見える化で組織を変える。コンサルタント経験を基にダイバーシティ経営を当社の強みに
日本総研のDE&I推進室は2023年10月に設立。そこにはこのような背景があったと語ります。
「そもそも『DE&I』とは、以下の三つを指します。
・一人ひとりの個性や特性を認め、尊重し合うこと(多様性:Diversity)。
・誰の目にも公正であること(公正性:Equity)。
・これらがすべて整い、調和し、“排除される人”がいないこと(包摂性:Inclusion)。
いずれの項目も、「誰にとっても働きやすい職場」をつくるためには必要不可欠です。この概念が一般的になる前から、当社では既にさまざまな取り組みを行ってきました。
そこに少子化対策や女性活躍の推進などの国の施策が次々と打ち出される中で脚光を浴びるようになったのが、「DE&I」です。当社が多様性を受け入れるために従前から続けてきたさまざまな取り組みについて、DE&Iの観点から社内外に明確に打ち出すとともに、取り組みを一層強化することを目的として、『DE&I推進室』※を設立しました。
※2026年度から「ダイバーシティ経営推進室」と改称。
設立によるもっとも大きな変化は、DE&Iの文脈で人事部の取り組みが『見える化』できるようになったことです。社員向けにDE&Iの専用ポータルを開設し、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンなどの概念を一つ一つ説明し、男性育休の取得率、女性管理職比率、障がい者や外国籍の社員の人数など、当室で所掌している施策に関する指標について、社員が現状を知ることができるようにしました。
加えて当室の専用ポータルサイトでは、『育児』や『介護』と仕事との両立支援の切り口で社員に分かりやすく情報提供しています。具体的には、休暇取得や就労時間の短縮のための手続き、育児や介護と仕事を両立するためのハンドブックなどを掲載しています。このハンドブックには、自身が直面する育児や介護の状況について、上司や同僚にはどのように伝えるべきか、家族との役割分担はどうするべきかなど、実際に社員が直面する課題について、実践的な内容が分かりやすく書かれています」
現在、同室の体制は室長の亀山を含めて4人。室名にふさわしく、室員の出自も多様です。コンサルタント経験がある亀山、人事部で長年活躍してきたベテランの諏佐、新卒入社で人事部4年目の宮田、当社のシステムエンジニアとしてキャリアを積んできた菊地です。亀山と菊地は、いずれも2児の子育て中で、育児と仕事の両立を目指す当事者でもあります。
「私はコンサルタント、菊地はシステムエンジニア。それぞれの現場での経験も大切にしながら、人事部として新たなチャレンジをすることを期待されています。当室への異動に際しては不安もたくさんありましたが、経営層からは『コンサルタントとして外部とのリレーションを築いてきた長年の実績や経験を活かして、DE&Iを盛り上げてほしい』という言葉をいただいて、挑戦することにしました。
室員それぞれの持ち味を活かすのはもちろんですが、当社の持ち味であるシンクタンク部門やITソリューション部門の高い専門性や知見も生かしながら、よりよい施策を実現していきたいです」
数字だけを追わない。能力や意欲ある人を適正に登用するダイバーシティ経営推進の本質
DE&I推進室の設立から2年。設立当初から力を入れてきた「育児との両立支援」で高い成果が発揮できたと言います。
「男性育休については過去のインタビューで前任者が申し上げたとおり、2022年度に42.6%だった取得率が2024年度には96%まで増加しています。これは全国平均(40.5%)を大きく上回る数値です。
平均取得日数も年々増加しており、全国的には4割以上の企業が取得日数30日未満にとどまる中、当社の実績はこの2年で40~50日となっています」
この高い取得率を実現できた背景には、前室長当時からの地道な取り組みがあります。
「お子さんが生まれたけれど育休を取得されていない社員には、『育休の取得についてぜひご検討ください』と個別にメールでお知らせしています。また、管理職向けのコミュニケーションブックにも、『部下から妊娠の報告があった際は、育休取得の検討を働きかけましょう』と記載し、育休を取得しやすい環境づくりを目指しています。
この働きかけによって、育休取得者本人の意識も変わってきましたし、上司や周囲の理解も高まり、『男性が育休を取得するのは当然』という認識が全社的に広まってきました。
一方、女性活躍の指標である女性管理職比率は17.7%(2024年度)です。情報通信業の平均は12.6%ですので、当社はこれよりも高い水準を維持しています。今後は、国が掲げる30%の実現に向けて、SMBCグループとともに目指していくこととしています。
そもそも情報通信業においては女性社員の比率自体が低く、30%を下回っています(26.4%)。このような母集団において女性管理職比率を向上させていくには、一定の時間を要します。
また、当社ではもともと『男女問わず』に能力を発揮できる環境がしっかりと整備されています。管理職比率はその延長において出てくる結果の一つに過ぎません。資質のある社員が着実に管理職に登用されるよう、社員一人ひとりのモチベーションを適切に保つことこそが本質だと考えています」
働きやすさは当たり前。個性のぶつかり合いで変革を生む「攻めのダイバーシティ経営」
室長になってからの約1年、亀山は「日本総研ならでは」のDE&Iのあり方を模索してきました。今はちょうど転換期だと語ります。
「一般に、DE&Iの実現には『経営層のコミットメント』、すなわちトップダウンの強力なリーダーシップが必要です。そして、そのような企業こそが投資家からも高く評価されるという時代になっています。
一方で、なぜダイバーシティ経営が大切なのかという問いへの『納得』や、これによって会社がよくなっているという『実感』など、社員からの『ボトムアップの手触り感』こそが、取り組みを持続的なものにする大事な要素だと感じています。やらされ感ではなく、社員一人ひとりの『仕事』や『人生』に好影響をもたらしていると感じてもらえることが、当社のダイバーシティ経営の目標です」
今は日本総研という組織の魅力と課題を見つめ直し、一歩進んだダイバーシティ経営の形を模索しています。
「当社の一番の魅力はチームワーク力の高さです。優秀で協調性の高い社員が集まり、お互いをサポートしあう文化が根付いています。一方で、ユニークなアイデアの発信や挑戦に関しては、まだまだ取り組む余地があります。今後、金融業界全体がグローバルな競争に直面していくことを考えると、チームワーク力の高さはそのままに、よりイノベーティブな組織になる必要があります。DE&Iはこのドライバーになると思います。
そこで私は、一人ひとりが『“違うからこそ”出せる価値』を社員が自覚的に考え、実践できるカルチャーを醸成することが鍵になると考えています。こういったことを考えるきっかけを当室から発信できれば、当社はもっと力強く成長できるのではないかと期待しています」
チームワーク力の高さは維持・向上しながらも、より高みに挑戦できるイノベーティブな組織に育てたい──そこで亀山はダイバーシティ経営推進室の新たなコンセプトとして「『違い』をちからに、『思い』をかたちに」を掲げます。
「前述のとおり、当社はDE&Iという言葉が浸透する前から、これを十分に考えてきた企業です。考え方の基本が根付いているからこそ、もう一歩踏み込んで『攻めのDE&I』に取り組みたい。『働きやすさ』はもはや当たり前。『違う人間であることを成長機会につなげる』という理念を実践する企業を実現していきたいです。
そのために、大切なことを『“思い”をかたちに』というフレーズに込めています。『かたちに』には二つの意味があります。一つは、『違う』ことを理解し合うために、自身の考えを言語化する(かたちにする)必要があるということ。
二つ目に、あるべき姿の実現のために会社も個人も行動する(かたちにする)ということです。そうした地道な積み重ねが、『違いをちから』に変え、当社にしかできない、当社ならではの『色』を具備した多様性につながると考えています」
自分解というキーワードで描く、社員一人ひとりに寄り添うダイバーシティ経営の未来
強い責任感と期待を持って日本総研のダイバーシティ経営推進に取り組む亀山に、向こう3年の具体的な展望を聞きました。
「これまで注力してきた『育児支援』に加えて、『介護支援』をさらに強化していきます。2025年に実施した社員アンケート調査によると、今後5年間で介護に直面する可能性があると感じている社員が36%に上り、管理職の2人に1人がこれに含まれます。
座談会で社員の意見を聞いたところ、介護は『急に始まり、直面するまで当事者意識を持てない』『一旦始まると終わりが見えにくい』という育児とは異なる側面が語られたほか、社内外の手続きや遠隔地への帰省は、想定以上の負担となっていました。
さらに、介護は一般にネガティブな話題でもあるため、職場への情報共有を社員が忌避する傾向があり、社員の孤立や孤独を防ぐ組織文化や環境整備が重要になることも分かりました。
また、障がい者活躍にも力を入れていきます。今年(2026年)7月から法定雇用率(障害者雇用促進法に基づき、企業や公共機関が雇用しなければならない障がい者の割合)が2.5%から2.7%に引き上げられます。社内の関係部署との連携を深めながら、量と質の両面から施策を充実させていく必要があります」
こうした方向性を実現するための具体的な取り組みとして、亀山が特に力を入れているのが「自分解」をキーワードにしたコミュニケーションモデルです。
「ダイバーシティ経営は非常に抽象的な概念なので、具体化して実践するまでには距離があります。また『多様性』の名のとおり、一人ひとり答えは異なります。そこで私は、社員の自分なりの腹落ちを『自分解』と表現し、この探索に当室が伴走するコミュニケーションを構想しています。
具体的には、育児や介護など、社員のニーズに応じた社内コミュニティをつくり、テーマに応じて社員が必要とする情報をきめ細かく配信し、社員からのフィードバックを受けていきます。より踏み込んだインナーコミュニケーションを通して、社員とともにダイバーシティ経営への理解と実践を深めていける仕組みにしたいと考えています」
最後に、社員に向けたメッセージを聞きました。
「最終的にダイバーシティ経営を形にしていくのは社員一人ひとりの行動や思いです。これを実践するためには、社員と当室の『双方向』での良質なコミュニケーションが不可欠だと思います。「『違い』をちからに、『思い』をかたちに」の理念のもと、ぜひ一緒に取り組んでいきましょう」
ダイバーシティ経営は、もはや日本総研にとって成長戦略であり、トップとボトムの両方からのドライバーとなりたいと考える亀山。その実現に向けてチャレンジが続きます。
※ 記載内容は2026年3月時点のものです
