サービス開発での失敗を活かして。ユーザー起点で価値を創出するためFICに参加
2013年に富士通へ入社した蓮井。大学時代に富士通研究所の社員による講演を聞いたことが入社のきっかけでした。
「当時の私は富士通に対して堅い会社というイメージを抱いていましたが、『挑戦と変革』のDNAを持ち、業態を変えながら進化し続けていることに魅力を感じました。もともとは教職志望で数学を専攻していたこともあり、論理的思考をIT業界で活かして自分の世界を広げたいと考え、富士通に入社しました」
入社して最初の5年は、クレジットカード会社のアカウントSEとしてシステムの開発や運用保守に従事。その後、メーカーや小売店などのキャッシュレスサービスに関するPoCを担当します。
「PoCにとどまらず、実際にアイデアを形にしてみたいと思い、2020年には保険業界に向けた営業支援サービスの開発に挑戦しました。しかし実際にやってみてわかったのは、サービス開発は想像以上に難しいということ。アカウントSEを担当していたときは、目の前にいるお客様を通して、具体的なニーズや課題を繰り返し聞き、1つずつ要件を固めていきながら開発を行っていました。
ところが新たなサービスを立ち上げる場合、誰のためにどのような価値を提供するのかを一から定義しなければなりません。それはサービスの軸、拠り所となるべきものですが、そのプロセスを経ずにサービス化を急いでしまったため、期待した成果はまったく出せませんでした」
この失敗をきっかけに、蓮井にある想いが芽生えます。
「そもそもユーザーが必要としているものは何なのか──それを知るために、ニーズを徹底的に探索してマーケットインのサービスをつくりたい。そう考えていたとき、タイミング良くFICの募集が開始されたんです。
FIC は、0から1を生み出す学びの場『Ignition』と新規事業実践の場『Challenge』という2つのプログラムで構成されています。後者は審査に通過した人たちだけが、イントラプレナーとして新規事業創出に100%専任し、社外プロフェッショナルや社内有識者の支援を受けながら最大6カ月で本格投資に値する事業をつくり上げる実践型プログラムです。私はこの『Challenge』の0期にチームを組んで応募し、厳しい審査をクリアして参加できることになりました」
ユーザーリサーチを通じて実感した課題。自身の経験が新たなサービス開発のヒントに
FIC Challengeに参加することになった蓮井。最初に試みたのは、富士通が保有するアセットを活かしたサービスの開発でした。
「富士通は、『行動分析技術Actlyzer(アクトライザー)』を開発しています。この技術を活かし、ショッパーインサイトを把握するサービスを考えました。具体的には、スーパーマーケットにカメラを設置し、消費者がモノを購入するまでの行動をデータ化して販売するというアイデアです。
実店舗ではこれまで取得できなかったデータのため、消費財メーカーにニーズがあると考えていました。予想通り、お客様からの反応は上々。しかし事業化には至りませんでした。なぜなら『あるとうれしい』けれど、『喉から手が出るほどほしい』サービスではなかったからです。重要なのは、お客様が費用を払ってでも解決したいと思う課題を見つけ出すこと。それがFICのプログラムを通じて得た最大の学びでした」
そして蓮井たちは、社内外の有識者にアドバイスをもらいながら、アプローチを大きく転換します。
「解決手段を考えるのをやめて、何が課題なのかを突き詰めることにシフトしました。ターゲットを消費財のプロダクトオーナーに絞り、30人ほどにインタビューを実施。商品開発までの流れと、それぞれの工程における課題を丁寧にヒアリングしていきました。
そうしてユーザーリサーチを重ねる中で気づいたのは、プロダクトオーナー自身も、ユーザーリサーチに対して課題を感じているということです。定性情報を集め、それを分析してターゲットを理解できるようになるまで、そのプロセスにかかる労力と時間に、強烈な課題があることがわかったのです」
プロダクトの軸となる課題を見つけるために実施したユーザーリサーチ。その中で得たさまざまな気づきが、新たなサービスを開発するヒントになりました。
「インタビューを実施し、仮説・検証を繰り返していくには専門知識を持つプロの伴走支援が必要で、自身の経験をもってユーザーリサーチの難しさを実感しました。
これほど時間がかかり、高度な知識が求められるユーザーリサーチ。それをITの力で誰もが実施できるようにすれば、必ず『喉から手が出るほどほしい』サービスになる──そう確信し、ユーザーの声をより簡単に集められるサービスの開発をめざすことにしました」
「セルフ動画型リサーチKnock On Exploration」でリサーチを変革
ユーザーリサーチから導き出された新サービスのアイデア。しかし事業化を実現するには多くのプロセスを経る必要がありました。
「課題の解決方法を考え、それをプロダクトにどう実装するかはもちろん、想定しているユーザーにとって最適な販売価格や契約形態、決済手段、販売チャネルなどを決める必要があり、ビジネスモデルを構築するのにとても苦労しました。
FICの有識者にもアドバイスをもらいながら組み立てていったのですが、その中で繰り返し言われたのが『自分たちの武器が何であるかを見極めなさい』ということです。
事業化を実現するために、私たちの最大の武器だと思ったのは『富士通』という看板でした。何も実績がないところから新たなサービスを市場に投入する上で、『富士通製』であることはお客様にとって大きな安心感になります。それを武器とするからこそ、ブランドの信頼を損なわない選択を常に意識しました」
そして2024年4月、FICでの学びの集大成として「セルフ動画型リサーチKnock On Exploration」(以下、KOE)が誕生しました。
「『KOE』は、食品や化粧品を中心とした消費財メーカーのプロダクトオーナーをターゲットとした、ユーザーの利用実態を自撮り動画で把握できるサービスです。従来の生活者の解像度を高めるインタビュー調査や訪問調査に比べ、低コストかつクイックにユーザーリサーチができます。また、自撮り動画によって、テキストアンケートに比べ、圧倒的な情報量が得られることも強みです。
たとえば、『あなたはどのように化粧水をつけているか教えてください』という質問に対し、アンケートで『浸透するように手でなじませています』という回答があった場合、具体的な手順まではわかりません。手のひらで軽く押さえる、指先で叩き込む、コットンを併用するなど、テキストアンケートからは把握できなかったより具体的な行動がわかります。生活者の理解が深まることで新たな仮説・気づきが得られ、生活者インサイトに迫れるようになります。
こうしてイントラプレナーとして事業化を実現できた要因は、課題探索を徹底したこと、そしてDX企業として変革を続ける富士通の姿勢を体現したことにあると考えています。私たちが開発した『KOE』は、定性調査を迅速化し、商品開発のプロセスをトランスフォームすることが可能です。アメリカに比べると日本のリサーチ市場は小規模ですが、ITの力で多くの人が使えるようになることで、世界を変える可能性があると信じています」
「世界を変えたい」という想いを原動力にして。挑戦を通じ、一からモノをつくる喜びを
「KOE」が市場に投入されて約8カ月。サービスの利用企業は着実に増加し、高い評価を得ています。
「ある食品メーカー様は、調査にかける時間や費用がなく、専門人材もいないことから、デスクトップリサーチしかできていないことに課題感をお持ちでした。『KOE』は誰でも簡単にユーザーリサーチが実施できるため、リサーチ離れの解消につながるサービスだというお声をいただきました。
また、ある調味料メーカー様からは、訪問調査がDX化できる点を評価いただいています。これまで調査にかかっていた期間が3カ月から1週間に短縮でき、業務の改革につながったと喜んでいただきました。
さらに、多くの利用企業様から評価していただていているのが、動画ならではの信ぴょう性の高さです。アンケートでは、企業に良い印象を与えるため作為的な回答が見られる一方で、嘘が露呈しやすい動画はリアルな回答が得られることに価値を感じていただいています」
ユーザーリサーチのさまざまな課題を解決する「KOE」。蓮井はさらに、サービスを進化させていきたいと意気込みます。
「生活者から収集した動画の分析機能をさらに強化していきたいと考えています。現状でも生活者の発言を可視化し、言語解析によってキーワードを抽出する機能を実装していますが、今後は動画を量的データに変換し、誰もが一律な分析結果を得られるサービスに進化させることが目標です。
そして有形のプロダクトだけでなく、将来的にはECサイトやアプリといったデジタルプロダクトなどへも対象を広げていくことを検討しています。商品開発における1つのプロセスとして『KOE』が広く浸透し、『KOEった?』という言葉が当たり前に使われる世界になれば理想です」
FICを通じて新規事業の創出に挑戦し、成長を重ねてきた蓮井。これからFICへの参加を検討している仲間へ、メッセージを送ります。
「何かを変えたいという強い想いが、挑戦する原動力になるはずです。教育現場やヘルスケアなど、人それぞれに変えたい世界があると思います。その想いこそが困難を乗り越える力になり、未来を切り開いていきます。
事業開発は非常におもしろい経験です。自分がルールメーカーになれるのは、社会人生活の中でも得難い機会だと思います。困難も多いですが、新たな価値を創造する行為には、苦労を上回る喜びがあります。メーカーとして一からモノをつくる楽しさを味わうために、ぜひ思い切ってチャレンジしてほしいです」
※ 記載内容は2025年2月時点のものです
