理論と現場のギャップを埋めていく。お客さま、関係部署と共に挑む研究開発
現在、総合研究所 養牛開発グループで子牛用飼料の開発に従事しています。私たちのグループは、50代のグループリーダー1名を筆頭に、20~30代の開発担当2名と現場管理担当3名の計6名。牛は、子牛でも50~60㎏ある大きな動物。現場では力仕事も求められることから、体力と活気に満ちたチームです。
入社2年目の私は、先輩の指導のもと、主にミルクを飲む子牛を対象とした飼料開発を担当しています。牛の健康的な成長、既存製品の改善、コスト削減、嗜好性向上などの目的に合わせて、ミルクの開発や改良試験、スターター(人工乳)と呼ばれる離乳食の開発を行います。
製品の開発や改良は、現場のお客さまの声や営業担当の要望をもとに始まります。「コストを安くしたい」という要望には、栄養成分を変えないように、その中で代替原料を探したり、子牛に多い「下痢を抑えられないか」という要望には、下痢の要因になり得る成分を少なくしてみたり、「嗜好性を良くしたい」という要望には、香り付けをしたり味を変えたり……目的に合わせて飼料の配合設計を行い、試験を繰り返しています。
研究所内には飼料を作る設備があり、私たちが設計した餌を実際に作って、牛に給与し、食べる量や発育状況、運動状況、お腹を壊さないかなどの効果を検証します。とくに子牛の場合は、ルーメン(4つある牛の胃の第一胃)の発達が重要です。ルーメンが適切に発達しないと、成牛になってから草の分解が十分にできず、成長に影響が出る可能性があるため、子牛の時にしっかりと離乳食を食べさせる必要があるんです。
研究所というと研究室にこもって顕微鏡を見ているイメージがあるかもしれませんが、私たちの仕事は生きている動物が相手。牛の健康状態を正確に把握するため、日々の観察が欠かせません。健康な牛は目やになどがなく目がきれいで、耳がピンと立ち、ミルクや餌を元気よく摂取します。体調が悪くなると、耳が垂れ、鼻水や咳が出たり、食欲が減退したり、元気がなくなったりします。こうした変化を見逃さないよう注意を払っています。
仕事をする上でもっとも大切にしているのは、一方的な視点に偏らないこと。たとえば、学術的に優れた方法でも、コストが高すぎたり、管理が複雑すぎたりする場合は実用的ではありません。数百頭規模の農場では、作業効率も重要です。学術的な理論と現場での実用性のバランスを取りながらなるべく広い視点で捉え、技術的にできることは何なのか考えるよう心がけています。
技術革新やアニマルウェルフェア(※)など、業界の状況が大きく変化していく中で、これまでと同じことをやっていても生き残れません。とくに育種の改良スピードは速く、それに合わせて飼料も改良していく必要があります。お客さまと一緒に「新しいことをやっていこう」「困り事があるなら解決していこう」という姿勢で取り組んでいます。
※ 家畜などの動物が本来の習性に合った快適な環境でストレスや疾病が少なく健康的に暮らせるよう飼育すること
飼料で畜産に携わりたいと日清丸紅飼料へ。先輩から学び、知識を深める日々
幼い頃から大きな動物に興味があり、酪農高校を舞台にした漫画にも心惹かれ、大学では農学部 畜産科に進学。乳牛のルーメンの発達や細菌について専攻し、とくに飼料が牛のゲップに与える影響などを研究しました。
大学での授業や実習を通じて、飼料1つで牛の状態が大きく変化することを学びました。たとえば子牛の場合、タンパク質が2~3%変わるだけで体格に差が出たり、成牛の場合は、最後にビタミンAの量を減らすかどうかで肉の霜降りの入り具合が変わったりするんです。この経験から、飼料成分の違いが及ぼす影響の大きさを知り、将来は畜産に携わりたいと考えるようになりました。
また、研究室が開発した機能性飼料について、実習先の生産者の方に意見を伺った時に「良さはすごくわかるし使えるものなら使いたいけど、価格が高くて……」と言われたことが印象に残っていて。大学や研究開発側と現場の感覚の乖離を埋めて、お客さまのニーズと技術がマッチする製品を作りたいという思いも強くなりました。
そこで就職活動では、畜産の中でも餌に一番大きく関わる飼料メーカーをメインに活動することに。その中で、面接で出会った人たちの穏やかな雰囲気が決め手となり、日清丸紅飼料に入社を決めました。
入社後は、まず2週間の本社研修でビジネスマナーを学び、その後研究所に配属。採卵鶏、肉用鶏、豚、牛の4つのフィールドを1カ月ごとに回って研修を行いました。さらに、病理検査グループと理化学検査グループでも2週間ずつ研修を受け、2023年10月に養牛開発グループに配属されることに。畜種の中では牛が一番好きなので、携われてうれしいですね。
日々の業務では、試験について先輩と議論する時や、営業担当やお客さまとお話しする時など、広く深い知識が求められます。たとえば、営業担当から「この新製品の一番のポイントは?」と問われた際、単に「栄養成分を強化しました」とするのではなく、「この成分を強化したねらいは○○で、その作用機序は○○で、実際に試験でその効果を確認しました」といった具体的な回答をしなければなりません。
そのためには、牛の栄養学や生理学に関する幅広い知見を身につけることが前提であり、身につけた知識を実際の開発業務に活用できるよう、さらに深堀できるようになることが、目下の課題です。
試験を行う過程では、想定していた結果が出なかったり、試験対象の牛が体調不良で計画通りに進まなかったりすることも。そんな時は、まず先輩に相談して助言をもらい、考えられる範囲で追加実験を行いながら、最終的に納得いく結論を導き出すように心がけています。
先輩からのアドバイスのおかげで、自身の知識も深められています。結果の考察の際は、環境や出生条件など、飼料要因以外で発育に影響を与える要因を排除した上で、飼料による改善効果を判断することが求められます。数値の変化の要因がわからない時は、現場担当の先輩に実際の牛の様子や、研究所の牛と一般的な牛の違いを聞いてみたり、開発の先輩に基本的な知識を教えてもらったりします。
そこから、「もし私が生産者だったらどういうところが気になるか?」を考えた上で、文献や資料にあたって覚えるという形で勉強を進めています。
試験で終わりではなく、自身の言葉で伝える。初仕事でつかんだ製品化への道筋
養牛開発グループに配属されて半年ほど経った頃、印象深い仕事を任されました。子牛のミルクの給与量に関する試験です。現在推奨している量よりも増やす試験を行ったところ、発育が良くなるという結果が得られました。その結果を、製品マニュアルの推奨量変更のために、営業の人たちに報告することになったんです。初めて1人で任された仕事だったため、最初は不安もありました。
スライドを用いて説明する際は、なるべく噛み砕いて伝えることを意識しました。また、試験結果をただ報告するだけでなく、学術的な知見と照らし合わせながら、それがお客さまにとってどのような意味があるのかまで考察して説明するよう心がけました。
その結果、営業の人たちから「後藤自身の言葉で伝えてくれたのがすごく良かった」「スライドも含めてわかりやすかった」と評価してもらえて、とてもうれしかったですね。この経験は自信にもつながり、製品開発から実際の製品に反映されるまでのプロセスを学べて、私にとって大きな収穫となりました。この試験結果を踏まえて、今年度中に推奨量の変更を実施する方向で進んでいます。
日々の業務でとくにやりがいを感じるのは、他部署の人たちとの関わりを通じてさまざまな視点を持てるようになること。そして何より、私が計画した試験で牛が元気に育ち、餌をおいしく食べてくれるようになった時は、努力が報われたと喜びを感じます。たとえ想定通りの結果が出なくても、それを新しい知見として蓄積できることもやりがいの1つです。
営業から技術サポート部まで一体となって現場の声に寄り添う当社の体制のもとで開発業務に携わってきて、大学時代に感じていた研究と現場のギャップは小さくすることができていると実感しています。製品が実際の現場で使えるかどうかという視点を常に持ちながら、より実践的な研究開発に取り組めることも、この仕事の大きな魅力ですね。
技術で頼られる開発者をめざして──飼料を通して、未来の畜産業をリードする
今後めざしたいのは、開発担当の先輩のように開発者として信頼される存在になることです。営業からの技術的な問い合わせに対して的確なアドバイスをしている先輩の姿を見て、とても尊敬しています。私も「技術のことなら後藤に」と言ってもらえるような人材になりたいと考えています。
そのためには、幅広く情報収集を行う必要があると感じています。また、社内外のさまざまな方と関わりを持ち、密なコミュニケーションを取ることで、必要とされている情報を適切に汲み取る力を身につけていきたいです。
新たな仲間として迎えたい人材は、新しいものを取り入れることを恐れない方です。畜産業は古くからある業界ですが、技術革新が著しく、同じことをやっていては業界をリードする存在にはなれません。日本の食に欠かせない畜産業に、私たちは餌の力で貢献したいと考えています。たとえば牛なら「子牛がお腹を壊しにくい飼料」など、課題に対して幅広く、新しい視点で取り組める方と一緒に働きたいですね。
研究職志望の方の中には、研究室での基礎研究に魅力を感じる方も多いと思います。しかし、実際の動物を相手にする研究開発には、また違ったおもしろさがあります。試験管内の反応を見るのとは異なり、動物の反応は複雑で、とても難しい。だからこそ、望ましい結果が得られた時の喜びは格別です。
当社には、畜産分野以外のフィールドから入社し、活躍している方もいます。研究所に着任後最初の半年間は、畜種ごとに座学による講義と実際の動物管理の実地研修を1カ月間しっかり行いますし、配属後も、基礎的なことから先輩がサポートしてくれる体制が整っています。研修期間中は同期や他部署の人との関係性も構築できるので、配属後にわからないことがあったら「鶏部門の先輩に聞いてみよう」など、部署を超えた相談をすることも。未経験からのスタートでも安心してスキルや知見を高めていけると思います。
生きている動物との関わりの中で、理論と実践の両方を学べる環境は、研究職としても非常に魅力的です。ぜひ、この仕事のおもしろさにチャレンジしてほしいですね。
※ 記載内容は2024年12月時点のものです
