富士フイルムビジネスイノベーション デバイステクノロジー事業本部 オフィス商品開発推進部 金子さん
2010年入社、オフィス向けA3複合機の感光体・転写ユニットの設計を担当。2014年、モノ作り技術本部(当時)に異動し、表面加工技術を活用した複合機部材の開発やプラスチック金型の設計、量産準備などに携わる。
2019年、再び感光体・転写ユニットの設計に復帰したのち、自動車メーカーの設計部門に転職。2020年、カムバック採用で富士フイルムビジネスイノベーションに再入社。
複合機の新規プラットフォーム開発などを経て、2022年から「Apeos C3067」「Apeos C3061」シリーズに搭載する感光体ユニットの設計リーダーとして従事。2024年10月より、スキャナー開発統括グループに異動し、第二商品開発統括グループを兼務。
海外新規市場参入を見据え、 感光体ユニット交換の操作性改善要請が持ち上がる
2024年9月、当社はA3 デジタルカラー複合機「Apeos」シリーズにおいて3機種10商品を新たに発売することを発表した。金子は、これら新商品のうちの2機種、中小企業に適したコンパクトモデル「Apeos C3067」「Apeos C3061」シリーズの感光体ユニットの設計リーダーを務めた。
設計者として15年のキャリアを持つ金子にとって、今回の開発はとりわけ印象深いものとなった。開発が始まった当初は前任機からの原価改善が主な要件だったが、途中段階で「ドラムカートリッジの交換作業時の操作性を改善すべし」という大きな要件変更が加わったからだ。
その背景は、「Apeos C3067」と「Apeos C3061」シリーズを海外の新市場に展開することにあった。基本的に、感光体ドラムカートリッジは、カストマーエンジニアなどのトレーニングを受けた作業者のみが取り扱う想定の設計となっている。
しかし、新販売市場では、販売代理店や配送業者、お客様自身が交換作業を行うことも想定しなければならない。取り扱い上の注意点を知らずに交換すると、誤って指紋やキズを感光体につけてしまったり、強い光にさらしたりすることで、画質不良を招くケースが起きる恐れがあった。
当社が全世界に市場を広げていく中で、カストマーエンジニアの作業なしに、お客様が取り扱ってもトラブルの起きない設計にすることは、無視できない課題となりつつあった。
▲前任機のカバー(画像左)と、感光体ドラムカートリッジの交換操作のイメージ。上記のように、感光体(緑の筒状の部分)に触れてしまうと指紋や傷が付きやすく、画質不良のリスクが高まる
前任機のカバーでは、交換作業者に触れてほしくない箇所を覆い切れておらず、またカバーが容易に外せてしまうことが課題であった。しかし、挿入部の周辺構造との兼ね合いなどもあり、単純にカバーを広げればよいというものでもなく、構成変更に伴う原価増も懸念された。それらの制約の存在が、以前から課題として認識されながらも克服に至らない要因にもなっていた。
貪欲な探求心で他社技術から身の回りのデザインまで、あらゆる工夫を課題解決のヒントに
しかし、金子はあきらめるつもりはなかった。心の中には、一つの灯がともっていた。
「お客様が触れてはいけないところには、そもそも触れないように設計すべきだと改めて感じました。そうした配慮がされていないために感光体に触ってしまい、画質が低下したら、お客様は当然怒るよな、と。設計者として、そうならないように課題に真剣に向き合い、よりよいモノを作り上げたいと思いました」
めざす姿は、カストマーエンジニアではないお客様でも、触ってはいけない箇所に確実に触れることなく、かつ、スムーズに交換作業が行える保護カバーを形にすること。その実現に向けて試行錯誤の日々が始まった。
金子は、社内外を問わず、課題解決の手がかりをどん欲に求めていった。
「もともと私は、自分が関わっていない機種や、他業界の製品の設計の工夫を見るのが好きで、あらゆるハードウェア設計を見ては、感心したり、何かに使えそうだと思考にストックしたりしているタイプです。
最終的には採用には至りませんでしたが、A4機のトナーカートリッジに使われている樹脂を途中から薄く伸ばす成形技術や、お惣菜のパックのヒンジ機構(ちょうつがいになっている曲線形状の部分)を応用できないか、など、過去機種や他機種、競合などにとどまらず、身の回りにあるものの設計の工夫も含め、あらゆる可能性を追求しました」
▲最適な仕様を実現するため設計リーダーとして関係メンバーと検討を重ねた
こうした検討の末にたどり着いたのが、半円状の硬いプラスチックに柔らかい半透明のフィルムを組み合わせたスライド式の保護カバー。作業者が感光体ドラムカートリッジを複合機本体に挿入すると同時に、保護カバーの一部が本体に引っ掛かり、自動的にロックが外れ、カバーが引き出せる構成となっている。
作業者に触れてほしくない部分の全体を覆いつつも、カバーが外れる最中にその端部で感光体を傷つけてしまう事も防ぐ設計だ。
▲右手で抑えている部分が保護カバー。複合機本体に挿入すると自動的にロックが外れ、引き出せるようになる仕組みになっている(写真は意図的に途中までカバーを外し、感光体の表面(緑の部分)が露出した状態)
これ以外にも、金子は、感光体ユニット全体の部品構成を見直し、分解処理時に金属部分と樹脂部分を分別しやすい仕様にすることで、リサイクル性を向上させた。
「カバー追加による原価の増加懸念がありましたが、『簡単に交換ができる=シンプルな構造』との考えに徹して設計を行い、かつ、別の部分の設計変更も行うことで、結果的に操作性向上だけでなく感光体ユニット全体として原価抑制にもつながる一石二鳥の開発を実現することができました」
自ら設計した商品を動かすやりがいを胸に最高の複合機をお客様に届けたい
父親は電気系の技術者で「子どもの頃は一緒に工作を楽しんだ」と振り返る金子。そんな原体験の中で育まれた“自分が作ったモノが思い描いたとおりに動く”ことの面白さに導かれ、大学時代は精密機械工学を専攻。卒業後は、複合機業界で世界最高レベルの技術力を持つ当社の門を叩いた。
入社10年目には、「新しい製品分野の設計に携わりたい」との思いから自動車メーカーに転職したが、そこでは実設計の多くを取引先に委託していて、モノとの距離を感じる現実に落胆。自ら設計することや、設計したものを動かせる魅力を再認識し、半年でカムバック入社した。
現在は設計業務のかたわら、若手に技術継承を行うべく設計図面のアウトプットを正しく行い、図面の指示を正確に解釈し、その加工についての理解などについて教える社内研修「図面解釈法」コースの講師も担っている。
そんな根っからの設計者の金子は、複合機の開発にかける熱い思いをこう語る。
「富士フイルムブランドとして市場に提供する以上、高画質で、壊れない複合機をお客様にお届けしたい。そのためにも、先輩方の知見を引き継ぎながら、一つでも二つでも新たな仕掛けを入れ続けられる設計者でありたいですね。
将来的には、現在の担当ユニットにとどまらず、複合機に必要なさまざまなユニットの開発を経験して、複合機全体の設計により大きな貢献を果たせる人材へと成長したいです」
この10月にスキャナー開発統括グループを兼務し、新たなキャリアを歩み始めた金子。活躍のフィールドを広げ、これからも、複合機の設計者としての挑戦は続いていく。
※ 記事内容は2024年10月時点のものです
