会社の守りと攻めを担う。経営層からも頼りにされる財務部門
Kが所属する財務部主計担当は大丸松坂屋百貨店の経営戦略本部の中にあります。
「私たち主計担当は、会計基準や税法などに基づいて会社の決算を締める部分を担当しています。まさに今対応しているのはインボイス制度や電子帳簿保存法など、国のルール変更に適切に対処して会社としての信用力を維持向上させる、一般企業によくある「守り」が中心の役割。
経理財務と聞くと、そのような堅いイメージがあるかもしれませんが、私たちは経営戦略本部に所属しており、経営企画担当と支え合い両輪となって、会社の守りと攻めの両面を担っています。他の企業の財務部門と比べて、こうした大胆な側面を持つのは珍しいかもしれません」
財務部門には、主計担当の他に、営業経理担当と予算編成・経営助成担当の3つの担当があります。予算編成・経営助成担当の仕事は、過去にKも担当しており、財務の中でも企業価値向上のために経営戦略に対して専門的な支援を行う、いわゆる「攻め」の側面を持ちます。Kは現在も主計担当と並行して業務を行うことがあると言います。
「コロナ禍によって、百貨店も大きな影響を受けました。大打撃を受けて立ち直れていない店舗に対して、業績回復に向けた再生計画を立てる際の財務的アドバイスをすることも。具体的には店舗のおかれているそれぞれの環境などを踏まえて、業績予想を立てます。
コロナ禍で通常営業時の過去実績がなくなった状況で業績を予想するのは非常に難しかったのですが、たとえば大丸梅田店であれば、これから開催される大阪・関西万博で、外国人の入国が増えた場合にどれくらい売り上げが見込めるかなど、シンクタンクが出す経済効果のデータを参照し、できるだけ根拠のある数字を拠り所としました」
主計担当の中でもKは、四半期決算業務の役割分担や段取りなど、チームリーダーとしての役割を担っています。経営戦略本部の財務担当として、ときに従業員からも、経営層からも意見を求められるというKには、仕事の中でとくに心がけていることが2つあります。
「ひとつは幅広いアンテナを持つことです。各部署間での情報連携がうまくできずに、会計処理にミスが起こり、業務が停滞する……という状況に陥らないよう、今会社で何が起きているのか、時には同僚が他部署から相談事を受けている電話の声にまで耳を傾けて、情報を得るように努力をしていますね。
もうひとつは、自分の判断軸をしっかり持つことです。他部署から意見を求められることも多いので、その時に明快に答えてあげないと、相手を不安にさせてしまうことも。そのため、事前に会計基準を調べて根拠を持ちつつ、かつ自分の解釈も加えて、できるだけ専門用語を使わないようにわかりやすい言葉で相手に回答することを大切にしています」
販売の経験が、売場と財務をつなぐ役割として活かされていく
Kが財務業務と関わるようになったのは、2010年に入社してから3年目、J.フロント リテイリング株式会社に出向してからのこと。それまでは、松坂屋名古屋店の売場担当に従事していました。
「タオルやスリッパなどの家庭用品を販売するリビング雑貨売場に配属されました。バイヤーのサポートとして、今治からタオルを仕入れることもしていましたね。
次は、紳士服売場に。20万円、30万円の高級スーツを販売するようになったので、家庭用品を販売していたころとの金額の違いに驚き、価値あるものをお得意様にご紹介するという、百貨店ならではの接客を経験できました」
この3年半で積んだ店舗での経験が、Kの財務への思いを駆り立てることとなります。
「売場での数字の管理が楽しいと感じたんです。労働組合のお手伝いをする機会もあって、しだいに会社全体に携わる仕事ができたらいいなと思い始めました」
その後、希望通りに、J.フロント リテイリングの財務部への出向が決まります。事業会社のみならず、グループ全体の資金担当を経験。ここで、グループ全体のお金の流れを勉強する機会に恵まれます。さらに、現在の仕事につながる経験ができたと振り返ります。
「資金調達をするためには、銀行や投資家に対して、『私たちのグループの事業はこれだけ成長を見込めます』といった、グループ全体に関する話を自らする必要があります。この経験があったからこそ、常に社内で何が起こっているか、幅広くアンテナを張って、情報収集するクセがついたんだと思いますね」
出向先で4年間の経験を積んだ後、大丸松坂屋百貨店に戻り、財務部としてのキャリアをさらに歩むこととなりました。入社直後に配属された売場での経験は今でも強みになっているそう。
「財務には即戦力が必要なので、他の企業で財務経理をされていた方や、税理士や公認会計士の勉強をしていた方が、キャリア採用で入社してきます。ただ、私たち百貨店のような事業会社の財務は、売場など現場の方々と話す機会が多くなるので、現場の悩み事を経験しないとわからない部分もあります。
そういった意味で、財務のメンバーと現場の間に立ち、翻訳家のような役割を担うことも。売場にいた際の経験が活かされていると思うことはたくさんありますね」
コロナ禍で変化した、財務部が新たに指し示す“羅針盤”としての役割
大丸松坂屋百貨店に戻り、経営サポートの業務を担当することになったK。その道のりで新型コロナウイルス感染症が拡大し、百貨店は今までに経験したことのない荒波に飲み込まれることになりました。
「コロナ禍で日に日に売り上げが減っていく中、経営層だけでなく、周りの従業員たちも会社の未来に不安を抱えるように。
財務部としては、300年以上の歴史を持つ会社として、それなりの資産や危機に対するノウハウを保有していることはわかっていたため、財務部から安心感を伝えることが大事だと考えていました。
その反応がダイレクトに感じられたのは、従業員に毎月の給料の支払いを滞りなく行えた時。同僚から『こんな状況でも給料が振り込まれました。ありがとう』と連絡が入り、財務をやっていてよかったなと思いましたね」
さらに、店舗の業務回復に向けた計画に携わった際、ひとつの成功体験を得ました。
「松坂屋高槻店のサポートをした時のことです。店舗が大阪と京都のベッドタウンに位置しているため、強みである日常使いをコンセプトに据え、大型家電専門店や100円ショップを誘致して、少人数で運営しやすく、コストを抑えたプランに売場を転換しました。私は計画数値が投資基準を満たすかどうか、審査を行う立場として参加することになりました。
具体的な数値計画ができあがり、投資基準を満たすと経営承認され、いざ実行となったときに、店長から『本当にありがとう』と感謝の言葉をもらいました。その瞬間、店舗に自分も貢献できたのだと、やりがいを感じましたね。実際に松坂屋高槻店はコロナ禍を乗り越え、その後も他の中小店舗に比べ早いペースで回復に成功した店舗と言えるのではないかと思います」
コロナ禍は、財務の位置付けが大きく変わるきっかけでした。
「経営環境が不透明な状況に陥った中で、財務に意見を求められるケースが本当に増えてきました。『羅針盤』として進むべき方位を示す役割を担うようになったのだと思います。時には会社の『金庫番』として、会社を守ったり、時には会社の『航海士』として、改革に踏み切る指針を伝えたり。
その両方のバランスをみて、会社を支えていく。そしてこれからは前向きに挑戦していくことが増えていくのではないかと思っています」
航海士として、今の状況を聞いてみると、ようやくコロナ禍という暴風から抜け出したところだと言います。
「嵐の中から一筋の光が見え始めている状況です。新型コロナへの不安感が収まり、まだまだコロナ禍前には戻ってませんが、お客様のご来店が増えてきています。
また海外からインバウンドのお客様が戻ってきたことも追い風になり、ようやく嵐から抜け出し安全運航に戻りつつあるかなといった印象ですね」
企業財務としての知識を身につけて。格調高い屋号を100年先、200年先へつなげたい
Kの将来の目標は、ひとつの企業の財務責任者になること。財務は専門性の高い分野であり、経験を積むことで知識が深まっていきますが、それに加えて、普段から心がけていることもあると語ります。
「『財務』と言っても、範囲も広く奥深いため、まだまだ未経験の分野がたくさんあります。財務は経験年数がものを言う世界で、経験と知識が比例しているように思います。足りない経験を補うために、会社の通信教育などを活用して、専門知識を継続して習得するようにしています。最近は、中小企業診断士の勉強を通じて経営企画や法務など幅広い知識を得て、あまり知識が偏らないように意識しています。
今後、会社にはますます数字を扱える社員が必要になってくると思うので、そのためにも人財を育てていく重要性を感じていますね」
財務は単にお金を管理するだけでなく、幅広い知識を持ち合わせ、経営を支える、会社にとって重要な一翼を担う仕事です。Kは、大丸松坂屋百貨店がこれから進むビジョンを次のように語りました。
「せっかく百貨店に入ったからには、百貨店の持つ古き良き伝統や価値観を大事にしたい。数字だけをみると、百貨店は成長性がなく、どんどん店舗数は減っていくようにみえてしまうと思う。
でも数字だけじゃない、その店舗の持つ価値を見出し、より良いものにしていくことを通じて、百貨店を次の100年、200年に受け継ぎたいという思いがありますね。百貨店を将来につなぐことを、財務人財として支えていきたいです」
企業の経営と受け継がれるDNA。その双方を守るため、Kは“航海士”として会社を支え、新たな大海をめざして進みます。
※ 記載内容は2023年8月時点のものです

