企業担当の営業と就労移行支援事業所の支援員の連携が、就労の成功の鍵に
私は、就労移行支援事業所「atGPジョブトレ秋葉原第2」で、支援員として働いています。秋葉原第2では発達障がいのある方向けのコースを提供しており、就職に向けた支援や就職先での定着支援をしています。私自身も就職定着担当として、利用者が自己理解を深め、その人らしい就職が実現できるよう、その役割を担っています。
2022年2月、秋葉原第2を利用していたAさんが、RPAプログラマーとしてある企業への就職が決まり、働き始めることになりました。
RPAは、これまで人間のみが対応可能と想定されていた作業、もしくはより高度な作業を人間に代わって実施できるルールエンジンやAI、機械学習等を含む認知技術を活用した新しい労働力を創出する仕組みのことで、自社の生産性・効率性を向上させるツールとして、多くの企業の注目を集め、導入が進んでいます。
発達障がいがあるAさんは、以前、atGPジョブトレから別の企業に総務事務職員として就職したことがありました。しかし、就職先で障がいの特性に十分な理解が得られず、コロナ禍で業務量が減ったこともあり、契約満了とともに退職することになってしまいました。
その後、 当事業所に通い直し、RPAプログラムの研修を受けてスキルを身につけたことで、Aさんは別の企業(以下、C社)に採用されることに。C社は、Aさんの障がい特性をよく理解した上で、Aさんが働きやすい環境作りをしてくださっています。
働き始めてからの感想を、ご本人が「始めからコレでええですやん!」とおっしゃるほど、Aさんは理想的な環境に出会うことができて、職場への定着も順調です。
今回の事例のポイントとなったのは、部門を超えた社内の連携でした。ゼネラルパートナーズ(以下、GP)の企業側の営業を担当する佐居とうまく協働できたことが功を奏し、良い結果につながったと思っています。
適性を感じて、RPA研修の受講を提案。一般常識やマナーの習得にも注力
前職を退職することになった後、Aさんは再就職先を探すために、再び当事業所を利用しました。ただ、当初のAさんは就職のイメージが持てておらず、「労働しないで収入を得たい」とこぼすほどでした。Aさんは障がいの特性上、ネクタイやスーツなど、身体を締め付けるものが苦手な上、一般常識やビジネスマナーを重視していませんでした。そのため、前職時には、企業の役員の方から社会性やマナーを指摘されることがありました。
また、Aさんには、“自分のことがわからない”という特性もあります。たとえば、「自己PRをしてください」といわれても、自分のことをどう伝えていいかわからず、自分がどんな仕事をしたいのかもわからない。今になって思えば、自分が何をしたいかがわからないから、就労の意欲を持てず困惑していたのだと理解できます。しかし、当時は、Aさんが就労意欲を持てない中、どのような就職先ならAさんの能力を発揮できるのか、考えあぐねていました。
前職で定着支援に関わる中で、Aさんは、単純業務を苦手としているといっていました。事務職が向いていないとすれば、Aさんの長所を生かした仕事はなんだろう。チームで考えて行く中たどり着いたのが、RPAプログラムのスキルを身につけることでした。
というのも、Aさんはもともと数学的能力が非常に高く、理解力も優れている方。加えて、効率をすごく重視されるので、業務の効率化を図るRPAと相性が良いのではないかと思ったんです。
当事業所では、皆さんに自己理解を深めるためのビジネススキル研修を受けていただいていますが、いくらかPCスキルがある方には、個別の研修を受けていただくこともあります。Aさん自身はプログラミングの勉強をしたことがありませんでしたが、その研修を勧めることにしました。
当初、その研修にAさんはあまり乗り気ではありませんでしたが、業務の効率化に興味をお持ちだったこともあり、学んでいくうちに徐々に興味を持っていかれたようでした。
同時に、ビジネススキルを身に付けるためのさまざまな研修を受ける中で、前職で課題となっていた一般常識やマナーの必要性も伝え続けました。Aさんは、言われたことに納得できれば、素直に行動できる方。一般常識やビジネスマナーから逸脱する言動があれば、一つひとつ指摘して、改善するようにしていきました。
RPA発表会がきっかけで、企業様とのマッチングが成立
Aさんの就職先を選ぶにあたっては、RPAの知識やスキルが生かせる仕事を探しました。しかし、障がいのある方がRPAに関わる仕事ができるという認識を持っている企業はまだ非常に少なく、GPにもAさんに合う求人があまりありませんでした。
そこで、RPAプログラムができる利用者がいることをまずは社内の営業担当に知ってもらおうと、社内向けにRPA発表会を開催しました。発表会では、RPA研修を受講している数名の方に、スキルの獲得状況を事例を入れながらプレゼンテーションしてもらいました。
発表会には、今回、私と共にAさんの採用に関わった、GPで企業営業担当を務める佐居の姿もありました。彼女は入社して間もない時期でしたが、前職でRPAの営業に携わっていたこともあり、心当たりのある取引先をあたって、ある企業をつないでくれたんです。それが今回Aさんが就職したC社です。
タイミング良く、C社は「そこまで高度なスキルがなくてもいいから、RPAプログラムに携われる人がほしい」と考えているところでした。その一方で、雇用した障がい者がなかなか定着せず、困っていらしたんです。そこで、C社と佐居が面談する場に私も同席し、GPの就労移行支援事業所は定着支援に強みがあることを説明したところ、「ぜひ就労移行支援事業所に通う方を採用したい」とおっしゃってくださったんです。
しかし、その求人に応募するにあたって、通常の書類選考から始まる選考フローでは、実務としてRPAプログラムの経験がなく、さらに自分のことが分からないという特性のあるAさんの良さが伝わらず、通過できない可能性が高いと思われました。そこで、Aさんの人柄と能力を直接見ていただく機会を設けようと、RPAプログラムの操作ができる人材を採用したい複数企業を集め、RPA発表会を佐居と共に企画しました。
結果的に、企業がAさんに興味を示し、面接に進むことになりました。自己PRが苦手という特性があること、ネクタイやスーツが苦手なため、オフィスカジュアルを認めてほしいことなど……。佐居経由で企業にAさんの情報をあらかじめ伝え、ご本人の面接に対する不安を少しでも軽減できるようにしました。また、徹底して面接対策も行いました。面接には私も同席。Aさんが自分でアピールしきれない部分をフォローしました。
企業と利用者の接点を増やす。定着の鍵は能力を引き出し生かせる仕事に就けるかどうか
C社の人事と現場担当者は、高いスキルやチャーミングなお人柄など、Aさんのプラス面を見て評価してくださいました。また、Aさんは勉強が良くできて、過去に公務員試験の1次は全て突破された経験もある方だったので、「ゆくゆくは法律の知識を生かして社内規定の改正に取り組むなど、得意な領域にどんどん手を広げてほしい」とまで言っていただけました。
当初はRPAアシスタントということで入社しましたが、2022年8月現在、社内利用のRPA保守、運用、ロボットの構築、シナリオ作成、システムのテストに加え、開発にも携わっています。企業より試験的に開発をAさんに任せてみたところ、進捗が速くて驚いている」とのお言葉もいただきました。
定着支援を行っている私から見て、Aさんは数学的思考力にとても長けた方です。答えのある難問を解決できるのが強みなので、得意なことが実際に生かされていると感じます。Aさん自身も仕事を楽しんでいる様子です。入社半年ほどということもあり、社内では仕事量への配慮があるそうなのですが、Aさんのほうから「次の仕事はないか」と声かけすることもあると聞いています。
また、満員電車が苦手であること、新型コロナウイルス感染症への不安感が強いことを考慮し、ほぼ完全在宅での仕事を許可してもらえている点も、Aさんが本来の力を発揮できている理由です。苦手なところではなく、得意なところを伸ばす企業の姿勢が、Aさんと企業の両方にとって良い結果につながっていると思います。
今回のAさんの一件を経て、仕事内容や企業とのマッチングの重要性を再確認すると同時に、「定着するためには、一人ひとりの能力を生かせる就職の実現が非常に重要である」と痛感しました。
利用者それぞれが能力を持っていること、その能力を上手く活用することができたらそれが企業にとって大きなメリットになることを知ってもらいたいです。日々利用者の就職を支援していく中で、チームで最善策を常に考えながら模索しています。
今後も一人ひとりに合った就職先を紹介できるよう、そして企業にも採用して良かったと思ってもらえるよう、営業担当と密に連携を取りながら、企業と利用者の接点を増やす取り組みを続けていきたいと考えています。
