「ブランドの約束」を体現する場所で。2つのカーイベントでのデザインの挑戦
──まず、ジャパンモビリティショー(以下、JMS)や東京オートサロン(以下、TAS)といった大規模プロジェクトが、三菱自動車にとってどのような価値を持つのか教えてください。
木村:これらのイベントは、私たちがお客さまと直接コミュニケーションできる数少ない、かつ非常に重要なタッチポイントです。そこで「三菱自動車はどんな未来を見せたいのか」というブランドの約束を、車だけでなくブースデザインや映像、体験すべてを通して提示する。それが社会に与える最大のインパクトだと考えています。
たとえば、JMS出展コンセプトは「FOREVER ADVENTURE(フォーエバー・アドベンチャー)」でした。今の時代、自動運転などの技術は高度に進歩していますが、それでも自らハンドルを握って「未知の場所へ踏み出す冒険の喜び」は不変である、というメッセージを込めています。
──戦略・広報グループに所属されている皆さんは、その中でそれぞれどのような役割を担われたのでしょうか?
木村:私たちデザイン戦略・広報グループは2つの部にまたがり東京都内と愛知県岡崎市内にあるデザインセンター2拠点で協働しています。
今回のイベントにおいて、私はデザイン本部の「ハブ」として、マーケティング企画部や営業部門といった予算や運営を司る他部署と密に連携し、デザインに関するタスクを整理してクレモンや古里、他のデザイナーにつないでいきました。
クレモン:今回の私の役割は、コンセプトや世界観を視覚的な要素へと落とし込みながらストーリーテリングをしていくことです。木村たちデザイン本部や他部門と協力し、フォーエバー・アドベンチャーという抽象的な方向性をどう視覚化し、人々が実際に体験できる形にするかを検討しました。
私はフランスでプロダクトデザインを学び、日本の大手メーカー数社を経て2022年に中途入社しました。三菱自動車のデザイン本部は非常に国際的で、多様な視点を尊重する文化があると感じています。
古里:私は2019年に入社し、デジタルモデラーとしてエクステリアデザインを担当していました。現在は戦略・広報グループで先行研究に携わっています。
今回のプロジェクトではCG・VR担当として、ブースデザインの検討を担当しました。図面という2次元の世界ではなく、VRという3次元の仮想空間の中で、車両や造作をリアルタイムで並べ、色や大きさ、位置を検討していくプロセスを構築しました。
──それぞれが異なる強みを持ち寄って一つのブースを作り上げたんですね。普段の業務とはどんなつながりがあるのでしょうか?
木村:普段は、東京本社内のデザインスタジオに在籍し、新型車の発表に合わせて、プロダクトデザインの良さを広報宣伝部門と連携して伝える業務をしています。これらのイベントはその集大成のような場ですね。
クレモン:私と古里は普段岡崎製作所内のデザインセンターに在籍しています。私はグラフィックデザインや未来のラインナップ調査、さらにはブランドのアートワーク制作をしています。JMSやTASでの経験は、将来の三菱自動車がどうあるべきかという先行調査にも直結しています。
古里:私は先行研究として、将来の車の形や、人がどう乗るかを考え、実際にデータやモデルを作成し検証するプロポーション・パッケージ開発をしています。今回のCG担当としての役割は、自分の独自性を一歩広げる挑戦でもありました。
VRで「世界観」を創る。成功に至るまでの試行錯誤とこだわり
──今回のJMS2025において、具体的にどのようなコンセプトで走り始め、どのような課題を乗り越えたのでしょうか。
木村:これまでの三菱自動車は、「Drive your ambition」というタグラインに基づいて、 黒地に赤という力強さを強調したブース構成が多かったのですが、2023年に三菱自動車らしさとして「冒険心を呼び覚ます心豊かなモビリティライフをお客さまに提供すること」を掲げ、表現の方向も大きくシフトしました。そして、JMS2025では 「Luxe Adventure」という、優雅で洗練された冒険をテーマに掲げました。
クレモン:私がプロジェクトに参画した時点ではラグジュアリーやアドベンチャーというキーワードはありましたが、具体的なビジュアルはありませんでした。そこで、まずは雑誌やWebサイトからビジュアルリサーチを徹底し、ラグジュアリーさを表現するために原始的で力強い「テラコッタ」をキーカラーとして提案しました。
古里:そのビジュアルイメージを、実際に人が歩く空間として成立させるのが私の役目でした。
今回、私たちは検討プロセスの中心に「VR」を据えました。これまでの図面ベースの検討では、高さ6メートルを超える巨大なポリゴン造作や岩のアーチの迫力を事前に正確に把握することが難しかったんです。 VR空間にブースを再現し、メンバー全員がその中に入って「お客さまの目線でこの岩造作はどう見えるか」、「車両の位置をあと少しずらしたらどうか」といった検討をリアルタイムで行いました。
──VRを活用した検討は、どのようなメリットをもたらしましたか?
古里:常にブースに来場するお客さまと同じ目線でいられたことで、狙いをもった戦略的なデザインができたことです。図面ではわからない立体感や、空間を活かした遊び心のあるレイアウトを、納得いくまで何度も作り直しました。
VRを使用したことで、メインステージのダイナミックなポリゴン造作や、傾斜した状態で展示されたデリカD:5を下から見上げるレイアウトなど、3次元的な見どころを充実させることができました。
クレモン:私にとっても、VRは強力な武器でした。予算や施工上の制約がある中で、車両やブース、ショーカーステージといった異なるメディアで共通のストーリーをどう一貫させるかを検証するのに役立ちました。頭の中で想像したものが、人々が実際に歩ける空間になるのを見ることは、デザイナーにとって最高にポジティブなエネルギーになります。
木村:レイアウトを施工に落とし込む際、小さな素材サンプル板から、巨大なブースとして完成した時の色味や質感を想定するのは非常に難しい作業です。
しかし、VRを社長や関連部門に見せて説得することで、社内の認識を一つに合わせることができました。テラコッタカラーや赤色を大胆に使う提案は、当初社内でも懸念がありましたが、この「視覚的な共有」があったからこそ、これまでにない一体感のあるブースを実現できたのだと思います。
ダイバーシティが常識を突き破る。プロジェクトを通して実感する組織の強み
──プロジェクトを通じて、三菱自動車や戦略・広報グループのどのような点に「強み」を感じましたか。
木村:JMSでお客さまから「三菱らしくておもしろい 」、「新しい冒険を感じる」というポジティブな声をたくさんいただくことができました。また、TASでは提灯などの「和」の要素を取り入れたブースを作りましたが、「三菱が一番想定外で、インパクトの強いことをしている」という反響をいただきました。
こういったお客さまの声が上がることそのものが、当社の強さだと捉えています。他社がやらない独自性を追求し、それをおもしろいと受け入れてもらえる土壌があることは、私たちの大きな強みです。
古里:そのためにはクレモンのような異なる文化背景を持つメンバーの存在が不可欠です。日本人の凝り固まった常識だけでは出てこないアイデアが、多様な視点が混ざり合うことで生まれてくる。コミュニケーションでの苦労はありますが、その先に、今まで見たこともないようなデザインが生まれる瞬間を何度も目の当たりにしました。
その中でも戦略・広報業務のやりがいは、実現したいことに対してプロセスから考えられることです。今回VRを大いに活用するなど、大きな目的に対しやり方から参画できる、自分の持ち味を生かせるのが戦略・広報グループの業務のおもしろさだと思います。
クレモン:日本のプロフェッショナルな環境では、全員のコンセンサスを得るために時間をかけますが、これはチーム全員が同じ場所に立つために非常に重要なプロセスだと感じています。デザイン本部は非常に国際的であり、クリエイティブな分野でこのような多様性があることは、常に良い刺激になります。
また、デザイン本部がR&Dの一部として機能しており、将来のクレイモデルに直接触れながら議論できることは、大きなモチベーションにつながっています。
──TASでの「デリカ祭り」というテーマも、他部署との連携から生まれたものだと伺いました。
木村:はい、新型デリカミニの発売もあり、国内営業部門から「お祭り」という大胆なアイデアが提案されました。それをデザインとしてどう成立させるか。クレモンと協力し、日本らしさをモダンに再解釈し、提灯のグラフィックにデリカミニのアイコンや家紋の要素を組み込む提案をしました。
結果として、非常に個性的で三菱らしいブースとなり、現場では「デリ丸」のぬいぐるみを求める長蛇の列ができるなど、多様なタッチポイントでお客さまに喜んでいただけました。
──今回のプロジェクトに点数をつけるなら、10点満点で何点でしょうか?
木村:JMSについては、映像から配布物まで世界観を一貫できたので9点です。TASはスケジュールが厳しく苦労しましたが、新しい挑戦への評価として高い点数をあげたいです。
クレモン:フィードバックは非常にポジティブでしたが、デザイナーとしては常に「もっと上手くできたはずだ」という想いもあります。プロセスは満足していますが、点数をつけるのは難しいですね(笑)。
古里:満足度は7点くらいです。VR空間での検討は有意義でしたが、実際にJMSの現場を見に行くと、まだまだ改善の余地が見つかりました。この経験を次のプロセスにどう活かすかが、これからの私の課題です。
自分の力で存在意義を創り、切り拓いていく──未来のデザイナーたちへのメッセージ
──今後、皆さんが戦略・広報グループでめざす姿を教えてください。
木村:私は、デザイナーが生み出した商品の魅力を、より広い視野でお客さまへ届ける「ハブ」の機能をさらに強化していきたいです。デザイン広報という業務をゼロから立ち上げてきたからこそ、自由度高く、かつ責任感を持って、チーム全体が「この業務があって良かった」と思えるような価値を提供し続けたいと考えています。
古里:私たちのチームには、決まったルールやプロセスがありません。だからこそ今回VRを活用したように、自分の力で新しい役割を作っていくおもしろさがあります。今後も既存のやり方に捉われず、自分の持ち味を発揮していきたいです。
クレモン:エクステリアやインテリアなど、他のチームともっと部門横断的に関わり、深いコラボレーションを推進したいです。戦略を立てるだけでなく、常にデザイナーを刺激し、共に新しいストーリーを紡いでいく存在でありたいと思っています。
──デザイン戦略や広報に興味を持っている方、また社内の仲間にメッセージをお願いします。
クレモン:常に新鮮な視点と好奇心を持ち、何かを発見したいと願う人にとって、ここは最高の場所です。プロジェクトは多様であり、常に新しい挑戦が待っています。
木村:私のようにデザイナー出身でなくても、活躍できる業務はたくさんあります。それぞれの強みを活かせる寛容な環境であり、リモートワークなども活用できる非常に働きやすい職場です。人が温かく、お互いの関係性が築けているからこそ、厳しいプロジェクトも乗り越えられます。
古里:決まったプロセスの中の一員として収まるのではなく、自ら考えて行動したい人、自分の力で存在意義を作っていきたい方に向いている部署です。自分自身の個性を活かし、会社の未来を一緒に描いていきましょう。
──最後に、三菱自動車で働く「ご自身の姿」は好きですか。
古里:まだ自分の存在意義を探している最中ですが、あるべき姿を自分自身で見つけにいっている今の状況を楽しんでいます。
クレモン:デザインは常に挑戦的で、もちろん厳しい日もあります。しかし、長期的に見れば成果も見えてくるし、JMSのようなプロジェクトで大きな達成感を覚えられるので、タフなことでもポジティブに捉えられています。
木村:私は自分のことが割と好きです(笑)。責任ある仕事を自由にやらせてもらっており、温かい人々に恵まれています。困難な時も、仲間の顔を思い浮かべれば乗り越えられる。そんな職場で働けていることを、誇りに思っています。
※ 記載内容は2026年4月時点のものです
