ポニーキャニオンが取り組んでいるアーカイブ推進部は、これまでの価値ある音楽・映像資産を、新たな視点からリイシュー(再発売)するアーカイブ専門の制作セクションです。シティポップブームの火付け役となった松原 みきのコンテンツ戦略、チェッカーズの未公開ライブの発掘および映像作品として劇場公開、BTS初の日本オリジナルシングル曲のアナログ盤化など、独自のヒット企画を創出しています。
世界的シティポップブームの高まりをアメリカにて肌で感じてきたPONYCANYON USAのゲイブ・ブロックのコメントを交え、国内のみならず、海外ヒットも期待される新たなビジネスの魅力と今後の展望を、アーカイブ推進部部長の野村 恒に聞きました。
過去の音楽資産を新しい時代に届ける、やりがいのある仕事
▲野村 恒
1993年にポニーキャニオン入社後、営業職を経験し、入社3年目からは邦楽の音楽制作に長く携わりながら、デジタル企画やエリアアライアンス部で地方自治体のPR映像や楽曲制作など、音楽制作にまつわるさまざまな分野の知見を蓄えてきた野村。
一時はポニーキャニオンを離れ、フリーランスで活躍していた時期もありましたが、2006年の復職後は豊富なキャリアを活かし、現在はアーカイブ推進部部長として新たなビジネスに邁進しています。
野村:アーカイブ推進部の主な業務は、ポニーキャニオンがこれまで発売してきた音楽や映像のコンテンツを活性化することです。過去にヒットした楽曲や作品を往年のファン、新しい世代の音楽ファンに向けてリイシューする企画はもちろん、音源のデジタル化が進む中で、各種サブスクリプションサービスでは未配信楽曲や、YouTubeなどには未公開の映像作品などを整理し、世に出す可能性を探っています。
また過去楽曲以外にもテレビドラマのサントラやジャズ作品など新譜もリリースしています。
扱うジャンル、作品も多岐にわたるアーカイブ推進部での仕事。野村は「膨大なポニーキャニオンの資産をもって新たな企画を考え、実現するのは大変なことですが、宝探しのようなおもしろさがあります」と笑顔で話します。
往年のファンにも新規ファンにも喜んでもらえる企画を
野村やアーカイブ推進部員が取り組んでいる事例をいくつか紹介します。例えば、80年代に実力派バンドでありながら高いアイドル性で一世を風靡したチェッカーズ。アーカイブ推進部は、デビュー40周年に合わせてチケット入手困難だった人気絶頂期の幻のライブ映像素材を発掘し、高画質化。2024年3月、ライブ映画『チェッカーズ 1987 GO TOUR at 中野サンプラザ【デジタルレストア版】』として劇場公開し、ファンの喝采を浴びました。
野村:チェッカーズの“商品化されていないライブ素材が存在する”という噂は聞いていたので、ぜひ確かめたいと過去資料の保管リストを調べると本当にあったんです。
そこで、チェッカーズ含めていろいろな素材を探そうと部員総出で倉庫に行き、丸一日かけて探し出しました。発掘した映像を編集し、音もドルビーアトモスでミックスダウン、画質も4K相当にアップコンバートして、最新のフォーマットに整えて、劇場公開を実現しました。上映館数も公開期間も当初の想定をはるかに超えたことも喜びでしたが、何より当時のファンの方からは「懐かしかった、青春を取り戻した」という声があり、当時を知らない若い方からは「チェッカーズってこんなにカッコよかったんだ!」という声をいただき。世代を超えて、チェッカーズの色褪せない魅力を再確認いただけたことはとても嬉しかったですね。
BTSの日本デビュー10周年の6月に、日本制作のシングル『FOR YOU』アナログ盤をリリース、また12月にはアルバム『WAKE UP』アナログ盤リリースの発表も行い、世界中のARMYから熱い支持を受けました。
野村:『FOR YOU』では、長い間休眠状態だった弊社管理のYouTube BTSチャンネルを動かすことでザワつきを作ることができました。また『WAKE UP』では日本盤にしか収録されていない楽曲もあり、透明なカラー盤仕様でコレクション性を高めたことで、話題性も得られました。
また、このプロジェクトは、別の部署の30代、40代のメンバーとチームを組んで、より効果的なSNSプロモーションにもチャレンジできました。アーカイブ推進部の8名の社員は、全員が制作畑を経験したそれぞれの得意分野に秀でたベテランですが、若い世代とタッグを組むことでレアなファンアイテムとしてのアナログ盤のニーズも再確認できましたし、今の世の中に即した発想によるリイシューの方法にも、より視野を広めてトライできました。リスニングパーティーを開こう!という我々世代からは出なかったファンファーストのイベントのアイデアも実現できて、ARMYのみなさんに本当に喜んでいただけました。
デビュー周年のアニバーサリーにアーカイブ推進部が取り組んだ、新たな価値の創出としては、デビュー40周年を迎えた夭逝した伝説のアイドル・岡田 有希子の展開も話題を呼びました。シティポップブームの中で、海外でのストリーミング再生数を伸ばしている1985年リリースの「Summer Beach」を12インチシングルアナログ盤化。
さらに、幻のラストシングル「花のイマージュ」や当時リリースされた全てのシングル合計9枚の7インチシングルを収録したコンプリートBOXセットを8月22日にリリースするなどの施策も実現させています。
野村:アーカイブビジネスに関しては、どのアーティストにとって何がベストなのかを、チームで幅広く意見を出し合いながら、まさにいろいろなトライ&エラーをしているところです。やってみてわかることもあれば、狙い通りに達成感を得るなどさまざまですが、闇雲に出すのではなく、ニーズがあるのか?出す意味があるのか?について考えることを大切にしています。
松原 みき「真夜中のドア~stay with me」は、なぜ世界の心を掴んだのか
アーカイブ推進部がコンセプトとする、“過去のものと思われていた音楽資産に再び陽の目を当てた、今のリスナーの心を掴むヒットコンテンツの創出”の好例と言えるのが、ここ数年世界の音楽シーンを日本の音楽が席捲したシティポップブームです。
火付け役となったのは、ポニーキャニオンから1979年に発売された松原 みきの名曲「真夜中のドア~stay with me」。2020年末、Spotifyのグローバルバイラルチャートで18日連続1位を獲得したことをきっかけに、日本のシティポップが全く新しい音楽として世界中でムーブメントを巻き起こしました。野村も「世界的に注目を集めた松原 みきのリバイバルヒットが、我々のやるべき企画の大きなヒントになりました」と語ります。
往年の日本の名曲が再評価され、世界へと広がっていく。その幸福な現象を海外で、リアルタイムに体験していたのが、PONYCANYON USAのゲイブ・ブロックです。日本のエンタメ文化、日本の音楽をこよなく愛する彼は、アメリカ、中国など世界のエンタメ業界でキャリアを積み、現在はアメリカでポニーキャニオン所属アーティストの国際サポートや海外での新たなコラボレーション事業に携わっています。
▲PONYCANYON USA ゲイブ・ブロック
そんな彼は、松原 みきの楽曲および日本のシティポップが、なぜ海外の人々に人気を博したのかを、現地の視点でこう分析してくれました。
ゲイブ:テレビゲームやアニメなど、アメリカにも日本文化の熱心なファンは多くいますが、音楽に関しては環境が整ってはいませんでした。ところが、ここ数年でSpotifyのようなデジタルプラットフォームで、日本の音楽が手軽に聴けるようになり、注目した人がプレイリストに楽曲を入れ、多くの人の共感を得られました。
最初はTikTokがきっかけだったと思いますが、音楽アプリで簡単に人名や曲名は検索できるので、そこからどんどん輪も広がっていきました。日本も同じだと思いますが、最近の若い人たちは音楽を聴くのに国や年代の違いをもう気にしません。いい音楽はいいのだと素直に評価するのです。
そのゲイブの言葉に野村も頷きます。
野村:ドラマならNetflixも恒例ですが、世界で同時に発信されるエンタメが増えたことで、内容が良ければ言語や時代は関係ないという考えは、国内でも一般的になりました。懐かしい作品だとしても、コンテンツの本質に高いクオリティと普遍性があり、運が良ければ時を超えて万人に愛される可能性は高い。
そういう優れた過去のコンテンツを、いかにタイミングよく工夫して発信していくかが重要だと考えています。
では「真夜中のドア~stay with me」の音楽そのものが、世界の音楽ファンの心に刺さったのはなぜでしょうか。
ゲイブ:一番は強く印象的なメロディーだと思います。日本に限らず、どの国の人が聴いてもどこか懐かしい。海外の人は、日本ならではのものにノスタルジーを強く感じるのです。そしてサビにはインパクトのある英語のフレーズが出てくる。
日本語が理解できなくても、歌われている物語に好きな人に離れていってほしくない切ない気持ちが感じられて、そこにも誰もが共感できるんです。
野村:私も以前、ゲイブさんから「真夜中のドア~stay with me」」が海外でヒットしたのは、他では聴けない日本独特の曲調と独特のメロディーラインがあり、オリエンタルな響きの歌詞に英語が入っていることも重要だと聞き、とても納得感がありました。
もともと日本のポップスは、欧米のミュージシャンから影響を受けている場合もあります。そのふたつが上手くミックスされているのも、より新鮮に響いたのだと思います。
▲ゲイブがアメリカ、野村はシンガポールからのインタビューとなりました
そんな、松原 みき「真夜中のドア~stay with me」」リバイバル、シティポップブームに際しても、アーカイブ推進部は新たに増えたファンに向けて、松原 みきを含むシティポップ名盤のアナログ化やシングルレコードの復刻、高音質CD(UHQCD)化、アーティスト・コンピ盤を初めてカセットテープ化するなど、精力的にリリースを続けています。
ゲイブ:PONYCANYON USAにいる私も、野村さん方が取り組まれているディスカバリーにはとても期待しています。バイラルメディアが発達したことによって音楽への入り口は広くなり、誰でも日本のアーティストのスーパーファンになる可能性はどんどん高まっています。私もポニーキャニオンの素晴らしいエンタメがもっと世界に広がるよう、グローバルなお手伝いができたらいいですね。
最新のテクノロジー環境により、より多くのアーカイブコンテンツが生まれ変われる
多様化するエンタメビジネスに、アーカイブビジネスという新しい形を提案し、取り組み続けるアーカイブ推進部。今後のビジョンを、野村はこう語ります。
野村:一番は、埋もれている財産をきちんと発掘していくことです。専門ジャンルに長けた8名の部員が、それぞれのフィルターで魅力あるコンテンツを抽出し、“音楽にはまだまだこういう楽しみ方がありますよ”という提案をどんどんしていきたいし、それができるテクノロジー環境が整ってきました。
昔は世に出したくても素材が古くて使えず、諦めていたコンテンツもありましたが、場合によってはレストア、修正が可能になりました。昔のクリエイティブを今の技術でしっかりと蘇らせることができるのです。それができれば、今のコンテンツや音楽以外のものとのコラボレーションも考えられるようになる。そういったことにも今後はトライしていければと思います。ただ、それには多世代でのさまざまな視点を元にした意見交換も大切だと考えています。
古着が流行っていたり、昔のアニメが多くリメイクされたりと、時代を超えて魅力あるものはいつでもヒットの可能性があります。「そのためには、我々世代とは違う体験をしている新しい人、新しい感性を持つ人たちにも、ぜひアーカイブビジネスにジョインしてもらいたい」と野村は言います。
野村:これは、エンタメ業界をめざしているみなさんにお伝えしたいことでもあるのですが、多様化するエンタメ業界では、どういう角度からコンテンツを届けたらいいかについて、いろいろな視点と意見が必要な時代になりました。アーカイブビジネスは、その多角的な視点、新しい発想が最も発揮できる仕事でもあります。
“以前見かけたアレをコレに応用すればおもしろいかも”と何ごとも自分の財産として仕事に活かせるのがエンタメ業界のおもしろさです。何ごとにも興味を持ち、楽しんで取り組める方に、ぜひポニーキャニオンに来ていただきたいですね。
ぽにレコ- PONYCANYON RECORD PLUS -:https://record.ponycanyon.co.jp/
PONYCANYON USA:https://ponycanyon.us/ja/
※ 記事の部署名等はインタビュー当時のものとなります
