いかに不具合を早くみつけるか。安全な車をつくるために不可欠な品質評価の環境構築
日産テクニカルセンター パワートレインEV制御技術開発部 ソフトウェア開発技術マネジメントグループに所属する楊。現在は、制御ソフトウェアの品質評価環境を構築する業務に従事しています。
「課では、約50人のメンバーがPWT制御ソフトウェア開発に従事しています。私のミッションは、制御ソフトウェア品質の評価環境を構築すること。エンジン、モーター・インバーター、バッテリーなど、パワートレインと呼ばれる装置を制御するソフトウェアの品質を評価する環境やしくみをつくっています」
技術の革新や法規対応で数多くの機能が自動車に搭載されるようになるにつれ、車の制御は複雑化してきています。システム間の相互干渉があるため、不具合が起こったとき、原因を特定する難易度も上がるため、できるだけ早いタイミングで不具合を発見していきたい、というニーズが開発全体にあるといいます。
「開発の日程を守るためには、できるだけ早期の段階で検証し、不具合をいち早く見つける必要があります。品質評価の環境構築は、お客さまのもとに安全な車を確実に届けるために欠かせません」
2022年度、楊は30代で課の代表総括に。現チームリーダーを務め、マネジメントに従事する上で大事にしていることがあります。
「データや事実に基づいて方針を検討することを徹底しています。たとえば、実験で不具合が見つかったとき、まず計測データとグラフをメンバーと共有した上で対策を議論。計測データを取り寄せたり、グラフ化したりするのに手間や時間はかかりますが、不十分な情報で検討すれば、暫定的にその場を凌いだように見えても、すぐに状況の変化に対応しきれず、結局、再検討することになるからです。
一見、遠回りにしているように見えても、確かなデータや事実に基づいて可能な限り恒久的な方策を検討するほうが、効率的で効果的な方法なのだと思いますね」
先進技術だけでなく、ダイバーシティのある環境に魅力を感じて。戻ってきた日産自動車
中国出身の楊は大学までを本国で過ごし、学生時代は電子制御と通信技術を専攻しました。日本へ渡ったきっかけは、卒業後の進路を考えていたとき、日本の会社が日本で働く社員を募集しているのを知ったことでした。
「中国では日本の高品質な家電製品が人気で、その品質を支えているのは先進的な電子制御技術だと感じていたんです。そのような日本のものづくりの現場への憧れから、社員の募集に応募しました。
当時、私は日本語ができなかったので、まずは日本語学校へ。1年間通って日本語検定2級資格を取得した上で、日本で働くことになりました」
2008年、楊は派遣社員として日産自動車株式会社(以後、日産自動車)で働き始めます。
「パワートレイン技術開発部に配属され、モデルベースのディーゼルエンジン制御や、電子制御ユニット(ECU)の動作をテストする装置HIL(Hardware-in-the-Loop)の構築に4年間従事しました」
HILに携わる中で、より専門的な知識を得たいと思うようになったという楊。2012年には、HILのスキルを習得し、キャリアアップするため、品質評価ソリューションのリーディングカンパニーへ転職する道を選びました。
そして大胆な挑戦から2年。大きくスキルアップを成し遂げた楊は、正社員として再び日産自動車へ。「開発の上流の仕事に携わりたかったから」と言いますが、再入社の理由はそれだけではありませんでした。
「いつかまた日産自動車で働きたいとずっと思っていました。先進技術に携われることはもちろん、グローバルでダイバーシティを尊重する環境に魅力を感じていたからです。
日産テクニカルセンターには、インド拠点、ベトナム拠点、スペイン拠点やルノーから出向している人がいるなど、外国人は珍しくありません。日本人も外国人も、違いを認め合ってお互い尊敬しあうカルチャーがあります。
また、知識や経験がある人が『こういう仕事をやりたいです』と言えばチャンスをくれる点も、惹かれていましたね」
こうして再び日産自動車へ戻ってきた楊が配属されたのはパワートレイン制御開発部でした。
「最初の4年間は、エネルギーマネジメントシステムのコントローラーユニット開発、エンジン冷却&潤滑システムの制御開発、先進的なモデル予測制御開発と、いろいろな仕事に従事しました。2018年からはソフトウェア品質評価環境構築を担当しています」
知識と経験、能力を身につけた楊はこの5年間で大きく飛躍。2018年と2019年と2020年の3度にわたる日産賞の受賞が、その成長ぶりを物語っています。
「2018年の受賞では、早期に品質を評価できる環境を構築したことが認められました。他社に先駆けた新しい技術として高く評価され、PWT/EV技術発表会で発表する機会も得ています。
その品質評価環境を社内に適用するプロジェクトを推進したことで、2019年に再び受賞しました。品質を評価する技術はあっても、日常運用するしくみがないと現場では使えません。
そこで、マニュアルを整備して国内外の拠点で説明会を開催。現場の技術者が簡単に使えるよう推進活動を行ったことが評価されました。コンセプトは、“5分でわかる技術説明”。先日もインドへ出張して現地の技術者に説明してきたところですが、今後も海外を含めて運用が拡大される予定です」
日本、インド、スペイン──ビジュアル化して課題を共有。多国籍チームを率いる心がけ
リーダーとして13人の多国籍チームを率いる楊。異文化のメンバーをまとめるために、工夫を凝らしていることがあります。
「私のチームには、日本人のほか、インドとスペインの開発拠点に現地出身のメンバーが所属しているため、それぞれの文化に合わせたコミュニケーションを心がけています。
たとえば、細かく明確な指示を求めるインドのメンバーに対しては、詳細なマニュアルを整備。一方、大まかな指示のもとでもどんどん動く風土のスペインの現場については、任せるかわりにアウトプットのチェックに注力しています。
また、メンバーには課題をビジュアル化して伝えるようにしています。コミュニケーションは英語でとりますが、文化によって言葉の解釈が違う。だから言葉だけで伝えても意図が伝わらないことがあるため、グラフや図を用いて、言葉以上に課題が明確にわかるように工夫しています。
海外拠点とのコミュニケーションは、新型コロナウイルス感染症の影響で基本的にオンラインでしたが、先日インドへ出張し、初めて現地メンバーとの対面を果たしました。フェイス・トゥ・フェイスでメンバーのフレンドリーな雰囲気を肌で感じたことで、チームワークが高まったと感じましたね」
こうしたグローバルな環境が日産自動車の魅力であると、楊は言います。
「母国語も出身も違う多国籍なメンバーが集まっていますが、お互いの違いを認め合うオープンマインドな雰囲気があります。誰にとっても働きやすい環境ですね。結果的に、それぞれの強みを活かしたチームワークを生み出し、より高度なアウトプットにつながっていると思います」
お互いに高め合っていけるメンバーとともに技術は日々、向上し、そこに貢献できることに楊は大きなやりがいを感じていると言います。
「私の業務は、当社のエンジン車、HEV、EV、すべての車種の制御ソフトウェアの品質に関わっています。日産自動車の全車種の品質に直結するため、質の高い日産ブランドに貢献できることに喜びを感じています。
当社の技術は日々進化しており、常に先進技術を勉強する必要がありますが、そのぶん自分の成長も実感できます。それが、品質評価のおもしろいところ。未知の技術を検証するときは、いつもワクワクしながら新技術を習得している感覚があります」
大きな変革期を迎えるクルマの新たなフェーズを生き抜く
3度も日産賞を受賞しながらも、楊が過去の業績の上にあぐらをかくことはありません。今後は、より効率的なワークフローの構築に力を入れたいと話します。
「新しい業務に着手するときは、より効率的で効果的なワークフローがつくれないか検討しています。私のチームだけでなく、先行開発をしているチームにとって必要な視点だと思うので、これからも力を入れていきたいですね」
未知への挑戦にも意欲を見せる楊。将来をこう展望します。
「技術はどんどん進化していくので、新しいことにチャレンジしながら、より良い製品を世に送り出し続ける存在になりたいですね。日産自動車なら、その想いを実現できると思っています。
部署間の連携やサプライヤーとの連携が強いのも当社の特徴です。お互いの知識やノウハウを相互に活用できているので、知識をアップデートし続けるには絶好の環境だと感じています」
中でもとくに、今後はIT人材にとって活躍できるチャンスが広がっていると言います。
「自動車づくりは、“ソフトウェア・デファインド・ビークル”と呼ばれる時代へとシフトしています。自動車には多くの場合、1台あたり100個以上の電子制御ユニットが搭載されており、それらを連携するためにはソフトウェアによる電子制御技術が不可欠です。さらに最近では、より効率化を進め、電子制御ユニットの数を減らそうとしています。
今後、さらに電子制御ユニットやハードウェアの集約化が進み、制御ソフトウェアの開発がより重要になっていくでしょう。自動車開発の現場には、IT領域の知識のある人材がますます求められています。
とはいえ、知識は入社後でも習得できます。オープンマインドで、フレンドリーなコミュニケーション好きな人にどんどんジョインしてもらって、一緒に働けるといいですね」
車づくりの中心がメカニカルな部分からソフトウェアへと置き換わるなど、大きな変革期を迎えている自動車業界。グローバルかつ多様な環境のもとで人材の力を結集し、未来志向の先進技術を創造し続ける日産自動車とともに、楊の挑戦と成長はこれからも続きます。
※ 記載内容は2023年4月時点のものです
