学生時代から志したカーデザイナー。配属は想定外のトラック・バス部門へ
カーデザインの分野をめざし、専門学校への進学を決めた竹林。きっかけをこう語ります。
「技術系が好きだったので、ものづくりに携われる職種を探し、専門学校でカーデザインを学ぶことに決めました。専門学校ではカーデザイン科に在籍し、スケッチやモデルなどカーデザイン全般を学びました」
カーデザインについて学んだ後、就職先に選んだ三菱自動車には惹かれるものがあったと竹林は話します。
「国内メーカーの中で、 いろいろなことができそう、というエネルギーがあったように見えました。独特な商品を作っていたので、魅力を感じたんです」
無事、三菱自動車に入社した竹林。乗用車部門への配属を想定していましたが、思わぬ誤算がありました。
「内定式の後、本社説明会で渡された書類に、希望勤務地を書く欄がありました。東京から近い神奈川県の川崎と愛知県の岡崎の選択肢があったので、『東京にもあるじゃん』と川崎を選んだら、川崎にある技術センターのトラック・バス事業部門(現:三菱ふそうトラック・バス)のデザイン部に配属されました。乗用車部門を想定していたので、思わぬ誤算でしたね。若気の至りで、ちゃんと調べもせず選んじゃったんですよ(笑)」
想定外の配属先でしたが、そこで数々のプロジェクトに携わり、多くのことを学んだと語ります。
「当初のイメージにたいして、ギャップがありましたね。たとえば、路線バスのデザイン。スケッチを描いていなかったんですよね。 斜め前後のクオータビューやパースのかかったスケッチを描くのだと思っていたら、真正面や真横から見た角度の図面でみんなデザインしていたんで、すごく衝撃的でした」
小型バスのローザに携わるほか、トラックのキャンターのフルモデルチェンジを担当するなど、経験を積んでいった竹林。2003年にトラック・バス事業部門が会社分割により分社化され、三菱ふそうトラック・バス株式会社が設立されたことをきっかけに、竹林の乗用車部門への異動が決まります。
「当時は人材交流が盛んで、乗用車部門がある愛知県の岡崎のデザインセンターや東京の多摩デザインセンターに、毎年のようにトラック・バス事業部門からローテーションしていました。私が、乗用車部門の多摩デザインセンターに行っている間に分社化されて、そのタイミングで乗用車部門への異動を希望し、決定しました」
多面的にデザインスキルを磨く日々
エクステリアデザイナー、カラーデザイナー、デジタルモデラーと、さまざまな部署で多面的にデザインスキルを磨いてきた竹林。キャリアを振り返り、デザイナーとしてのやりがいを語ります。
「良い商品ができて、お客様が使っているところを見たときはうれしかったですね。大きなやりがいを感じました。同時に、あそこはもうちょっと良くできたんじゃないかって反省もします」
カラーデザインに関わったことは、良い経験だったと続けます。
「マネージャーの勧めでカラーデザインの業務を経験しました。『カラーをすることで会社での仕事の進め方がよくわかる』と言われ、実際にやってみると、自分だけで完結できることはありません。工場や関連部門、社内や外注先に足を運び会議に参加して、さらに人を動かして依頼して……と、説明やその準備が必要でした。それがすごく良い経験になっていると思いますね」
カラーデザインの奥深さに触れる経験もありました。
「大型バスのソリッドカラーの車体色開発が楽しかった思い出があります。海外の販売地域によって、天候も光の差しかたも違うので、同じ塗料なのに見え方や印象が違うんです。バランスを取りながらバリエーション豊富に見せる工夫や、微妙なさじ加減が求められましたね」
カーデザイナーとして着実にキャリアを積んできた竹林。3D-CADが技術的に発展しだしたタイミングで、うまく自身のスキルに取り込めたと話します。
「デリカD:5に、デジタルモデラーとして携わりました。3D-CADは、デジタルモデラーとして自分の思い通りに作れるのが魅力でした。もともとインハウスCADと言われる会社独自の3D-CADで開発していました。3D-CADが技術的に発展しだした時期に、規格の統一された汎用の3D-CADが導入され、教育プログラムで先に取り組んでいる人がいたんです。次の世代に教育をどんどん広げていこうという取り組みの中で、自分もスキルを身につけられました」
デザイナーから部長職へ──経営者目線でデザインを考える
部長になったいま、自身の役割は“メンバーを支えること”だと語ります。
「チームメンバーのやりがいを見つけ出すサポートをしています。みんなが働きやすくて、魅力的な商品や良いアウトプットを出せるように、仕組みや方策、将来を考えるのが仕事です。たとえば、みんなの利便性向上のために設備を新しく導入して、それをみんなが使ってくれているのを見るとうれしいですね」
また、自身がクリエイターだったころ感じていたやりがいを、チームメンバーが実感できるようにしていると話します。
「部長になったころ、大先輩からアドバイスをもらいました。『部長は絵を直接描いちゃだめだ』と。自分で描いたら負けだって言われましたね。
デザイナー、クリエイターというのは、『上司、部長に言われた通りにやりました』ではなく、“自分のアイデアが採用される” “このアイデアを通してやる”という熱意や情熱が大切です。そして案が採用されたとき、その人自身の成功体験となり成長につながると思っています。そういう機会をみんなに経験してもらいたいので、部長として直接絵を描くようなことはしないようにしています」
メンバーの“描く”を支える側になることで、デザイナーだったころとは物事の捉え方、見方が違っていると話します。
「現場目線だけではなく、経営者目線で俯瞰してみることにすごくこだわっています。デザイナーの『こうしたい』というのは伝わってくるのですが、経営戦略や目標に対して違うところは、明確に伝えていく必要があります。
時には、デザイナーから見ると厳しい印象を与えてしまうこともあると思います。丁寧に相手の目線で必死に考え、納得してもらえるよう、言い方や伝え方はすごく気を遣っています(笑)」
部長になってから、人に伝えるスキルの向上に取り組んだと言います。趣味から仕事にフィードバックできたことを話してくれました。
「趣味のひとつにコーヒーがあります。東京で開催されるワークショップに行って、聞く側、伝えられる側の立場になって学ぶ機会を作っています。初心者から上級者までカバーしたコースやカリキュラムが充実しているので、学びが多くあります。
組織には役職や立場、入社年数など、違う立場の人がいます。その中で、どうやったらそれぞれに伝わるのかというヒントが、趣味からいくつも得られました。『これくらいのことはわかっているだろう』と、自分を基準にせずに相手に合わせて説明すること、伝えることが大切ですね。部長になってからもプレゼンテーションについてよく練習した思い出があります」
カーデザインのこれからと、未来のカーデザイナーへのメッセージ
カーデザインのこれからについて触れておきたい話題のひとつ、AI技術の活用について、竹林はこう語ります。
「AIが登場するまでは、人がアイデアを考え、そこからスケッチを描いて……とゼロから生み出すので、ああでもないこうでもないと時間がかかっていました。けれどAIにキーワードを組み合わせた英文のテキストプロンプトを入力すると、数分ほどのわずかな時間でスケッチ(画像)がいくつも出てきますね。
人とAIを競わせるのではなく、AIが出力したものをベースに人が手直しする。良いところ、魅力を伸ばす。開発の初期段階にアイデア出しを効率良く行えるので、デザイナーは別のことにもっと時間を使えるようになる。徹夜して膨大な数のスケッチを描かなくていいなんて、私がデザイナーのころにあれば良かったな、と思いますね(笑)」
AI時代のデザイナーの仕事を、次のように語ります。
「どれにしようか迷うほど、たくさんアイデアスケッチがあるのは、幸せなことだと思います。多くのアイデアから案を絞って、どういう方向でどこをめざすのかは、今までもこれからも、デザイン本部のみんなの仕事ですね。各部署、各チームの誇りと想いが大切です。
また『シンプル』とか『しっかり』しているとか、人間同士だと言葉の発し方と受け取り方が曖昧になりがちなんですが、AIにテキストプロンプトを入力すると、思っていたのと違う画像が出ることがあります。テキストの一つひとつ、組み合わせなどをもう一度変えるなど、言葉のもつ意味の認識のズレをあらためて考える良い機会にもなります」
最後に、カーデザイナーを志す人へのメッセージを竹林が伝えます。
「私を含め、デザイン本部にいるみんなから感じますが、デザイナー職、クリエイター職は、本当に自分がやりたいと思ってめざす人が多い職種だと思いますね。
三菱自動車は、いろんな経験が積めて、それが自身のキャリアにつながる実感を得られる、とても恵まれた環境だと思います。何かきっかけがあれば別の分野にも挑戦できる会社だと思います。
自分で携わった商品が世の中に発売されて、お客様に使ってもらえて、喜んでいる姿を見られるその醍醐味は素晴らしいです。カーデザイナーを志す皆さんも、ぜひ頑張って夢を叶えてほしいと思います」
※ 記載内容は2023年10月時点のものです

