富士フイルムビジネスイノベーション デバイステクノロジー事業本部 プロダクション商品開発部 三好さん
2010年4月、入社。2017年3月まで、オフィス向け複合機からプロダクションプリンターのエントリーモデルまで幅広い機種を対象に、トナーを用紙に転写させるための重要な部品である、転写ユニットの設計を担当。その後、トナーを用紙に定着させる定着ユニットの設計を担当したのち、2020年9月から再び転写ユニットの設計に従事し、現在に至る。
画質に直結する、マーキングユニットの設計に魅せられて
複合機やプロダクションプリンターの内部で粉体状のトナーを操って用紙上に形成し、画を描くために不可欠な、マーキングユニット。プリントやコピーしたいデジタルデータはトナーを使って紙の上に形成するため、マシンの中では静電気や熱の力を利用する「帯電」「露光」「現像」「転写」「定着」のさまざまなプロセスが行われる。こうしたプロセスを担うユニットが、マーキングユニットだ。
▲ゼログラフィー技術を用いたプリント原理の模式図。吹き出しの中のプロセスをマーキングユニットが担う。三好さんは転写ユニットを担当している
「技術者を志すことになったきっかけは、中学生の時に学生ロボコンをテレビで目にして、自分もやってみたい!と思ったこと。その後、工業系の高等専門学校(高専)に進学し、開発系の仕事に就くことをより具体的にイメージするようになりました」
~富士フイルムビジネスイノベーション入社の決め手~
「そうですね……技術者として人の役に立ちたい!という思いは、昔から変わっていないです。学生時代にセブン―イレブンでアルバイトをしていて、若者からお年寄りまでさまざまなお客様が店頭のマルチコピー機を使う姿を見る機会が多かったこともあり、私にとって複合機は身近で、特にエンドユーザーのイメージがしやすいものでした。
ある時には、お年寄りにマルチコピー機の使い方を聞かれて案内したことがあり、とても便利だね!とマルチコピー機の存在に感謝されました。そんな体験からも、老若男女問わず日々使われて人々の役に立つ、この複合機の開発に携わってみたいと、おぼろげに思い描いたのが原体験かもしれません。
それと、サッカーをやっていた弟の影響で『FUJIFILM SUPER CUP』(当時は「FUJI XEROX SUPER CUP」)を観戦し、社名が頭に刷り込まれていました(笑)」
▲入社時は、特にマーキングユニットの設計を志望していたわけではなかったと振り返る三好。しかし、その魅力にどんどんのめり込んでいった
「複合機やプロダクションプリンターの画質性能に直結するのがマーキング。自分たちの設計内容が分かりやすく画質という結果に表れる仕事に、常にワクワクした気持ちで取り組めています」
新販売市場の、そして世界中のお客様へ、高画質な商品を届けたい
現在、開発部門では、プロダクションプリンターの新商品開発が進められている。三好は転写グループの一員として、それら機種の転写ユニットの設計を担当している。
開発上の重要課題は、基本画質性能の向上である。基本画質性能とは、文字通り、画像を安定して用紙上にプリントできる性能のこと。三好は「現行機もすでに一定の基本画質性能を備えていますが、新商品の開発では現状のレベルに甘んじることなく、さらなる高画質を追求しています」と語る。
基本画質性能の向上をめざす背景には、当社の市場が全世界に広がったことがある。例えば当社にとって新たな販売市場であるインドでは、印刷物に対して日本人の感覚からするとかなりビビットな色彩表現が好まれる傾向がある。そのため、用紙上に形成するトナー量一つとっても従来の想定用途に比べて大幅に増える。こういった、より多様なニーズに安定的に応えることができる基本画質性能が従来以上に求められる。
「自分がお客様やエンドユーザーの立場になったら、出来るだけきれいなプリントを手にしたい。だからこそ画質に少しでも改善の余地があるならば、そこにこだわって取り組みたいと考えています」
幅広い関係者との連携を力に、基本画質のレベルアップを追求
三好ら転写グループでは、基本画質性能の向上をめざして、ある挑戦を決断した。
「私たちが求める画質を実現するため、これまで長年、転写ユニットで使っていた材料を変更することにしました。材料も含めて現行機から大幅に設計を見直すことで、基本画質性能の一つである『面内ムラ』と呼んでいる、画像の均一性の向上を達成しつつあります」
とはいえ、材料自体の変更は、三好らが所属する転写グループだけでは為しえない。材料設計を担当する材料開発部、調達担当や生産技術などとも部門を超えた連携が必須になる。部品の設計に関する細かな要件を何度も詰め、双方が実験を重ねて検証することで、転写ユニットとして最適な新たな材料にたどり着いた。
しかし、画質向上にめどを付けるためには、想定外の課題を解決する必要があった。材料を大幅に変更したことで、周辺ユニットとの“相性”が悪化してしまい調整に迫られたのだ。
「私たちが担当する設計の範囲外へ影響が出てしまったんです。でも、材料を前の機種に戻して以前の画質に戻すということはしたくなかった。影響の出た範囲の担当者と丁寧に協議して、他の部分を調整することで、追求する画質性能を獲得する方向に挑戦することを決めました」
▲開発メンバーで議論を行いながら転写ユニットの設計を進める
もっとも、他のユニットで問題が生じることが最初から分かっていたわけではなかった。三好らは、まず自分たちが設計した転写ユニットを徹底的に調べ尽くし、その上で周辺ユニットにも目を向け、新たな材料との“相性”に問題があることをようやく突き止めた。
「材料変更による画質向上の効果については共通認識ができたので、それに伴い発生した新たな課題を潰していくという方向に一丸となって舵(かじ)を切れたのかなと思います。また、周辺ユニットの改善策を検証するために、『環境室』と呼ぶ、極端な気温や湿度を再現した実験室内での作業にも取り組みました」
世界各地のあらゆる環境下で問題なく商品が使用できるようにするためには、高温高湿や低温低湿の環境でもトラブルが発生しないことを検証する必要がある。30℃近い室温かつ湿度80%以上という、高温高湿の環境下で汗水を流しながら実験を行うこともあれば、室温10℃程度、湿度15%程度と極端に乾燥した室内で、防寒着を着ても体が芯から冷えきるのを感じつつ、静電気と闘い、かじかむ手指を動かして実験することも日常だ。
このような環境下での業務にも前向きに取り組む原動力は、「今が踏ん張りどころ」「一人でやっているわけじゃない、みんなで頑張ろう」といつも気にかけてくれる、開発メンバーの存在だという。
▲低温低湿を再現する、環境室と呼ばれる室内で実験を行う三好さん(写真中央)。こうして世界各地・四季の変化を想定した極端な環境を再現した環境下で実験を行うことで、安定した品質を追求している
より広い視野に立って開発を進められる技術者へ
三好らは一連の取り組みの結果、別のユニットの設計の最適化を図ることで、材料変更の効果を余すことなく発揮できる仕様を実現しつつある。
「当初は画質低下の原因がつかめずにかなり苦労しましたが、結果的にこれまで以上に他ユニットの開発メンバーと密に連携しながら、原因を追求し改善につなげるという経験を積むことができています。
そういった意味で、今回の“壁”は自分にとってはよかったのかなと。多くの関係者から『すごく画質がよくなってきたね』と声を掛けていただき、手応えを感じています」
今回の経験を経て、三好の中では一つの想いがより一層強くなった。それは、もっと広い視野に立って開発を進められる技術者に進化を遂げることである。
「駆け出しの頃は、目の前の課題をこなすだけで精一杯でしたが、経験を重ねるうちに『画質向上へもっとできることがあるのでは』と考える意識が自然と高まってきました。それを実現するために自分に必要とされるのは、開発の全体像を俯瞰(ふかん)した上で担当領域の開発を進める力を付けること。
今回の開発でもその力があれば画質低下の要因をいち早く見つけられたはず。そうした思いから“技術者魂”の灯が一段と強くなりました。お客様や自社により大きな貢献を果たせる広い視野を備えた技術者に成長したいです」
開発という仕事に携わるワクワク感はそのままに。でも、それだけでは到達できない高みをめざすために。三好は今、技術者として新たなステージに挑もうとしている。
※ 記事内容は2024年7月時点のものです
