兼務という選択が開いた道──戦略部門と開発現場をつなぐ田村の取り組みと思い
富士フイルムビジネスイノベーションのCTO戦略室 AI CoE(センターオブエクセレンス)と、ビジネスソリューション事業本部(以下、BS事本) コアテクノロジーラボで、AIの導入戦略と開発を担う田村。2つの部署を兼務しながら、当社のAI戦略を牽引しています。
「AI CoEは、AIに特化した商品導入戦略を立てる部門です。当社の3つの事業本部へのAI導入戦略の策定を行っています。中でも私はBS事本領域を中心に担当しています。富士フイルムホールディングス全体のAIの知見を結集し、当社商品に最先端のAI技術を導入していく戦略を立案しています。
もう1つの所属先が2025年4月から立ち上がった新たな研究開発組織コアテクノロジーラボです。BS事本の中に設置されていますが、3つの事業本部への技術導入を担っています。私の所属するグループでは、生成AIを中心としたAI機能開発を担当しています。CTO戦略室で立てた戦略を、AIの研究・開発を通じて実行する部隊です。私はグループ長として、他の部門の兼務者を含めて約30人のメンバーのマネジメントを行っています」
グループのメンバーは平均年齢が30代半ばと非常に若いことが特徴。田村は隔週で1on1面談を実施するなど、一人ひとりの特徴や強みを理解することを大切にしています。
「幅広い年齢・役職のメンバーがそろっているからこそ、垣根なく交流できる環境づくりを意識しています。具体的には社内SNS内に雑談チャットを設置して、メンバーが最近の出来事などを自由に共有できる場をつくったり、グループの運営会議中も並行してチャットを活用したりして、自由なコミュニケーションを促進しています。育児などでリモートワークをしているメンバーも参加しやすいよう、これらの取り組みはすべてオンラインで行っています」
当社のAI戦略の特長については、長年培ってきたドキュメントハンドリングの技術力を挙げます。
「富士ゼロックス時代からドキュメントカンパニーとして、文書のハンドリング周りに特化したAI技術を強みとしています。PowerPointやExcelなどの構造化されていない雑多なデータをAIが理解できるように構造化する技術が他社との差別化ポイントの一つです」
「モノづくりから「モノ+コト」づくりへ。技術で「人の役に立つ」を追い続けた13年
田村は2011年に富士ゼロックス株式会社(現・富士フイルムビジネスイノベーション)に新卒入社。就職活動時は「人の役に立つ仕事」を軸に、理系出身ということもあり、インフラ系やメーカーを中心に活動を行っていました。
「採用イベントで富士ゼロックスの社員と話した時、皆さんが親身になって話をしてくれて、そこから人生を充実させている様子が伺えたことが印象的でした。」
入社後は、富士ゼロックスのコア技術の研究開発を担う基盤技術研究所に配属。複合機内部の熱や流体の数値計算など、デバイス系の業務からキャリアをスタートさせます。
「最初は複合機の中の熱や気流の流れを計算する業務を担当していました。その後、徐々にAI寄りの業務に移行し、複合機の故障予兆診断などの研究開発を始めるようになりました。
当時の研究所にはまだAIに関する社内の知見者も少なく、外部の学会活動への参加や統計の独学など、自ら積極的に知識を獲得していきました。2017年当時、画像認識の深層学習などの研究が盛んでしたが、私はデータ分析による不具合予兆診断という異なる領域で研究を進めていきました。
その後、2022年からは全社のDX課題の解決として、物流の最適化や市場に出た複合機のリサイクル・リユースに関する予測などを担当。複合機そのものだけでなく、それを取り巻くサプライチェーンやリユースまで、より広い視点でAIの活用可能性を探る活動を行っていました」
2024年からは現在の部署に異動。ソリューションサービス向けの業務という新たな挑戦が始まります。
「これまで関わってきた複合機やデバイスから離れ、ソフトウェア系の商品に関わることとなり、初めはキャッチアップに苦労しました。ただ、AIのコア技術という観点ではむしろハードウエアよりソフトウェアとの親和性は高く、AI技術を活用できるシーンは増えたと感じています。
また共に働くメンバーからも大きな刺激を受けています。新卒で入ってくるメンバーはいわゆる『AIネイティブ』で、私たち以上にAIに詳しいことも少なくありません。そこで、年齢や役職に関係なく闊達に意見を交わし合い、それぞれがプロフェッショナルとして業務に取り組める環境づくりを心がけています」
部門の「隙間を埋める」存在へ。技術者から組織を動かすリーダーへの成長物語
長い社会人生活の中で田村がとくに印象深く振り返るのは、全社のDX課題解決に取り組んだ経験です。開発や生産現場へ新しい取り組みを導入する際、最初は大きな壁にぶつかりました。
「生産現場での機器のリユースやAI導入を進めようとしていたのですが、最初は現場部門から『本当に価値があるのか?』『うまく行くのか?』という疑問の声が上がりました。そこで、まずはモックアップ(模型)や簡単なプロトタイプを見せることにしました」
この取り組みが、プロジェクトの大きなターニングポイントとなります。具体的な形を示すことで、現場の反応は大きく変化していきました。
「プロトタイプを見せると、『これいいね』『もっとこうしたらいいんじゃない?』という前向きな意見が出てくるようになりました。そこから一緒に作り上げていく大きな流れができ、最終的には新しい技術が快く取り入れられることになりました」
入社から現在まで、田村自身も大きく成長してきました。とくに、仕事への向き合い方は大きく変化したと言います。
「入社当初は技術系の人間として、自分の専門領域で技術開発や研究をコツコツと進めていくタイプでした。でも今は、富士フイルムグループ内でAIを共通活用するためのAI共通基盤(AI-Hub)をさまざまな立場の人が集まって共同で作る活動を行っており、私たち研究部門だけでなく、開発部門、企画部門などさまざまな立場の人と同じ方向を向いて物事を作り上げていく必要があります。そのため、私自身はできるだけ部門と部門の隙間を埋めるような動きをして、多くの人を巻き込んで1つのことをやり遂げることを意識しています」
2024年に富士フイルムのメディカル領域でAIを立ち上げた鍋田 敏之チーフ・テクニカル・オフィサー(CTO)の就任以降、会社全体のAI戦略が大きく動き始めており、田村は今を「重要な転換期」と捉えています。
「2024〜25年は当社にとって重要な転換期だと思っています。企画マーケティングから開発部門、研究部門まで、部門を超えたチームを作り、各部門長とコミュニケーションを取りながら推進していくことにやりがいを感じています。20年後に振り返った時、『この時期が会社の重要なターニングポイントだった』と言えるように取り組んでいきたいと考えています」
医療AIから画像処理まで幅広い分野にチャレンジ。富士フイルムとの連携が生む可能性
富士フイルムビジネスイノベーションの働く環境に関して、田村は家庭との両立のしやすさをアピールします。
「技術系部門にしては珍しく、当グループの3分の1は女性社員なんです。育児中のメンバーも多いため、男性社員が2〜3カ月程度の育休を取得したり、女性社員がリモートワーク制度や時短勤務制度を活用したりと、それぞれが家庭と仕事の両立をうまく叶えていると感じます。
私も2人の子どもがいるのですが、第二子が生まれた時は育休を取得しました。当社はフレックス制度が導入されていますので、現在も週に一度は子どもの送迎のために早く退社するなど、柔軟に働いています」
またAI技術者にとっての当社の魅力について、田村は富士フイルムホールディングスの特徴を強調します。
「コアテクノロジーラボは富士フイルムの研究部門とも連携しているため、自分の専門領域にこだわらず幅広い分野にチャレンジできます。画像処理、自然言語処理、データ分析など、特定の領域に特化した専門性を持つ方が多く、医療分野のAIなど、異なる領域間の連携・情報共有もできる環境が整っています」
AIのプロフェッショナルとして活躍してきた田村。今後のビジョンについて聞くと、会社への深い愛情を語ります。
「入社前から思っていましたが、今あらためてこの会社は本当によい会社だと実感しています。とくに人と人とのコミュニケーションを重視して成果を作っていくところに魅力を感じています。そのため、『この会社を後世に残していきたい』という思いが根本にあります。
現在はAI関連の業務に携わっていますが、手段にはこだわらず、新たな技術が出てきた際にはそれを積極的に取り入れ、富士フイルムビジネスイノベーションという会社の成長に貢献していきたいと考えています」
最後に、どのような人材が活躍できるか、田村は次のように語ります。
「自身の個性を活かせる方が向いていると感じます。当社では社員それぞれが個性を尊重し合い、活かしながら仕事をする風土があります。研究や技術開発の領域では、柔軟な発想や多様性が非常に重要で、個人の考えが大きな成果につながることもあります。そのためこれから就職を考える方、とくに学生の方々には、自らの柔軟な発想や純粋な考えを大切にしてほしいですね」
- 記載内容は2026年4月時点のものです

