生産者目線で魚と向き合う日々。養殖現場の課題に応える、新時代の飼料開発
私は現在、鹿児島県の南さつま市にある水産技術研究所で研究開発職として働いています。仕事内容は養殖魚の飼育試験のほか、原料評価、営業部門からの依頼対応など多岐にわたり、時には生産現場への営業同行をすることもあります。
主な業務は飼育試験です。従来のエサと新配合のエサの比較試験を行い、成長の差異を確認することで、より良い製品開発につなげています。
近年、飼料メーカーを取り巻く環境が大きく変化しています。世界的な養殖業の発展に伴い、エサの需要が増す一方で、原料の価格高騰や原料自体が減少しているなどの理由から、原料調達が厳しい状況です。これまでの養殖の歴史の中で、魚種ごとに適した原料や栄養素の基礎は確立されていますが、原料不足の中、別の原料でいかに同等の製品を作れるかということや、栄養価の高い配合、新規原料の探索・開発が当研究所の重要なミッションとなっています。
また、各水産営業部からの依頼に応じて、さまざまな課題解決にも取り組んでいます。主な相談は養殖魚の成長に関するものですが、中には特殊な原料を活用した新製品開発の相談を受けるケースもあります。
たとえば、ある地域の特産品やその副産物を製品に活用できないかなどの相談があった場合は、研究所で飼育試験を行い、成長や身質への影響を確認することもあります。地域によって育つ魚種や給餌方法が異なるため、それぞれの地域特性に合わせた製品開発を進めています。
研究所内での業務のほか、お客さまを訪問することも重要な業務の1つです。基本的には営業担当が定期訪問しているのですが、私も同行することがあります。実際の生産現場でニーズや飼育環境を確認することで、より効果的な研究開発に活かすためです。とくに私の場合はうなぎのエサの営業経験があることから、そこの専門的なアドバイスをすることもありますね。
仕事をする上で心がけていることは、社内外問わず、人と人のつながりを大切にすることです。研究所内でも若手の意見を最初から否定せず、「そういう視点もあるよね」と、まず受け止めてから対話を進めることを大事にしています。中間に立つ人間として、若手社員と上層部の橋渡しができる存在になることも私の役割の1つだと思っています。
幼少期からの「好き」がキャリアに。解剖セットを片手に養鰻場で学んだ日々
子どもの頃から生きものに興味があり、とくに魚が好きだったことから、大学では生物資源科学部に進みました。そこでは主に海洋生物に関する生態を学び、中でも力を入れていたのがうなぎの研究です。具体的には、うなぎの産卵や成長、海中での行動について研究していました。
就職活動を始めた頃、飼料会社の存在をあまり意識していなかったのですが、養殖にはエサが必要だという観点から興味を持ちました。当社の製品の中でもとくに目をひいたのが、うなぎの稚魚「シラスウナギ」のエサである「イトメイト」です。その後、就活中にお話を伺う中で業界のおもしろさを感じ、入社を決意しました。
入社後は、最初の1年間を水産研究所で過ごし、各養殖魚の飼育試験などを行いました。2年目からは九州水産営業部に異動となり、主に南九州の養鰻場に向けての飼料販売を担当しました。うなぎといえば愛知や浜松といった地域のイメージがあるかもしれませんが、南九州にも豊富な地下水を利用した比較的規模の大きな養鰻場が多くあり、重要なエリアとなっています。
営業職となって最初に担当したのが鹿児島県の養鰻場で、当社の中でも大口の取引先です。入社2年目にして重要な取引先を任され、当初はその重みを理解できていませんでしたが、徐々にやりがいを感じるようになりました。
業務としては、単にエサを販売するだけではなく、養鰻場への定期訪問を行い、朝早くから現場で魚の状態やエサの状態を確認することが多かったです。さらに魚病検査も日常的に行っていました。営業車には顕微鏡と解剖セットを積んでおり、うなぎのエラを切り取って顕微鏡で見て、お腹を開いて内臓の状態を確認します。当初は慣れない作業に手こずりましたが、先輩社員にフォローしてもらいながら身につけることができました。
この魚病検査に関しては、お客さまから毎日のように「うなぎの調子が悪いので見てほしい」といった相談や依頼を受けました。裏を返せば、それだけお客さまとコミュニケーションをとる機会が多く、飼育管理の方針や抱えているお悩みなどを共有できる大切な場だったと感じています。
お客さまと向き合い続けた先に見えた仕事の価値と、失敗からつかんだ新たな成長
日々お客さまを訪問させていただく目的としては、製品に関する案内やご要望のヒアリング、養殖状況の確認や業界に関する情報交換などさまざまです。何かをお伝えする際の内容でも、お客さまにとってプラスになるような話題の時もあれば、そうでない場合もあります。
もちろん、訪問させていただくお客さまの性格やスタイルもそれぞれなので、誰に対しても同じような対応をすれば良いわけではなく、相手に合わせた説明や対話が必要になってきます。
営業職を担当させていただいた当初はお客さまとの関係構築に悩むことが多かったです。相手との距離感が遠すぎても近すぎても良くないですし、伝えるべきことは確実に伝えなければいけません。そういったことを自然にこなす先輩を真似ようとしたこともありますが、結局は自分の色、自分の言動をもって接しなければ、相手も心を開いてくれないのだと実感するようになりました。
悩みながらも頑張ってみようと思えたのは、厳しくも愛情が込められたお客さまからのひと言だとか、社内の方からのサポートがあったからだと思います。今となっては、多くの方々と接することができて普段では味わえない経験ができる営業職というのは、自分自身にとってはプラスでしかなかったと思えますし、仕事である前に人間関係、信頼関係の構築がなければ成り立たないのだと、大切な価値観を持つことができて良かったと思います。
一方、やりがいを感じた出来事として、お客さまから夜中に緊急の連絡を受けた時のことが印象に残っています。電話の内容は、池入れしたばかりのシラスウナギの状態が悪いというものでした。天然種苗であるシラスウナギは非常に高価なものであるため、導入するのに莫大な資金が必要です。そのため成長が遅れたり、大量死が起こったりするとお客さまの経営自体を左右してしまいます。
当時は、爪楊枝大のサイズであるシラスウナギを魚病検査した経験がなかったのですが、なんとかエラや体内の状態を確認することができ、最善の対処法を考えることができました。失敗すると大損害につながる可能性があり、現場はとても緊張感のある空気でしたが、大事には至らないということがわかったため、安心してもらえるよう、丁寧ながらも明るい口調でお伝えしました。
最終的にお客さまから「加来さんがいないと困る」「心のよりどころだよ」といった言葉をいただき、本当に嬉しかったです。
若手が挑戦できる環境。現場に寄り添い、「製販一体」で生み出すエサ開発の醍醐味
営業時代、困難な経験を重ねる中で、生産者にとって私たちが命綱的な存在であることを実感するようになりました。良い評価をいただいた時はもちろん、そうでない時こそ誠心誠意を持って対応することの重要性も学びました。
また、私自身は営業職向きの性格ではありませんが、相手の心情を汲み取り、寄り添うことができます。当初は人間関係で悩んだこともありましたが、そのぶん、人との接し方や仕事の進め方など学べたことが多く、おもしろさも感じられるようになりました。また、多くのことを経験させていただく中で、何事も「とりあえずはやってみよう」と前向きに取り組めるようになったと思います。
現在、研究開発職として働く中で、私がとくに意識しているのは、営業時代に培った現場視点を活かすことです。そのことを見込まれての異動でもあったと感じています。
また、開発と営業が一体になることの重要性も感じています。実際に現場を見て、お客さまとの会話の中から細かなニュアンスを感じ取ることは、より良い製品を作りだす上で欠かせません。製品に関わる人たちができるだけ目線を合わせられれば理想的ですね。
入社を検討されている方々にお伝えしたい当社の特長として、若い方も活躍できる職場だということが挙げられます。チャレンジする若手社員をサポートしてくれる先輩や上司が多く、困った時にも相談できるので、安心して仕事ができると思います。実際に活躍している若手社員を見ていても、常に疑問を持ち「こうしたらどうですか」などの提案ができる人が多いように感じます。
若い方にとって、朝が早い仕事や現場作業は敬遠されがちな面もあるかもしれません。しかし、生産者と密接に関わり、その課題解決に向けて製品開発できることは、この仕事の大きな魅力です。私自身、入社2年目にして大口取引先の養鰻場を担当させていただいた時は、責任の重さに戸惑いもありましたが、やりがいを持って取り組むことができました。
これまでの経験を通じて、製品開発における現場の声の重要性を実感してきました。私たちメーカーはエサを作ってはいますが、毎日実際に使用しているお客さまからの意見は最もフレッシュで価値のあるものだと考えています。
この考えは、現在の研究開発の仕事にも活かしていきたいですし、今後はうなぎだけでなく、他の魚種についても同様の視点で見ていく必要があると考えています。これからも生産者の声に真摯に耳を傾け、より良い製品開発に取り組んでいきたいです。
※ 記載内容は2024年12月時点のものです
