研究とバイク旅の日々から自動車部品業界へ、温かい人との出会いが決めた私の選択
大学院時代、私は研究室での研究や学会発表に明け暮れていました。その合間にはアルバイトで資金を貯め、バイクで一人旅に出かけたり、マラソン大会への参加を名目に友人と旅行に出かけたりと、充実した学生生活を送っていました。バイク旅を始めたきっかけは、研究室に来ていた企業の研究員の方が「学生時代にバイクで日本一周をした」というエピソードを話してくれたことでした。その話に刺激を受け、自分も挑戦してみたいと思ったのです。当初は50ccの原付で旅をしていましたが、未知の土地に向かうたびに新しい世界が広がる感動を味わい、次第に新たな発見を求めて旅をするようになりました。マラソンもまた、アルバイト先の社員からの誘いで始めたものです。訳もわからず出場した最初の10kmでは疲労困憊でしたが、ゴールに飛び込んだ瞬間の達成感は想像以上でした。どちらも人生の先輩とのちょっとした出会いが契機となり、今も自分の中で生きている大切な経験です。
就職活動では、自分の研究内容を活かせる業界を探していました。研究テーマがパワーエレクトロニクス分野で、モータのきめ細かな制御方法の解析を行っていたことから、モータに関連する自動車業界と鉄鋼業界を中心に調査を進めました。自動車業界ではEVの駆動モータに着目し、鉄鋼業界では大規模な工場でモータを活用した圧延技術によって鉄板の厚みを数μm単位で制御する繊細さに惹かれました。最終的には、自分が関わる製品の分かりやすさを重視し、自動車業界の中でも部品業界を選択しました。
各社の製品はどれも技術的に優れており、最終的な決め手となったのは社風でした。学生時代にリクルーターとしてお会いした先輩方は、いずれも優しさの中に芯の強さを持つ人物でした。会社でバリバリと働き、深い知識を持つ彼らが、自分の立場に目線を合わせてくれたことに感銘を受けたのです。就職に対する不安を抱えながら自分をアピールしていましたが、会話を重ねるうちにその不安が和らいでいくのを感じました。豊田綱領の「温情友愛の精神を発揮し、家庭的美風を作興すべし」を最も体現している会社だと感じ、ここで自分の力を発揮したいと決断しました。興味のあった自動車部品の中でも電子機器開発に携わることができる点、そして会社としてエレクトロニクス事業の拡大に力を注いでいることも大きな魅力でした。HV・PHV・BEVの増加が見込まれる未来において、業界発展の一助となるべく、自分の力を発揮したいと考えたのです。
入社後の研修から製品開発者へ、想像を超える広がりを体験した日々
入社後は約2週間の新入社員研修を経て、配属先の工場で現場実習を行いました。その後、技術職向けの「技術研修」を受けることになったのですが、この研修が非常に印象深いものでした。ビジネスマナーなど一般的な内容が中心だった新入社員研修とは異なり、技術研修では大学時代の専門分野以外の項目についても幅広く学習しました。電気系を専攻していた自分にとって、材料力学や鍛造・鋳造、エンジン分解といったまったく未経験の分野に触れることは、技術者として最低限必要な知識を得る貴重な機会となりました。
研修を終えた後、私が配属されたのは車載向けの電力変換機器を開発する部署でした。配属直後は、回路図を見ても電流の大まかな流れを理解できる程度で、各回路のチップコンデンサやチップ抵抗、ICといった部品の役割や、基板上の部品配置の意図について多くの疑問を抱えていました。そのような状況からのスタートだったため、まずは製品評価や試作用検査装置の準備に取り組み、自部署の製品特性を学ぶことから始めました。製品の特性を理解する中で、たとえばこの部品は特定の保護機能を目的に使われているのか、といった情報を少しずつ整理しながら、自身の知識として積み上げていきました。
実際に働き始めて、製品開発者に求められる知識量や業務内容がこれほど多岐にわたるとは、入社前には想像していませんでした。電気的な知識はもちろんのこと、設計から試作、評価を経て次のフェーズへ進む一連の過程には、関係部署や部品メーカーとの調整など、多岐にわたる知識とスキルが求められます。大学時代は一つの専門分野を突き詰め、それを成果としてまとめるアプローチが主でしたが、開発現場では広範な知識や経験、関係者との連携が必要不可欠であり、それに基づく業務やスケジュール管理の重要性を痛感しました。ただ、幸いにも頼りになる先輩方が多く、一つ一つ助言を受けながら着実に知識を身につけることができました。この経験が、後の自分の成長の土台となっていったのです。
研修講師として販売店の成長を支え、自らも成長を続ける日々
現在、私はトレーニングセンターの研修グループに所属し、主に物流システムに関する研修の講師を担当しています。それまでの約15年にわたる設計・開発経験を通じて、組織の成長には『人材』を『人財』へと育成することが鍵であると考えるようになり、その思いを胸に志願して現在の部署に移籍しました。 移籍したばかりなので、今はまだ一部の研修のみの担当ですが、全ての研修を担当できるよう、日々勉強を進めているところです。また、サービス技能コンクールや教育担当責任者会議といった自職場が主催するイベントでは、事務局として司会を務めたり、運営リーダーとして活動したりしています。加えて、安全衛生管理の取りまとめ業務も担当しており、研修の品質向上と職場の安全確保に尽力しています。
初めて研修講師を務めたときのことは、今でも鮮明に覚えています。とても緊張しましたが、徹底した準備を行い、タイムマネジメントを意識して臨みました。研修の核となる内容については、ポイントを分かりやすくまとめ直し、研修の要所に効果的に散りばめました。 実習ボードを使った実技も取り入れているのですが、まずは手を動かして表面的な学習を行い、その後、資料を用いて知識をさらに深掘りすることで、研修生が内容を腹落ちできるよう工夫しました。研修後も受講生が内容をしっかりと記憶し、実務に結びつけられるよう、研修のストーリーを試行錯誤しながら構築したのです。
その結果、準備していた内容をしっかりと提供することができ、販売店のサービススタッフに対し、知識と現場で使えるテクニックを効果的に伝えることができました。研修後のアンケートには、「講習を受けて、まず症状を見てから信号が来ているかの点検、テスター測定による発見が早くなった」「わかりやすく教えていただいたので、理解が深まった」「お客様のところでも役に立つと思います」といったコメントをいただき、高い評価を得ることができました。とくに印象的だったのは、その後の研修やサービス技能検定で再会した際に、「ありがとうございました!」と声をかけていただいたことです。研修での学びが実務や技能検定で活かされていると話してくれて、研修が現場で役立ち、価値を提供できていることを実感しました。まさに、私たちのミッションである「成長を実感した笑顔」を目の当たりにした瞬間でした。
サービス技能コンクールでは運営リーダーを担当しました。関係者、特に他のリーダーに対する協力関係の構築を行い、細かな部分は信頼して任せ、大きく曖昧な部分については事前に相談し、担当を明確に分けて課題を整理しました。後々課題となりそうな部分を察知し、事前に解消するように配慮し、メンバーがそれぞれ与えられた役割に安心して集中し、責任を全うできる環境を整えました。当日の運営をスムーズに進めるための準備を徹底した結果、トラブルなく乗り越えることができました。
もちろん、失敗や苦労もありました。突発的に担当した業務では、準備時間が極端に少なく、当日は最低限の情報共有で何とか乗り越える状況でした。担当する以上、主体的に動き、事前にやるべきことを宣言し、十分な準備を整えて当日を迎えるべきだったと深く反省しています。この経験を通じて、計画的な準備の重要性を改めて実感しました。現在は、業務の要不要について的確な提言を行い、確実な事前準備を徹底し、タスク管理を行って効率的な進捗を図っています。自転車操業に陥らないよう、PDCAサイクルのチェックとアクションまでを見据えた計画的な準備を心掛けています。
学生時代と比べ、専門知識の習得はもちろんのこと、物事への向き合い方や結果の捉え方についても大きく成長したと感じています。PDCAサイクルを意識し、視座を高く持ち、できるだけ客観的に物事を見るようになりました。家庭と仕事を両立させるため、優先順位を明確にし、メリハリを持ちながら計画的に進めること、人の良いところを見つけ、前向きな姿勢を維持することも意識しています。また、一つ一つの結果に一喜一憂せず、冷静に受け止め、謙虚に次へつなげることで、精神的な安定を保ちながら前進できるようになりました。
教育DXとXR技術で切り拓く、人材育成の未来
短期的には、研修に加えて、販売店スタッフの成長につながる教材開発に力を入れていきたいと考えています。とくにXR教材の導入には大きな可能性を感じていて、触れる機会が少ない物流システムを対象に、各販売店のスタッフがいつでもどこでも操作実習を行える環境を整備したいと思っています。フォークリフトの内部部品や電気回路の流れ、油圧回路の油の動きを可視化することで、理解のさらなる向上を目指しています。また、eラーニングなどのデジタル教材を充実させ、時間や場所を問わず学習が可能な環境を構築することも重要な取り組みです。具体的に何をどこまで実現できるかは未知数ですが、さまざまなアイデアを具現化することに挑戦していきたいと考えています。
中長期的には、新しいアイデアを積極的に採用し、研修や教育の質を向上させることを目標としています。現場のニーズをウォッチし、それに基づいて研修内容をブラッシュアップしたいです。教育コンテンツの充実化を図り、学びの効果を最大化すること、そしてESが高い職場づくりを推進することも重要だと思っています。充実した研修を提供するための体制を構築し、その取りまとめを行っていきたいと考えています。
これらの目標を達成するためには、販売店さんとのコミュニケーションを大切にし、現場の生の声を聴くことや、時代の最先端をウォッチし、新しい技術や新しいトレンドの中で、教育に転化できるものを積極的に採用していく姿勢も大切です。
現時点では、アイデアの数に対して単純に人手が不足している状況です。そのため、一緒に働く仲間を探しています。自分自身は、講師としての経験不足を感じる部分はありますが、場数を踏みながら経験を積んでいくものだと割り切っています。前向きな姿勢で取り組んでいます。
この講師業は、前向きに取り組むほど充実感が増すと感じています。PDCAを回しながら新しい取り組みを積極的に取り入れ、トヨタらしい改善を進めることができる業務です。また、私のように異なる専門性を持っているからこそ、これまでと異なる新しい視点からの変革を起こせるかもしれません。現在はトレーニングセンター講師陣の世代交代のタイミングでもあるため、熱意を持った方にぜひ興味を持っていただきたいです。自ら進んで新しいアイデアを提案でき、協力意識を持ち、他者との連携を大切にできる人、そして人の成長を楽しみにし、支援する姿勢を持てる人と一緒に働きたいと思っています。
私は学生時代に出会った先輩の影響を受け、バイク旅やマラソンといった新しい挑戦を経験しました。就職活動では、先輩たちとの出会いがきっかけでこの会社を選びました。入社後には、専門分野外の研修を通して新しい知識を身につけることができました。今度は、私たちが講師として研修を通じて、後輩たちを明るい未来へ導いていく番だと考えています。

