グローバル連携で挑む次世代電池制御基板開発プロジェクト
私が現在参画しているのは、フォークリフトなどの産業車両に搭載されるリチウムイオン電池の電池制御開発プロジェクトです。このプロジェクトの最大の特徴は、グローバルで汎用的に流用可能な電池制御基板の開発を目指していることです。従来のような拠点ごとの個別開発ではなく、日本、欧州、北米の技術者が一体となって取り組む大規模なプロジェクトとなっています。
プロジェクトメンバーの構成は非常に多様で、各拠点の専門性を活かした体制を構築しています。日本側では、私がプロジェクトマネージャーとして全体の取りまとめを担当し、システム開発者4名、ハードウェア開発者7名、ソフトウェア開発者6名、さらに外部開発委託者も参画しています。一方、現在進行中の欧州からは約10名の技術者が参画しており、バッテリーマネージメントシステム開発者、ハードウェア開発者、ソフトウェア開発者といった専門分野ごとのエキスパートが揃っています。
私の役割は多岐にわたります。電池制御基板開発の全体的な取りまとめから始まり、企画立案、総括業務、日程立案、進捗管理まで、プロジェクト全体のマネジメントを担っています。特に重要なのは、日本、北米、欧州という地理的に離れた各拠点の技術者との協業を推進することです。さらに、営業部門や生産管理部、品質保証部、調達部など、社内の関係部署との調整業務も私の重要な責務となっています。この複雑な組織間の調整を通じて、グローバルな視点での製品開発を実現しようとしています。
豊富な経験を武器に、基礎から積み上げた開発の道のり
私がこのリチウムイオン電池プロジェクトに参画することになったのは、これまで培ってきた多様な経験が活かせると確信したからです。フォークリフトのコントローラー開発から始まり、デジカメやビデオカメラや携帯端末などの民生品のディスプレイ、エンジンの電気系部品、そしてプラグインハイブリッド車のリチウムイオン電池制御基板まで、幅広い分野で技術開発に携わってきました。産業車両業界でもエネルギー源のリチウムイオン電池化が急務となっている状況を目の当たりにし、これまでの知識と経験を結集させて貢献したいという強い思いを抱いていたのです。
プロジェクトが始動した当初は、少人数のメンバーで基礎技術開発と要素技術開発からスタートしました。開発のアプローチは、私の経験から得た知見を基に体系的に進めていきました。まず、電池制御システムの根幹となる電圧計測、温度計測、電流計測といった基本機能の開発から着手し、1次故障系のダイアグ機能の構築へと展開しました。その後、より高度な要素技術である電池の状態推定機能、SOC(充電状態)推定やSOH(劣化状態)推定、電池セルの異常検知へと段階的に開発領域を拡大していきました。
並行して取り組んだのが、他社製品のベンチマーク分析と差別化技術の創出です。この活動を通じて、フォークリフトの稼働時間向上に直結する電池状態推定の新しいアルゴリズム開発に成功しました。しかし、この過程で予想以上の困難に直面することになりました。電池の正極材料によって電池特性が根本的に異なり、これまでの知識と経験だけでは対応できない壁にぶつかったのです。従来の手法で電池特性を詳細にデータ取りしようとすると膨大な時間と工数が必要となり、プロジェクトの目標である短期開発と開発費削減に大きな影響を与えてしまいます。そこで私たちはAIを活用するという革新的なアプローチを採用し、電池特性のデータ取りを最小限に抑えながらも、精度の高いアルゴリズムを短期間で開発することを実現しました。
半年の取り組みが見せた確かな手応えと新たな学び
プロジェクト開始から約半年が経過した現在、私たちは確実に前進を続けています。欧州メンバーから提示された要求仕様から要件を丁寧に抽出し、それを具体的な設計仕様に織り込む作業を経て、システム設計、ハードウェア設計、そしてソフトウェア設計も概ね完了しました。プロトタイプの仕様と計画が決定し、今後の評価に向けて着々と準備を進めている状況です。
短期開発の目途が立ってきたことは、確かな進展と言えます。また、フォークリフトの稼働率向上によるダウンタイム削減やコストの低減という具体的な成果も徐々に見えてきています。短期開発については、グローバル競争の中で特に中国勢と競り合うためにも必要な挑戦であると考えています。欧州との連携をさらに深めながら、知恵を絞り、確実にプロジェクトをやり遂げたいと思います。
この取り組みを通じて得た最も大きな学びは、各リージョンで開発プロセスやしくみが異なることの意味でした。それぞれに良い点と悪い点があり、特に市場の品質要求が各国で異なることもあって、品質保証の考え方が大きく違うことを実感しました。これらの良い点は今後の開発プロセスに反映し、より良いものにしていきたいと考えています。
短期開発というプレッシャーの中で、プロジェクトメンバーたちの変化も印象的でした。どうすれば日程短縮が可能か知恵を絞り、いつまでに何があれば日程が成立するのかを真剣に考え、優先度をつけて開発ステップを取捨選択するアイデアを次々と出してくれました。否定的な意見は聞かれず、建設的なアイデアや提案が増えたことは、チームとして大きな成長だったと思います。
環境問題解決への想いと、持続可能な社会の実現に向けて
欧州向けの開発プロジェクトが一段落したら、次は日本、北米向けへと展開していく予定です。今回はリチウムイオン電池を想定した設計でしたが、将来的にはナトリウムイオン電池や全固体電池など、性能や価格でより優位な電池が登場してくる可能性があります。そのため、電池材料の変更に対してスムーズな改変が可能となる、可変性の高い制御基板開発にも取り組んでいきます。
技術的な準備としては、電池材料の変更に対応できる可変性の高いソフトウェア構成を考慮したアーキテクチャ設計が重要だと考えています。ハードウェア面では、電池によって使用可能な電圧範囲や危険電圧の値が違うため、各材料に合った電源の設計および電圧検出精度を考慮した回路設計、電池監視ICの選定が必要になります。
このプロジェクトを通して目指したい会社の姿は、リチウムイオン電池搭載フォークリフトでも世界で多くの顧客に愛される製品を開発してシェアを獲得し、フォークリフト世界市場シェアNo.1を維持することです。そのためには、グローバルで協業する文化・習慣がもっと活発になり、様々な分野でシナジーが出せる会社になることが重要だと思います。
環境問題への関心を持ったきっかけは、昨今の地球温暖化や異常気象、気温上昇といった現象を目の当たりにしたことです。自然災害が増え、野生生物の住環境が破壊され絶滅の危機に瀕している状況、農作物や海産物への深刻な影響を見ていると、今行動を起こさなければならないという使命感を強く感じます。
誰もが気候変動や生物多様性の喪失、資源の枯渇などの現代の環境問題に高い関心を持ち、その問題解決のために今自分に何ができるかを真剣に考えて行動する、そんなヒトを育て、モノ、コトを創造して世の中に出していくことで、より良い社会づくりに貢献していきたいと思います。このプロジェクトの成果が実現すれば、地球温暖化が緩やかになり、自然災害が減少し、環境破壊が減って野生生物の住環境が守られ、農作物や海産物に与える影響も減らすことができると確信しています。
