燃料電池技術の多用途展開──新たな挑戦への第一歩
私が現在参画しているのは、発電機向け燃料電池(FC)モジュールの製品化プロジェクトです。このFCモジュールを活用することで、FC製品メーカー様の商品化スピードを大幅に加速させることができます。そして、お客様の製品を通じてカーボンニュートラルの実現に貢献すること、それが私たちのミッションです。
このプロジェクトが始まった背景には、豊田自動織機が2016年から展開してきたFCフォークリフトの販売実績があります。FCフォークリフト事業を展開する中で、当社が培った燃料電池技術を他の用途にも応用できないかという構想が生まれました。それが燃料電池技術の多用途展開、つまりFCモジュール開発のきっかけです。実際、FCフォークリフトの発電ユニット出力帯は、一般的な小型発電機で使用される出力帯と似ており、そのため発電機への応用は非常に親和性が高いものでした。さらに、お客様である発電機メーカー様からお声がけいただいたことが、開発をスタートさせる大きなきっかけとなりました。
プロジェクト開始当初は、私が中心となり数名のメンバーでスタートしました。お客様と協力し実証試験を進め、この段階で得た経験があったからこそ、現在の製品化プロジェクトへと進むことができたのです。
現在、私たちの部署には、商品企画・製品企画から開発、製造、生産技術、品質保証、営業まで、さまざまな専門性を持つメンバーが集まり、一丸となってプロジェクトに取り組んでいます。部門の垣根を越え、一つの目標に向かって進んでいく体制が整っています。
その中で私が担当しているのは、商品企画および営業技術です。私はお客様と対話する最前線に立つ立場にあり、市場情報やニーズを直接ヒアリングしています。国内だけでなく海外のお客様のもとにも足を運び、グローバルな市場動向を把握しながら、そこで得た市場のニーズを社内の技術シーズと結び付け、具体的な製品仕様へと落とし込む役割を担っています。また、営業技術としてお客様に対して技術的な説明やサポートを行うことも重要な仕事です。
信頼される製品をめざして ── FCモジュール開発の舞台裏
私がこのプロジェクトに参画することになったきっかけは、お客さまから「燃料電池発電機を本格的に製品化したい」という強いご要望をいただいたことでした。このご要望を受け、FCモジュールの製品化プロジェクトが正式に立ち上がりました。当時の私は試作実証のフェーズから携わっており、「ぜひ自分の手で製品化をやり遂げたい!」という強い意志を持っていました。やってやるぞ、という気概を胸に、このプロジェクトへの挑戦を決めたのです。
まず最初に取り組んだのは、製品仕様の明確化でした。お客さまへのヒアリングを重ねる中で、時には定量的で表現できない抽象的なニーズや、言葉にならない潜在的なニーズを汲み取る必要がありました。そうしたニーズを引き出すため、仮説を立ててヒアリングし、それを検証していくというアプローチを採用しました。お客様の要望を具体的な製品仕様として確定させていく作業は決して簡単なものではありませんでしたが、それが製品化への重要な第一歩でした。
プロジェクトを進める中で、大きな壁にも直面しました。FCモジュール試作機をお客さまに実際に使用していただいていた際、燃料電池特有の騒音が問題視されたのです。これは単なる調整不足ではなく、商品価値そのものに関わる重要な課題でした。この問題は、開発プロセスが進行中の中で発覚しましたが、「価値ある製品を提供するためには避けては通れない課題である」と捉え、早急に対応を開始しました。
問題解決にあたっては、トヨタグループの「問題解決8ステップ」の考え方を活用しました。この手法は、主観や経験に頼った思い込みを排除し、客観的なデータや事実に基づいた論理的アプローチで問題解決を図るものです。有識者を集めて原因究明を行い、モジュール内の各部品を徹底的に分析することで、真因を特定しました。細かな機能部品やホース単位まで分解し、時には部品単体で音を鳴らしながら確認を進めました。この過程で、「まさかこれが原因だったとは」といった新たな気づきも得られました。その結果、確実な解決策を講じることに成功しました。
問題対応後は、お客さまに丁寧な説明を行い、技術的な背景を共有しながらご納得いただけるまでコミュニケーションを重ねました。この対応により、お客さまから評価をいただき、最終的には満足いただける品質を実現することができました。開発の過程で培った知見を活かし、さらなる改善にもつなげられる体制が整ったことは、プロジェクトチーム全体にとっても大きな財産となりました。
信頼される技術を形に──FCモジュール販売開始と広がる可能性
2025年10月より、いよいよFCモジュールの販売を開始することができました。現在は発電機メーカー様を中心に商談を進めている段階です。当社のホームページでのプレスリリースに加え、いくつかの新聞社様にも取り上げていただきました。また、展示会での出展では、多くの方々から「ぜひ詳しく知りたい」という前向きな声を寄せていただいています。こうした反響を目の当たりにすると、これまでの取り組みが少しずつ具体的な成果として実を結んでいることを実感します。
お客様からいただいたお声の中でもとくに印象に残っているのは、当社のFCモジュールが「FCフォークリフトで市場実績のある技術であるため、信頼性が高い」と評価いただけた点です。また、コンパクトな設計で搭載が容易であることも、お客様から高い評価をいただいています。このような信頼を得るため、私たちは日々、お客様への迅速な対応を心がけてきました。実際に製品をお使いいただく中で疑問やご意見をいただいた際には、できる限り速やかに回答し、解決に努めています。これは、燃料電池技術を長く経験してきた自分ならではの強みを活かせる部分だと感じています。
さらに、取扱説明書や製品仕様書といったドキュメントの完成度を高めることで、事前に疑問や懸念を解消し、問い合わせ自体を減らす工夫も行っています。こうした一つひとつの対応が信頼を積み重ねる基盤となっていると実感しています。 このプロジェクトを通じて、私自身が大きく成長できたと感じる点がいくつかあります。特に、顧客の使用環境下でのテストが、理論だけでは見えづらい課題を解決するうえで重要だということを、実体験を通じて学びました。また、お客様からのご意見や改善要望に迅速に対応することで信頼を築けること、さらにお客様の声を正しく製品に反映するプロセスがブランド価値の向上につながることも深く理解しました。
今回の経験から強く学んだのは、技術者としての視点に加え、現場やお客様の声に耳を傾ける姿勢の重要性です。技術者としての知見を活かしながらも、顧客ニーズを的確に捉え、それを製品化につなげる取り組みは、このプロジェクトにおける貴重な学びだったと感じています。
挑み続ける未来──FCモジュールが拓く水素社会への貢献
今後、このプロジェクトではさらなる拡販に力を入れ、新たな市場を開拓していきたいと考えています。その一方で、データやAIを活用した新しい付加価値サービスの提供にも注力し、当社のFCモジュールならではの強みを積極的に押し出していく方針です。燃料電池の技術は今後も進化を遂げていくことでしょう。その中で、私たちがめざす進化の方向性は、── より小型に、より静音に、より高効率に、より長寿命に、そしてより安価に──これらを追求することです。お客様の声を丁寧に聞き取りながら、社内の技術開発シーズを確認し、戦略的な商品ロードマップを作成していきます。そして、お客様に今後も安心して選んでいただける製品を提供するべく、全力で取り組んでいきたいと思っています。
このプロジェクトを通じて、私たちは常に最新技術や新たなアイデアを追求し、社会や市場のニーズに応える革新的な組織をめざしています。挑戦を恐れず、前例のない技術や新しい取り組みに積極的に挑戦する姿勢を大切にしています。もちろん、技術開発において失敗はつきものです。しかし、失敗を恐れず果敢に挑戦できる環境を構築することで、組織全体の成長を推進する。それこそが私たちの取り組みにおける重要な柱です。この挑戦の文化を根付かせることで、チーム全体がより創造的かつ意欲的に働ける風土を実現したいと考えています。
水素社会の実現に向け、FCモジュールの普及が果たす役割は非常に大きいと考えています。燃料電池は、CO2排出の大幅な削減に直結するだけでなく、火力発電やガソリンエンジンが主流であった従来のシステムから、クリーンで持続可能なエネルギーシステムへの移行を加速させる鍵となる技術です。さらに、燃料電池の普及によって、水素供給スタンドや輸送ユニットといったインフラ整備も促進されることでしょう。ハードウェアとインフラの相互促進が進むことで、水素社会全体の構築スピードが大きく向上します。こうして環境負荷の低減やカーボンニュートラルの実現に大きく貢献していけるという使命を、私たち自身が強く感じています。
最後に、このプロジェクトに関わるすべての方々、そしてこれから参加される皆様にメッセージをお伝えします。私たちは、発展途上の水素社会という未踏の地に挑み続けています。その道のりでは、技術的な課題や予期しない困難に直面することもあるかもしれません。しかし、それらをひとつひとつ乗り越えた先には、大きな達成感と日々の努力が形となった成果があります。一人ひとりの献身的な取り組みが集まることで、世界中の人々の暮らしを支える水素社会の基盤を構築することができます。この大きな挑戦に共に挑み、未来を切り拓いていきましょう。

