クレイモデラーからNCプログラマーへの転機
1999年に入社し、クレイモデラーとしてのキャリアを歩み始めた鳴島。クレイモデラーをめざしたきっかけがあると言います。
「叔父がスポーツカー好きでよく乗せてもらい、ずっとかっこいいなぁと思っていて。日本史の先生になりたかったこともありましたが、モノを作ることが楽しかったからカーデザインの学校に入りました。免許も高校3年の在学中に取得し、当時よく売れていたパジェロに乗って専門学校に通っていましたね」
現在、NC加工機(※)のプログラミングを主に担っています。入社当初は、NCプログラミングはあったもののまだまだ浸透していなかったと振り返ります。
「入社した当時からNC加工機はありましたが、手で削る方が主流でしたね。専門学校でも、当時は『デジタルモデラー』という言葉もなく、勉強したのはクレイのみでした。
そういう状況なのでNC加工は各グループでプログラミングができる人がやっている感じでした。2014年からはNC加工機の専属チームになり、今はすべてのモデルのスケジュール管理やプログラミングをやっています」
NC(Numerical Control)加工とは、工作機械をコンピュータで制御して金属やクレイを切削する加工方法。自動車のデザイン検討段階で、1/4サイズやフルサイズのモデルを粘土で作るときに使う重要な機械です。NC加工機のメリットについて、鳴島はこう語ります。
「複雑な形状でも高い精度で加工ができることと、かつては手作業で作っていた車のクレイモデルの製作時間を圧倒的に短縮できるようになったことですね。
デザイナーが描いたスケッチを、デジタルモデラーが3Dモデルを作成できるエイリアスデータに起こし、NC加工機を動かすためのCAMデータに再プログラミングして切削しています。再現性はほぼ100%で切削できるので、クレイモデラーやデザイナーが最後の“味付け”をする時間を多く取れることが大きなメリットです」
※ 車の実寸大のクレイモデルを掘削する機械
NCプログラマーとしての目標と、モデラーへの挑戦状
複雑な形状でも削ることができるNC加工機のおかげで軽自動車からピックアップトラック、コンセプトカーまで幅広い車種のモデル製作に対応できるようになりました。
一方で、少数精鋭ですべてのモデル製作・管理をすることから、おのずと業務量の増加や困難が生じることも。しかし、鳴島はとくに大変だと感じたことはないと答えます。
「もともとモノづくりが好きだったので、やらなきゃいけない状況に追い込まれて淡々と作っていく感覚です。
スケッチやデジタルデータの再現性を高められた時は、大変で難しい部分もあるけどおもしろいですね。車の形状はさまざまなので、どのドリルを使うか、ドリルが入らないところをどうやって再現するかなど全部自分で考えて作らなきゃいけないので。
最近だと、新型『トライトン』は新しい試みをして大変ではありました。パス(切削痕)形状が出ないように削りを細かく設定するほど、山がなくなってモデラーの修正が少なくなるのですが、切削時間がかかってしまう。時間内でモデルをどうやって作るのかを考えるのが、難しくもあり醍醐味でしたね」
これからめざしたいことについて、鳴島はこう公言します。
「究極の目標は、NC加工機でモデル作りを完結したいですね。仲間のモデラーへは、『悔しかったら機械ではできない(モデラーとしての)価値を見出してほしい』という意気込みで仕事をしています。
NC加工はあくまでデータなので、それより先の人間でしかできない部分はあると思います。“味付け”、つまり匠の技でミリ単位を削って車のラインを変える最後の化粧は、モデラーにしかできないことだと思っているので。
デザイナー・モデラー双方がその味付けの時間を多く使えるように、100%のクレイをめざしていますね」
鳴島なりの、モデラーへの挑戦状でありエールです。
時代の変遷の中で、三次元と二次元を行き来するモデラー
デジタルモデルとクレイモデルの違いについて、鳴島は「やりたいことは同じで、ツールが違うだけ」だと考えています。
「三次元のモノを作る目的は同じ。デジタルデータを作る時も、やはりクレイモデルを手で作っていた経験が生きています。
実際の経験と重ね合わせ、三次元が頭の中にあってクレイやデータに置き換えている感覚ですね。だから、これからのデザイナー、デジタルモデラーも頭に三次元の形が入っていないとデータも見えてこないと思うんです。
いろいろな角度のスケッチを見ると、つながっていないところの違和感が見えてきます。その違和感を三次元でも成立するようにしていくのがモデラーかなと考えています」
最近はVRなどの進化が目覚ましいですが、デジタル技術が進化することでクレイモデルがなくなる未来はあるのか。鳴島は、以下のように答えます。
「自動車産業が生まれてから今まで、デジタルモデルが主流になったり、クレイモデルへ戻ったりする動きを繰り返しているみたいです。なので、どちらかがなくなることはないのではないでしょうか。
デジタルに移行していっても、検討段階で車のモデルを見る人がそのデータを三次元的に観るスキルが必要だし、二次元から三次元に起こすとどうしてもズレが起きます。実際に手で三次元のクレイを作ることで、二次元のデータに忠実にデータを作り込めるようになります。
これからのモデラーは、どちらもできることでより精度の高い仕事ができるんじゃないですかね」
現に、当社でもデジタルモデラーとクレイモデラーを行き来しているハイブリッドモデラーが増えています。
新しいモノづくりに挑戦できる、自分のラボで見つけた生きがい
NCプログラマーで求められることについて、鳴島には哲学があります。
「いろいろなことを経験して目を養うことですね。足らないものは、小さいことでも調べること。常に疑問があったら調べて、自分の引き出しを増やしていくとパズルのようにはまる時があります。
たとえば、NC加工機では使っていない素材を削ってみて、失敗していろんなことを経験しておくと、いつか違うことに役立つことがあります。
僕はよくばりなので、ナンバーワン、かつオンリーワンが好きなんです。好きなことで『君でないとできない』と言われる場所が見つかったのは幸運ですね。
でも、かつては普通にただ過ごしていただけなんですが、前本部長から『適材適所だよ』と言われたことが心に刺さったんですよね。それ以来、自分でNC加工を磨き上げてナンバーワン・オンリーワンをめざすようになり、今があると思っています」
そして、鳴島は3Dプリンタで作ったコンセプトカーのハンドルを見せながら語ります。
「3Dプリンタが導入はされていたのですが、誰も使っていなかったので独学で覚えました。空いている時間にいろいろ試して作っています。
試作部品パーツを作ったら再現性が上がって、クレイではできない部分を短時間で作れるようになりました。気がついたら仕事になっちゃった感じです。
ここでは自由に好きなことに没頭でき、新しいモノづくりに挑戦でき、さらに人に喜んでもらえる。自分のラボみたいで、最高の職場ですね」
この仕事に向いている人は、自分で求める人、楽しめる人、こだわる人を挙げます。
「データ通りNC加工機を回すだけじゃなく、細部までこだわると後工程の人がすごく楽になることがあります。
クリエイティブな部分は教えられることではないので、メンバーにもスタートとゴールだけ決めて後は自分で考えてもらうことを大切にしています。自分のやり方が正しいとは思ってないし、他の人のやり方で学べることも多いので」
最後に、デザイナーやモデラーをめざす人へこうメッセージを伝えます。
「プライベートでも、仕事でも、自分が楽しいと思うことをやった方がいいですね。つらいことを乗り越えた先に楽しさがあります。人生を楽しんでほしいな」
※ 記載内容は2024年5月時点のものです
