本業では市場部門の企画職、副業では中小企業診断士。平日の夜と土日を副業に充てる日
債券や株式の売買、デリバティブ商品の推進支援などを担う市場営業部の企画グループに所属する井手。企画業務全般に携わりながら、グループ運営の中核となるビジネスリーダーを務めています。
「主な業務は3つで、まず運用にかかる各種方針の策定や実績の管理です。次が、体制、人員などの組織関連の仕事。行員4名、シニアの方1名、派遣の方1名と共に仕事をしています。
また、外部連携などの他社と協働して知見を得る取り組みを促進する役割も担っています」
市場営業部の企画グループは部内の統括やモニタリング、レポーティングを担うポジション。行内でレポーティングを行う立場として意識しているのが、行内の方々に市場部門の取り組みについて関心を持ってもらうこと、難しい内容をわかりやすく伝えるということだと井手は話します。
「債券、先物、金利、為替などの市場営業部で扱っているものは、専門性が高く、金融に精通している銀行員であってもなかなか理解しにくい内容です。とくに、ここ1~2年はマーケットの変動も大きく、これらの変化に対して、有価証券の運用部門がどのように対応しているか、今後、どのような方向性で進もうとしているのかをわかりやすく伝えることに注力しました」
また、市場営業部の前は営業戦略部で営業方針の立案や他銀行との連携業務を担当。方針の策定や企画を立案し、各支店に展開する立場として意識していたのが、自身の仕事の先にいる人たちの存在です。
「本部にいると直接会う機会は少ないですが、私たちの決断や行動はお客さまと現場で働く支店の行員に影響を及ぼします。だからこそ、自分たち主体ではなく、お客さまや現場の行員にどう捉えられるかを意識して企画を立案し、展開するように心がけていました。
これは、私自身が本部に異動する前に11年間支店で働いていた立場としても大事にしたいと考えている視点です」
本業に加え、中小企業診断士の資格を活かし副業でも活躍している井手。平日の日中に市場営業部での業務に励むかたわら、週2日ほどの平日の夜と週末の時間を副業に充てています。
「経営支援業務としては、価格交渉支援や経営改善計画の策定、融資借換の支援などを行っています。また、創業セミナーで資金繰り・資金調達の講義や、経営者向けの記事の執筆なども行っています」
危機感から生まれた行動。実力をつけるため副業に挑戦することを決意
2007年に入行した井手は、2つの支店で計11年間にわたり法人渉外の業務を経験しました。その後、自ら希望するかたちで、2018年2月に本部の総合企画部 営業戦略企画グループに異動します。
「支店で長らく経験を積んであらためてキャリアアップを考えたとき、次は本部で経営や企画に携わり、銀行全体を良くすることができるような仕事がしたいと思いました」
現在の副業につながる一歩目の行動として、井手はMBA取得を決意。支店勤務時代の2014年のことでした。
「行内公募制度に申し込んだものの、さまざまな事情で希望は通りませんでした。そのときに、『自分から動いて何か変化を起こさなければ』と危機感を覚えたことが、MBA取得を思い立ったきっかけです。
また、実家が飲食店を経営していて、父親が海外MBAを取得していたこともあり、以前から経営に興味があって。新たな分野を学ぶことで、キャリアアップにつながる道が開けるかもしれないと思っていました」
こうして、2014年4月から2018年3月までの4年間、2つの大学院に通ってMBAを取得した井手。支店の協力も得ながら仕事と学業の両立を果たし、卒業とほぼ同時に本部への異動が決まりました。
本部では経営に近い業務や統計的な分析を扱う業務もあったため、大学院時代に得た知識を活かして井手は仕事に打ち込みます。そして、2022年1月には中小企業診断士の資格も取得しました。
「経営についてさらに理解を深めたいという気持ちがあったことと、当時同じ部門で働いていた尊敬できる方が資格を取得されていたことが、中小企業診断士に興味を持ったきっかけです。
社内には資格手当の制度もありますし、前の部署の上司が審査部門の出身で資格取得を応援してくれたこともあって、恵まれた環境で勉強に励むことができました」
そして、井手に転機が訪れます。中小企業診断士の資格登録をするのに必要な実務補習に参加したときのこと。指導員の中小企業診断士に付いて実際の企業に足を運び、診断実務を経験した際、大きな衝撃を受けました。
「プロのコンサルタントとして活躍されている中小企業診断士のスキル、誇りを胸に真摯な姿勢で中小企業の支援に取り組むコンサルティングの現場を見て感銘を受けました。当時の自分は、相応の知識を身につけていた自負がありましたが、全然及ばないなと。
銀行員なので、融資や財務の支援はできたものの、実際のコンサルティングを行うスキルが不足していることを痛感しました。目から鱗が落ちると同時に、プロコンサルタントの中小企業診断士のような実力を身につけてお客さまを支援できるようになるためにも、副業に挑戦しようと思ったんです」
当時は、横浜銀行が行内制度として副業を認めたタイミング。井手は、制度開始早々に手を挙げて、副業を開始します。
手触りのある支援に感じるやりがい。副業があることで生まれるシナジーも
副業を始めて約1年。「こうなりたい」という明確な理想を持って挑戦を始めた井手はいま、多忙ながらも充実した日々を送っています。
そんな井手にとってとくに印象に残っているのが、これから創業される方に対して資金繰りや人財育成、マーケティングなどに関する講義を行う創業塾での講師の経験です。
「幼いころからお店で働く父親の姿を見て、中小企業の支援に関わる仕事がしたいと横浜銀行に入行した経緯もありました。受講者の方から『役に立った、わかりやすかった』といった感想をいただけたときには、事業を始める方を直接サポートできたと実感できてうれしかったです」
また、物流に関わる中小企業の価格交渉支援も手がけてきました。
「そのお客さまは、燃料費や人件費が高騰する中、価格転嫁ができずに業績が悪化していました。そこで、実際の運送距離や時間を算定してコストを見える化し、発注先との価格交渉の進め方について助言を行いました。
複雑な計算が必要であったり、人手が足りず手を回せていなかったりしたようで、『診断士の先生に支援していただいて助かりました』との言葉をいただいたときには、大きなやりがいを感じました」
こうして副業に携わって新たな経験を積むことで、本業とは違った手ごたえを感じていると言います。
「現在の業務ですと、直接的にお客さまを支援する機会はありません。支店時代と同じように、副業の際にはお客さまに直接、かつ以前よりも踏み込んで支援ができることに充実感を得ています」
副業によって、本業と並ぶ自身の軸を打ち立てた井手。こうして副業で得たスキルを、本業にも積極的に還元してきました。たとえば、東京都中小企業診断士協会城南支部が運営主催する城南コンサル塾で学んだスキルがこんな場面で役立ったことも。
「AIDMAという消費者の購買行動プロセスに基づくチラシ作成法を学んだので、行内公募の募集要項作成に活用しました。写真を使ったり 、若手行員の方に協力してもらったりして、一目でわかりやすい内容にしたんです。
結果的に、以前の回より多くの募集を集められ、周りの方からも好評の声をいただきました」
また、中小企業診断士の横のつながりを広げる中で、本業に対するモチベーションも高まっていると話します。
「中小企業診断士には、さまざまな業界で活躍されている方や、異なる強みを持つ方が少なくありません。常にチャレンジ精神旺盛な方が多く、彼らと話していると『自分も行内外でさまざまな新しいことに挑戦しよう』という気持ちになります」
▼井手が執筆するコラム 一例
東京都中小企業診断士協会 城南支部 経営お役立ちコラム
人生は一度きり。後悔なきようにと挑戦を繰り返して今がある
副業を経験して視野が広がったと言う井手。今後は、部内の体制や組織、市場部門のさらなるポジション向上に関わる取り組みにも意欲的です。
「組織体制や人員の育成など部内の組織活性化や若手行員の活躍に寄与する取り組みをしていきたいと考えています。
また、行内公募での情報発信もその一つですが、市場部門の行員は専門性やスキルの高い行員も多いため、市場部門に関わる情報を広く行内に発信することで、市場部門の取り組みや働いている人々を知ってもらい、今よりも行内における市場部門の位置づけを向上させていきたいと考えています」
最近でこそ、井手の周りにもキャリア・イノベーション制度を利用して、副業を行う行員が増えてきましたが、井手が副業を開始した当時は、制度ができてすぐのタイミング。活用を決断できたのは、井手自身の確固たる価値観があったからでした。
「一度きりの人生なので、後悔がないように生きたいという気持ちが強いんです。体力やモチベーションがあるうちに動かなければと。今年で40歳なので、もう人生の半ばに差しかかっていますが、これからも新しい挑戦を続けていくつもりです」
入行17年目を迎え、ベテランの域に達しつつあるという自覚もあると話す井手。先輩社員の立場から、副業を考える若手に向けてこんなエールを送ります。
「副業を通じて個人事業主としてビジネスを考える経験は、現場でお客さまのビジネスモデルを分析する際や本部で新事業を検討する際に役立ちます。それから外に出てさまざまな人から刺激を受けることは、銀行での企画業務などの際にも間違いなく役立ちます。
とくに20代や30代の若手行員には積極的に中小企業診断士の資格取得や副業に挑戦してほしいですね。自身が若手の時代には副業という制度が社会的にも広がっていなかったので難しかったとは思いますが、もし今よりも若いうちに副業を開始できれば、自分の可能性はもっと広がったのではないかとも考えています」
そして、井手がこれまでチャレンジしてこられたのは、職場の仲間、お客さま、そして家族の支えがあったからこそ。普段は口にこそしませんが、感謝の気持ちを忘れることはありません。
「土日を副業に費やすとなると、どうしても家族と過ごす時間が減ってしまうのは悩ましいポイントでした。それでも家族は、『休みの日もお仕事お疲れさま』と応援してくれました。
朝、保育園に子どもを連れていく時間など、たとえ短い時間であっても、家族と過ごす時間は大切にするようになりました。職場の方々も含めて、そうやって周りの人に支えられながら、今の活動ができていることを忘れずにいたいですね」
感謝の気持ちを力に、理想に向かって。これからも前だけを向きながら、たった一度きりの人生を走り抜けます。
※ 記載内容は2023年7月時点のものです
