「どう決めているか」に惹かれて
高校生のころ、何気なく見ていた自動販売機が、今でも印象に残っています。 同じ商品が並んでいるのに、置かれている場所が違うだけで、売れ方がまったく違う。その差は、どんな判断をして生まれているのか。そんな素朴な疑問が、大学で経営を学ぶきっかけでした。
興味があったのは、答えそのものよりも、「どう考えて決めているのか」という点です。この関心は、自然と就職活動の軸にもなっていきました。事業内容よりも、その会社で意思決定をしている人たちを見たいと思うようになったのです。 経営は、どの会社にもあります。ただ、判断の基準や、意思決定は、人によって大きく変わる。その違いを、自分の目で確かめてから判断したい。そう考えていました。
ご縁があり、複数の内定をいただいた際には、すべての企業に「一年後に力になれる状態で入りたい。無給でいいので、学ばせてほしい」と伝えました。実際に現場に入り、働く人たちと話しながら見ていたのは、能力よりも、「問いにどう向き合う人たちか」という点です。意見が違ったときに、きちんと議論ができるかどうか。そこに、組織の本質が表れると感じていました。 その中で、将来について率直に話したとき、問いそのものをおもしろがり、一緒に考えようとしてくれたのがアイ・ケイ・ケイでした。条件や立場ではなく、「どう考えているか」に関心を向けてもらえた感覚があります。ここでなら、現場と向き合いながら、自分自身も判断に関わる立場を目指していける。そう思い、入社を決めました。
最初の頃に、腹を決めたこと
入社直後、上司との1on1で、今でもはっきり覚えている言葉をかけられました。 「3年間、とにかく一生懸命やってみること。それでダメなら、俺だったら辞めるね」。
当時、学生結婚をしており、まもなく子どもが生まれる頃でした。厳しい言葉ではありましたが、もともと我武者羅に働く覚悟をしていた私にとっては、むしろ腹が決まる時間になりました。期限があることで、「やり切る」という判断を、自分自身で引き受けることができたからです。3年間、本気で取り組み、それでもダメなら次を考える。そう決めて、仕事に向き合うことにしました。
当時のことを細かく振り返ることは、正直できません。それだけ目の前のことに、手一杯だったのだと思います。家族との時間を十分に取れなかったことへの後悔はあります。ただ、何かに本気で取り組むときには、優先順位を決め、一時的に手放すものを意識的に選ぶ必要がある。その感覚を、この時期に知りました。その間、家庭を支えてくれた妻には感謝しかありません。
結果として、仕事の幅や任される役割は少しずつ広がっていきました。立場が変わるたびに、求められる判断の種類も変わっていったように思います。
現在は、ホールディングスの執行役員として、事業や組織の意思決定に関わっています。ただ、肩書きが変わっても、仕事の向き合い方が大きく変わったわけではありません。目の前の状況で、何を選び、どれだけコミットできるか。その判断の積み重ねが、今につながっていると感じています。
何も残らなかった時間から、考えるようになったこと
現在は、アイ・ケイ・ケイホールディングスで執行役員を務め、事業や組織の意思決定に関わっています。ただ、この立場に至るまでの過程を振り返ると、原点になっているのは成功体験よりも、高校時代に対して感じた強い虚無感だと思っています。
中学生のころは、バスケットボールに打ち込んでいました。当時、日本一の私立高校から特待生のオファーをいただいていました。ただそのときは、競技を続けることよりも、地元で気楽に過ごしたいという気持ちが勝ち、公立高校への進学を選びました。進んだ高校でもバスケットボール部から何度も声をかけてもらいましたが、結局入部せず、部活には所属しないまま三年間を過ごします。当時の日々は、決してつまらなかったわけではありません。友人と遊び、目の前の毎日はそれなりに楽しかった。ただ、大人になってから高校生活を振り返ったとき、心に残るものがないことに気づきました。何かに本気で向き合った充実感や、積み重なった感覚がなかったのです。 色で表すと、濃い黒のような感触でした。
そのときに初めて、「懸命に生きていない時間は、何も残らない」ということを、経験を振り返る中で自覚しました。この感覚は、今でも自分の中で強く残っています。だから社会に出たら、目の前の仕事に懸命に打込もう。そう自然に思うようになりました。今でも私は、何かに本気で取り組んでいない状態が長く続くと、どこか落ち着かなくなります。高校卒業後に感じた、虚無の感触を、よく知っているからです。
いま、完成した答えがあるわけではありません。ただ、「このまま延長線上でいいのか」と、時々自分に問い直す時間を大切にしています。
変化の中で、考えながら動いていること
現在、私が関わっているのは、生産性向上をテーマにしたOpExの取り組みです。新しい組織を立ち上げ、どうすればさらに生産性を高められるのかを考えています。業務を効率化すること自体が目的ではなく、生産性が上がることで、会社として取り得る選択肢が広がっていく。新しい事業に投資できる余地が生まれたり、既存事業のやり方を見直せたりする。そうした変化が連鎖していく感覚が、いまは素直におもしろいと感じています。
会社としても、2026年1月に新しい社長が就任し、これからの未来を見据えた動きが本格化しています。現在、200億円規模の売上を、10年後には1,000億円規模へとスケールさせていく。そのために、既存事業だけではなく、さまざまな新しい事業に挑戦していく。まさに、第二創業期と呼べるフェーズに入りつつあります。
IKKホールディングスは1945年創業で、一歩一歩成長を続けてきた企業です。東証プライム上場企業としての人材や資本の蓄積がある一方で、いまはベンチャーのような発想やスピード感もある。その両方を持ち合わせている点が、いまのIKKの面白さだと感じています。
ただ、このフェーズに明確な正解があるわけではありません。会社も、人も、動きながら形を探している途中です。試しながら確かめ、うまくいかなければ考え直す。その繰り返しの中で、少しずつ輪郭が見えてくるものがある。いまは、そんな手触り感のある時間の中にいます。
試行錯誤が続くからこそ、この状況をどう捉え、どう関わっていくのかは人によって違うはずです。自分自身もまだ整理しきれていない問いもあります。そのあたりは、もし機会があれば、実際に話しながら共有できたらと思っています。
