きっかけはボトムアップの活動。周囲を巻き込みAIイノベーション推進室の新設へ
富士通のメインフレームやUNIXサーバの開発・運用保守を担うミッションクリティカルシステム事業本部。その中にあるAIイノベーション推進室は、2024年4月に設立された新しい組織です。
「お客様のビジネス成長と社会課題の解決に挑む『Fujitsu Uvance』の事業を拡大する中で、私たちはレガシーシステムと呼ばれる既存基幹システムを支えています。
モダナイゼーションに伴い、富士通がトップシェアを誇るUNIXサーバは2034年、メインフレームは2035年に、それぞれビジネスを終了します。そこに向けて、AIイノベーション推進室が担うミッションは2つあります。一つは終了期間まで事業を維持し、お客様を確実にサポートすることです。
そしてもう一つが、古き良き技術と最新のAI技術を融合し、新しい価値を創出すること。レガシーシステムはDXを妨げる要因という捉え方もあるかもしれませんが、私は後世に継承するべきミッションクリティカルな技術としての可能性を追求しています」
ボトムアップの活動をきっかけに、新設されたAIイノベーション推進室。活動の中心にいたのは、最新の技術を積極的に取り入れ、自ら行動してきた田代でした。
「ChatGPTを初めて使った時、性能のすごさに感動しました。それと同時に、強い危機感も覚えたんです。時代に乗り遅れぬよう積極的に業務に活用していくべき。当時の執行役員にそう提言し、生成AIを活用するワーキンググループ(以下、WG)を自ら立ち上げました。
WGには、当社独自のAIサービスである『Fujitsu Kozuchi』の開発担当者などが参加してくれました。そこで生まれた新たな人脈を活かし、昨年度はまず自分たちの業務をAIで変革しようと、無我夢中で挑戦を続けました。
そうした私の姿を見た本部長が、そこまで本気ならと新たな組織の設立に動いてくれ、今年度からAIを主業務として担当することになったんです」
新組織の設立からまだ約2カ月。室長として大切にしているのは、とにかく自ら動くことだと田代は話します。
「少数精鋭の組織のため、幅広い業務を自分で行う必要があります。その中で大切にしているのが、部下に行動で示すということです。たとえば何か業務上の課題が発生し、自分たちの力では解決できないような時、私はすぐ役員に交渉に行きます。社内だけでなく社外でも、必要なら誰にでも会い、解決策に向け、自ら動いて道を切り開くことを大事にしています」
富士通製品に魅了されて入社。自分の限界を超えた経験が、技術者としての礎に
田代が入社したのは2004年。富士通製品に魅せられたことが、入社の理由でした。
「私が初めて購入したパソコンは、『FM TOWNS』でした。世界で初めてパソコン本体にCD-ROMドライブの標準搭載を実現していて、『こんなすごいマシンを作る会社があるんだ』と、富士通のファンになったことが入社のきっかけでした」
入社後は、地元の沼津工場に配属。敷地内には、日本における「コンピュータの父」と呼ばれ、田代に多大な影響を与えた池田 敏雄の記念館があります。
「池田氏が残したさまざまな格言の中でも、とくに好きな言葉が2つあります。一つは『開発は感動から始まる』です。AIを初めて使った時の感動が、私を新しい挑戦へと突き動かしました。今も日々進化するAIへの感動がモチベーションになっているので、感動を原点に行動する重要性を実感しています。
もう一つが、『挑戦者に無理という言葉はない』です。未知の領域に挑戦するのだから、そもそも無理も何もない、挑戦することがまず第一歩なのだと。富士通が全社を挙げて変革を推進する中で、無理だなんて誰にでも言える言葉を使わず、自分が挑戦者になるんだという気概で仕事に取り組んでいます」
入社以来10年以上にわたり、Linuxの性能責任者を務めていた田代。その中で「挑戦者に無理という言葉はない」ということを、自ら実践した経験があります。
「業務システムの処理能力や速度に関する課題を解決するため、お客様先に常駐してOSをチューニングし、性能要件を満たすことが当時の私のミッションでした。
システムが設計・開発された段階で、性能の上限はある程度決まっています。お客様が求めているのは、その上限を超える性能を発揮することです。技術者として常識的に考えれば、無理だと判断せざるを得ないご依頼も多数ありました。
でも目の前のお客様が困っていらっしゃる。それならばともかくやってみようと、全身全霊を尽くして性能のチューニングにあたりました。結果的に100社以上に及ぶ性能要件を達成し、お客様からは直接感謝の言葉をいただくことができました。最初から無理だと決めず、自分の限界を突破したこと。その経験が、今の私の礎になっています」
世界中の技術者たちとの共創を経験。学んだのは相手を自ら理解しようとする姿勢
個人のパーパスとして「多様な人々との共創で社会インフラを継続維持し未来を創造する」と掲げる田代。共創の重要性は、オープンソースソフトウェア(以下、OSS)の開発経験から学びました。
「2015年から3年間、富士通でLinuxやOpenStack、Kubernetesの開発責任者を務めました。共に開発を進めるのは、富士通社内だけでなく国も考え方も異なる世界中の技術者たちです。もともと私は、自分からコミュニケーションを取るのが苦手なタイプ。でも多様なメンバーと意見を交わしながら最適解を追求する中で、共創の楽しさと重要性を実感しました」
そこでの学びをさらに深め、田代を大きく成長させたのが、Cloud Native Computing Foundation(以下、CNCF)のボードを3年にわたり務めた経験です。
「CNCFは、クラウドネイティブ技術を推進する非営利団体で、世界的企業をリードする技術者が参加しています。私がボードを務めた当時、日本人は私だけ。英語はあまり得意ではないのですが、富士通を代表する技術者として意見を伝えるべく、自ら積極的にコミュニケーションを取りました。
その中で学んだことは、どんなに意見や価値観が違っても、自分から歩み寄ることで協力関係は築けるということです。相手のバックグラウンドも含めて発言の意図がわかれば、あとはお互いの違いをどう埋めていくかを一緒に考えていくことができます。だからまず、相手を理解するために自分からコミュニケーションを取ること。それが大事だと気づきました」
CNCFのボードを務めたことで得られた新たな気づき。それは、2020年に南京富士通(現・富士通(南京)軟件技術有限公司)に出向した際にも活かされました。
「OSSの戦略強化を目的として、社長を補佐し、事業戦略の立案も担う総経理助理を務めました。当時はコロナ禍だったので、現地のメンバーとはリモートで業務を進めることに。社長と私以外は全員中国人で、物理的な距離に加え文化の違いがあります。相手の考え方を理解するのに、CNCFの経験が活かされました。
もう一つ私にとって新たな挑戦となったのが、ゼロベースで戦略を考える経験です。これまではある程度、業務の枠組みがある中で自分のやりたいことを追求してきました。何も決まっていないゼロの状態から、自分がやるべき業務を考えたのは初めてのこと。そうした一つひとつの挑戦が、自分を大きく成長させたと感じています」
今後のテーマはAIとの共生。一人ひとりに寄り添う企業をめざし、変革に挑み続ける
富士通に勤続して20年。今がもっとも変革のダイナミズムを感じると田代は話します。
「これまでは、池田敏雄氏が道を切り開いた大型コンピュータが事業の柱であり、そこに携わる私たちが富士通の成長をけん引しているという自負がありました。そうした中で2020年10月に全社DXプロジェクト『フジトラ(Fujitsu Transformation)』が本格始動し、その後、2021年10月には『Fujitsu Uvance』が始動するなど、富士通は社内だけでなく事業も大きく変革しています。
時代の変化に伴い、自分たちが築いてきた事業が会社の中核でなくなることは当然の流れです。ただ、それを受け入れることは容易ではありません。私自身も悩み、会社にどう貢献できるかを考えて、AIの活用に可能性を見出しました。そして今まさに、富士通の変革と共に、自分自身が変革されていく楽しさを実感しています」
新たなキャリアを広げる原動力となったAI。しかし活動を始めた当初は不安もあったと振り返ります。
「私がこれまで担当してきたのは、OSやOSSです。そんな自分が畑違いのAIで変革を推進すると言っても、誰にも相手にされないのではという想いもありました。でもAIはまだ新しい領域であり、今からでも挑戦できる余地が十分ある。そう考え、寝る間を惜しんでAIの専門知識やスキルを習得し続けました。
徐々に努力が認められ、WGを立ち上げたときには約100人が参加してくれることに。そして新たな組織が設立されるほどのムーブメントになったわけです。どんなときも、自分で限界を決めずに挑戦することが大事だと常々思います」
AIイノベーション推進室の室長として、ブレーキを踏まず新たなことに挑戦し続けたいと意気込む田代。今後の展望をこう語ります。
「現状は、期待する回答をAIから得るために、AIに合わせて人がプロンプトの入力スキルを習得する必要があります。しかし数年後には、AIが人に合わせて進化してくれることになるでしょう。私たちの暮らしの中で、AIの存在が当たり前に溶け込む時代はすぐそこまで来ています。
ここからさらに技術が進化し、人の知性を超越するシンギュラリティの到来を見据えて、私たちが考えるべきは、AIといかに共生するかということです。その最適解を探りながら、富士通にしか提供できない新しい価値をお客様に提供したい。そして日常生活の中で、一人ひとりに寄り添う企業になることをめざし、アクセル全開で挑戦を続けていきます」
※ 記載内容は2024年7月時点のものです
