当局への申請のための画質評価情報収集をリード。病変の早期発見への貢献がやりがいに
──所属する部署やそこでの仕事について教えてください。
私が所属する内視鏡画像処理開発部門では、内視鏡で撮影された画像を処理するアルゴリズムの開発と検証、当局への申請のための情報の準備などを担当しています。中でも私がいま携わっているのが、アメリカで医療機器を販売するために必要な市販前認可、510(k)の申請に必要な画像処理関連の情報収集です。
画像処理技術の医学的価値を証明することをミッションに、FDA(アメリカ食品医薬品局)から寄せられるフィードバックや最新のガイダンスなどを参考にしながら、有効性を示すために必要なデータの検討や客観的データにもとづいた定量化による評価の実施、レポート作成などを行っています。
画質評価に関する試験項目は十数項目ほどあり、それぞれ担当が割り振られています。私はそのうち、先進画像処理技術に割り振られている5つの試験のすべての取りまとめを行っています。また、試験を担当する部内のメンバーとアメリカへの上市を進めるプロジェクト側とのコミュニケーションを円滑化することも私の役割です。
そうしたいわば調整役も務めているのですが、この役割を担う上で私が最優先してきたことは、各専門家たちの働きやすい環境づくりです。それぞれの分野のエキスパートの皆さんがどうすれば最大限のパフォーマンスを出せるのかを常に意識しており、時にはプロジェクト側の要求に対して技術者の目線で折衝を行うこともあります。
同時に、医療現場における患者さんの安全への意識も強化してきました。FDAなどの当局は、最新のサイエンスに基づき、新しい考え方を取り入れています。それに対して、社内には「従来のやり方でよいのではないか」といった考え方を持っている方もいます。
そのため、当局からの指摘が新たな視点を得る機会になっていますし、社内の考え方を変えていく機会にもなっています。当局の考え方を理解し、一つひとつ誠実に対応することが、ペイシェントセーフティの実現に寄与すると考えています。
──医療機器の画像処理に関わる仕事のどんなところにやりがいを感じていますか?
画像処理技術次第で、内視鏡が撮影した画像の見やすさは大きく左右されます。病変を早期に発見し治療することができる機器の開発の一部を担い、人々の健康に貢献できていることは、私にとって大きなやりがいです。
コンシューマー製品から医療技術へ。画像処理アルゴリズム開発の分野で存在感を発揮
──入社の経緯と、お仕事変遷について教えてください。
もともと画像処理に興味があり、前職では放送機器や医療画像データの処理に使用されるグラフィックボードの製作に携わっていました。
オリンパスには2006年に中途入社し、映像事業でデジタルカメラの画質チューニングやアートフィルタの開発、画像処理技術の開発を担当しました。デジタルカメラはコンシューマー向けの製品で、新製品が年に2回リリースされるため、商品ライフサイクルが短いのが特徴です。思いをかたちにできるチャンスが多く、結果が数字となってわかりやすく表れるため、多くを学ぶことができました。
その後、医療・科学向け画像処理開発部門へ移りました。NBI(狭帯域光観察)やTXI(構造色彩強調機能)といった医療機器に用いられる観察技術や画像処理技術には、医学的な価値、とくに病変の早期発見に貢献する、高い観察性能が求められます。一方、コンシューマー向け製品の価値は相対的です。色の正確さの判断軸も異なり、まったく別のビジネス領域だと感じました。
私が所属したのは、画像処理のためのアルゴリズム開発に特化した部門でした。デジタルカメラと違って内視鏡の撮像素子はとても小さいことから、撮像素子の特性に配慮し、デバイスにも目を向ける必要があるなど、視野を大きく広げる機会になりました。
──印象的だったことを教えてください。
自分が開発に関わった内視鏡システムが、2023年の10月にアメリカ市場に導入されたことが記憶に残っています。
内視鏡の先端には、とても小さな画素が集まった撮像素子が搭載されています。画素がとても小さいので、どうしても欠陥画素(正しく動作しない画素)が生じてしまいます。この欠陥画素を補正して違和感を解消する、撮像素子依存のノイズ除去アルゴリズムの開発が私のミッションでした。
欠陥画素を完全に排除した機器を作るとなると、撮像素子の選別が必要な上に、製造コストが莫大になってしまいます。そのため、デバイスの特性を最大限活用するアルゴリズムの構築が重要でした。
また、開発したアルゴリズムをハードウェアに搭載しての検証も可能ですが、ソフトウェアによるシミュレーションのほうが手軽です。効果の確認も迅速に行えることから、画像処理シミュレータの開発も積極的に行っていました。
経営企画で身につけた多角的な視点。開発部への帰任後は業務効率向上にも貢献
──その後、経営企画に異動されていますが、これはどのような経緯で?またどんな仕事を経験されましたか?
当時、グループリーダーから経営企画への異動枠があると聞いて、自ら立候補しました。それまで長く画像処理技術の開発に携わり、仕事や環境を変えたい気持ちがあったからです。
経営企画では、経営執行会議の議事録案の作成、部門方針や重点施策の取りまとめ、2016年の経営基本計画の進捗状況のモニタリングといった事務局関連の業務に携わりました。新しい企画を考え提案するというより、すでに決定された事項を円滑に運営していくことが役割でした。
経営企画の仕事を通じて、人脈が大きく広がりました。さらに、社内にどんな機能があり、それぞれがどう動いているのかなど、組織の基本的な構造を学べたことで、従来なかった視点が身についたとも感じています。
その視点を持ったことで、有用な技術の開発をめざすだけでなく、組織にとってあるべき技術開発についても考えるようになりました。たとえば開発コストや製品の上市のタイミングが会社にとって適切であるのかなど、経営視点を意識できるようになったことは、その後のキャリアでも役に立っています。
──医療AI開発部門を経て、現在の部署へ異動するまでの足跡について教えてください。
以前と同じ部署に戻り、胃がんと疑われる病変を検出するAI技術開発を担当しました。当時、とくに苦労したのが内視鏡画像の収集作業です。内視鏡で撮影した画像を病院から集めてくるのですが、医師やそのほかのスタッフの皆さんの協力が欠かせない上、個人情報の保護に関する法律や人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針を遵守しなければなりません。
作業は難航しましたが、がんをいかに早期発見できるのか、しっかり向き合う機会にもなりましたし、胃がんへの知識を深めることもでき、多くの学びがありました。
また同じころ、内視鏡画像収集・利活用の業務効率向上のワーキンググループの立ち上げに関わっています。内視鏡画像収集の準備には半年〜1年ほどかかり、収集にはさらに1〜2年の期間が必要です。ところが当時、せっかく集めたデータが社内で共有されず、ノウハウが蓄積されづらい環境がありました。
そこで、収集したデータを社内で効果的に活用するための方法を検討するワーキンググループを発足。他部門でデータ収集を行っていた担当者を巻き込んで、収集したデータを社内で共有・活用できるような仕組みづくりに取り組みました。
社内の専門家同士をつないでより俊敏でアグレッシブな組織に
──仕事をする上で大切にしていることはありますか?
これまでの人生を振り返ると、常に挑戦を続けてきたように思います。そして、コンシューマー向け製品からオリンパスでのキャリアがスタートしたこともあり、スピード感を持って仕事をすることを心がけてきました。今後も「挑戦」と「スピード」という2つのキーワードを大切に、仕事をしていきたいと思います。
また、新製品をよりスピーディーに市場投入できる体制づくりにも貢献していきたいと考えています。いまこそ、古い慣習から脱却し、挑戦すべき時。まずは自分が変化することを恐れず、ますます速度を高め、周囲をリードしていけたらと思っています。
──今後の展望を聞かせてください。
オリンパスには豊富な知識や高い技術を持った専門人材がたくさんいますが、技術者同士の連携が十分にできているとは言えません。社内の専門家同士をつなぐ役割を果たすことが、いまの私の目標です。彼ら、彼女らにとって働きやすい環境を整えることで、組織力の向上にも貢献できればと考えています。
また、社内だけではなく社外の専門家とつなぐことにも取り組んでいきたいと思っています。海外の医師とは、SNS(ビジネス特化型のもの)を通じてクイックにつながり、フラットなコミュニケーションを実現しているケースがあります。対等な関係からしか生まれない価値があると信じているので、医療業界に携わるひとりとして、医師と対等なパートナーシップを築ける未来を思い描いています。
また、510(k)申請プロセスに関わる中で得た知見を、これから始まる製品開発のプロジェクトに活かすことも私の重要な役割だと考えています。より優れた製品をより速く市場に送り出すことをめざして尽力していくつもりです。
※ 記載内容は2023年12月時点のものです

