豊田通商の強みを活かし、サーキュラーエコノミーに貢献
「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」とは、製品や素材などの価値をできるだけ長く保全・維持し、廃棄物を最小限化する経済システムのこと。片岡はこのサーキュラーエコノミーに関して、三つの案件を開発・推進しています。
一つめは、自動車のリサイクル。これまでも資源価値が認められた鉄スクラップは循環利用されてきましたが、焼却処分されていた一部の廃棄物にも注目しています。
「サーキュラーエコノミーの実現に向けて、プラスチックなどこれまで大半が焼却処分されてきた廃棄物も再資源化させていこうという機運が、自動車メーカーを中心に高まっています。ただリサイクル材の使用を増やすには、その安全性が求められます。
そこで、リサイクル材がどこで生まれ、どんな工程を経てもたらされたものなのか、すなわちトレーサビリティをデジタルの力で可視化させていく必要があります。当社ではパートナー企業と一丸となり、自動車業界でのサーキュラーエコノミー領域でのデジタル化に取り組んでいます」
二つめは、太陽光パネルのリユース・リサイクルです。太陽光パネルは、2012年に「FIT(固定価格買取制度)」が始まったことを皮切りに導入が増加。買取期間が満了を迎える2032年ごろに、大量の廃棄物が出ることが危惧されています。
「豊田通商はさまざまな再生可能エネルギー事業に取り組んでいますが、一方で廃棄のことも忘れるわけにはいきません。現在、使用済み太陽光パネルは産業廃棄物として焼却されたり埋め立てされたりするのが一般的ですが、『大きな費用がかかるから』という理由で一部では不法投棄されてしまうケースも。こうした現状を受け、リユースやリサイクルも含め、最適な処理のあり方を模索しています」
三つめは、電動プラスチック玩具の回収・循環の実証実験です。これは本部内横断のタスクフォースプロジェクトとしてスタートし、所属の異なるメンバーで検討を進めてきた案件です。
「日本は焼却大国と言われていて、国内で出るゴミの約8割が焼却されていて、2割ほどしかリサイクルされていません。焼却処分自体は処理方法の一つではありますが、CO₂が比較的多く発生するなどの問題があるのも事実。そこで、『できる限りごみの焼却量を減らし、資源として生まれ変わらせるにはどうしたら良いか』を起点に、チームでブレストを重ねてきました。
2022年にプラスチックのリサイクルの促進をめざす法律、プラスチック資源循環法が施行されています。そんな国の動きにも後押しされるかたちで、これまで豊田通商が主としてきたBtoBだけでなく、消費者との接点づくりにも視野を広げてきました。
こうして生まれたのが、使用済みの玩具を消費者から回収して、リサイクルルートにまとめる仕組みづくりです。同様の取り組みはすでにありますが、それらのほとんどは『自社ブランドの製品を回収する』というもの。私たちは競争ではなく協調領域として、会社やブランド、業界をまたいだ回収をめざしています」
社会課題解決とビジネスの両立の難しさを実感。地道なヒアリングを経た顧客設定を
現在、玩具の回収については対象を「電気・電池で動くプラスチック製品」としています。しかし、将来的には対象玩具を広げ、さらには玩具にとどまらない規模での回収も見据えています。
「廃棄物を収集したり処理したりする際、廃棄物処理法という不法投棄をなくすためのルールを遵守しなければなりません。その廃棄物処理法に則った形にすべく、電動玩具含む小型家電のリサイクル認定を受けた企業とのパートナーシップを組みプロジェクトを開始することとしました。
一方、消費者にわかりやすいスキームをめざして、回収する玩具のメーカーを問わないかたちとしています。いったんは電動プラスチック玩具を対象に実証実験をスタートしていますが、たとえば、『プラスチック玩具はすべて回収します』という具合に、より消費者に参加しやすいものにしていけたらと考えています」
こうして玩具業界でつくり上げた仕組みやノウハウを、ゆくゆくは雑貨など違う業界にも広げていきたいと話す片岡ですが、そんな彼がキャリアをスタートさせたのは、リサイクル・廃棄物処理の分野でした。
2012~2013年には実習生として豊田通商アメリカへ。自動車製造工場から発生する鉄スクラップの回収・加工をする事業会社で、コーディネーターを務めました。2017~2021年にはインド赴任を経験。現地でゴミ問題への課題意識を強めたと言います。
「インドは重大なゴミ問題を抱えています。ほんの数年間だとしても、自分が世話になった国がそんな状況にあることを目の当たりにし、廃棄物の社会的影響の大きさを肌で感じました。帰国するころには、課題解決に寄与したいという想いがどんどん膨らんでいきました。
帰国後、金属本部に復帰したタイミングで、本部内横断のタスクフォースの立ち上げのアナウンスがあり、またとない機会だと感じて手を挙げました。それが、この玩具回収プロジェクトにつながっています」
現在、玩具回収に向けた実証実験が進められていますが、社会課題の解決をビジネスとして成立させる上でさまざまな壁に直面してきた片岡。中でももっとも苦労したと振り返るのが、顧客設定でした。
「玩具を使う消費者なのか、焼却の費用を払っている自治体なのか、それともその予算を立てている国なのか。ターゲットをどこに定めるべきか悩み続ける中、ブレイクスルーのきっかけは、チームメンバー6人が自治体やブランドオーナーを対象に熱心にヒアリングを行ったことでした。
1カ月と期間を決めて総当たりした結果、チーム全員が課題だと感じたのが、ブランドオーナーが抱える『拡大生産者責任』。これは、製品の製造者がその製品のライフサイクル全体、とくに廃棄物管理の段階において環境への影響を負う責任を持つという考え方のこと。ブランドオーナーにできることには限りがあります。そこにわれわれが役割を担う余地があるのではないかと考えました」
パートナー企業に学びながら、消費者を巻き込んで盛り上げていく
顧客や解決すべき課題が明確になったことで、玩具回収プロジェクトは勢いづきます。2023年7月に愛知県で実証実験がスタートすることをリリースした途端、社内からも多くの反響がありました。
「化学品、繊維、IT関連などの他部署からも、スキーム構築においてアドバイスをもらい、各部署の事業とのシナジー効果を狙った施策アイデアなどももらいました。また、スポーツイベントとのコラボや、トヨタグループの従業員や家族、その友人・知人限定の招待制ファミリーセールで玩具メーカー様とのコラボイベントなどのオファーをもらいました。
こちらが情報発信することで、それに興味のある人を巻き込んでいく、そんな横串の刺し方があることを学べたと感じています」
一方で、克服すべきハードルも残っています。実証実験として有用なデータを集めるには、まずは相応の回収量を確保することが不可欠です。
「ブランドオーナーにとってメリットのあるサービスにするためにも、回収箱を置いて終わりとするのではなく、この活動を盛り上げていかなければなりません。そこでいま一番注力しているのが、消費者が参加したくなるような施策設計です。
たとえば現在、ユーザー登録後に玩具を回収箱に入れるとポイントが付与される仕組みの実装をめざして、他部署と連携してアプリ開発を進めています。最終的には、回収された玩具の総量や、リサイクル結果も皆さんにお見せできればと考えているところです」
こうした消費者向けの施策は、豊田通商としても前例は少なく、ましてや片岡にとっては初めての挑戦。異業界から玩具回収に参画してくれているパートナー各社の知見に学ぶところが大きいと言います。
「パートナー各社は、普段消費者と関わりを持つ機会の多い企業であり、どうすれば消費者の感度が高まるのかを一緒に考えてきました。さまざまなことを勉強させていただいています」
業界を超えた連携の旗振り役に。サーキュラーエコノミーの実現に向けて
いまやサーキュラーエコノミーの考え方は、どの業界や企業にとっても無視できないものとなっています。一方、一社だけではできないことが多いのも事実。組織の枠を超えて技術と技術を結び付けたりスキームをつくり上げたりしながら、新たな経済や社会の仕組みを構築していくところに、商社としての介在価値があると片岡は強調します。
「なぜわれわれが玩具業界で事業をするのかは常に自問しています。しかし、逆の観点から考えると、これまで自動車業界やリサイクル事業で培ってきたものを別の業界で活かすことも重要です。実際にブランドオーナーさんと話していると、豊田通商の持つノウハウやネットワークに、大きな期待をいただいているのを感じます。
現在、私は金属本部に所属していますが、商材の種類にはこだわらず、横軸での連携を重視しています。これからもさまざまな部署を巻き込みながら、サーキュラーエコノミーの理念を推進していきたいですね。
私個人としては、まず日本というフィールドでプロフェッショナルとして事業を構築し、社会課題の解決に取り組むことをめざしています。その上で、グローバル企業の一員として、自分がこれまで目にしてきた途上国のゴミ問題の解決を使命として取り組んでいきたいと考えています」
玩具回収の実証実験を通じて、世界が直面する深刻な課題解決の入り口に立ち、確かな一歩を刻んだ片岡。その挑戦は、始まったばかりです。
※ 記載内容は2023年11月時点のものです

