「仕事の中に楽しさを見つける」充電システム開発者が大切にしていること
私が所属しているのは、トヨタL&FカンパニーのES開発部 ES開発第一室です。このチームのミッションは、産業車両の電動化製品開発、とりわけ電動フォークリフトの充電システムを開発することで、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミー(資源を循環・再利用することで廃棄物を最小化する経済のしくみ)への貢献を果たしていくことです。
私自身が担当しているのは、鉛バッテリーやリチウムイオンバッテリーを安全かつ速く充電するための車載・別置き充電システムの開発です。小型でコストを抑えながらも、できるだけ多くのお客様のニーズに応えられる充電器をつくること——それが日々の仕事の中心にあります。また、グループマネージャーとして、チームの戦略を考えながら開発全体を推進する役割も担っています。
この仕事において特に難しいと感じるのは、「信頼性の担保」です。充電というのは、リフトを使う方が直接目にしない場面——休憩時間や非稼働時間——に行われるものです。ですから、翌朝リフトを動かそうとしたときに「充電できていなかった」という事態が起きると、お客様の現場の仕事そのものが成り立たなくなってしまいます。ちょっとやそっとのことでは充電を止めない、そういう高い信頼性を実現することが、開発者として常に意識しているポイントです。
さらに、充電対象のバッテリーにはさまざまな種類があり、どんなフォークリフトにも、どんなバッテリーにも対応できる汎用性を持たせることも大きな課題です。車載タイプの充電システムでは、限られた搭載スペースの中にいかに効率よく収めるかという設計上の工夫も求められます。難しい課題が山積みではありますが、だからこそやりがいを感じられる仕事だと思っています。
私が仕事をする上でもっとも大切にしているのは、「仕事の中に楽しさを見つけること」です。定年を迎えるまで、人生の大半を会社で過ごすことになります。仕事には面倒なことや辛いことの方が多いのが正直なところですが、その中でも「これができたら楽しいだろうな」という部分を少しでも見つけることができれば、前向きな気持ちで働けるのではないかと思っています。この技術を身につければ、この仕事をやり遂げれば、きっとこんな楽しさが待っている——そう考えながら取り組むことで、モチベーションを保ち続けてきました。
チームに対しても同じ考え方を大切にしています。一人で仕事を抱え込むのではなく、チーム全員で問題を解決していく。業務の負荷に応じてチームの枠を取り払い、グループ全員で協力し合って課題に向き合えるような雰囲気をつくることを意識しています。話しやすく、壁のないアットホームな職場環境を保つことが、結果としてチーム全体のパフォーマンスを高めると信じているからです。
数百Wから数kWへ。「もっと大きな電力を」という思いが導いた転職の決断
私のキャリアは、熱機器総合メーカーでのハードウェア設計からスタートしました。給湯器やリモコンに搭載される電子制御基板の設計をはじめ、スイッチング電源回路(交流を直流に変換するなど、電力を効率よく変換する電源回路)を用いたパワーエレクトロニクス設計、液晶ディスプレイの設計など、幅広い業務に携わりました。
そのなかでとくに印象に残っているのが、機器に電力を供給するスイッチング電源回路の設計業務です。当時のミッションは「待機電力(機器が動作していない状態での消費電力)を削減すること」でした。そこで私が取り組んだのは、機器の動作状態に応じて回路の動き方を自動で切り替えるという設計です。負荷が大きいときは通常のスイッチング動作、待機状態になって負荷が小さくなると、自動的に間欠スイッチング(一定間隔でオン・オフを繰り返す省エネ動作)に切り替わる回路を作りました。
回路を何度も改良しては波形を確認する、その繰り返しでした。温度や電圧などの条件が変わっても正常に動くロバスト性(外部環境の変化に対して安定して動作する性能)の高い回路を完成させたとき、「現行製品が自分の設計でより良いものに変わっていく」という実感が得られ、苦労が報われたと感じました。
ただ、この設計をめぐっては壁もありました。待機電力を削減するための回路変更がコスト増につながってしまい、社内での承認を得るのが難しい場面があったのです。そこで私は「待機電力が下がることで、ユーザーが日々支払う電気料金を削減できる」という観点から粘り強く説明し、最終的に自分の設計を認めてもらうことができました。技術的な正しさだけでなく、その価値を言葉で伝える力の大切さを、このとき強く感じました。
そうした経験を積む中で、次第に「もっと大きな電力のパワーエレクトロニクス設計に挑戦したい」という気持ちが高まっていきました。前職で手がけていたのは数百Wクラスの電源でしたが、さらに大規模な領域でも自分の力を試してみたい。その思いが転職を考えるきっかけになりました。
転職を決断する際、不安がなかったといえばうそになります。一緒に働いてきた仲間たちがどう受け止めるか、正直なところ怖さもありました。でも、自分が考えるキャリアの方向性や気持ちをきちんと伝えたら、快く背中を押してくれました。また、転職活動の技術面接でも、これまでの経験やスキルをしっかり評価してもらえたことで、不安は少しずつ薄れていきました。自動車やフォークリフトの電動化が進む中で、自分がこれまで培ってきたパワーエレクトロニクスの知識が活かせる環境があると感じたことも、転職先を選ぶ大きな後押しになりました。
号口直前の筐体変形問題、チームと仕入先が一丸となって乗り越えた危機
入社後にとくに印象に残っているのは、初めてリチウムイオンバッテリーを搭載したフォークリフトを量産したときのことです。当時の日本にはリチウムイオンバッテリーを搭載したフォークリフト自体がまだ存在しておらず、充電器にどんな性能や仕様が求められるのかも、業界全体として明確な答えがない状況でした。これまでの鉛バッテリー用充電器とはまったく異なる設計思想が必要で、バッテリーの設計者と毎日打ち合わせを重ねながら、仕様を何度も見直してブラッシュアップしていきました。
とくに苦労したのは、充電システム仕様書の中の状態遷移図(製品がどのような状態を経て動作するかを図で示したもの)を作成する作業です。起こりうるすべてのイベントと状態を洗い出し、「どういう状態遷移をたどるのが製品の動作として最も適切か」をバッテリー制御の設計者と毎日議論しながら作り上げていきました。また、仕様書を見た人が誰でも理解できるような分かりやすい記載を意識し続けたことも、今でも大切にしている姿勢のひとつです。最終的に無事に量産を達成できたときは、大きな達成感がありました。
その一方で、忘れられない苦い経験もあります。量産直前、いわゆる「号口相当品として納品された試作品を確認したとき、充電器の筐体が変形してしまっていることが発覚したのです。海外からの輸送中の衝撃が原因でした。「このままでは筐体が曲がった製品がお客様に届いてしまうかもしれない」という焦りは、今でも鮮明に覚えています。
そこでチームのメンバーと仕入先のメンバーが集まり、現地現物で状況を確認しました。他チームの知見も借りながら、実際に輸送する充電器に衝撃センサを取り付けて輸送時の衝撃値を把握し、梱包仕様を見直して対策を講じました。号口間近というプレッシャーの中でしたが、部署や会社の垣根を越えてスピーディーに連携できたことが、間に合わせることができた最大の要因だったと思います。この経験を通じて、他部署や取引先とのコミュニケーションを大切にすることが、仕事をスムーズに進める上でいかに重要かを身をもって実感しました。
また、前職で電源回路設計を経験していたことが、現職でも大いに活きています。他社製の充電器をベンチマークする際には、少し見るだけで回路方式がすぐに判断できますし、ノイズ試験(電源系統から流入・流出するノイズを測定する試験)においても、評価項目や評価条件の検討に前職の経験が直接役立っています。過去に積み上げてきた経験が、現在の仕事の土台になっていると感じる瞬間です。
「充電システムの第一人者」をめざして。工場全体のエネルギーを変えていきたい
短期的な目標としてまず掲げているのは、電動フォークリフトの充電システムの分野で社内外から「第一人者」と認められる存在になることです。そのためには、フォークリフトの利便性を高める新しい製品や機能を自ら開発・量産していくことが不可欠だと考えています。技術者として製品をかたちにする経験を積み重ねることが、専門家としての信頼につながると信じているからです。
そしてゆくゆくは、製品の設計・開発にとどまらず、企画の立案にも携わっていきたいと思っています。「こういう製品があれば市場はもっと良くなる」「お客様にはこんな機能が必要なはずだ」という視点で、より上流から事業に貢献できる人間になりたいです。
さらに中長期的には、電動フォークリフトの充電システムという枠を超えて、工場全体のエネルギーマネジメントシステム(工場内のさまざまな設備・機器が使う電力を統合的に管理・最適化する仕組み)にも携わることが私の夢です。
この想いが生まれたのには、日々のお客様との対話がきっかけとなっています。「バッテリーの充電は速い方が良い。でも速く充電しようとすれば、それだけ大量の電力が必要になる。工場内の電力には限りがあるから、どうにもならない」という声を、現場でたびたび聞いてきました。工場の中にはフォークリフト以外にも、さまざまな設備や機器が同時に電力を消費しています。それらをうまく協調させることができれば、お客様は無理なく、かつ有効に電力を活用できるはずです。その実現に向けて、いつか自分が貢献できる立場になりたいと思っています。
最後に、この記事を読んでいる方へ一言お伝えしたいことがあります。フォークリフト業界では今、電動化の波が急速に進んでいます。その中で、充電システムの変革はフォークリフトの利便性を高める上で非常に重要な意味を持っています。私たちは今まさに、その変革の真っただ中にいます。
一緒に働きたいのは、高い目標を持ち、物事を変えることに興味がある人です。待ちの姿勢ではなく、自ら考えて動き出せる人。そしてコミュニケーションを大切にしながら、社内外に人脈を築いていける人。そういう方であれば、この職場は必ず活躍の場になると思います。周囲の仲間はいつでも親身になって相談に乗ってくれますし、やりたいことがあれば声を上げられる環境が整っています。
仕事の中に楽しさを見つけながら、オンとオフをしっかり切り替えて、充実した毎日を送れる人と、ぜひ一緒にこの変革を進めていきたいです。

