を考えて色鉛筆を選んだのですが、それと同じだと思うんです。成し遂げたいことが、どのくらいのスパンで、どれくらいの規模で、どれくらいの色合いを使ったらどういう結果が出るか。そのようなビジョンが自分の中にあると、自分のキャパシティの中で、使いたくなる色が自ずと決まってくるのではないでしょうか。
マネジメントスキルに長けた人であれば、私は12色ないと描けないものを、6色で描ける人もいるかもしれないですし、逆に72色使いこなせる人もいると思います。10色の花があったら、10色の花がどれも美しく咲いている状態をつくることが大事なので、自分が使いこなせるキャパシティを知ることも大事です。
ドアノブを回したら自分がくるっと回った!──相手の立場に立って考えるとは
若菜:D&Iは相手のことを理解し、尊重することがベースになっていますよね。日々のコミュニケーションでも、「相手の立場に立って考えよう」と言うのは簡単ですが、実際にはなかなか難しいなあと感じています。
向井:医師をしていたとき、たとえば患者さんが子どもの場合は、どこが痛いのか、どう調子が悪いのかも伝えられない状況があり、相手の気持ちをおしはかって考えることが必要でした。また、自分はこういう治療が良いと思うけど、と説明したつもりでも、実際に反対側に座って患者さんの立場で話を聞いてみると、確かにこの説明ではわからないなぁ、ということもありました。
話は変わりますが、ドアを開けるとき、私たちは自分の体重で体が固定されているという意識がないので、ドアノブが回ってドアが開くのが当たり前と思っていますよね。ところが、宇宙に行けば、どちらが固定されているか次第で、自分が固定されていなくてドアノブが固定されていれば、自分がくるっと回ってしまうんです。
相手との作用反作用ではないですが、自分が押しているつもりでも押されている場合もあるし、環境が違うと相手の反応が自分の思った通りになるとは限らないのですね。立場を変えて物が見られるようになると、お互いの理解が深まり、強い絆が出てくると思います。
宇宙飛行で初めて、重力に隠されていて見えなかったものがたくさん見えた
若菜:当社は昨年より、D&I推進の上で障害となるアンコンシャスバイアス(無意識の思込みや偏見)に関する学びを中心に、D&Iに関するいろいろな取り組みを行ってきました。
向井:アンコンシャスというのは、気づかぬうちに持っているものなので難しいですよね。30年前アメリカでホームパーティーに参加したときの話なんですが、小さな子どもを見て、「お父さんに似て可愛いですね」と言ったら、「いやこの子は養子なんです」と言われたんです。
考えてみると、日本では、子どもが親に似ていると言うと親御さんが喜ぶというのもあって、少しお世辞も含めてそのように言っていたんですよね。ところが、海外は離婚率が高いし、養子をもらう方も多い。こういう経験があって、私はアンコンシャスバイアスがあるかもしれない、世界を色眼鏡で見ているかもしれない、ということを自分にRemindするために、ときどき色付きのサングラスをかけるようにしています。今日、サングラスを持ってきました(笑)。
(青いサングラスをかけてお話)宇宙に行ったときに、「私ってそれまでは重力文化=重さのある世界に生きていたんだな」と初めて感じました。言葉の表現の中にも「月が沈む」、「日が昇る」、「階段を上る」、「地下に降りる」、「滑る」、「転ぶ」……これらはすべて重力があるから存在するんです。宇宙に行ったら、滑ったり転んだりもしないんですよ。元々ふわふわ浮いているんですから。初めて無重力の世界に行ったとき、重力に隠されていて見えなかったものがたくさん見えてきたんです。あぁ、私って今まで重力の眼鏡をずっとかけたままだったんだな、と。
そして、知らなければこの重力の眼鏡をはずさずに死んでいったわけです。これが宇宙飛行をして良かったと思った最大の点なんですが、宇宙飛行をしたおかげで、重力の色眼鏡をはずしてみたら、「物が置いてあって不思議と思わなかったのはどうして」「カーテンが揺れるのはおかしいじゃない」「水が丸くなったり、垂れ下がったりするのはなんでなの」という子どものような無邪気な心が生まれたんです。
生きてエネルギーを使える限り頑張らなきゃ。生きてこられなかった人から背中を押される気持ち
若菜:当社は “Challenge & Innovation”、つまり「挑戦と創造」を会社のDNAとして掲げ、新しい仕事に挑戦しようとしていますが、過去の案件の失敗がトラウマになったり、新たな挑戦に対して臆病になってしまうこともありますよね。挑戦を継続するために必要なマインドセットは何でしょうか。
向井:宇宙飛行も初めのころは、宇宙に行ったら目が飛び出しちゃうのではないか、自分の唾液も飲み込めないのではないかとも言われていましたが、宇宙開発って一足飛びでできたものではなく、検証の積み重ねの結晶なんです。検証する上では、小さなチャレンジを日々積み重ねることが大事。仕事でも若いときに小さいチャレンジと成功を繰り返せる場があるといいですよね。
若菜:人はついつい今の環境に安住してしまいがちですよね。自分のcomfort zoneから抜け出し、チャレンジをするには大きなエネルギーが必要だと思いますが、向井さんのエネルギーはどこから出てくるのでしょうか。
向井:今comfort zoneから抜け出しにくいと感じている人は、幸せな生活を送っているんだと思います。医学生としてご遺体を解剖させていただいたとき、「人は生きているからこそ目に輝きがあって、生きていなきゃだめなんだ」と強く感じました。どんなに美男美女でも、ご遺体になってしまって、顔の皮をめくればみんな同じ顔に見えます。人は生きているエネルギーを出しているから美しいんです。
医師として働くようになってからは、「なんでこんな小さな子が、外の世界も知らずに、病院で生まれて病院で亡くならなければならないの」という想いも経験しました。自分と同じ年齢の人が、明日生きていけるかもわからず目の前で寝ていて、他方自分は夢に向かって頑張れる立場にある、という理不尽さに悩んだ時期もあったんです。
どんな夢があろうと、自分の夢を実現できない人たちがたくさんいるんですよ。そういう方たちのことを思うと、自分の夢がどんな夢であれ、自分がそのことに向かってエネルギーをかけられるのであれば、かけられなかった人たちのためにもやんなきゃ、という背中を押されているという気持ちがすごくありました。
自分は生きていて何かができる、その何かにエネルギーをかけることができる。動いたら疲れる、悲しければ泣ける、それだけでも幸せなんだ。上を見ても下を見てもきりがなくて。自分が置かれたところでエネルギーを使える限り、頑張ろうと思えるようになりました。
理想の上司のスタイルは、孫悟空のお釈迦様の手
向井:挑戦で言うと、若い人が過去を知らないというのは良いこともあると思います。失敗を経験した人は同じことに手を出さなくなるでしょう。でも時代や技術が変わっているので、若い人が何も知らずにやってみると意外とできたりするんです。
若菜:これは自分事でかなり共感します。自分も「これ昔やってダメだったよ」と頭ごなしに言ってしまって、私の部屋から悲しそうに帰っていく若者を何人も見ています。自分は度量が狭いなぁと反省します(苦笑)。
向井:私にとっての、度量の大きな理想の上司スタイルは、孫悟空のお釈迦様の手ですよ。手から落ちてしまいそうなところまで行けば注意するけど、手のひらの中であれば部下にやらせてあげるんです。私は若者と一緒に何かをやるとき、とにかく一度やらせてみるということを意識していますよ。
若菜:当社は「人の三井」とよく言われますが、本当に人材育成できているかと言われると常に課題を感じていて、日々悩みながらやっている状況です。人材育成のなかで、向井さんが重要と考えられていることはなんですか?
向井:私も気づかぬうちに考え方が古く、昭和だなと思うことがあります。育成っていうと上から目線になりがちですが、子どもも「勉強しなさい」って言ってもだめで、「一緒にやろう」って言うとやったりするじゃないですか。昔は、俺についてこいタイプのリーダー像で、自分がやって自分の背中を見せるというスタイルでしたが、今の時代が求めるリーダー像は違うように思います。
今は、自分がやるのではなくて、部下に考えさせる、失敗させる。自分も一緒になって、お互いが学び合おうという姿勢が求められていると感じます。『どうする家康』は皆さん御覧になられてますか?家康は自分がわからないところは部下を信用して、得意分野を任せて、Our Teamをつくっていくリーダー像ですよね。
周りが「この人を支えなきゃ」と思うリーダーもありだと思います。上の人が部下を教えないといけない、という風にも思っていなくて、肩の力を抜いて、お互いいいところを学ぼうよ、という姿勢ですよね。言うなればバラバラなチームをまとめる「のり付けリーダー」みたいな。
人生は有限──キャリア選択は自分でチョイスすることが大事
若菜:最近は社員と会社が対等な関係になっています。社員が選択肢を持って、自分でキャリアを選択できるよう、会社の制度も整えています。向井さんは医師から宇宙飛行士へと大きくキャリアを転換されたわけですが、キャリア選択における軸はなんでしょうか。
向井:「人生は有限」「人生は短い」という考えがベースにあります。人間は必ずどこかで自分の人生を一区切りさせなければいけないときがきます。毎日のスケジュールにしても、人に言われた、決められたものではなく、自分がチョイスできることは大事ですよね。自分のチョイスのもとに、自分が責任を持ってやる、ということです。
人生においては、仕事や子育て、介護や病気など、いろいろなことが起きます。人生って最終的にどれが良かったかというのは誰が決めるものでもなく、自分が「この人生で良かった。なぜなら自分で選んだから」と思えることが大事だと思うんです。子どもたちにもよく言っていますよ。「図書館にいってごらん。図書館に行ったら圧倒されるくらい山ほど本があるけど、一日24時間、皆同じ。生涯で読める本って何冊もないんだから、本当に自分が読みたい本を選んでごらん」ってね。
枠ってね、大体自分で決めちゃっていることが多いんですよ。自分が勝手に決めた枠を、一回とっぱらってみて、「自分って何が本当にやりたいの、どういうことをやったら自分の自己実現につながるの」と考えて、やってみることです。そこで失敗しようと何しようと、それは自分の決断で行っているので、自分の糧になると思います。
ダイバーシティの中の個のきらめき方
若菜:本日はD&Iに関わらずさまざまなテーマでお話をしてきましたが、あらためてD&Iの重要性について、向井さんの考えを教えてください。
向井:人って、同質のものから学ぶことはできないけど、違いからなら学べるんです。「えっ、あなたのところは焼きそばに、ソースではなく、醤油をかけるわけ?えーっ!?」って驚きがあるでしょう。違いを「嫌だ、面倒くさい」と思わずに、「違いがあったおかげでなんだか今日は世界が広がったかも♪」と思い始めれば、人生は楽しくなると思いますよ。
若菜:ダイバーシティがある環境において、個々人が大事にすべきことはなんでしょうか?
向井:大事なのはダイバーシティの中の個のきらめき方です。自分の良さをどのように表現し、どのように出すのか。私、実家が鞄屋で、当時では珍しく、試供品でカラーランドセルがあって、私のランドセルが緑だったんです。まわりの人からは「背中にガマガエルを背負ってる」と言われて、嫌でした。
でもね、ある日突然、そんなランドセルが宝物になっちゃったんです。「よく見たら、どの子を見てもランドセルは黒か赤でみんな同じ。緑のランドセルを持っているのって私しかいないじゃない。私にしかない、宝物じゃないか」って思うようになったんです。
自分の見方を変えただけなんですが、そうやって周りにも「宝物よ」と言うようになったら、今度はまわりの友達も緑のランドセルがほしいと言うようになっちゃった。自分のユニークネスを見つけて、宝物にしてほしいと思います。
向井さんの次なる夢は
若菜:本当に貴重なお話をありがとうございました。最後に向井さんの次の夢を教えてください。
向井:いっぱいやりたいことがあるんですが、月旅行のフライトアテンダントがやりたいですね。自分が生きている間に自分でチケットを買えるほど月旅行が安くなるとは思えないので仕事として。1週間で行けますので、みなさん月へ行くときには是非お声がけください!(笑)。
若菜:月旅行、是非ご一緒にお願いします!向井さん、本日は本当にありがとうございました。
向井さん、若菜さん、本当にありがとうございました!
※ 実際のイベント開催内容を記事用に編集しています
