“地域に愛される薬局”をめざして。副薬局長として多岐にわたる業務に日々向き合う
総合病院に隣接する「なの花薬局さぬき店」。約15名のスタッフが在籍するこの薬局で、美濃さんは副薬局長として3つの業務を担っています。
「1つめが『地域支援体制加算』の取得に向けた計画を立てること。地域医療に貢献する薬局の取り組みを評価し、その体制や実績に応じて調剤報酬に加算される制度で、これを取得することが患者さまの利益にもつながり、国への貢献の指標にもなり得ます。
これからは在宅医療やかかりつけ機能など、地域密着型の薬局が求められる中で、理想に近づけるよう環境を整えています」
2つめが健康イベントの企画・運営。パンフレット作成から近隣の病院への告知活動、当日は来場者への対応まで行います。
「処方箋がなくても遊びに来ていただけるような地域に愛される薬局をめざして、血管年齢測定や野菜摂取量を調べるベジチェック、フレイル(加齢により心身機能が低下した状態)を調べる栄養ケアパッドを用いた測定やアドバイスなど、近隣の方に興味を持っていただけるような企画を考えています。他のエリアでも数回開催していて、大きな会場では100人以上集まることもあります」
3つめが医薬品の在庫管理です。
「ジェネリック医薬品の需要増加に伴い在庫の変動が激しくなっています。業務を円滑に行えるよう、需要の高い製品の入荷や不動在庫の移動、廃棄削減、棚の整備などを行っています。
当薬局は総合病院の隣にあるので、そこからの患者さまがほとんどです。がん患者の方から軽症の方、高齢の方から小児の方までさまざまな患者さまが来局されます。新薬もつぎつぎと出てくるので、日々情報をアップデートして勉強することが求められます」
多岐にわたる業務をこなしながら、美濃さんがとくに大切にしているのが、周りの状況を把握して連携できるチームづくりです。とくに、お昼前後や夕方は多くの患者さまが来られるため、忙しさはピークに。
「自分のことばかりに集中してしまったら、患者さまがどれくらい待っているかなどもわからなくなりますし、それが皆の不満にもつながってしまいます。
幸い、さぬき店の従業員は穏やかな人たちが多く、すごく仲が良いです。お互いに状況を見ながら、手が空いていればフォローし合うなど、チームワークで助け合って対応しています」
「薬剤師の姿が輝いて見えた」。広域勤務で経験を積み、学んだ仲間のありがたさ
幼い頃から、家族の影響もあり医療系の道を志していた美濃さん。高校3年生の時に参加した病院見学をきっかけに、当初めざしていた臨床検査技師から薬剤師へと進路を変更します。
「薬剤師の方々が抗がん剤の調剤をされている様子がすごくかっこよくて、輝いて見えました。調剤業務だけでなく、病棟で患者さまと接する対人業務も行うという業務の幅広さにも憧れを抱きました」
薬学部へ進学し、就職活動で複数の薬局を見る中でなの花薬局に出会います。
「店舗を見学した際の穏やかな雰囲気がとても居心地良く、人事担当者も親切だったことで働きやすそうだと感じました。
また、大手薬局会社が総合病院の敷地内薬局や門前薬局に注力する中で、当時から在宅医療や地域密着型の薬局をめざしていた点も入社の決め手の1つになりました。薬局にしかできない在宅医療にはすごく興味がありましたし、今後、後期高齢化社会を迎える中で時代にも合っているなと感じました」
2019年に入社した美濃さんは、住宅補助を受けながら近畿中国四国エリアで勤務する「広域勤務」を選択。
「まずはいろんな地域の患者さまと触れ合って経験を積みたいと考えていました」
入社後まずは北海道で約3週間の研修を受け、100人以上の同期と共に調剤技術や接客・ビジネスマナーなどを学びました。同期とは今でも仲が良く、たまに会って食事をするなど良い関係が続いています。
その後、滋賀県の仰木の里店に配属され、土地勘のなさや関西弁に戸惑いながらも、温かい職場環境に支えられながら経験を積みます。
「雰囲気の良さは入社前のイメージ通りでしたが、業務では大学で学んだ知識だけでは通用しないことが多く大変でしたね。患者さまから副作用について聞かれても、どこから正確な情報を得て回答すればいいかわからなくて……。
ベテランの薬剤師の先輩に『そういう時は添付文書のここを見たらいいんだよ』などと教えてもらったり、店舗の書籍を読んで勉強したりして、なんとか乗り越えていきました」
さらに、当時の薬局長の存在が、美濃さんの仕事への向き合い方を変えます。
「時短勤務でお子さんを育てながらも活躍していて、とても尊敬できる人でした。最初は自分のことで精いっぱいでしたが、しだいにその方の役に立ちたいという気持ちが強くなってきて……。薬局長の負担を少しでも減らせるように積極的に仕事を引き受けるようになりました」
経験を重ねた美濃さんは、入社4年目に神戸旭通店の薬局長に抜擢。1日に300人近く来局することもある大規模店舗でした。
「薬局長業務に加え店舗運営、さらに若手薬剤師の教育や人事業務まで担当することになり、『薬局長ってこんなにたくさんの仕事をやっているんだ』と驚きましたね。本当に大変でしたが、同じく薬局長になった同期と電話で相談したり、店舗内外の人たちに助けられたりしながら必死に業務をこなしました。
この時の経験から、店舗運営は自分1人の力では絶対にできないと痛感しました。周りの人が手を貸してくれたり、先回りして仕事をしてくれたりと、職員みんなの力があって初めて店舗は成り立ちます。どんな職員に対しても敬意を持って接することが最も大切だと学びました」
医師との対話や患者さまへの提案、業務改善。小さな努力が大きな変化を生み出す
自身のこれまでの功績として、美濃さんは、薬局長時代に後発医薬品調剤体制加算を取得したことを挙げます。
「当時、門前の病院の医師はジェネリック医薬品の採用に積極的ではありませんでした。そこで、直接先生を訪ね、ジェネリック医薬品について相談させていただきました。
すると、思った以上に丁寧に話を聞いてくださって、『今はジェネリックが大事な時代だよね』と、処方を認めていただくことができました」
これをきっかけに、医師との良好な関係はさらに深まっていきます。
「先生と当薬局の薬剤師2人で勉強会の時間を設け、先生がどういう意図でお薬を出されているのか直接教えていただいたり、薬局の在庫状況について相談させていただいたりと、より具体的な連携を深めることができました」
さらに美濃さんは、薬局として在宅医療の推進にも力を注ぎます。
「患者さまのご家族がお薬を受け取りに来られることもありますが、『働いているから来局するのが大変』という声を聞くこともあります。
そこで、『在宅医療という制度があって、薬剤師がご自宅に訪問することもできるんですよ』と、パンフレットをお見せしながらご提案したところ契約につながり、在宅医療の件数を増やすことができました」
そのほか、店舗全体で取り組んだ業務改善も大きな成果を上げています。
「軟膏がよく出る店舗だったため、あらかじめ軟膏の予製を作ったり、投薬時のレジ対応のオペレーションを工夫したり、接遇研修を行ったり。小さなことの積み重ねでしたが、それによって患者さまの待ち時間も短縮できました。
患者さまにアンケートを実施したところ、98.6%の方が『次回も当店舗を利用したい』と回答してくださいました。本当にやってよかったと実感しましたね」
こうした経験を経て、美濃さんは「物事を進める上で不可欠なのは、日々のコミュニケーションを通じて『この人の役に立ちたい』と思ってもらえる関係性を築くこと」だと思い至ります。
「信頼関係がないまま『業務改善をするので手伝ってください』とお願いしても、なかなか気持ちが乗らないと思います。だからこそ、まずは関係をじっくり深めて、徐々に進めることが大事だと考えています。
最初は店舗のメンバーも、今までやってきたやり方を変えるのに抵抗があったと思います。でも、諦めずに声をかけ続けるうちに、少しずつ力を貸してくれるようになったんです。日々のコミュニケーションを重ねたからこそ、協力してもらえたのかなと強く感じています」
処方箋なしで足を運んでもらえるのは信頼の証。地域の“顔馴染み”として力になりたい
入社して約6年。豊富な店舗経験を通じて成長を重ねてきた美濃さんは、今後に向けてさまざまなビジョンを描いています。
「現在の店舗では、健康相談などの地域に密着した取り組みを積極的に進めていきたいですね。また、教育セクション所属として、若手の薬剤師の教育にも力を入れていきたいと思っています。店舗としては、地域支援体制加算などの取得も大切な課題ですので、薬局長をサポートしながら取り組んでいきたいです。
機会があれば薬局長としても頑張りたいですし、会社の力になれることがあれば積極的に貢献したいと思っています」
薬剤師という仕事の魅力について、美濃さんは熱を込めてこう強調します。
「さまざまな疾患や薬があって、日々新しい使い方などの知識や発見に出会えることですね。なによりやりがいを感じるのは、患者さまが喜んでくださった時。『あなたに相談してよかった』『かかりつけ薬剤師になってほしい』と言っていただけると、この仕事をしていてよかったな、と心から思います。
とくに、在宅で担当している患者さまとは、訪問を重ねるごとに関係が深まり『自分の患者さまだな』と実感できるんです。求められていることに応えられた時、大きなやりがいを感じますね」
広域勤務を通じて各地の店舗を経験し、その土地ごとの特色ある医療ニーズや人々に触れてきたことは、美濃さんにとってかけがえのない財産となっています。
「とくに地域密着型の店舗が多く、たくさんの患者さまと顔馴染みになって日々いろんなお話ができたことがすごく楽しかったです。
たとえば、オリンピックの聖火ランナーを経験された患者さまとの雑談から、本物のトーチを家から持ってきて見せてくださったり、珍しいエミューの卵を『産まれたんです』と持ってきてくださったり……。その土地ならではの方言に触れるのも新鮮で楽しい経験でした。薬局としてだけでなく、身近な存在として親密に接していただける、地域密着型薬局ならではの温かさがありますよね。
時には、処方箋なしで『ちょっと体調が悪くて……』と、病院へ行く前にまず薬局に相談に来てくださる方もいらっしゃいます。もちろん、適切な受診をお勧めすることもありますが、それだけ頼りにされている証だと思って、できる限り患者さまの力になれるよう心がけています。もし広域勤務を迷っている方がいたら、ぜひおすすめしたいですね」
美濃さんは薬局薬剤師ならではの魅力をこう語ります。
「病院に比べて薬局は患者さまとの接点が多い分、いろいろな相談も受けやすく、その方の人生に寄り添うことができます。病院の接点が一つとしたら、薬局は一生、長いおつきあいになります。それが薬局薬剤師の大きな魅力。
今はこの道を選んで本当に良かったと感じています。いろいろな経験ができるし、人とのつながりも広がる。興味のある方は挑戦してみてほしいです」
※ 記載内容は2025年6月時点のものです

