障がい者も“店頭で”活躍する環境をめざして──ダイバーシティ推進事業の現場
イオン株式会社の特例子会社として設立されたアビリティーズジャスコ。1980年の設立以来、障がい者の雇用促進と社会参加の場を作ることをめざしてきました。
「設立当初から、バックヤードなど後方作業ではなく店頭で障がい者の方が活躍できるお店を作ることを念頭に置いていました」と語るのは、当社のダイバーシティ推進事業部で部長を務める鳥井です。
現在、鳥井が率いるダイバーシティ推進事業部では、11名体制で3つの事業を展開しています。
「1つめは障がい者雇用推進サポート事業。ジョブコーチ・カウンセラー有資格者・対人相談支援経験者の5名構成で採用支援と職場定着支援、受け入れ部署へのケアを行っています。
2つめはメンタルヘルスケア事業。カウンセラー有資格者3名が心の健康相談窓口や健康経営推進に向けたアドバイスなどの取り組みを行っています。
そして、3つめが研修動画サービス事業。カウンセラー1名と障がいのある動画作成の専門家2名が教育コンテンツの制作を行っています。
これらの事業は最初から計画されていたものではなく、グループ各社からのニーズに応じて徐々に立ち上げ、発展させてきました。各事業において、スタッフの専門性と案件の難易度を考慮しながら適切な人員配置を心がけています」
事業運営において鳥井がとくに重視しているのは、企業担当者の評価につながる取り組みを行うことです。
「取り組みを一緒に進めて、その担当者の方が評価される事業は総じて長続きします。担当者が社内で適切に評価されることで多様性への理解が組織に風土として根付き、さらなる取り組みへの意欲が高まるという好循環が生まれるからです。
そのため、チームメンバーには常に相手企業のKPIを意識した提案や支援を行うよう指導しています。一時的な改善ではなく、長期的な視点での組織変革をめざしています」
障がい者雇用は“特別”じゃない。誰もが当たり前に働ける社会に向けた10年の歩み
2015年にアビリティーズジャスコにキャリア入社した鳥井。当初は資格取得を目的とした1年間の在籍予定でしたが、企業の取り組みに感銘を受け、社会課題を痛感したと言います。
「当時、私がキャリアコンサルタントの資格を取って専門性をつけようと思っていた時に、障がい者を専門的に雇用している会社に1年在籍すると、ジョブコーチという国家的に障がい者支援が認められる資格を取得できることがわかったんです。その資格を取るために当社への入社を考えました。
正直な話、入社前までは当社のことをまったく知りませんでした。しかし、入社してみて素晴らしい取り組みをしている会社だということを知り、同時にもったいないと感じたのです。それは、会社の取り組みが対外的に知られていないということ。その資源をもっと活用できるのではないかと考えたからです」
当時、社会では障がい者の方の働く機会が増えつつありましたが、まだ十分とは言えない状況でした。
「幼少期から障がいのある方たちと自然に接してきたので、彼らが社会進出するのは当たり前のことだと思っていましたが、社会一般はそうではないということにギャップを感じていました。
ただ、私が最初に配属された稲毛海岸センターの上司は車椅子の方で、普通に活躍されていました。そういうフラットな環境がある一方で、社会的には障がい者の社会進出はまだまだこれからという時代でした」
そこからの10年間で、DE&Iにおける社会の変化や企業の取り組みも大きく変わってきたと言います。
「この10年で、焦点は『活躍』と『キャリア形成』に移行してきています。現在の課題は、雇用の質の向上です。また、国連から日本の特別支援学校制度への指摘もあり、よりインクルーシブな社会への移行が求められています。
一方で、近年は働き方や職場環境の変化にともなうメンタルヘルスの問題も深刻化しています。そのため、障がい者従業員へのアプローチと受入現場従業員へのアプローチの両方を行うことで誰もが活躍できる職場づくりをめざしています」
社会課題としての障がい者雇用は、近年さらに重要性を増しています。
「今、とくに日本において単純に人材が不足しています。2030年には障がい者の方と高齢者の方を合わせると、日本人全体の4割以上になることが目に見えています。
障がい者の方やシルバー世代の方なども含めた多様な人材が活躍できる環境を整えておく。今のうちから、配慮を醸成する企業風土を持っておかないと、2030年には事業活動全体が成り立たなくなってしまうのが大きな社会課題としてあるのです」
支援の新たな可能性──1人から始めた新規事業が、500人を動かすオンライン研修に
鳥井のアビリティージャスコでの活動は、千葉市美浜区にある就労移行支援事業所の支援員から始まりました。
「近くにあったハローワーク千葉と精神科病院とで話をする機会があり、何か一緒にできないかという話になりました。そこで、3機関によるプログラムを立ち上げ、精神科デイケアを利用している患者さまと就労移行支援事業所の利用者さまの継続就労を目的とした就労サポートを始めました。
この取り組みが日本初の試みだということで高い評価を受け、翌年には東京ビッグサイトでの発表や論文掲載につながりました」
2017年に正社員となり、センターサポート部、エリアマネージャーとして活動の場を広げていきます。
「当時から、社会的に障がい者の方の雇用がより進んでいく時代にシフトしつつあり、イオングループ各社から当社への相談が増えてきました。そこで、2018年に新規事業プロジェクトチームを立ち上げることに。チームと言えども当初は私1人でしたが、グループ企業へのサポートを始めたのです」
2019年には、イオンモール幕張新都心で「いきいきイオン」という障がい者の店頭活躍推進の取り組みを実施。そして、2020年に大きな転換点を迎えます。
「まずは、イオングループとしては初めてとなる、『イオングループ障がい者合同面接会』を開催し、その後イオングループ全体向けの『イオン障がい者活躍研修』を毎月最終金曜日にオンラインで開催することになりました。
最初は100名から250名程度の参加者でしたが、現在では500名以上、うつ病などテーマによっては1,000名規模になるほどの高い関心を集める大規模な研修へと成長しました」
そして、2020年にグループ推進室を新設し室長として着任後、現在は11名体制となるダイバーシティ推進事業部の部長としてキャリアを磨いている鳥井。ここに至るまでに、重要な気づきを得ていたことを振り返ります。
「近所のドラッグストアで働く障がいのある方を見て、レジ業務自体はしっかりとこなされているのに接客における細かい部分が気になりました。その時、自分のこうある『べき』という理論を押し付けていたことに気づいたんです。
これをきっかけに『自分の常識は相手の非常識。相手の常識は自分の非常識』、『自分らしく』という言葉を大切にするようになりました。常識にとらわれることなく、障がいのある方もない方も自分らしく活躍できる、もしくは自分らしく活躍できていることを認識できる。
個々人のこれまでの経験や生育歴を貴重な財産として認め合い、それを職場で活かしていける環境をつくりたいという想いで活動を続けています」
支援ではなく、誰もが活躍できる社会へ。多様性の真の実現に向けた挑戦
鳥井は、これまでの活動を通じて大きな学びがあったと言います。
「障がい者雇用に対する見方は、人それぞれの経験によって大きく異なります。いろいろな考え方があると思いますが、私はこれまでの経験を通して障がい者のサポートばかりに目を向けるのではなく、『いかに共に働く人々が誰でも同じように「自分らしく」活躍できるか』という視点を持つことが望ましいと考えています。
当初は1人で活動を進める中で、常に学び続けられたことと学んだことをアウトプットする機会が多かったことが重要でした。とくに、2019年以降はグループ全体への説明や研修、部長職や経営層への理解促進など学びとアウトプットを繰り返す機会が多く、これが知見の蓄積に役立ちました」
現在、部署として最も注力しているのは、研修教育コンテンツの開発です。
「管理職や部門長へのアプローチはできつつありますが、最も理解いただく必要があるのは現場の皆さんです。現場の負担感軽減や風土醸成のために、動画などを通じた啓発に注力しています。
誰もが活躍できる社会の実現をめざすために、具体的な行動を起こせる人材の育成に力を入れていきたいです。日本全国で展開するイオングループのスケールメリットを活かし、生活に密接している全国のイオングループの店舗店頭で、障がいのある方が活躍することは、その地域社会に大きな影響を与えると考えています。
グループ貢献を通じた、地域貢献、そしてそれが日本全体の風土をかえることにつながるかと思います。そういった意味で、たいへんやりがいを感じられる事業です」
最後に、これからの活動について自身の想いを伝えます。
「現在の日本社会は、すでに11人に1人が障がいのある方で、11人に1人がLGBTQ+の方。そして、約30%が高齢者という現状があります。この数からみても、今や多様性を推進していこうという時代ではなく、すでにそこにある多様性を認め、尊重し、活かしあおうよという社会に突入していると考えます。
多様性の推進は、ゴールではなく、あくまでプロセスです。現状は、そこにある多様性を受け入れ、活かしていく段階なのにもかかわらず、職場環境が多様性に追いついておらず、生きづらさを感じ、自分らしく生きることが難しい人がたくさんいらっしゃいます。
今後活動を続ける中で、イオングループ、ひいては日本全体の多様性における風土の醸成を通じ、誰もが活躍できる社会の実現に少しでも貢献していきたいです」
※ 記載内容は2025年6月時点のものです

