設計は幾多の複雑な条件を根気よく満たしていく。難解なパズルを解くような感覚

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▲業務風景

2016年に日産自動車株式会社(以下、日産自動車)に新卒入社した髙木。外装設計を手がける部署に所属し、現在はバンパーの設計に携わっています。

担当するのは人気車種の「フェアレディZ」 と「アリア」、そして日産自動車が世界に誇るスーパースポーツカー「GT-R」。フロントバンパーとリヤバンパー、サイドシルフィニッシャーのほか、GT-Rではデザインの要のひとつであるリアスポイラーなど、まさに“クルマの顔”をつくる役割を担っています。

「外装設計というポジションにおいては、各性能の車両目標を達成しつつ、理想のデザインを踏まえてカッコいいかたちに仕上げるという、バランスの取り方が肝。どちらかに偏ってしまわないよう、ベストプラクティスを常に模索しています」

ひと口に“性能”と言っても、さまざまな条件を満たさなければなりません。

「たとえばバンパーの衝突性能。“低速域において衝突があっても車体が壊れないこと”という条件がある反面、歩行者を保護する役目を担ったり、空力性能で形状を決めたり、風音、排ガス、冠水なども考慮しなければなりません。

また、現在はバンパーには多くのセンシング・デバイスが搭載されているため、重量は大きくなる一方。重くなると自重によって位置が下がってしまうので、部品間のきれいな合わせを達成していくことがますます難しくなっています」

とくに、日産自動車の技術の象徴といわれるだけあって、GT-Rには特有の評価観点が求められると言います。

「ほかの車種には、明確な数値目標がありますが、GT-Rに関しては、松本 孝夫さんをはじめとした、日産内部の特別なライセンスを取ったドライバーによって感性的な評価も行われるんです。感性は指標化が難しいのですが、彼らからのヒアリングを徹底して行って、印象や感覚をできるだけ具体的に言語化してもらい、改善を図る、といったプロセスを何度も繰り返します」

出てきた課題に対して何十個もの解決策を試し、最善を見極めていく地道な作業。しかし、髙木はそこに仕事のおもしろさを見出します。

「たとえるなら、難しいパズルを解いているような感覚。デザインを損なわずに性能等が目標に対してミートした瞬間は、狙い通りの場所にピースがきっちりハマったような、言葉にできない気持ち良さがあります」

ものづくりに憧れていた少年は、“カッコいいクルマづくり”の中心へ

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▲幼いころからものづくりが好きだったと語る

高校卒業後、理工学部に進学して電気電子工学を専攻した髙木。幼少期から好きだったというものづくりへの情熱は、大人になってからも冷めることはありませんでした。

「ものづくりに携われる環境を求め、メーカーを志望していました。どうせなら、人の目につきやすく周りに自慢できるようなものがつくりたいと考えて、辿り着いたのが自動車メーカー。ゆくゆくは海外で働きたいという気持ちもあったため、グローバルな環境に惹かれて日産自動車を選びました」

2016年の入社以来、髙木は一貫して外装設計に関わってきました。最初はドアミラーやワイパーなど、樹脂部品の中でも駆動する部品の外装設計を担当し、2020年からはバンパー設計に携わっています。

「デザイナーから最初に渡されるデザインには、ドアミラーやワイパーが描かれていないんです。つまり、デザイン上、カッコよさを際立たせる部品とは考えられていないということ。しかし、機能的には絶対に必要な部品です。いかにそれらをデザインに調和させて、レイアウトしていくかがとても難しかったですね。

けれど今、担当しているのは、“カッコいいクルマづくり”にかかせないバンパー。クルマの表情をつくりだす重要な部品です。ミラーやワイパーとはカッコよさの出し方が異なり、とてもやりがいを感じていますね」

そして、2022年4月からはチームリーダーも任されています。6名の部下を率いるチームリーダーとして、髙木には大切にしていることがあると言います。

「バンパー設計に異動して1年でチームリーダーになったため、正直言ってバンパーに関する知識はまだまだ。部下を指導する立場として知識不足を感じているので、的確なレビューができるよう勉強している最中です。

また一見すると外装設計は華やかなポジションに映るかもしれませんが、業務はトライ&エラーなど地道な検討の連続。長い開発期間の中でローンチされるまで、達成感や喜びをわかりやすく感じられる機会が少ない。それだけに、モチベーションをキープすることがとても重要です。自らで小さなゴールを設定することで、小さな達成感を得やすいようなしくみをつくり、チームのモチベーション維持に努めています」

GT-R 2024モデルをお披露目。ファンからの熱い歓声を受けて、達成感を味わう

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▲GT-R発表時の写真

数々の車種の中でも、GT-R 2024モデルに携わったことが、設計者人生の中で最も印象的な出来事であったと言います。

「GT-R 2024モデルでは、フロントとリヤ周りの形状を大きく変更しました。GT-Rは開発のコンセプトが明確で、性能向上を最優先するということ。故に、機能を持たない、デザイン性だけを重視した形状はつくりません。そのため新しい形状は性能向上を徹底的に追求して設計していきました」

フラッグシップスポーツカーの歴史的なアップグレードに携わるにあたって、髙木は技術面でさまざまな課題に直面しました。

最も大変だったのは、ウイングと呼ばれるリアスポイラーの形状を変更したこと。GT-R標準グレードについては初代がデビューした2007年の時点でウイングは完成の域に達したとみなされ、これまで一度も形状を変えていませんでした。しかし、今回はさらなる性能向上をめざし、変更することに。

「ウイングは前からの風を整流することにより圧力を効果的に発生させ、高速走行時に浮上する車体を地面に押し付けます。これがダウンフォース。今回はこのダウンフォースをより高めるというコンセプトがありました。ウイングは大きくなればなるほど剛性が必要になります。剛性の確保と軽量化、コストとの兼ね合いを見ながら、最適な解決策を見出していく過程は困難をきわめました。

通常の外装部品では樹脂を使いますが、GT-Rの最上級モデルであるNISMOに関しては軽くて丈夫なCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を採用。剛性の確保と軽量化の両立を実現しました。CFRPを使用するにあたって、設計ノウハウの蓄積が少なかったので、サプライヤーに何度も足を運んで、学びながら開発していくのも苦労しましたね」

何度も試行錯誤した結果、設計者として胸を張れる最高のウイングが完成。

2023年2月、報道陣やファンからの、期待と注目を一身に受けて、いよいよGT-R 2024モデルが発表されました。説明員としてアンベールに立ち会った髙木は、ファンからの歓声とどよめきを聞いて、高揚感と達成感に包まれます。

「性能を極限まで追求して完成した外装であったために、誇らしい気持ちでその場に立つことができました。GT-Rファンの歓声を間近で聞けたことで、すべての苦労が報われるような気持ちがしたのを覚えています。

GT-Rは人気が高く、それだけに期待も大きい車種。とくにエクステリアデザインは個人的な嗜好がわかれるため賛否両論が巻き起こりました。それだけ人の心を動かすことができたということ。そんな仕事に携われていることに大きな喜びを感じましたね」

今もこれからも「世界に誇れるカッコいいクルマをつくりたい」という揺るぎない想い

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▲手がけたGT-Rと写る髙木

入社以来、外装設計に携わる中で、髙木の心の中にずっと抱き続けてきたことがあります。それは、「世界に誇れるカッコいいクルマをつくりたい」という想い。

「カッコいいかどうかを判断する感性は人それぞれ。ローンチしたときに反響が大きいほど、手ごたえを感じます。その結果は、きっと販売台数などにわかりやすく表れていくのではないでしょうか。ひとりでも多くの人の心を動かすような車づくりに貢献し続けたいですね」

同じ意志を共有できるメンバーとともに仕事に取り組んでいきたいと話す髙木。未来の仲間に向けて次のようにエールを送ります。

「学部卒の私でも、面接時から『外装設計に携わりたい』と強く希望を伝え続けた結果、日産の象徴であるGT-Rのバンパー開発に携わることができています。誰にでもチャンスが開かれた環境が日産自動車にはあると思っています」

そう話す髙木自身も、挑戦に寛容な日産自動車の環境を存分に活用してきました。

「今は海外勤務の希望を伝えているところです。まだ赴任には至っていませんが、海外プロジェクトに携わらせてもらったり、海外出張に行かせていただいたりと、着実にチャンスを与えてもらっています」

外装設計は構造や形状、表面処理まで幅広く担当します。そのぶん責任も伴いますが、髙木はこれからも果敢に挑戦を重ねていくつもりです。

「弊社では新しいことを誰でも挑戦できる環境がある一方、新技術搭載時の品質確認プロセスが確立されています。根気強く適切なプロセスを踏んで品質に問題ないことを証明しながら、自分のアイデアをひとつでも多く具現化し、世界に誇れるカッコいいクルマをつくっていきたいですね」

品質や安全を重視しながら新しいことに挑戦できる環境で、髙木はこれからもカッコいいクルマづくりを追い求めます。

※ 記載内容は2023年5月時点のものです