優雅さと堅牢性を両立。コンセプトは「Silky & Solid」
──「エクスフォース(X FORCE)※」の概要について教えてください。
西角:エクスフォースは、アセアン市場向けに開発された三菱自動車のグローバル戦略車です。2023年11月にインドネシアでの発売を開始し、アセアン地域や南アジア、中南米、中東、アフリカでも順次展開する計画です。
当社が東南アジア地域で製造・販売しているミニバン「エクスパンダー(X PANDER)」のプラットフォームをもとにした5人乗りのコンパクトSUVで、初めて三菱車に乗っていただくお客様、とくにヤングファミリーやシングル層がターゲット。三菱自動車の世界戦略車の中でももっとも小さいカテゴリーに位置づけられています。
コンセプトは、「Silky & Solid」。都会的な優雅さと本格的SUVならではの堅牢性を兼ね備えたスタイリングをめざしました。力強いデザインを取り入れる一方、取り回しの良いボディサイズ、そして広い室内と多様な収納スペースを特徴としています。
※ エクスフォース:当社発表記事(リンクが開きます)
ニュースリリース | MITSUBISHI MOTORS (mitsubishi-motors.com)
──皆さんがエクスフォースに携わることになった経緯は?
西角:私がエクステリアを、谷口さんがインテリアのシートを、眞島さんがデジタルモデリングを担当しています。それぞれがこれまでの経験や、担当するプロジェクトの進捗状況などに応じてエクスフォースの開発メンバーに選ばれました。
谷口:私は直前に関わっていたプロジェクトが終盤を迎えたタイミングで参加しています。当初は複数のプロジェクトを同時並行で担当していました。
眞島:私は以前、エクスフォースとプラットフォームを共有するエクスパンダーの初期のインテリアを担当していました。おそらくその経験が今回のアサインに関係していると思います。
──エクスフォースでのそれぞれの役割、ミッションを教えてください。
谷口:私はフロントとセカンドシートのデザインを担当しました。 フロントシートはほかのデザイナーが描いたスケッチをベースとしており、セカンドシートでもフロントシートのモチーフを採用しています。
眞島:インパネからセンターコンソールにかけてを主に担当しましたが、フロントやリアのドアにも関わるなど、シートを除くインテリアのほぼすべてに関わりました。
とくに注力したのが、インパネの部分です。通常、左右のエアコンの吹き出し口は直接前方に向けられますが、これをドライバーや前席の乗客に向けて設置しました。これによって、機能的な配置が一目でわかるようなデザインをめざし、インパネからドアにかけてのデザインとの調和にもこだわっています。
西角:私はマネージャーの立場でエクステリアデザイングループの取りまとめを行いました。たとえば、三菱自動車では力強いパフォーマンスとプロテクションの安心感を表現した「ダイナミックシールド」をフェイスデザインに採用していますが、サテンメッキや立体的なシェイプのヘッドランプと組み合わせるなど、エクスフォースではこれを新世代化。リアコンビランプでもヘッドランプのデザインを反復し、遠くから見てもすぐに三菱車だとわかる特徴的なスタイリングに仕上げています。
意識したのは、他車種との共通性です。ラインナップで一貫性を持たせつつ、新型車としての新鮮な驚きを提供するためにデザインをアップデートしています。
信頼とワクワク感を、お客様に。デザイン性と機能性の融合をめざして
──エクスフォースの開発に至った背景について教えてください。
西角:三菱自動車では、最大の成長市場であるアセアンに軸足を置いて世界戦略を展開しています。アメリカやオーストラリア、日本以上の伸びが期待されるこの市場にコンパクトSUVを投入することで、新たな層にアピールする狙いがありました。
また、インドネシアではすでにエクスパンダーが高い支持を得ていますが、同車は多人数で利用することを想定したMPVです。「1親族に1台」の時代は終わりを告げ、いまは「1人1台」の時代を迎えています。ヤングファミリーやシングル向けの市場の急激な成長にともなって求められる車種が変化し、当社が得意とするSUVがトレンドとなりつつありました。
新しいフィロソフィーとして「Robust & Ingenious」を掲げ、新しいデザインアイデンティティの構築をめざしてきた当社にとって、SUVならではの屈強さと、新規性を求めるアセアン市場のお客様のニーズに応える斬新なスタイリングを両立したエクスフォースのエクステリアデザインは、ひとつのマイルストーンになると考えています。
──デザインにおいてとくに注力した点や苦労した点は?
西角:エクスフォースは、このクラスでは最高レベルとなる222mmの最低地上高を確保しています。一般的に、背が高くなればなるほどデザイン性が損なわれてしまう傾向があるため、インテリアとエクステリアデザイン、居住性などを含むパッケージングには徹底的にこだわりました。
結果的に、アセアン市場のお客様が求める広い室内空間、スタイリッシュな外観、そしてSUVの特性を兼ね備えた最適な解決策を見出すことができたと自負しています。
谷口:私がシートをデザインする上でとくに意識したのは、スポーティーなデザインと機能性を両立させることでした。スポーティーさの鍵を握るのがサイドサポートです。サイドサポートで搭乗者の身体をしっかりと支えることができれば、自動車がある程度揺れてもドライバーの体が不安定になることはありません。
ところが、サイドサポートが大きく張り出すと、ステアリングやシフトレバー、コンソールなどを操作する妨げになってしまいます。そのため、安定感と操作性の最適なバランスが求められました。
また、背中を支えるシートバックにはY型のモチーフが採用されており、これもスポーティーな印象に一役買っています。シートバックを構成する複数のパーツをバランスよく配置しながら体に沿わせ、シートとして成り立たせていく上で、人間工学を重視する評価部門とは激しい議論を繰り返しました。
眞島:エクスフォースではエクステリアだけでなくインテリアにもハニカムのパターンが随所に採用されていますが、これを前後のドアトリムに立体表現によるグラデーションデザインとして取り入れるのに苦労しました。不快感を与えない適切な深みを出すために、0.01~0.1mm単位での細かい調整を行い、トライアンドエラーを繰り返したことが印象に残っています。
VMARKベトナム・デザイン・アワードを受賞。チームワークで得た確かな手ごたえ
──発表後、周囲からはどんな反応がありましたか?
谷口:ベトナムのホーチミンを本拠地とするベトナムデザイン協会が主宰する「VMARKベトナム・デザイン・アワード2023」の「ベスト・トランスポーテーション・デザイン」カテゴリーにおいて、エクスフォースが三菱自動車として初めて金賞を受賞しました。同車にとっての主戦場で高い評価をいただいたことはとても光栄なことだと思っています。
──エクスフォースの開発に携わって、どんな気づきや学びがありましたか?
眞島:エクスフォースのインテリアでは、主要なパーツ表面に明るいトーンのファブリックを採用しました。ファブリックは汚れやすいのが弱点ですが、そのハードルをクリアできたことに大きな手ごたえを感じています。
従来の三菱車では合成皮革を使用することが多かったため、これまでにない表情に仕上がったというのが個人的な印象です。今回の開発を通じて素材の力の大きさをあらためて実感しました。
西角:エクスフォース含めプロジェクトには、開発スタートから開発の完了まで、さまざまな世代、多くのスタッフやデザイナーが参加しています。マネージャーとしてチームを率いる立場として、チームワークの重要性を再認識しました。
各地の生産工場から出荷され、お客様の手に渡る商品としての自動車が私たちにとってのアウトプットです。多くのメンバーと協働しながらより良いものにしていく醍醐味を味わいました。
スケッチをもとにモデルをつくり、最終データとして出力した後も、エンジニアたちと連携しながら、何度も改良を重ねる必要があります。アイデアを形にするまでの道のりはとても長く、デザイナーとして果たすべき役割の重さを強く意識したプロジェクトでもありました。
谷口:さまざまな工程を経て、最終的に思い通りの製品に仕上げることもデザイナーの仕事です。とくにシートには柔らかい素材を使用するため、形状のコントロールは困難です。最後まで妥協することなく狙い通りの形にできたことをとても誇りに思っています。
自分たちだからこそできるクルマづくりを。三菱デザインのさらなる進化に向けて
──今後の展望を教えてください。
谷口:エアバッグの組み込みや軽量化など、シートデザインにはさまざまな制約があります。そういった諸条件に縛られない、コンセプトカーのインテリアそのままのような、流線的なフレームにメッシュ生地一枚で体を支えたり、宙に浮いているように見えたりするシートなど。より機能的に体をホールドする新たな方法など、先進的なことに取り組んでいきたいです。
眞島:3Dデータで造形する上で、従来はモニターを見ながらモデリングしてきましたが、近年は新しいモデリング手法の開発が進んでいます。VRなど自分の感覚に近いデザインをより効率的に実現できる技術にも積極的に挑戦していきたいと思っています。
西角:チームをマネジメントする立場として、若い人に挑戦の機会を提供し、幅広い経験をしてもらいたいと考えています。スキルの底上げを図り、三菱のデザイン力を高めていくことが現在の目標です。
──カーデザイナーを志す学生に向けて、メッセージをいただけますか?
谷口:どんなことにも興味を持ってほしいと思います。対象を問わず、追求していくことこそがデザイナーにとって大切だと考えているからです。
眞島:人が実際に乗り込むことのできるプロダクトデザインに関われる機会は多くありません。谷口さんの言う通り、まずはさまざまなものを見て経験し、感覚を磨いてください。そして、良いと感じるものに出会ったなら、なぜそれが良いと感じられるのか、その理由を深く掘り下げることが、成長への近道になると思います。
西角:デザイナーにとってインプットは不可欠ですが、アウトプットでどれだけ差別化できるかがさらに重要です。私たちの世代は紙に絵を描くことで技術を高めたものですが、現代では3Dソフトウェアの進化により、2次元と3次元の境界が曖昧になっています。自分に最適な表現手法を選んで、独自性を発揮してほしいと思います。
※ 記載内容は2023年12月時点のものです
